レット症候群

執筆者:Stephen Brian Sulkes, MD, Golisano Children’s Hospital at Strong, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2020年 4月
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レット症候群はほぼ女児のみに起こる神経発達障害で,生後 6カ月まで正常な発達がみられた後に発達が障害される。診断は小児期早期の発育発達中の症状・徴候の臨床的観察,定期的な身体および神経学的評価の継続,X染色体(Xq28)上の遺伝子の変異に対する遺伝子検査に基づく。治療は症状の管理に重点を置いた集学的アプローチによる。

レット症候群は,世界中の全ての人種および民族で出生女児10,000~15,000例当たり1例に発生すると推定される。大半の症例はランダムな自然突然変異であり,登録例の1%未満が遺伝性で,世代間で受け継がれる。遺伝子異常は父親由来のX染色体にみられる場合が大半であるが,父親で顕在化することはほぼないことから,この遺伝子異常は精子形成の過程で発生するという仮説が提唱されている。レット症候群の典型的な臨床像を有する女児は,通常,出生前および分娩時に異常はなく,正期産で出生する。男児にみられることはまれである。

病因

通常,レット症候群はメチル化CpG結合タンパク質2(methyl CpG binding protein 2)(MECP2)遺伝子の変異によって発生する。MECP2遺伝子は,メチル化CpG結合タンパク質2(MeCP2)と呼ばれるタンパク質の産生に関与しており,このタンパク質は脳の発達に不可欠で,生化学的スイッチとして働き,遺伝子発現を増大させることもあれば,他の遺伝子に発現停止時期を伝えその遺伝子固有のタンパク質の産生を止めることもできる。MECP2遺伝子はレット症候群では正常に機能しない;構造的に異常なMeCP2タンパク質が産生されたり十分な量のMeCP2タンパク質が産生されなかったりして,結果他の遺伝子の発現に異常を来す。

レット症候群は必ずしもMECP2突然変異によって起こるわけではなく,部分的遺伝子欠失,非定型レット症候群で脳の発達を妨げる他の遺伝子(例,CDKL5およびFOXG1)の変異,MECP2遺伝子の他部位の変異のほか,まだ同定されていないおそらく他の遺伝子が原因で起こる可能性もある。

レット症候群の遺伝学的原因が同定されたことから,レット症候群はDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)による基準に基づいて自閉スペクトラム症(遺伝学的原因と一貫した関連性がみられないもの)から除外されている。

症状と徴候

レット症候群の経過,発症年齢,症状の重症度は症例によって異なる。

レット症候群の特徴は,早期の正常な発育・発達後,発達マイルストーンに遅延がみられ,手を揉んだり手を洗ったりする強迫的行動を伴って目的のある手の運動機能を失う退行が起こり,頭囲および脳の発育が遅延し,痙攣,歩行困難,および知的障害が起こることである。

レット症候群の症状の記述には4つの病期が用いられる:

  • 第1期(発症早期[early onset])通常,生後6カ月から18カ月の間に発達の軽微な遅延を伴って始まる。症状として,アイコンタクトの少なさ,おもちゃへの関心の低さ,座位または這い這いの獲得の遅延,頭囲の発育遅延,および手もみなどがある。

  • 第2期(発達退行または急速崩壊期[developmental regression or rapid destructive stage])通常,1歳から4歳の間に始まる。発症は急速または緩徐で,目的のある手の運動機能および音声言語の消失を伴う。この時期に,手をもむ,たたく,洗う,弾く,繰り返し手を口に入れるなどの特徴的な手の動作が始まる。手の動作は睡眠中はみられない。無呼吸および過換気の発作など,不規則な呼吸も生じることがある。歩行は不安定で,動作の開始が困難である。社会的交流の障害およびコミュニケーションの障害など自閉スペクトラム症の症状と類似の症状を有する女児もいる。

  • 第3期(偽安定期[pseudostationary stage])通常は2歳から10歳の間に始まり,数年間続くことがある。この時期には,痙攣,運動障害,および失行がよくみられる。この時期では,啼泣,易刺激性,および自閉症様症状がときに減少する。この時期では,覚醒,コミュニケーション技能,注意の持続,および周囲への関心が増加することがある。

  • 第4期(後期運動機能悪化期[late motor deterioration stage])数年ないし数十年続くことがある。よくみられる特徴は,脊柱側弯症,可動性の低下,筋力低下,痙縮,または硬直などである。ときに歩行不能になる。音声言語の消失につれ,コミュニケーション目的の凝視が顕著となり,反復的な手の動作は減少する。

脊柱側弯症がみられる場合もある。しばしば心臓の異常(QT延長など)を認める。患児の発育は緩徐で,体重の維持が困難な傾向がある。

診断

  • 臨床的評価

  • 遺伝子検査

レット症候群の診断は,小児期早期の発育・発達中の症状および徴候を観察し臨床的に行う。身体的および神経学的状態の継続的な評価が必要である。

臨床診断を補完するため,X染色体(Xq28)上のMECP2遺伝子の変異を調べる遺伝子検査が用いられる。

National Institute of Neurological Disorders and Stroke(NINDS)がレット症候群の臨床診断の確定に用いるガイドラインを提供している。このガイドラインでは,臨床診断基準を主要診断基準,支持的診断基準,および除外基準に分けている。

主要診断基準として,目的のある手の運動機能の完全なあるいは部分的な喪失,反復的な手の動作(ねじるまたは絞る,手を叩くまたはこするなど),音声言語機能の完全なあるいは部分的な喪失,および歩行異常(つま先歩き,または不安定で開脚性の強直性歩行)が挙げられている。

支持的診断基準は,レット症候群の診断には必要ではないが,一部の小児には生じるものである。支持的診断基準を満たすが主要診断基準のいずれも満たさない小児はレット症候群ではない。支持的診断基準として,脊柱側弯症,歯ぎしり,睡眠パターンの異常,身長に比し小さい手足,冷たい手足,筋緊張異常,目による強力なコミュニケーション,不適切な笑いや叫び,および痛覚への反応鈍麻が挙げられている。

除外診断の基準には,外傷性脳損傷など,同様の症状を引き起こす他の病態の存在,生後6カ月までに出現した精神運動発達の明らかな異常,および神経学的異常を引き起こす重傷感染症が含まれている。

予後

レット症候群はまれであるため,長期予後に関する情報はほとんど得られていないが,期待寿命は約40歳以上である。ときに,心臓または自律神経系の異常が原因でレット症候群患児には突然死が起こる可能性が高いが,包括的な集学的チームの支援により,通常成人期まで良好な状態で生存する。

治療

  • 症状の管理

  • 集学的チームによる支援

レット症候群の根治的な治療法はない。

レット症候群の至適な治療には,症状および徴候に対処する集学的アプローチがある。

摂食および着衣などの自助機能,移動制限,歩行困難,およびコミュニケーション障害に対処するため,作業療法,理学療法,およびコミュニケーション療法(言語療法士による)のプログラムを提供すべきである。

痙攣のコントロール,呼吸障害または運動障害に薬剤が必要なことがある。

脊柱側弯症の進行および心臓の異常をモニタリングするために定期的な再評価が必要である。

患児の体重維持を補助する栄養サポートが必要なこともある。特殊教育プログラムと社会的および支援サービスが必要である。

より詳細な情報

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