ゴーシェ病

(Gaucher病)

執筆者:Matt Demczko, MD, Mitochondrial Medicine, Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2020年 4月
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ゴーシェ病は,グルコセレブロシダーゼの欠乏により生じるスフィンゴリピドーシス(遺伝性代謝疾患の1つ)であり,グルコセレブロシドおよび関連化合物の沈着を引き起こす。症状と徴候は病型によって異なるが,最も多いのは肝脾腫または中枢神経系変化である。診断はDNA解析および/または白血球の酵素分析による。治療はグルコセレブロシダーゼによる酵素補充療法である。

詳細については,主なスフィンゴリピドーシスの表を参照のこと。

遺伝性代謝疾患が疑われる患者へのアプローチも参照のこと。

グルコセレブロシダーゼは,正常であればグルコセレブロシドを加水分解してグルコースおよびセラミドを生成する。この酵素に遺伝学的な異常があると,貪食を介して組織マクロファージ内にグルコセレブロシドが蓄積することにより,ゴーシェ細胞が形成される。脳内の血管周囲腔にゴーシェ細胞が蓄積すると,神経細胞障害性のグリオーシスが引き起こされる。

ゴーシェ病には3つの病型があり,それぞれ疫学,酵素活性,および臨床像が異なる。

ゴーシェ病I型

I型(非神経型)が最も頻度が高い(全患者の90%)。残存酵素活性は最も高い。アシュケナージ系ユダヤ人が最もリスクが高く,1/12が保因者である。発症年齢は小児期から成人期にまで及ぶ。

ゴーシェ病I型の症状と徴候としては,肝脾腫,骨疾患(例,骨減少症,疼痛発作,骨折を伴う溶骨性病変),発育不全,思春期遅発,斑状出血,瞼裂斑などがある。血小板減少による鼻出血および斑状出血がよくみられる。

X線では長管骨骨端の拡がり(エルレンマイアーフラスコ変形)と骨皮質の菲薄化を認める。

ゴーシェ病II型

II型(急性神経型)は最も頻度が低く,残存酵素活性が最も低い。乳児期に発症する。

ゴーシェ病II型の症状と徴候は,進行性の神経機能悪化(例,硬直,痙攣発作)と2歳未満での死亡である。

ゴーシェ病III型

III型(亜急性神経型)は,発生率,酵素活性,および臨床重症度においてI型とII型の中間に位置する。発症は小児期のあらゆる時期にみられる。

臨床像は亜型により異なり,進行性の認知障害および運動失調(IIIa型),骨および内臓障害(IIIb型),角膜混濁を伴う核上性麻痺(IIIc型)などがある。青年期まで生存した患者は,長年にわたり生存できる場合がある。

診断

  • 酵素分析

ゴーシェ病の診断はDNA解析および/または白血球の酵素分析による。遺伝子変異解析によって保因者を検出し,病型を鑑別する。生検は不要であるが,ゴーシェ細胞(丸めたティッシュペーパー様の外観を呈する脂質が蓄積した組織マクロファージで,肝臓,脾臓,リンパ節,骨髄,または脳で認められる)を認めれば診断に至る。(遺伝性代謝疾患が疑われる場合の検査も参照のこと。)

治療

  • I型およびIII型:グルコセレブロシダーゼによる酵素補充療法

  • ときにミグルスタット,エリグルスタット,脾臓摘出,または造血幹細胞もしくは骨髄移植

I型およびIII型にはグルコセレブロシダーゼ静注による酵素補充療法が効果的であるが,II型に対する治療法はない。この酵素はライソゾームへの輸送効率を向上させるように改変されている。酵素補充療法を受ける患者には,ヘモグロビンおよび血小板のルーチンなモニタリング,CTまたはMRIによる脾臓および肝臓容積のルーチンな評価,ならびに全身骨X線検査,二重エネルギーX線吸収スキャン,またはMRIによる骨疾患のルーチンな評価が必要となる。

グルコシルセラミド合成酵素阻害薬であるミグルスタット(100mg,経口,1日3回)はグルコセレブロシド(グルコセレブロシダーゼの基質)濃度を減少させる作用があるため,酵素補充療法が受けられない患者への代替療法となる。

別のグルコシルセラミド合成酵素阻害薬であるエリグルスタット(84mg,経口,1日1回または1日2回)にも,グルコセレブロシド濃度を減少させる作用がある。

脾臓摘出は,貧血,白血球減少,もしくは血小板減少がある患者に対して,または脾臓の大きさが原因で不快感がある場合に役立つ可能性がある。貧血を伴う患者には輸血も必要になることがある。

骨髄移植または造血幹細胞移植では根治が得られるが,合併症発生率と死亡率がかなり高いため,最終手段とみなされている。

要点

  • ゴーシェ病は,グルコセレブロシダーゼの欠乏により生じるスフィンゴリピドーシスであり,グルコセレブロシドの沈着を引き起こす。

  • 3つの病型があり,それぞれ疫学,酵素活性,および臨床像が異なる。

  • 症状と徴候は病型によって異なるが,最も多いのは肝脾腫または中枢神経系変化である。

  • ゴーシェ病の診断は,DNA解析および/または白血球の酵素解析による;遺伝子変異解析によって保因者を検出し,病型を鑑別する。

  • I型およびIII型の治療としては,グルコセレブロシダーゼによる酵素補充療法に加え,ときにミグルスタット,エリグルスタット,脾臓摘出,または造血幹細胞もしくは骨髄移植が行われることがある;II型に対する治療法はない。

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