虫刺傷

執筆者:Robert A. Barish, MD, MBA, University of Illinois at Chicago;
Thomas Arnold, MD, Department of Emergency Medicine, LSU Health Sciences Center Shreveport
レビュー/改訂 2020年 4月
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刺す昆虫は,昆虫綱の膜翅目に属する。膜翅目の毒は全ての人で局所的な毒性反応を引き起こし,過去に感作された人でのみアレルギー反応を引き起こす。重症度は,毒の量および過去の感作の程度による。ミツバチの群れによる攻撃を受けた患者と毒物特異的IgEレベルが高い患者は,アナフィラキシーのリスクが最も高いが,多くの小児では成長してもリスクがなくなることはない。平均的な未感作者では,体重1kg当たり22カ所の刺傷までは安全に耐容される;したがって,平均的成人は1000カ所を超える刺傷に耐えうる一方で,小児は500カ所の刺傷で死亡する可能性がある。

ハリケーンおよび他の環境災害後には,予想外に多数の患者が刺傷およびその合併症のために医療機関を受診する。

主な膜翅目の亜群は以下の通りである:

  • ミツバチ類(例,ミツバチ,マルハナバチ)

  • スズメバチ類(例,アシナガバチ,クロスズメバチ,スズメバチ)

  • アリ類(例,無翅型のヒアリ)

ミツバチ類は通常,刺激しない限り刺すことはない;しかし,南米からの外来種であり米国南部および南西部の一部の州に生息しているアフリカナイズドミツバチ(killer bee)は,興奮時に特に攻撃的である。一般的には,ミツバチ類は1回だけ刺し,逆とげのある針を外して創傷内に残すことにより毒を注入し,刺した昆虫は死ぬ。メリチンがミツバチ毒の痛みを誘発する主成分と考えられている。アフリカナイズドミツバチの毒は他のミツバチの毒と同程度に弱いが,群れ(スワーム)で攻撃し複数の刺傷を負わせて毒の量が増すため,より重度の結果を引き起こす。米国では,ミツバチ類の刺傷による死亡は毒ヘビ咬傷による死亡と比較して3~4倍多い。

スズメバチ類の針には逆とげがほとんどなく皮膚に残留しないため,複数回刺傷を負わせることができる。スズメバチの毒には,ホスホリパーゼ,ヒアルロニダーゼ,および最もアレルゲン性の高いantigen 5というタンパク質が含まれる。スズメバチ類も刺激しなければ刺されることはないが,ヒトの近くに巣を作るため,スズメバチを刺激する遭遇の頻度がより高い。米国では,yellow jacketと呼ばれるクロスズメバチ属のスズメバチが虫刺傷に対するアレルギー反応の主な原因となっている。

ヒアリは米国南部,特にメキシコ湾岸地域に生息し,市街地において人口の40%もの人を刺すことがあり,少なくとも1年当たり30例が死亡する。ヒアリは数種存在するが,Solenopsis invictaが優勢であり,アレルギー反応が増加する原因となっている。ヒアリは咬んで自身を受傷者に固定し,咬んだ部位の周りに弧を描くように体を回転させながら繰り返し刺し,これにより中央の咬傷が発赤した刺傷ラインで部分的に囲まれた,特徴的な咬傷ができる。ヒアリの毒には溶血性,細胞溶解性,抗菌性,殺虫性特性がある;おそらく3~4の小さな水溶性タンパク質分画がアレルギー反応の原因となっている。

症状と徴候

ミツバチ類およびスズメバチ類に対する局所反応は,2~3cmまでの範囲の発赤,腫脹,および硬結を伴う,瞬時の灼熱感,一過性の疼痛,およびそう痒である。腫脹と発赤は通常48時間で最大となり,1週間持続することがあり,患肢全体に及ぶことがある。化学物質による局所の蜂窩織炎はしばしば二次性の細菌性蜂窩織炎と混同されるが,後者はより痛みが強く,毒液注入後ではまれである。アレルギー反応は,蕁麻疹,血管性浮腫,気管支攣縮,難治性低血圧,またはこれらが複合して現れるが,腫脹単独ではアレルギー反応の発現とは言えない。

ヒアリによる刺傷の症状と徴候は,瞬時の痛みとそれに続く膨疹および紅潮病変であり,しばしば45分以内に消失して無菌性膿疱を形成し,これは30~70時間で破れる。ときに病変が感染し,敗血症に至ることがある。症例によっては,膿疱ではなく,浮腫,発赤,およびそう痒を伴う病変が生じる。ヒアリ刺傷によりアナフィラキシーを来す患者は,おそらく全体の1%未満である。単神経炎および痙攣が報告されている。

診断

  • 臨床的評価

虫刺傷の診断は臨床的に行う。ミツバチ刺傷では針がないか確認する。アレルギー反応の徴候について上気道および下気道を評価する。二次性の細菌性蜂窩織炎はまれであるが,(直後ではなくむしろ)刺傷の翌日または2日後に発赤および腫脹が生じた場合,感染症の全身徴候(例,発熱,悪寒)が認められた場合,ならびに疼痛が顕著となる場合は考慮する。

治療

  • 全身性アレルギー反応に対するアドレナリンおよび抗ヒスタミン薬の注射

  • ミツバチの針があれば除去する

  • 局所反応に対して鎮痛薬および抗ヒスタミン薬

針がある場合は,可及的速やかに除去すべきである。提唱されている方法には,薄く鋭くない縁(例,クレジットカードの縁,メスの鋭くない側,薄い食卓用ナイフ)でこすりとる方法などがある。

痛み,灼熱感,およびそう痒は,布で包んだ角氷をできるだけ早く刺傷部に当て,経口のH1受容体拮抗薬,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID),またはその両方を投与することで軽減できる。効果的となりうる他の局所的な処置としては,外用ローション,リドカインパッチ,局所麻酔薬の共融混合物のクリーム,1%リドカインの皮内注射(単独または1:100,000に希釈されたアドレナリンの併用),および力価が中程度のコルチコステロイドクリームまたは軟膏(例,トリアムシノロン0.1%)。大半の民間療法(例,食肉軟化剤の塗布)の有効性は限られている。

アレルギー反応は抗ヒスタミン薬の静注で治療する;アナフィラキシーは,アドレナリンの非経口投与(parenteral)投与および輸液,必要に応じて昇圧薬を用いて治療する。

刺傷に対して過敏症の既往がある受傷者は,あらかじめアドレナリンを充填した注射器を含む救急キット一式を携行すべきである。刺傷後はできる限り早くこれを使用し,早急に医療機関を受診すべきである。アナフィラキシーの既往があるか,昆虫刺咬に対するアレルギーが判明している者は,アラートブレスレットなど識別になるものを着用すべきである。

予防

アナフィラキシーの既往がある個人では,その後の虫刺傷によるリスクが高くなる。脱感作療法を考慮してもよい。毒物免疫療法(venom immunotherapy)が非常に効果的であり,アナフィラキシー再発の可能性が2年間の治療後で50%から約10%まで低減し,3~5年間の治療後では約2%まで低減する。毒を用いた免疫療法を受けた小児では,治療から10~20年後の刺傷に対する全身反応のリスクが著しく低い。毒を用いた免疫療法は,妊娠中に用いても安全であるとみられる。単一の毒による治療で十分である。最初の免疫療法の終了から最長で5年にわたり,維持量での投与が必要になることがある。

要点

  • ミツバチ類およびスズメバチ類の刺傷は,即時の痛み,灼熱感,そう痒,発赤,および腫脹を引き起こす。

  • ヒアリの刺傷は即時の痛み,膨疹,および発赤を即時に引き起こし,膿疱(1時間以内)およびときに感染症(数時間または数日以内)がしばしば続く。

  • 顕著な痛み,1日もしくは2日後の発赤および腫脹,または全身所見が生じれば,二次感染を疑う。

  • 蕁麻疹,血管性浮腫,気管支攣縮,および/または不応性低血圧が生じた場合はアレルギー反応を疑うが,腫脹のみの場合は疑わない。

  • ミツバチ類の針を除去し,局所反応を氷,経口H1受容体拮抗薬,および/またはNSAIDで治療する。

  • アレルギー反応および感染症を治療する。

  • アナフィラキシー反応がある患者には脱感作療法を考慮する。

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