メチオニン代謝異常症

執筆者:Matt Demczko, MD, Mitochondrial Medicine, Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2020年 4月
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    メチオニン代謝経路におけるいくつかの障害は,ホモシステイン(およびその二量体であるホモシスチン)の蓄積を引き起こし,その有害作用として,血栓傾向,水晶体脱臼,中枢神経系異常および骨格異常などがみられる。

    他のアミノ酸・有機酸代謝異常症と同様,メチオニンおよび硫黄についても数多くの代謝異常症が存在する(を参照)。遺伝性代謝疾患が疑われる患者へのアプローチおよび遺伝性代謝疾患が疑われる場合の検査も参照のこと。

    ホモシステインはメチオニン代謝における中間産物の1つであり,再メチル化によりメチオニンに戻る場合と,一連の硫黄転移反応の中でセリンと結合し,シスタチオニン,さらにシステインへと変換される場合がある。システインはその後に代謝され,亜硫酸塩,タウリン,およびグルタチオンになる。再メチル化または硫黄転移において種々の障害が発生すると,ホモシステインの蓄積により病的状態となる。

    メチオニン代謝の第1ステップはアデノシルメチオニンへの変換であり,この変換にはメチオニンアデノシル転移酵素という酵素が必要となる。この酵素の欠損はメチオニンの増加につながるが,ホモシスチン尿症の新生児スクリーニングにおいて偽陽性を生じることを除けば,この変化に臨床的意義はない。

    表&コラム

    古典的ホモシスチン尿症

    この疾患は,シスタチオニンβ合成酵素(ホモシステインおよびセリンからのシスタチオニン形成を触媒する)の常染色体劣性の欠損症により引き起こされる。ホモシステインが蓄積して二量体化によりジスルフィドホモシステインを形成し,これが尿中に排泄される。再メチル化は障害されていないため,過剰なホモシステインの一部はメチオニンに変換され,血液中に蓄積される。ホモシステインの過剰は血栓症の素因となり,結合組織(フィブリリンが関与すると考えられる),特に眼および骨格に有害作用を及ぼし,さらに血栓症または直接的作用により有害な神経症状が現れる場合もある。

    年齢を問わず動脈および静脈の血栓塞栓性事象が発生する可能性がある。多くの患者で水晶体偏位(水晶体亜脱臼),知的障害,および骨粗鬆症がみられる。通常患者の身長は高くないにもかかわらず,マルファン症候群様体形を呈する。

    古典的ホモシスチン尿症の診断は,新生児スクリーニングにおける血清メチオニン高値による;血漿中総ホモシステインの高値および/またはDNA検査により確定できる。皮膚線維芽細胞の酵素分析を実施する場合もある。

    古典的ホモシスチン尿症の治療では,低メチオニン食およびL-システインの補充に高用量ピリドキシン(シスタチオニン合成酵素の補因子)100~500mg,経口,1日1回を併用する。約半数の患者は高用量ピリドキシン単独で反応を示すため,そのような患者にはメチオニンの摂取制限を行わない医師もいる。再メチル化を促進するベタイン(トリメチルグリシン)がホモシステイン値を低下させるのに役立つ可能性がある。ベタインの用量は通常100~125mg/kg,経口,1日2回から開始し,ホモシステイン値に基づいて調整する;必要量には大きなばらつきがあり,9g/日以上が必要になることもある。さらに葉酸も1~5mgを1日1回経口投与する。早期に治療を行えば,知能面の転帰は正常またはほぼ正常である。血栓塞栓症を予防する目的で,ビタミンC,100mg,1日1回の経口投与も行われる。

    その他の病型のホモシスチン尿症

    再メチル化の過程における様々な異常がホモシスチン尿症を引き起こす可能性がある。そのような異常としては,メチオニンシンターゼ(MS)およびMS還元酵素(MSR)の欠損,メチルコバラミンおよびアデノシルコバラミンの輸送障害,メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR,MS反応に必要な5-メチルテトラヒドロ葉酸の産生に必要)の欠損などがある。これら3つの病型のホモシスチン尿症では,メチオニン値の上昇がみられないため,新生児スクリーニングでは検出されない。

    臨床像は他の病型のホモシスチン尿症と同様である。さらに,MSおよびMSR欠損症では神経脱落症状および巨赤芽球性貧血を伴う。MTHFR欠損症の臨床像は多様であり,知的障害,精神病,筋力低下,運動失調,痙性などがある。

    MSおよびMSR欠損症の診断は,ホモシスチン尿症および巨赤芽球性貧血により示唆され,DNA検査によって確定される。コバラミン欠乏症の患者は,巨赤芽球性貧血およびメチルマロン酸血症を呈する。MTHFR欠損症はDNA検査によって診断される。

    治療は,ヒドロキシコバラミン1mg,筋注,1日1回の補充(MS欠損症,MSR欠損症,およびコバラミン欠乏症の患者が対象)および特徴的なホモシスチン尿症と同様の葉酸補充により。

    シスタチオニン尿症

    この疾患は,シスタチオニンをシステインに変換するシスタチオナーゼの欠損によって引き起こされる。シスタチオニンの蓄積は,尿中排泄量の増加をもたらすものの,臨床症状を引き起こすことはない。

    亜硫酸酸化酵素欠損症

    亜硫酸酸化酵素は,システインおよびメチオニンの分解過程の最終ステップにおいて亜硫酸を硫酸に変換するが,これにはモリブデン補因子が必要となる。この酵素または補因子の欠乏は,いずれも類似した疾患を引き起こし,遺伝形式はともに常染色体劣性である。

    最重症型の臨床像としては,新生児期に発症して,痙攣発作,筋緊張低下,ミオクローヌスなどがみられ,進行すると早期死亡に至る。より軽症型の患者は,脳性麻痺と同様な症状を呈し,舞踏病様運動がみられることもある。

    亜硫酸酸化酵素欠損症の診断は,尿中亜硫酸塩高値により示唆され,線維芽細胞中の酵素量および肝生検検体中の補因子量の測定および/または遺伝子検査によって確定される。亜硫酸酸化酵素欠損症の治療は支持療法である。

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