意識のある乳児における窒息の治療方法

執筆者:Dorothy Habrat, DO, University of New Mexico School of Medicine
レビュー/改訂 2019年 8月
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乳児の窒息は一般に,その子が口に入れた小さな物(例,食物,ボタン,硬貨,風船など)が原因で起こる。気道閉塞が重度であれば,背部叩打に続いて胸部突き上げを行うことで異物を除去する。

呼吸停止の概要および気道確保および管理も参照のこと。)

意識のある乳児における窒息の治療の適応

  • 異物による窒息が原因で起こった乳児(1歳未満)における重度の上気道閉塞。

乳児における重度の気道閉塞の徴候には以下のものがある:

  • チアノーゼ

  • 陥没呼吸

  • 泣くことまたは大きな声を上げることができない

  • 弱々しく,効果のない咳嗽

  • 吸気性喘鳴(stridor)

乳児が泣いたり大きな声を上げたりすることができる,効果的な咳ができる,または十分な呼吸ができる場合は,介入しないこと;そのような乳児には重度の気道閉塞はない。さらに,強い咳嗽および啼泣は,気道から異物を押し出す助けになる。

意識のある乳児における窒息の治療の禁忌

絶対的禁忌

  • 気道異物以外の理由(例,喘息,感染症,浮腫,頭部への打撃など)で乳児の呼吸が止まった場合,背部叩打法または胸部突き上げ法を行わないこと。

相対的禁忌

  • なし

意識のある乳児における窒息の治療の合併症

  • 肋骨損傷または骨折

  • 内臓損傷

意識のある乳児における窒息の治療に使用する器具

  • なし

その他の留意事項

  • 乳児が窒息しかけている場合はどこであっても,直ちにこの方法で迅速な応急処置を行う。

意識のある乳児における窒息の治療での体位

  • 背部叩打法を行う場合,大腿または膝で乳児を支えながら,乳児をうつ伏せにして介助者の前腕に沿わせる。乳児の胸を介助者の手で,乳児の顎を介助者の指で支える。乳児の頭が体より低くなるように頭を下向きに傾ける(背部叩打法-乳児の図を参照)。

  • 胸部突き上げ法を行う場合,大腿または膝で乳児を支えながら,乳児を仰向けにして介助者の前腕に沿わせる。乳児の後頭部を介助者の手で支える。そして,乳児の頭が体からぶら下がるような形に傾ける(胸部突き上げ法-乳児の図を参照)。

背部叩打法―乳児

胸部突き上げ法―乳児

胸骨下部のちょうど乳頭より下の位置で胸部を圧迫する。

意識のある乳児における窒息の治療における関連する解剖

  • 喉頭蓋は通常,異物の誤嚥から気道を保護する。喉頭蓋を越えて誤嚥された異物は,喉頭の声帯で止まることがあり,このレベル以下の異物は生命を脅かす完全な気道閉塞を引き起こす。

  • 乳児および小児では,声帯の下にある輪状軟骨が上気道で最も細い部分である。異物が声帯と輪状軟骨との間に挟まることがあり,この場合特に除去が難しい。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

  • 患児の生命を脅かす可能性がある重度の気道閉塞がないかどうかを見極める。聞き取れる声で泣くことができない,効果的な咳ができない,または十分な呼吸ができない(例,吸気性喘鳴[stridor],肋間陥凹,チアノーゼ)などの,重度の気道閉塞の徴候を探す。

  • 乳児が大きな声で泣いているまたは激しく咳き込んでいる場合,このような手技を行わないこと。乳児に重度の気道閉塞があると判断した場合,次の手順を踏む。

  • 応急処置を始めながら,他の誰かに911への電話(日本では119番)を依頼する。周りに人がいない場合は,叫んで助けを呼び,応急処置を開始する。

  • 介助者の大腿または膝で乳児を支えながら,乳児をうつ伏せにして介助者の前腕に沿わせる。乳児の胸を介助者の手で支え,下顎を指で引っ張り口を開けさせる。乳児の頭部を下げ,体幹より低い位置にもってくる。

  • 空いている方の掌で,乳児の左右の肩甲骨の間を,最大5回まで強く素早く叩打する。

  • 誤嚥された異物が口から見えていないか確認する;容易に除去できるようであれば,除去する。

  • 5回背部を叩打しても異物が気道から出てこない場合,乳児を仰向けにする。

  • 大腿または膝で乳児を支え,乳児の顔を仰向けたまま介助者の前腕に沿わせる。手で乳児の頭を支え,頭部を体幹より低い位置にもってくる。

  • 乳頭直下のレベルで乳児の胸骨の中央に2本の指を置く。下位肋骨や胸骨の先端は避ける。

  • 最大5回まで胸部を圧迫し,深さは胸郭の約3分の1~2分の1(通常は約1.5~4cm)とする。

  • 背部叩打5回に続いて胸部の圧迫を5回行い,異物が除去されるか乳児が意識を失うまでこれを続ける。

  • 乳児の意識がある状態で異物をつかもうとしたり引っ張り出そうとしたりするべきではない。

  • 乳児が反応しなくなった場合(意識を失った場合),叫んで助けを求め,乳児に心肺蘇生(CPR)を開始する。周りに誰もいない場合は,CPRを1分間行った後911に電話(日本では119番)する。

  • 乳児に意識がなく,気道を閉塞する異物が見える場合,指で除去を試みる。異物の除去を試みるのは,異物が見えている場合に限る。

意識のある乳児における窒息の治療のアフターケア

  • たとえ気道異物の除去が成功し,正常な呼吸が再開した場合でも,直ちに注意深い診察を行う。

注意点とよくあるエラー

  • 窒息しかけている乳児が聞き取れる声で泣くことができる,効果的な咳ができる,または十分な呼吸ができる場合は,背部叩打法または胸部突き上げ法を行わないこと。

  • 気道異物以外の理由,例えば喘息,感染症,血管性浮腫,頭部外傷などで乳児の呼吸が止まった場合,背部叩打法または胸部突き上げ法を行わないこと。そのような場合はCPRを行う。

  • 乳児に盲目的指拭法を行わないこと。

  • 乳児に腹部突き上げ法(ハイムリッヒ法)を行わないこと。

意識のある乳児における窒息の治療のアドバイスとこつ

  • 重力をうまく味方にすることが重要である。手技を行う間,乳児の頭部を体幹より低い位置に保つ。

より詳細な情報

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