発育性股関節形成不全(DDH)

執筆者:Simeon A. Boyadjiev Boyd, MD, University of California, Davis
レビュー/改訂 2020年 5月
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    発育性股関節形成不全(かつての先天性股関節脱臼)は股関節の発育異常である。

    頭蓋顔面部および筋骨格系の先天異常に関する序論も参照のこと。)

    発育性股関節形成不全は,亜脱臼または脱臼に至り,片側性の場合と両側性の場合がある。高リスク因子として以下のものがある:

    発育性股関節形成不全は股関節周囲の靱帯の弛緩または子宮内での体位が原因とみられている。大腿部および鼠径部に非対称の皮膚溝を認めることが多いが,そのような皮膚溝は発育性股関節形成不全のない乳児にもみられることがある。この形成不全が未検出で無治療のまま放置された場合,患側の下肢が最終的に短小化し,股関節に疼痛が生じることがある。しばしば股関節の外転が障害されるが,これは内転筋の攣縮によるものである。

    全ての乳児に身体診察によるスクリーニングを行う。身体診察の感度は限られているため,高リスクの乳児と身体診察で異常が認められた乳児については,典型的には画像検査を受けさせるべきである。

    スクリーニングでは一般的に以下の2つの方法が用いられる:

    • Ortolani法:股関節が寛骨臼内へ滑り戻るのを感知する

    • Barlow法:股関節が寛骨臼外へ滑り出るのを感知する

    左右の股関節を別々に検査する。どちらの方法も,乳児を仰臥位として股関節と膝関節を90°屈曲させる(足をベッドから離す)ことから始める。

    Ortolani法を行うには,検査する股関節の大腿骨を外転させ(すなわち,膝を正中線から離してカエルの脚のような肢位まで動かす),愛護的に前方に引き寄せる。ここで,大腿骨頭が寛骨臼の後縁上を移動して臼蓋窩に整復される際にクランク音が触知(ときに聴取)されれば,関節の不安定性が示唆される。

    次に,Barlow法では,股関節を開始時の肢位に戻した後,軽度内転させ(すなわち,膝を体の上で近づける),大腿部を後方に押し出す。ここでクランク音が認められれば,大腿骨頭が寛骨臼から外れたことを意味する。

    また,仰臥位で股関節と膝関節を屈曲させて両足を診察台上に置いた際に膝の高さに左右差が認められる場合(Galeazzi徴候,図を参照)には,形成不全(特に片側性のもの)が示唆される。ある程度時間が経過したら(例,生後3~4カ月まで),股関節と膝関節を屈曲させるときに大腿部の外転が不完全になることからも亜脱臼や脱臼が分かるようになるが,外転は内転筋の攣縮によっても妨げられることがあり,検査時に実際には股関節が脱臼していなくても,この現象がみられることがしばしばある。小さく柔らかなクリック音は高頻度に検出される。クリック音は通常1~2カ月以内に消失するが,定期的に検査を行うべきである。両側性の形成不全は出生時の発見が困難なため,股関節開排制限の検査を生後1年間にわたり定期的に実施することが推奨される。

    Galeazzi徴候

    小児に図に示した肢位をとらせる。発育性股関節形成不全による後方脱臼(矢印)のため,膝の位置が患側で低くなる。

    骨盤位,出生時点での他の奇形(例,斜頸,先天性足変形)の合併,および女児では発育性股関節形成不全の家族歴がある場合など,高リスクの乳児には,生後6週時に股関節の超音波検査が推奨される。

    診察時に何らかの異常が疑われた場合にも,画像検査が必要である。股関節の超音波検査では,生後早期から正確な診断が可能である。股関節X線は骨化開始後,典型的には生後4カ月以降から役立つようになる。

    形成不全の早期治療が極めて重要である。治療開始が遅れるにつれて,手術なしでの矯正の可能性が着実に低下していく。通常は出生直後に股関節の整復が可能であり,その後は成長とともに,寛骨臼はほぼ正常な関節を形成するようになる。治療には装具が用いられるが,ほとんどの場合,脱臼した股関節を外転外旋位に固定するPavlik帯(リーメンビューゲル)が使用される。枕型Frejka副子やその他の副子が役立つこともある。パッド付きおむつの使用やおむつの2~3枚重ねは効果的ではなく,発育性股関節形成不全の矯正目的で行うべきではない。

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