ヒルシュスプルング病

(先天性巨大結腸症)

執筆者:William J. Cochran, MD, Geisinger Clinic
レビュー/改訂 2019年 8月
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ヒルシュスプルング病は,下部腸管(通常は結腸に限定される)の神経支配の先天異常であり,部分的または完全な機能的閉塞を引き起こす。症状は便秘と腹部膨隆である。診断は下部消化管造影と直腸生検による。肛門内圧検査が評価に役立つ可能性があり,内肛門括約筋の弛緩欠如が認められる。治療は手術である。

消化器系の先天異常の概要も参照のこと。)

ヒルシュスプルング病は,腸壁のマイスナーおよびアウエルバッハ神経叢が先天的に欠如すること(無神経節症)が原因で発生する。推定発生率は出生5000人当たり1例である。通常は遠位結腸に限定されるが(全症例の75%),結腸全体または大小腸全体が障害されることもあり(全症例の5%),神経支配の脱落した部位は常に連続している。性差がみられない全結腸型を除くと,男児の方が頻度は高い(男女比は4:1)。

神経堤からの神経芽細胞の遊走に問題があることが無神経節症の病因と考えられている。本症は遺伝的要素との関連が大きく,少なくとも12の遺伝子変異にヒルシュスプルング病との関連が認められる。家族の発病確率は患者の罹患腸管が長いほど高く,遠位結腸の場合は3~8%,全結腸の場合は最高20%である。ヒルシュスプルング病患者の約20~25%には別の先天奇形があり,約15%には遺伝学的異常(ダウン症候群の頻度が最も高い)がみられる。先天性中枢性肺胞低換気症候群では,約20%の患者にヒルシュスプルング病がみられ,これらが合併した状態はHaddad症候群と呼ばれている。腸管神経形成異常症(intestinal neuronal dysplasia:IND)患者では,約20%の患者にヒルシュスプルング病がみられる。

病変部では蠕動が欠如するか異常を呈し,その結果として平滑筋の持続的攣縮,腸管内容の蓄積を伴う部分的または完全な閉塞,および正常神経支配を受ける口側腸管の高度の拡張を来す。飛び石病変を認めることはほとんどない。

症状と徴候

出生後早期に発症する場合が最も多いが,小児期または成人期まで発症しない患者もいる。

正常では,98%の新生児が生後24時間までに胎便を排出する。ヒルシュスプルング病の新生児の約50~90%では,生後48時間までに胎便の排出がみられない。乳児期には,他の形態で生じる肛門側腸管の閉塞と同様に,便秘,腹部膨隆,そして最終的には嘔吐を来す。Ultra-short segment aganglionosisの乳児では,ときに軽度または間欠性の便秘しかみられない(その間にはしばしば軽度の下痢が介在する)場合があり,診断の遅れにつながることがある。乳児期後期と小児期の症候としては,食欲不振,便秘や生理的便意の欠如などがあり,また直腸指診では,直腸が空の状態で結腸上部に便が触知される,指を引き抜いた際に爆発的な排便がみられる(blast sign)といった所見がみられる。乳児は発育不全となることがある。頻度は低いが,ヒルシュスプルング腸炎を呈す乳児もいる。

診断

  • 下部消化管造影

  • 直腸生検

  • ときに直腸内圧検査

ヒルシュスプルング病の診断は可及的速やかに下すべきである。無治療の期間が長引くほど,劇症性かつ致死性のヒルシュスプルング腸炎(中毒性巨大結腸症)の発症リスクを高めることになる。症例の大半が乳児期早期に診断される。

最初のアプローチは,典型的には下部消化管造影および/または直腸吸引生検である。下部消化管造影では,閉塞部より口側の正常神経支配を受ける拡張結腸部と狭小化した遠位部(正常神経支配を欠く)との間の腸管口径の変化が示される。下部消化管造影の前処置は異常部を拡張させて,診断を不可能にすることがあるため,前処置なしで行うべきである。新生児期には特徴的所見が現れない可能性があるため,24時間後に造影剤排泄の有無を調べるX線撮影を行うべきであり,その時点でも結腸がバリウムで充満している場合は,ヒルシュスプルング病の可能性が高くなる。直腸吸引生検では神経節細胞の欠如を明らかにすることができる。アセチルコリンエステラーゼ染色により,肥厚した神経幹を際立たせることができる。直腸内圧検査を行える施設では,この検査によって異常な神経支配の特徴である内肛門括約筋の弛緩欠如を確認することができる。確定診断には直腸または結腸の全層生検が必要であり,病変部の範囲を同定し,それにより外科治療を計画する。

パール&ピットフォール

  • ヒルシュスプルング病に対する下部消化管造影は,腸管前処置なしで行うべきである。

治療

  • 外科的修復

ヒルシュスプルング病の治療は,腸管の神経支配が正常な部分を肛門括約筋が温存された肛門まで引き下ろすことによる外科的修復である。新生児の場合,典型的には,まず結腸を減圧するために無神経領域より口側での人工肛門造設術を施行する二期的手術が行われていた。それにより2回目の手術まで患児の成長を待ち,2回目の手術では結腸の無神経節領域全体を切除し,引き抜き法を施行する。しかしながら,現在では,short-segment型(下部直腸限局型)に対して新生児期に一期的手術を行っている施設が多くなっている。腹腔鏡手術の成績は開腹手術の成績と同様であり,入院期間の短縮,哺乳の早期開始,および疼痛の減少が関連している。

根治的修復後の予後は良好であるが,何例かの乳児に便秘,閉塞性の問題,またはその両方を伴う慢性的な蠕動運動障害が発生している。

要点

  • 神経支配の先天的欠如が遠位結腸に起こり,結腸の大部分が侵されることは比較的少ないが,ときに小腸まで侵されることもある。

  • 典型的には,便秘,腹部膨隆,嘔吐など,肛門側腸管の閉塞所見が認められる。

  • 下部消化管造影所見(前処置なしで施行)および直腸内圧検査は非常に示唆的であり,診断は直腸生検により確定される。

  • 病変部を外科的に切除する。

ヒルシュスプルング腸炎

ヒルシュスプルング腸炎(Hirschsprung enterocolitis)は,ヒルシュスプルング病の生命を脅かす合併症であり,結腸の巨大化を招き,これに続いて敗血症およびショックを来すことが多い。

ヒルシュスプルング腸炎の病因としては,閉塞に続発する口側部の著明な拡張に加えて,結腸壁の菲薄化,細菌の過剰繁殖,および腸内細菌の移行が関与するものと考えられる。敗血症またはショックを来す可能性があり(全結腸型でより高頻度),その場合は急速に死に至ることもあり,死亡率は約1%である。したがって,ヒルシュスプルング病の患児には綿密なモニタリングが不可欠である。

ヒルシュスプルング腸炎は外科的矯正前の生後数カ月の間に最も多く発生するが,術後に発生することもあり,典型的には術後1年以内に発生する。発熱,腹部膨隆,および下痢(血性のこともある)が生じ,これに便秘が続く。

ヒルシュスプルング腸炎の初期治療は,急速輸液,経鼻胃管および直腸管を用いた減圧,ならびに嫌気性菌をカバーする広域抗菌薬(例,アンピシリン,ゲンタマイシン,およびクリンダマイシンの併用,アンピシリン,セフォタキシム,およびメトロニダゾールの併用,メロペネム単剤)による支持療法である。生食浣腸による結腸洗浄を推奨する専門医もいるが,これは結腸内圧の上昇による穿孔を起こさないように慎重に行わなければならない。外科的修復をまだ受けていない乳児では,手術が根治療法であり,穿孔または壊死腸管を有する乳児でも同様である。

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