10%以上の小児にコミュニケーション障害がある。1つの要素の障害が他の要素に影響する可能性がある。例えば,聴覚障害によって声の抑揚が障害され,音声障害に至ることがある。 中耳炎 中耳炎(急性) 急性中耳炎は,中耳の細菌感染症またはウイルス感染症であり,通常は上気道感染に併発する。症状としては耳痛があり,しばしば全身症状(例,発熱,悪心,嘔吐,下痢)を伴い,特に非常に若年の患者でその傾向が強い。診断は耳鏡検査に基づく。治療は鎮痛薬により行い,ときに抗菌薬も用いる。 急性中耳炎はどの年齢層でも生じるが,3カ月から3歳の間で最も多い。この年齢層では,耳管が構造的にも機能的にも未熟であり,耳管の角度が比較的水平で,口蓋帆張筋と耳管軟骨... さらに読む による難聴は言語発達を阻害する可能性がある。音声障害などの全てのコミュニケーション障害によって,学業成績と社会的関係に支障が生じることがある。
音声障害
6%を超える学齢期の小児に発声障害があり,嗄声が最もよくみられる。原因はしばしば,長期にわたり過度に声を使用することおよび/または大きすぎる声で話すことである。対応する解剖学的異常で最も高頻度にみられるものは, 声帯結節 声帯ポリープ,声帯結節,および声帯肉芽腫 急性外傷または慢性刺激により,ポリープ,結節,または肉芽腫に至ることがある声帯の変化が生じる。いずれも嗄声および気息声を引き起こす。これらの症状が3週間を超えて持続する場合は,声帯の観察を行う。診断は,喉頭鏡検査および選択された症例でがんを除外するための生検に基づく。慎重な外科的切除により音声を回復し,刺激源の除去により再発を予防する。 ポリープおよび結節は,声帯の固有層への損傷により発生する。肉芽腫は,披裂軟骨の声帯突起を覆う軟骨膜へ... さらに読む である。他の喉頭病変または内分泌異常も一因となる可能性がある。難聴が,声量を感じて声の強さを変える能力を阻害することによって一因となりうる。結節は通常は音声治療で解消し,手術が必要になることはまれである。
聴覚障害
発話障害
小学校第1学年の小児の約5%に発話障害がある。発話障害では,音声の産出が障害される。発話障害としては,以下のものがある:
開鼻声:開鼻声は典型的に,軟口蓋の咽頭壁との正常な閉鎖を妨げる(鼻咽腔閉鎖機能不全 鼻咽腔閉鎖機能不全 鼻咽腔閉鎖機能不全は中咽頭と上咽頭の間にある括約筋の不完全な閉鎖であり,しばしば口蓋の解剖学的異常により発生し,開鼻声の原因となる。診断はファイバースコープによる鼻咽頭鏡下での直接視診により行う。治療は言語療法および手術による。 鼻咽腔閉鎖機能不全は中咽頭と上咽頭の間の口蓋咽頭括約筋の不完全閉鎖である。正常では,閉鎖は軟口蓋および上咽頭収縮筋の括約運動によってなされるが,口蓋裂,修復した口蓋裂,先天性の短口蓋,粘膜下口蓋裂,口蓋麻痺,お... さらに読む ), 口蓋裂 口唇裂および口蓋裂 口唇裂,口唇口蓋裂,および単独の口蓋裂を総称して,口腔裂と呼ぶ。口腔裂は最も頻度の高い頭頸部先天奇形であり,全体での有病率は出生1000人当たり2.1例である。環境因子と遺伝因子の両方が原因として推定されている。出生前の母親による喫煙および飲酒によってリスクが増大する。罹患児が1人いると,2人目の罹患リスクが高くなる。このリスクは,受胎前から第1トリメスターにかけて葉酸を摂取することで低減できる。... さらに読む または他の構造的異常によって起こる。
吃音:通常よくみられる型の吃音である発達性吃音は,典型的には2~5歳で始まり,男児でより頻度が高い。吃音の病因は不明であるが,家族集積がよくみられる。神経学的な原因で吃音が生じることは比較的まれである。
構音障害:構音障害のあるほとんどの小児に身体的原因は認められない。二次性の構音障害が,発声筋の神経支配または協調を障害する神経疾患の結果起こりうる。嚥下筋も通常は影響を受けるため,構音障害を認める前に 嚥下困難 嚥下困難 嚥下困難とは,嚥下が困難になった状態である。この病態は,咽頭から胃への液体,固形物,またはその両方の輸送阻害に起因する。嚥下困難を球感覚と混同してはならず, 球感覚は咽喉に塊があるような異常感覚であり,嚥下障害ではなく,輸送障害も生じない。 ( 食道疾患および嚥下障害の概要も参照のこと。) 嚥下器官は,咽頭,上部食道括約筋(輪状咽頭筋),食道体部,および下部食道括約筋(LES)で構成される。食道の上部3分の1とそれより上方の構造は骨格筋... さらに読む が発見されることがある。聴覚障害および構造的異常(例,舌,口唇,または口蓋の異常)も構音を障害しうる。
多くの一次性の発話障害で 言語療法 言語療法(ST) 言語療法士は, 失語症,構音障害,もしくは言語失行のある患者,または喉頭切除を施された患者に対して,最も効果的なコミュニケーション方法を特定できる。 運動性失語:手紙やピクチャーボード 軽度から中等度の構音障害または失行:呼吸および筋肉コントロールに加えて反復運動 重度の構音障害または失行:メッセージを(印字またはスクリーンで)表示できるキーボード付き電子機器 喉頭切除後:新たな発声法を習得すること(例,電気式人工喉頭による―... さらに読む が役立つ。鼻咽腔閉鎖機能不全を起こす病変がある小児には,一般的に言語療法だけでなく手術も必要である。
言語障害
他の点では健康な小児の約5%で,言語理解または言語表現の困難が認められる(特異的言語障害と呼ばれる)。男児でより高頻度にみられ,おそらく遺伝因子が一因となっている。あるいは,言語の問題は他の疾患(例, 外傷性脳損傷 外傷性脳損傷(TBI) 外傷性脳損傷(TBI)は,脳機能を一時的または恒久的に障害する脳組織の物理的損傷である。診断は臨床的に疑い,画像検査(主にCT)により確定する。初期治療は確実な気道確保,十分な換気,酸素化,および血圧の維持で構成される。損傷が重度の患者では,しばしば外科手術が必要となり,頭蓋内圧亢進の追跡および治療のためにモニターを設置し,頭蓋内圧亢進に... さらに読む , 知的障害 知的能力障害 知的能力障害は,平均を著しく下回る知的機能(しばしば知能指数で70~75未満と表現される)に加えて,適応機能(すなわち,コミュニケーション,自己主導,社会的技能,自己管理,社会資源の利用,自身の安全の維持)において制限がみられるとともに,支援の必要性が実証されていることが特徴である。管理は教育,家族カウンセリング,および社会的支援から構成される。 知的能力障害は,神経発達障害の1つと考えられている。神経発達障害とは,小児期早期,典型的に... さらに読む , 難聴 小児の聴覚障害 難聴の一般的な原因は,新生児では遺伝子異常,小児では耳の感染症および耳垢である。多くの症例がスクリーニングにより検出されるが,小児が音に反応しない場合または言語発達の遅滞がみられる場合は,難聴を疑うべきである。診断は通常,新生児では電気診断検査(誘発耳音響放射検査および聴性脳幹反応)により,小児では診察およびティンパノメトリーによる。不可... さらに読む , ネグレクトまたは虐待 小児虐待の概要 小児虐待は,小児に対する常軌を逸した行動であり,身体的または情緒的な危害を与える多大なリスクを伴う。一般的に4種の虐待が認識されている;身体的虐待,性的虐待,情緒的虐待(心理的虐待)【訳注:米国では"emotional abuse"と"psychological abuse"が同義で使用されている[参考:NATIONAL... さらに読む , 自閉症 自閉スペクトラム症 自閉スペクトラム症とは,社会的交流およびコミュニケーションの障害,反復常同的な行動様式,ならびにしばしば知的能力障害を伴う不均一な知的発達を特徴とする,神経発達障害の1つである。症状は小児期早期に始まる。患児の大部分においてその原因は不明であるが,エビデンスから遺伝的要素の存在が支持されており,また一部の患者では,何らかの内科的病態によって自閉症が引き起こされることもある。診断は発達歴および観察に基づく。治療は行動管理であり,ときに薬物... さらに読む , 注意欠如・多動症 注意欠如・多動症(ADD,ADHD) 注意欠如・多動症(ADHD)は,不注意,多動性,および衝動性から構成される症候群である。不注意優勢型,多動性・衝動性優勢型,混合型の3つの病型に分類される。診断は臨床的な基準により下される。治療では通常,精神刺激薬による薬物療法,行動療法,教育的介入などが行われる。 注意欠如・多動症(ADHD)は,神経発達障害と考えられている。神経発達障... さらに読む )に続発して生じることもある。
言語療法が有益なことがある。特異的言語障害を有する小児の一部は自然に回復する。
診断
小児にコミュニケーション障害がある場合(例,1歳の誕生日までに2語以上話せない),親に医療機関への受診を指導することがある。評価には神経学的および耳鼻咽喉科学的診察を含めるべきである。聴覚および言語を評価する。
音声障害(例,嗄声,気息声[息もれ声])が疑われる場合,喉頭鏡検査を考慮すべきである。
要点
音声,聴覚,発話,および/または言語の問題(コミュニケーション障害)は一般的であり,学業および社会生活に影響する。
コミュニケーションが遅れていると思われる(例,1歳の誕生日までに2語以上話せない)小児を評価する。
聴覚および言語発達を評価し,コミュニケーション障害のある小児には喉頭鏡検査を考慮する。