(身体化の概要 身体化の概要 身体化とは,精神現象が身体症状として現れることである。身体化を特徴とする障害は,症状が無意識かつ不随意的に発生するものから,症状が意識的かつ意図的に現れるものまでの一連のものとして認められる。この一連のものには以下が含まれる: 身体症状症および関連症群 作為症 詐病(精神障害ではない)... さらに読む も参照のこと。)
身体症状症および関連症群には以下のものがある:
変換症 変換症 変換症は,無意識かつ意図的ではなく発生する神経症状または神経学的障害から成り,通常は運動または感覚機能を障害する。その臨床像は既知の病態生理学的機序または解剖学的神経支配と合致しない。変換症状の発症,増悪,または持続は,ストレスや心的外傷などの精神的因子に起因しているのが一般的である。診断は,原因としての身体疾患を除外した後,病歴に基づいて行う。治療は一貫した支持的な医師患者関係を確立することから始まり,精神療法が役立つことがあり,催眠... さらに読む :典型的には,症状には随意運動または感覚機能の明らかな障害が関与するが,ときに振戦および意識障害(痙攣発作を示唆する)ならびに異常肢位(別の神経疾患または一般身体疾患を示唆する)もみられる。患児は,協調運動障害もしくは平衡障害,筋力低下,上肢もしくは下肢の麻痺,一部の感覚消失,痙攣発作,無反応,失明,複視,難聴,失声,嚥下困難,咽喉頭異常感,または尿閉を呈することがある。
他者に負わせる作為症 他者に負わせる作為症 他者に負わせる作為症は,他者の疾患の臨床像を捏造することであり,典型的には養育者により世話をしている相手に対して行われる。 ( 身体化の概要および 自らに負わせる作為症も参照のこと。) この障害はかつて,代理人による虚偽性障害や代理ミュンヒハウゼン症候群として知られていた。他者に負わせる作為症では,患者(通常は親などの養育者)が自身(自らに負わせる作為症のように)ではなく,世話をしている相手(通常は子供)に身体的または精神的な症状または... さらに読む :養育者(典型的には親)が故意に小児の身体症状を偽ったり,作り出したりする。例えば,尿検体に血液や他の物質を加えて尿路感染症を装うことがある。
病気不安症 病気不安症 病気不安症は,重篤な疾患に罹患している,または罹患しつつあるという,とらわれと恐怖である。徹底的な医学的評価を行った上で安心させたにもかかわらず,恐怖および症状(あれば)が6カ月以上持続する場合に,診断が確定する。治療では,一貫した支持的な医師患者関係を確立する;認知行動療法とセロトニン再取り込み阻害薬が役立つことがある。 ( 身体化の概要も参照のこと。) 病気不安症(かつては心気症[hypochondriasis]と呼ばれていたが,こ... さらに読む :患児は,重篤な疾患に罹患していると,または罹患することを極度に恐れる。患児は自分が病気である,あるいは病気になるかもしれないという考えにとらわれているため,そうした不安によって日常機能に支障を来したり,著しい苦痛が引き起こされたりする。身体症状を有することもあれば,そうでないこともあるが,症状がある場合,患児の懸念は症状自体よりも,その症状がもちうる意味に対する心配の方が大きい。
身体症状症 身体症状症 身体症状症は,その症状に関係する過剰かつ不適応的な思考,感情,および行動に関連した持続的な複数の身体的愁訴により特徴づけられる。症状は意図的に作り出されたり,捏造されたりせず,既知の身体疾患を伴うこともあれば,伴わないこともある。診断は患者およびときに家族から聴取する病歴に基づく。治療としては,患者が不必要な診断検査や治療を受けることを回避する,一貫した支持的な医師患者関係を構築することに焦点が置かれる。... さらに読む :患児は複数の身体症状を生じることもあれば,重度の症状(典型的には疼痛)を1つだけ呈することもある。症状は特異的(例,腹痛)なこともあれば,漠然としている(例,疲労)こともある。体のあらゆる部分が懸念の対象となりうる。症状自体または症状に関する過剰な心配が苦痛となったり,日常生活を破綻させたりする。
身体症状症および関連症群は男児と女児で等しく認められるが,青年期では男子より女子の方が多い。
身体症状症および関連症群の症状と治療は 不安症 小児および青年における不安症の概要 不安症は,正常な機能を大きく障害する,目の前の環境と釣り合わない恐怖,心配,または脅威を特徴とする。不安から身体症状を来すこともある。診断は臨床的に行う。治療法は行動療法のほか,通常はSSRIによる薬物療法による。 (成人における 不安症の概要も参照のこと。) 以下のような場合,一部の不安は正常な発達の側面である: 歩行開始後間もない幼児は,母親から引き離されたとき,特に不慣れな環境に置かれたときに恐怖を感じる。... さらに読む のものとよく似ている。このような症状は意識的に作られたものでなく,患児は実際に自分が訴えている症状を体験している。
診断
通常は臨床基準
ときに検査による他の疾患の除外
身体症状症または関連症の診断は,Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)の基準に基づいて行う。一般に,これらの疾患のいずれかと診断するには,症状のために著しい苦痛または日常機能の支障が生じており,また自分の健康および/または症状についての過度の心配が思考や行動に現れる必要がある。
初診時には,医師は身体疾患が原因であるかどうかを判断するため,広範に病歴を聴取する(ときに家族と面談する)とともに,徹底的な診察およびしばしば検査を行う。身体症状症の患児がその後身体疾患を発症することもあるため,症状が著しく変化する場合,または他覚徴候がみられた場合には,必ず適切な診察および検査を行うべきである。しかしながら,検査をすることで患児が身体的問題があるとさらに強く信じこんでしまったり,不必要な診断検査自体が患児の心を傷つけたりする可能性があるため,通常は過度の臨床検査は行わないようにする。
身体的問題が確認できない場合は,医師は症状が身体症状症または関連症によるものかどうかを判断する一助として標準的な精神状態に関する検査を行うことがある。また,医師は患児や家族と話し,基礎に心理的問題や家族関係のトラブルがないかを探る必要がある。
治療
精神療法
ときに症状緩和のための薬剤
たとえプライマリケア医と良好な関係が構築されている場合でも,患児を精神療法士(psychotherapist)に紹介するのが一般的である。患児は自分の症状を純粋に身体的なものと考えているため,精神療法士の診察を受けるという考えに対して尻込みすることがある。しかしながら,個人精神療法および家族精神療法(しばしば認知行動療法を用いる)は,症状を持続させている思考や行動のパターンを患児や家族に認識させるのに役立つ可能性がある。精神療法士は 催眠法 催眠療法 心身医療の一種である催眠療法は,西洋の精神療法に由来する。患者は深い弛緩状態と集中状態に置かれ,行動変容を助けることで健康状態を改善する。患者は没頭し,完全に意識を失うことなく,周囲の状況や現在の自分の体験には比較的注意が向かなくなる。中には自己催眠が行えるようになる患者もいる。 ( 統合,補完,代替医療の概要も参照のこと。) 催眠療法は疼痛症候群,更年期症状,恐怖症や変換症の治療に用いられており,また禁煙および減量の管理で多少の効果が... さらに読む , バイオフィードバック バイオフィードバック 心身医療の一種であるバイオフィードバックでは,電子機器を用いて患者に生物学的な機能(例,心拍数,血圧,筋肉活動,皮膚温,皮膚抵抗,脳表面の電気的活動)に関する情報を提供し,患者にそれらの機能のコントロール法を頭の訓練を通して教育する。 ( 統合,補完,代替医療の概要も参照のこと。) 療法士の助けを借りて,または訓練により,患者はバイオフィードバックの情報を用いて生物学的な機能を修正したり,リラックスしたりすることができ,結果的に疼痛,ス... さらに読む , リラクゼーション療法 リラクゼーション法 心身医療の一種であるリラクゼーション法は,ストレスや緊張を緩和するために特別にデザインされたものである。この療法は特に,以下を目的としている: 交感神経系活動の抑制 血圧の降下 筋肉の緊張の弛緩 代謝速度の低下 さらに読む を使用することがある。
精神療法は,通常,患児を正常な日常生活に戻すことを目的としたリハビリテーションプログラムと組み合わせて行われる。これには理学療法が含まれる場合があり,以下のような便益がある:
身体症状症または関連症により引き起こされる可動性の低下や筋量減少などの実際の身体的影響を治療する。
患児が,あたかも具体的な施術がなされて治療されたかのように感じる。
患児が治療に積極的に参加できるようになる。
併存する精神障害(例,うつ病,不安)の治療のための薬剤が有用となる場合があるが,一次的な介入は精神療法である。
プライマリケア医(患者が受ける全てのケアを調整し,症状を緩和するケアを勧め,定期的に診察を行い,不必要な検査や処置から患者を保護する)との間で支持的な関係をもつことも患児にとって有益となる。
要点
患児は自分の健康,身体症状,または重篤な疾患に罹患しているもしくは罹患しつつあるという可能性を過度に心配する。
患児は複数の症状(例,協調運動障害または平衡障害,脱力,麻痺または感覚喪失,発作,失明,複視,難聴)を呈することもあれば,重度の症状(典型的には疼痛)を1つ呈することもある。
まず適切な診察および検査を行って症状の原因としての身体疾患を除外し,症状が著しく変化する場合または他覚徴候がみられる場合は,新たな身体疾患の有無を確認する。
治療では精神療法を行い,通常は患児を正常な日常生活に戻すことを目的としたリハビリテーションプログラムと組み合わせる。