エーラス-ダンロス症候群

執筆者:Frank Pessler, MD, PhD, Helmholtz Centre for Infection Research
レビュー/改訂 2020年 10月
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エーラス-ダンロス症候群は,関節過可動性,皮膚の過弾力性,および広範な組織脆弱性を特徴とする遺伝性のコラーゲンの障害である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法による。

遺伝形式は通常,常染色体優性であるが,エーラス-ダンロス症候群は不均一性である。様々な遺伝子変異が様々なコラーゲンの量,構造,または形成に影響を与える。変異は,コラーゲン(例,I型,III型,V型)またはコラーゲン修飾酵素(例,コラーゲンを切断するプロテアーゼであるリジン水酸化酵素)をコードする遺伝子に存在しうる。

6つの主な病型がある:

  • 古典型

  • 過可動型

  • 血管型

  • 後側弯型

  • 関節弛緩型

  • 皮膚脆弱型

さらにいくつかのまれなまたは分類しがたい病型もある。

症状と徴候

エーラス-ダンロス症候群の症状および徴候は非常に多様である。

主要な症状としては,関節の過可動性,瘢痕形成および創傷治癒の異常,脆弱な血管,過剰に伸展するビロード状の皮膚などがある。皮膚は数cm伸展できるが離すと元に戻る。

骨隆起を覆う部分(特に肘,膝,および脛)に幅の広い紙状の瘢痕がしばしばみられる;過可動型では瘢痕は比較的軽度である。モルスクム様の偽腫瘍(肉質の増殖)が瘢痕の頂点または圧迫点に形成されることがよくある。

関節過可動性の程度は様々であるが,関節弛緩型,古典型,および過可動型においては顕著なことがある。

出血傾向はまれであるものの,血管型は血管破裂および皮下出血を特徴とする。皮下の石灰化した球状体が触知されるかまたはX線上で観察されることがある。

エーラス-ダンロス症候群
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このエーラス-ダンロス症候群患者では,皮膚に異常な弾性がみられる。
ST MARYS HOSPITAL MEDICAL SCHOOL/SCIENCE PHOTO LIBRARY

エーラス-ダンロス症候群の合併症

軽微な外傷によって,大きく開くが出血がほとんどない創傷ができることがある;創傷の外科的閉鎖は,縫合により脆弱な組織が裂ける傾向があるため困難になりうる。深部組織が脆弱なため手術合併症が起こる。強膜が脆弱なことがあり,後側弯型では眼球の穿孔につながる。

軽度の関節液貯留,捻挫,および脱臼がよく起こる。患児の25%(特に後側弯型の患児)で脊柱後側弯症が,20%で胸郭変形が,5%で内反尖足が起こる。罹患した成人の約90%に扁平足(平らな足)がみられる。発育性股関節形成不全(かつての先天性股関節脱臼)が1%に起こる(関節弛緩型は両側性の発育性股関節形成不全を特徴とする)。

消化管のヘルニアおよび憩室がよくみられる。まれに,消化管の一部が自然に出血および穿孔を来し,解離性大動脈瘤および太い動脈が自然に破裂する。

弁逸脱は最も重症の病型(血管型)でよくみられる合併症である。

妊婦では,組織の伸展性のために早産,子宮頸管不全症,および場合により子宮破裂を起こすことがある;胎児が罹患している場合,卵膜が脆弱となり,ときに早期破水を起こす。母体の組織脆弱性により会陰切開または帝王切開が困難となることがある。出生前,周産期,および出生後に出血が起こることがある。

重篤となる可能性がある他の合併症には,動静脈瘻,内臓破裂,および気胸または血気胸などがある。

診断

  • 臨床的評価

  • 心血管系合併症をスクリーニングする心エコー検査および/またはその他の血管画像検査

エーラス-ダンロス症候群の初期診断は主として臨床的に行うが,遺伝子検査(現在ほとんどの亜型で利用可能である)によって確定すべきである。皮膚生検の超微細構造の検査が,古典型,過可動型,および血管型の診断に役立つことがある。

心エコー検査およびその他の血管画像検査を行い,一部の病型に関連する心疾患(例,弁逸脱,動脈瘤)の有無を確認する。

予後

寿命は通常ほとんどの病型で正常である。特定の病型では致死的となる可能性がある合併症(例,血管型での動脈破裂)が発生する。

治療

  • 合併症の早期発見および治療

エーラス-ダンロス症候群の特異的な治療法はない。外傷は最小限に抑えるべきである。防護的な衣服およびパッドが役立つことがある。手術を行う場合,止血を慎重に行う必要がある。創傷を注意深く縫合し,組織に張力がかかるのを避ける。

妊娠中および分娩中の産科管理は必須である。遺伝カウンセリングを行うべきである。

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