停留精巣は,正期産児では約3%, 早期産児 早産児 在胎37週未満で出生した児は早産児とみなされる。 未熟性は出生時点での 在胎期間により定義される。かつては,体重2.5kg未満の新生児であればいずれも未熟児と呼ばれていた。早産児は小さい傾向にあるが,多くの体重2.5kg未満の乳児は成熟している場合や 過期産児および過熟児である場合,および 在胎不当過小である場合もあるため,この体重に基づいた定義は不適切である;このような新生児は外観も異なれば,抱える問題も異なる。... さらに読む では最大30%に発生し,停留した精巣の3分の2は生後4カ月以内に自然下降する。よって,男児の約0.8%のみが治療を必要とする。
停留精巣の80%は出生時に診断される。残りは小児期または青年期早期に診断され,通常は精巣導帯の異所付着によって起こり,身体の成長スパート後に明らかになる。
病態生理
正常であれば,精巣は妊娠7~8週目に発生し,しばらく内鼠径輪より頭側にとどまった後,28週目頃になると短縮する間葉(精巣導帯)に誘導されながら陰嚢への下降を開始する。下降開始時期は,内分泌的(例,アンドロゲン,ミュラー管阻害因子),物理的(例,精巣導帯の退化,腹腔内圧),および環境(例,母体のエストロゲン性物質または抗アンドロゲン物質への曝露)因子によって調整される。
真の停留精巣は下降経路沿いの鼠径管にとどまるか,または頻度は低くなるが腹腔内または後腹膜内に存在することがある。異所性精巣とは,外輪を通って正常に下降するが異常な位置へ進路を変えたもので,正常な下降経路から外れた位置(例,恥骨上部,浅鼠径窩内,会陰部,大腿内側沿い)に精巣が認められる。
合併症
停留精巣は妊孕性低下を引き起こし,さらに 精巣癌 精巣腫瘍 精巣腫瘍は陰嚢腫瘤として発生し,通常は無痛性である。診断は超音波検査による。治療は組織型および病期によって異なり,精巣摘除術およびときにリンパ節郭清,放射線療法,化学療法,またはこれらの組合せによる。 米国では,毎年約9560例の精巣腫瘍が新たに発生し,約410例が死亡している(2019年の推定値) (1)。精巣腫瘍は15~35歳の男性で最も頻度の高い悪性固形腫瘍である。発生率は... さらに読む との関連もあるが,これは主に停留した精巣内部,特に腹腔内精巣の場合に多く発生する。しかしながら,片側性停留精巣の患者において,がんの10%は正常側の精巣に発生している。腹腔内精巣の無治療例では, 精巣捻転 精巣捻転 精巣捻転とは,精巣が回転して絞扼が起きる結果,血液供給が遮断されることで生じる,緊急を要する病態である。症状は陰嚢の急性疼痛および腫脹と悪心および嘔吐である。診断は身体診察に基づき,カラードプラ超音波検査により確定される。治療は即時の用手的整復とその後の外科的介入である。 精巣鞘膜および精索の発生異常によって,精巣鞘膜への精巣の固定が不完全になることがある(bell-clapper変形―... さらに読む が急性腹症として発現することがある。出生時からの停留精巣を呈する新生児では,ほぼ全例で 鼠径ヘルニア 新生児における鼠径ヘルニア 鼠径ヘルニアは,男子新生児で発生することが最も多く,早産児では特に多い(発生率は約10%)。ほとんどが右側に発生し,鼠径ヘルニアの10%は両側性である。鼠径ヘルニアは嵌頓の危険性があるため,診断後は速やかに修復を行うべきである。早産児では,典型的には体重が2kgに達するまで修復手術を行わない。対照的に, 臍ヘルニアの嵌頓はまれで,数年後に自然閉鎖するため,通常は外科的修復は必要にならない。... さらに読む を併発する(腹膜鞘状突起開存)。
病因
停留精巣はほぼ常に特発性である。約10%の症例が両側性である。 出生時に両側性の非触知停留精巣を呈する表現型男性(特に 尿道下裂 尿道下裂 尿道の先天奇形は,男児では通常陰茎の解剖学的異常を伴い,その逆も真である。女児においては,尿道の先天奇形は他の外性器異常を伴わない場合が多い。機能障害がある場合や美容的矯正が希望される場合は,外科的修復が必要となる。 この奇形は陰茎が腹側,外側,および/または回転して弯曲した状態であり,それは勃起時に最も明らかとなる;尿道海綿体の通常の走行に沿う線維組織,または2つの陰茎海綿体の間の大きさの相違が原因である。尿道索はしばしば... さらに読む も合併している場合)では, 先天性副腎過形成症 先天性副腎過形成症の概要 先天性副腎過形成症は遺伝性疾患の一群で,いずれもコルチゾール,アルドステロンまたはその両方の合成が不十分であることを特徴とする。最もよくみられる型では,蓄積されたホルモン前駆体がアンドロゲン産生経路へ流入し,アンドロゲン過剰が生じる;まれな型ではアンドロゲン合成も不十分である。 様々な形態をとる先天性副腎過形成症においては,コレステロールから副腎ステロイドホルモンを合成する際に必要となる副腎酵素の1つに常染色体劣性遺伝性の欠損が生じるこ... さらに読む による女性の男性化を強く疑うべきである。
症状と徴候
症例の約80%は出生時には患側の陰嚢は空であり,残りの症例では出生時に陰嚢内に精巣を触れることができるものの,その場合も精巣導帯の異所付着のために精巣が正常な陰嚢の「下降」についていくことができないため,成長とともに上昇していくかのようにみられる。停留精巣を合併した鼠径ヘルニアが症候性となることはまれであるが,開存した腹膜鞘状突起が(特に乳児では)しばしば検出可能である(一方,異所性停留精巣を合併した場合にこれを検出できることはまれである)。まれに,精巣捻転症の発症により,停留精巣が突然明らかになることがある。
診断
臨床的評価
ときに腹腔鏡検査
まれに超音波検査またはMRI
男児は全例,出生時とその後も1年毎に,精巣の位置と発育状態を評価するための精巣診察を受けるべきである。
停留精巣および異所性精巣には,精巣が陰嚢内に存在するも精巣挙筋反射により容易に鼠径管内に牽引される状態である移動性(牽引)精巣との鑑別が必要である。停留精巣の診断は身体診察によるが,精巣の牽引反射を誘発しないように,検査室の室温を上げ,検者の手を温めた上で,患児の緊張を取り去っておくことが重要である。 必要であれば,精巣をよりよく診察できるよう,患児にカエルの足のような肢位をとらせるとよい。 検査前に小児の鼠径部または検者が手袋をはめた手を石鹸で潤滑することが,摩擦を軽減し,精巣の位置を同定するのに役立つ可能性がある。
片側性の非触知精巣の患者では,下降している精巣が予測より大きい場合は萎縮性停留精巣が示唆され,確定診断には,腹腔内の精巣を検索するか精巣無発生を確認するため,典型的には診断的腹腔鏡検査による外科的介入が必要となる。しかしながら,内鼠径輪より遠位での精巣遺残が疑われる場合は,ときに陰嚢または鼠径部の探索を行う。
両側性の非触知精巣の場合は,出生直後に性分化異常の可能性を評価すべきである(小児内分泌医へのコンサルテーションを考慮すべきである)。性分化異常が除外された場合は,腹腔内での精巣の位置を同定する腹腔鏡検査がしばしば必要になり,その後両側精巣固定術を行うことがある。
治療
外科的修復
触知可能な停留精巣に対する治療法は外科的な精巣固定術であり,精巣を陰嚢内まで移動させて所定の場所に縫合するとともに,鼠径ヘルニアの合併があれば修復する。
触知不能な停留精巣には腹腔鏡検査を施行し,精巣が認められた場合は,陰嚢内に移動させる。萎縮性の場合(通常は出生前の精巣捻転の結果である)は,組織を切除する。
早期介入により妊孕能の改善が可能で,さらに発がんリスクの軽減も期待できることから,手術は正期産児の場合はおよそ生後6カ月,早産児の場合は1歳の時点で実施すべきである。また,身長が低いほど,精巣を陰嚢へ留置するための移動距離が短くなる。
移動性精巣については,精索の長さが十分にあるために精巣挙筋反射の刺激さえなければ牽引もなく精巣が独立した陰嚢の位置にとどまっている限り,介入は必要ない。移動性精巣は通常,精巣が大きくなり牽引が困難になってくる思春期までには,無治療でも自然消失する。
要点
停留精巣は正期産児では約3%,早期産児では最大30%に発生し,停留した精巣の3分の2は自然下降する。
停留精巣は妊孕性低下を引き起こし,さらに精巣癌のリスクを増大させる(停留した精巣内部など)。
通常は臨床的評価のみで十分であり,画像検査が適応となることはまれである。
治療法は外科的修復である。