(成人の高ナトリウム血症 高ナトリウム血症 高ナトリウム血症は,血清ナトリウム濃度が145mEq/L(145mmol/L)を上回る状態と定義される。体内の総ナトリウム量に対して体内総水分量が不足していることを意味し,水分摂取量が水分喪失量よりも少ないことにより引き起こされる。主な症状は口渇である;他の臨床症状は主に神経症状(浸透圧によって水が脳細胞外へ移動することによる)で,錯乱,... さらに読む については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。)
病因
高ナトリウム血症は以下の場合に発生する:
ナトリウムより水分が多く喪失した場合(hypernatremic dehydration[高ナトリウム血症性脱水])
ナトリウム摂取量がナトリウム喪失量を超えた場合(食塩中毒)
両方
ナトリウムより多い水分喪失は大抵の場合,下痢,嘔吐,高熱によって起こる。生後すぐの哺乳不良によっても引き起こされ(例,母親,新生児ともにまだ授乳になれていない時期),24~28週で生まれた極低出生体重(VLBW)児でも起こることがある。VLBW児においては,未熟で水分透過性の高い角層を介した不感蒸泄に,腎機能の未熟性と濃縮尿の生成能の低さが組み合わさることで,自由水の喪失につながる。皮膚からの不感蒸泄による水分喪失はまたラジアントウォーマーや光線療法用照明によっても有意に増加し,曝露したVLBW児には生後最初の数日間は輸液による水分補給を最高250mL/kg/日で行う必要があり,その後は角層の発達により不感蒸泄は減少する。まれな原因として,中枢性または腎性尿崩症がある。高ナトリウム血症と脱水を合併した新生児では,上昇した浸透圧の働きにより細胞外液腔が維持される(そのため循環血液量も維持される)ため,身体診察で認識される程度よりも強い脱水が生じている場合が多い。
電解質の過剰(solute overload)は,自家製の乳児用人工乳に塩を加えすぎた場合,または高浸透圧溶液を投与した場合に最もよく起こる。新鮮凍結血漿とヒトアルブミンはナトリウムを含み,極早産児に反復投与すると高ナトリウム血症を来すことがある。
症状と徴候
高ナトリウム血症の症状および徴候として,嗜眠,不穏,反射亢進,痙縮,高体温,痙攣発作などがある。皮膚の張りは低下するというよりパン生地のような感触である。
頭蓋内出血 頭蓋内出血 分娩時の力により,ときに新生児に身体的損傷が引き起こされる。難しい回転術, 吸引分娩, 中位鉗子分娩または高位鉗子分娩に代わり 帝王切開を用いることが増えているため,困難な分娩または外傷を引き起こしうる分娩に起因する新生児の損傷発生率は低下している。 新生児が 在胎期間に対して大きい場合( 母体糖尿病に関連する場合がある)や, 骨盤位や他の異常胎位である場合(特に初産婦において)などに,外傷のリスクが上昇する。... さらに読む ,静脈洞血栓症,および 急性尿細管壊死 急性尿細管壊死(ATN) 急性尿細管壊死(ATN)は,急性尿細管細胞損傷および機能障害を特徴とする 腎障害である。一般的な原因は,腎血流低下を引き起こす低血圧または敗血症と腎毒性薬剤である。病態は,腎不全が発生しない限り無症候性である。低血圧,重症敗血症,または薬物曝露後に高窒素血症が出現した場合に本疾患を疑い,臨床検査値と体液量増加に対する反応によって腎前性の高窒素血症と鑑別する。治療は支持療法による。... さらに読む が高ナトリウム血症の主な合併症である。
診断
血清ナトリウム濃度
症状と徴候から高ナトリウム血症を疑い,血清ナトリウム濃度の測定によって診断を確定する。
その他に認められる臨床検査所見として,血中尿素窒素の上昇,血清血糖値の軽度の上昇,そして血清カリウムが低い場合は血清カルシウム濃度の低下がある。
治療
0.9%食塩水静注,その後低張性食塩水(0.3%または0.45%食塩水)
重度の脱水例は,通常20mL/kgを1回量とする0.9%食塩水静注により,まず循環血液量を回復させなければならない。治療は,計算した水分欠乏量に等しい量の5%ブドウ糖/0.3~0.45%食塩水を,血清浸透圧が急激に低下するのを避けるために2~3日間かけて静脈内投与することにより行う(小児における脱水の治療 治療 脱水とは体内水分量が著しく欠乏している状態のことであり,程度は様々であるが電解質も欠乏している状態である。症状および徴候として,口渇,嗜眠,粘膜の乾燥,尿量の減少,および,脱水の程度が進行するにつれて,頻脈,低血圧,ショックなどが現れる。診断は病歴と身体診察に基づく。治療は,経口または静注での水分および電解質補充により行う。... さらに読む も参照);急激に低下すると水が細胞内に急速に移動し,脳浮腫を引き起こすことがある。維持輸液は同時に行うべきである。血清ナトリウムを約10mEq/L/日(10mmol/L/日)のペースで減少させることを治療の目標とする。血清ナトリウムの補正速度が速すぎると,脳浮腫などの重大な有害事象が生じる恐れがある。体重,血清電解質,尿量,尿比重を定期的にモニタリングして,輸液療法を適切に調節できるようにする。一旦十分な尿量が得られれば,カリウムを追加して必要維持量にするか尿による損失を補う。
食塩中毒が原因の極端な高ナトリウム血症(ナトリウムが200mEq/L[200mmol/L]を超える)は,腹膜透析によって治療されるべきであり,中毒が血清ナトリウムの急激な上昇を引き起こした場合は特にそうである。
予防
高ナトリウム血症の予防には,通常にはない水分喪失が起きた場合にその量および組成,ならびに恒常性の維持に使用された補液の量および組成に対しての注意が必要である。渇きをうまく知らせたり喪失を自発的に元に戻したりすることができない新生児や幼若乳児では,脱水のリスクが最も高くなる。乳幼児に栄養や水分を与える際に,複数を混合して用いる場合には(例,いくつかの乳児用人工乳と経管栄養用の濃縮製剤),その組成には特別な注意が必要であり,下痢のエピソード中,水分摂取が不十分な場合,嘔吐,または高熱がみられるなど,脱水が生じる可能性が高い場合には特に注意が必要である。
要点
高ナトリウム血症は通常,脱水(例,下痢,嘔吐,高熱によるもの)に起因する;ナトリウムの過剰摂取はまれである。
徴候として,嗜眠,不穏,反射亢進,痙縮,高体温,痙攣発作などがある。
頭蓋内出血,静脈洞血栓症,および急性尿細管壊死が起こりうる。
血清ナトリウム濃度が150mEq/L(150mmol/L)を上回ることで診断される。
原因が脱水であれば,生理食塩水によって循環血液量を回復し,続いて計算した水分欠乏量に等しい量の5%ブドウ糖/0.3~0.45%食塩水を静注する。
血清ナトリウムの急激な低下(これは重大で望ましくない結果につながりうる)を避けるため,2~3日かけて水分補給を行う。