乳児および小児における甲状腺機能亢進症

執筆者:Andrew Calabria, MD, The Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2020年 7月
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甲状腺機能亢進症は,甲状腺ホルモンの過剰産生である。診断は甲状腺機能の検査(例,血清遊離サイロキシン,甲状腺刺激ホルモン)による。治療は,チアマゾール,およびときに放射性ヨードや手術による。

甲状腺機能の概要も参照のこと。)

病因

乳児では甲状腺機能亢進症はまれであるが,生命を脅かす危険性がある。バセドウ病に罹患している女性またはバセドウ病の既往がある女性の胎児に発生する。バセドウ病の患者では,甲状腺刺激ホルモン(TSH)の甲状腺受容体に対する自己抗体がみられ,このような自己抗体が甲状腺のTSH受容体に結合することによって甲状腺ホルモン産生を過剰に刺激する。これらの抗体は,胎盤を通過して胎児の甲状腺の機能亢進をもたらし(子宮内バセドウ病),胎児死亡や早産を引き起こすことがある。出生後乳児は抗体を排除するため,新生児バセドウ病は通常は一過性である。しかしながら,排除速度には幅があるため,新生児バセドウ病の持続時間も一定ではない。

小児および青年では,バセドウ病が甲状腺機能亢進症の原因の90%以上を占める。比較的まれな原因としては,自律機能性の中毒性結節,最終的には甲状腺機能低下となる橋本甲状腺炎の初期段階での一過性甲状腺機能低下症(ハシトキシコーシス),薬物有害作用(例,アミオダロン誘発性甲状腺機能亢進症)などがある。ときに,一過性甲状腺機能亢進症は,細菌感染症(急性甲状腺炎)およびウイルス感染症(亜急性甲状腺炎)などの感染症によって起こりうる;細菌性の原因には,黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus),表皮ブドウ球菌(S. epidermis),化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes),肺炎球菌(S. pneumoniae),大腸菌(Escherichia coli),およびClostridium septicumなどがある。小児で急性甲状腺炎になりやすい素因としては,先天異常(例,持続的梨状窩瘻)および易感染状態などがある。思春期前のバセドウ病の小児では,一般にトリヨードサイロニン(T3)単独の中毒症を呈するが,診断が遅れた場合,血清遊離サイロキシン(T4)高値およびTSH受容体抗体価高値となりうる。TSH受容体に対する抗体には,刺激抗体と刺激阻害抗体とがある;これらの抗体力価のバランスにより,バセドウ病の重症度が決まる。

症状と徴候

胎児では,甲状腺機能亢進症の徴候(例,子宮内発育不良,胎児頻脈[160/分を超える],甲状腺腫)は第2トリメスターという早い段階で認められることがある。胎児の甲状腺機能亢進症が新生児期まで発見されなかった場合,患児は重症となる可能性があり,頭蓋縫合早期癒合症,知的障害,発育不全,および低身長などを示す。死亡率は10~15%に達することもある。

乳児の甲状腺機能亢進症の症状および徴候としては,易刺激性,哺乳困難,高血圧,頻脈,眼球突出,甲状腺腫( see page 先天性甲状腺腫),前額部の突出(frontal bossing),小頭症などがある。その他の早期所見は発育不良,嘔吐,下痢である。罹患した乳児はほぼ常に6カ月以内に回復する;経過がそれ以上長引くことはまれである。発症および症状の重症度は,母親が抗甲状腺薬を服用しているかによっても異なる。母親が薬剤を服用してない場合,乳児は出生時甲状腺機能亢進症を呈する;薬剤を服用している場合は,生後約3~7日目に薬剤が代謝されるまで児は甲状腺機能亢進症とはならない。バセドウ病の母親から生まれた小児の95%以上が生後1カ月以内に症状を呈する;ただし,まれに発症が2カ月目にずれこむこともある。

小児および青年では,後天性のバセドウ病の症状として,睡眠障害,多動,情緒不安定,顕著な注意低下および成績低下,耐暑性低下(heat intolerance),発汗,疲労,体重減少,排便数増加,振戦,動悸などがみられる。徴候としては,びまん性甲状腺腫,頻脈,高血圧などがある。バセドウ眼症は最大3分の1の患児に発生する。眼所見は成人ほど顕著ではないが,眼瞼遅滞(eyelid lag),または眼が赤いあるいは目立つことがあり,ときに眼球突出を伴う。小児および青年では,成長の加速や骨年齢の上昇など成長の変化がみられることがあるが,思春期は早発するより遅発することが多い。

急性甲状腺炎では,甲状腺機能亢進症の症状,甲状腺の圧痛,および発熱が突然発現する。急性甲状腺炎患者の約10%は甲状腺機能亢進症を有する。多くは左方移動を伴う白血球増多を有する。亜急性甲状腺炎ではこのような症状がみられるが重症度は下がり,ウイルス性疾患が先行している場合がある;発熱は数週間続くこともある。

甲状腺クリーゼは甲状腺機能亢進症患児のまれな重度合併症で,極度の頻脈,高体温,高血圧,うっ血性心不全,およびせん妄が現れ,昏睡および死亡に至ることがある。

診断

  • 甲状腺機能検査

  • ときに甲状腺の超音波検査および核医学検査

乳児では,母親に活動性のバセドウ病またはバセドウ病の既往があり母親のTSH受容体に対する刺激抗体(甲状腺刺激免疫グロブリン[TSI]またはTSH受容体抗体[TRAb])価が高い場合に甲状腺機能亢進症の診断を疑い,血清T4,遊離T4,T3,およびTSHの測定により診断を確定する。TSIもTRAbもバセドウ病の診断確定に使用できる。TSIでは刺激抗体のみが測定されるが,TRAbではTSH受容体に対する刺激抗体および刺激阻害抗体の両者が測定される。TSIではなくTRAbを使用した新しい検査方法は,甲状腺機能亢進症の診断感度が高く,より速く結果が出るため,TSIの代わりに用いられることがある。バセドウ病の母親から生まれた新生児は甲状腺機能亢進症のリスクがあるが,甲状腺機能亢進症の症状は非特異的な場合があるため,生後3~5日および生後10~14日の時点で遊離T4およびTSH値を測定して新生児のモニタリングを行うべきである。血液生化学検査で異常が認められない場合,生後2~3カ月までは症状をフォローし,発症が遅い少数の乳児を特定すべきである(1,2)。

より年長の小児および青年における診断は,成人の場合と同様であり,甲状腺機能検査(甲状腺機能亢進症の診断を参照)およびTSI/TRAbの測定も含まれる。甲状腺機能低下症の評価とは対照的に,T3の評価が不可欠であるが,これはバセドウ病の初期にはT4の上昇前にT3が上昇することがあるためである。より年長の甲状腺機能亢進症の患児に,甲状腺非対称,TSI/TRAb陰性,または触知可能な甲状腺結節があれば,甲状腺超音波検査が行われることが多い。超音波検査またはCTは,膿瘍の位置確認や先天異常の同定にも役立つ。結節が確認された場合は,自律機能性の中毒性結節または甲状腺分化癌の併発を除外するため,核医学検査(過テクネチウム酸ナトリウム[99mTc]またはl-123)だけでなく,穿刺吸引(FNA)細胞診も考慮すべきである。FNA生検は,急性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎の鑑別にも役立ち,また適切な抗菌薬を選択するためにこの検査で細菌の感受性を知ることもできる。

診断に関する参考文献

  1. 1.van der Kaay DC, Wasserman JD, Palmert MR: Management of neonates born to mothers with Graves’ disease.Pediatrics137(4):e20151878, 2016.doi: 10.1542/peds.2015-1878

  2. 2.Samuels SL, Namoc SM, Bauer AJ: Neonatal thyrotoxicosis.Clin Perinatol 45(1):31–40, 2018.doi: 10.1016/j.clp.2017.10.001

治療

  • 抗甲状腺薬

  • ときに放射性ヨードまたは手術

乳児には抗甲状腺薬を投与するが,典型的にはチアマゾール0.17~0.33mg/kgの1日3回経口投与を,ときにβ遮断薬(例,プロプラノロール0.8mg/kgの1日3回経口投与,アテノロール0.5~1.2mg/kgの1日1~2回経口投与)と併用し症状を治療する。別の抗甲状腺薬であるプロピルチオウラシルは,ときに重度の肝不全を引き起こすという知見が最近得られ,もはや第1選択薬ではないが,甲状腺クリーゼなどの特別な状況で使用されることもある。ルゴール溶液(ヨウ化カリウム)1滴(0.05mL),経口,1日3回を加えることができ,その初回投与はチアマゾールの初回投与から1時間後に行われ,特にチアマゾールおよびβ遮断薬による治療に抵抗性を示す症例でよく使用される。ヒドロコルチゾン0.8~3.3mg/kg,経口,1日3回,またはプレドニゾロン1mg/kg,経口,1日2回もしくは2mg/kg,1日1回を検討してもよい(特に重症[critically ill]の乳児)。甲状腺機能亢進症の治療は綿密にモニタリングしなければならず,疾患が治癒したら速やかに中止しなければならない。(妊娠中のバセドウ病の治療については, see page バセドウ病。)

より年長の小児および青年の治療は,成人の甲状腺機能亢進症の治療と同様であり,抗甲状腺薬およびときに放射性ヨードまたは手術を用いた甲状腺除去による根治療法などがある。アテノロールやプロプラノロールなどのβ遮断薬は,高血圧および頻脈のコントロールに用いられることがある。抗甲状腺薬による治療を受ける小児は35%の確率で寛解する(抗甲状腺薬中止後12カ月以上再発がないことと定義される)が,これは成人の確率(50%)より低い。

18~24カ月の抗甲状腺薬療法により寛解しなかった患児,薬物有害作用がみられた患児,または遵守が達成されなかった患児には根治療法が必要である。寛解の可能性が低くなる特徴には,発症時年齢の低さ(例,思春期に比べ思春期前),初診時の甲状腺ホルモン値の高さ,甲状腺の大きさ(年齢相応の正常値より2.5倍),およびTSH受容体抗体価上昇の持続などがある。放射性ヨードおよび手術は,いずれも甲状腺機能低下に導くことを目標とする根治療法の確実な選択肢である。しかし,放射性ヨードは通常,10歳未満の小児には用いられず,甲状腺が大きい場合は効果的ではないことが多い。したがって,このような因子のある小児および青年には手術が望ましい。

自律機能性の中毒性結節が発見された場合,外科的切除が小児および青年で推奨される。

急性甲状腺炎の治療には,抗菌薬(一般的にはアモキシシリン/クラブラン酸またはペニシリンアレルギー例にはセファロスポリン系薬剤)の経口または静脈内投与があるが,理想的には穿刺吸引で得られた検体の抗菌薬感受性に基づいて薬剤を選択すべきである。外科的治療が必要になることがある(例,膿瘍の排液または瘻孔の修復)。亜急性甲状腺炎は自然治癒し,非ステロイド系抗炎症薬が疼痛コントロールのため投与される。抗甲状腺薬は適応とならないが,症状がある場合にはβ遮断薬を使用できる。

要点

  • 乳児の甲状腺機能亢進症は,バセドウ病の母親からの胎盤を介して移行する甲状腺刺激抗体により起こる。

  • より年長の小児および青年の甲状腺機能亢進症は,通常バセドウ病により引き起こされる。

  • 甲状腺機能亢進症には,頻脈,高血圧,体重減少,易刺激性,集中力および成績の低下,睡眠障害など多数の臨床像がある。

  • 診断は,血清サイロキシン(T4),遊離T4,トリヨードサイロニン(T3),および甲状腺刺激ホルモン(TSH)による;甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)およびTSH受容体抗体(TRAb)はいずれもバセドウ病の診断確定に利用できる。

  • 甲状腺に著明で触知可能な異常がある場合,超音波検査を行う。

  • チアマゾールにより治療し,症状はβ遮断薬により治療する;新生児期外の後天性の症例のうち抗甲状腺薬で寛解するのは約35%のみであり,放射性ヨードまたは手術を用いた根治療法が必要となりうる。

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