新生児の院内感染症

執筆者:Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2020年 7月
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新生児感染症には,子宮内や分娩時の母子感染ではなく,新生児室での感染によって発生するものもある。一部の感染症(例,B群レンサ球菌,単純ヘルペスウイルス[HSV])については,原因が母親と病院環境のどちらにあるか明確でないこともある。

院内感染は,早産児や長期入院が必要な疾患をもつ正期産児にとって重要な問題となっている。健康な正期産児の感染率は1%未満である。新生児治療室の新生児については,出生体重が低いほど発生率が高くなる。最も頻度の高い院内感染症は,中心静脈カテーテル関連血流感染症(CLABSI)と院内肺炎である。

新生児感染症の概要も参照のこと。)

病因

正期産児で最も頻度の高い院内感染症は次のものである:

  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(メチシリン感受性とメチシリン耐性の両方)による皮膚感染症

黄色ブドウ球菌(S. aureus)を鼻腔内に保菌している新生児室スタッフが感染源となる可能性もあるが,通常は定着のある新生児や母親も病原体保有生物となっている。生後数日で臍帯断端,鼻,および鼠径部に定着する場合が多い。しばしば,新生児が帰宅するまで感染が明らかとならない。

極低出生体重児(1500g未満)では,グラム陽性菌が感染例の約70%を引き起こしており,その大部分がコアグラーゼ陰性ブドウ球菌である。大腸菌(Escherichia coli),Klebsiella属,Pseudomonas属,Enterobacter属,Serratia属などのグラム陰性菌が感染例の約20%を引き起こしている。真菌(Candida albicansおよびC. parapsilosis)が原因のものは約10%である。感染(および抗菌薬耐性)のパターンは,施設毎あるいは部署毎に異なり,さらに時間の経過とともに変化していく。特に病原性の強い微生物がある部署に定着した場合には,ときに断続的な「流行」が発生することがある。

極低出生体重児が受ける多くの侵襲的処置(例,長期の動脈および静脈カテーテル留置,気管挿管,持続陽圧呼吸療法,栄養摂取のための経鼻胃管,経鼻空腸管)は感染を助長する。新生児治療室の滞在期間が長くなるほど,また行われる処置が増えるほど,感染の可能性が高まる。

予防

  • 黄色ブドウ球菌(S. aureus)の定着を減らす対策

  • 新生児治療室および新生児集中治療室(ICU)での定着および感染を予防する

  • 手指衛生

  • 感染症のサーベイランス

  • ときに抗菌薬

  • 予防接種

定着の低減

ルーチンの沐浴中または無菌操作のための皮膚の前処置において外用消毒薬を使用すると,新生児の皮膚への細菌定着の低減に役立つ可能性がある。この目的でクロルヘキシジンベースの製品が使用されることが増えているが,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)は,生後2カ月未満の乳児における皮膚刺激および化学熱傷のリスクについて警告している。米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)は,臍帯の乾燥ケアを推奨しているが,この処置により黄色ブドウ球菌(S. aureus)による定着率が高くなる可能性がり,一部の病院で流行が発生している。アウトブレイク時には,臍帯部への三重色素の塗布,または臍帯部,外鼻孔,および包皮切除部へのバシトラシンもしくはムピロシン軟膏の適用が定着を減少させる。職員や環境のルーチンな培養は推奨されない。

新生児治療室および新生児ICU

新生児治療室における定着および感染を予防するには,十分なスペースおよび人員の確保が必要である。集中治療室(intensive care)では,相部屋の場合,児1人当たり120平方フィート(11.2平方メートル)の面積を確保し,保育器またはウォーマーの間は各方向につき端と端の間隔を8フィート(約2.4m)確保すべきである。看護師:児の比率を1:1~1:2とする必要がある。中間治療室(intermediate care)では,相部屋の場合,児1人当たり120平方フィート(11.2平方メートル)の面積を確保し,保育器またはウォーマーの間は各方向につき端と端の間隔を4フィート(約1.2m)確保すべきである。看護師:児の比率を1:3~1:4とする必要がある。

特に侵襲的な器具の設置および管理や機器の入念な清掃と消毒または滅菌などに,適切な手順を採用する必要がある。手順の遵守に対する積極的なモニタリングも不可欠である。中心静脈カテーテルの挿入および維持に関するエビデンスに基づく正式なプロトコルによって,中心静脈カテーテル関連血流感染症の頻度は有意に低下している。

同様に,新生児ICUでの医療ケア関連肺炎を減少させる一連の手順およびプロトコルが特定されており,それらには,スタッフの教育・訓練,医療ケア関連肺炎に対する積極的サーベイランス,挿管されている新生児のベッドの頭部挙上(30~45°),包括的な口腔衛生などが含まれている。呼吸器回路に連結された気管内チューブを水平に保ち,体位を側臥位にすることも助けとなりうる。

手指衛生

その他の予防策として手指衛生に対する細心の注意が挙げられる。アルコール製剤による洗浄は,手に定着した細菌数の減少について,石鹸と水による洗浄と同等の有効性を示すが,手が目に見えて汚れている場合は,まず石鹸と水で洗うべきである。保育器は限定的な保護隔離をもたらすが,装置の外部および内部は急速にひどく汚染され,スタッフの手や前腕を汚染する可能性が高い。血液および体液に対する普遍的予防策により,さらに予防効果が高まる。

感染症サーベイランス

感染に対する積極的なサーベイランスを行う。流行が起きた際には,発症または定着がみられた児のコホートを特定し,それらの児を独立した看護スタッフに割り当てることが有用である。退院後も1カ月にわたりサーベイランスを続けることが,流行を終結させるために実施した感染管理が十分であったかどうかを評価するために必要である。

抗菌薬

予防的抗菌薬療法は一般に効果的ではなく,耐性菌の出現を促進し,新生児の常在菌叢のバランスを変化させる。だたし,新生児室での流行が確認されている間は,特定の病原体を対象とした抗菌薬使用を考慮してもよい(例,A群レンサ球菌感染症の予防としてベンジルペニシリン― see table 新生児に対する主な注射用抗菌薬の推奨用量)。

予防接種

不活化ワクチンの接種時期に入院している乳児には,ルーチンのスケジュール( see table 0~6歳を対象とする推奨予防接種スケジュール)に従って不活化ワクチンを接種すべきである。生ウイルスワクチン(例,ロタウイルスワクチン)は,院内でのワクチン株の伝播を防止するため,退院時まで接種しない。

要点

  • 院内感染は,早産児や長期入院が必要な疾患をもつ正期産児にとって重要な問題となっている。

  • 出生体重が低いほど感染リスクが高まり,中心静脈カテーテル,気管内チューブ,またはその両方が留置されている新生児では特に頻度が高くなる。

  • 予防には,カテーテル,チューブ,および種々の器具の挿入と維持に対する綿密な手順の採用が不可欠であり,正式なプロトコルが遵守を改善する。

  • 予防的な抗菌薬投与は推奨されないが,おそらくは新生児室で特定の病原体が関与する流行が確認されている期間は例外と考えられる。

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