胎便吸引症候群

執筆者:Arcangela Lattari Balest, MD, University of Pittsburgh, School of Medicine
レビュー/改訂 2019年 10月
意見 同じトピックページ はこちら

分娩時の胎便吸引は,呼吸窮迫症候群を生じさせる化学性肺炎(inflammatory pneumonitis)および気管支の機械的閉塞を引き起こすことがある。所見としては頻呼吸,ラ音および類鼾音,チアノーゼまたは酸素飽和度低下などがある。分娩時に羊水に胎便が含まれており,その後に呼吸窮迫症状がみられる場合に本疾患が疑われ,胸部X線により診断確定となる。呼吸窮迫のある乳児は多くの場合,挿管され,持機械的人工換気下に置かれる。重症の乳児にサーファクタントを投与すると,体外式膜型人工肺の必要性は低下するが,死亡率は変わらない(1, 2)。予後は根底にある生理的ストレス因子に左右される。

周産期の呼吸器疾患の概要も参照のこと。)

出生の過程には広範な生理的変化を伴うため,ときに子宮内での生活中には問題とはならなかった状態が明らかになる場合がある。そのため,全ての出産に新生児蘇生の技能を有する人物の立ち会いが必要である。在胎期間成長パラメータは,新生児の病態のリスクを同定するのに役立つ。

病因

陣痛および分娩時の生理的ストレス(例,臍帯圧迫または胎盤機能不全が原因で起こる,もしくは感染による低酸素症および/またはアシドーシスに起因する)のために,胎児が分娩前に胎便を羊水中に排泄することがある。胎便の排泄は,出産前,特に正期産または過期産児では正常な場合もある;胎便の排泄は出生児の約10~15%でみられる。しかし,早産児の分娩時に胎便が認められることは決して正常ではない。胎便を排泄した新生児のおそらく5%が,分娩中にその胎便を吸引し,肺損傷および呼吸窮迫を来し,これを胎便吸引症候群と呼ぶ。胎便によって引き起こされる肺炎は,このような児における分娩後の呼吸障害の一因となるが,出生前および出生後のアシドーシスおよび/または低酸素症によって引き起こされる遷延性肺高血圧症(PPH)は,同等に,またはそれ以上に問題となる。

病態生理

吸引が本症候群を引き起こす機序にはおそらく以下が含まれる:

  • 非特異的なサイトカイン放出

  • 気道閉塞

  • サーファクタントの産生減少およびサーファクタントの不活化

  • 化学性肺炎

根底にある生理的ストレス因子も寄与しうる。気管支が完全に閉塞すると無気肺が生じ,部分的な閉塞では呼気時のエアトラッピングによって,肺の過膨張および,おそらく縦隔気腫または気胸を伴う肺エアリークが起こる。サーファクタントの産生減少およびサーファクタントの不活化によって引き起こされる肺コンプライアンス低下のため,エアリークのリスクがさらに高まる。PPHは,併発症として胎便吸引を伴うことや,低酸素症が持続するために胎便吸引を伴うことがある。

新生児は分娩中に胎脂,羊水,または母体や胎児自身の血液を吸引することもあるが,それにより呼吸窮迫症状を来し,また胸部X線上で誤嚥性肺炎の徴候を呈することがある。

症状と徴候

胎便吸引症候群の徴候には頻呼吸,鼻翼呼吸,陥没呼吸,チアノーゼまたは酸素飽和度低下,ラ音,類鼾音,および臍帯,爪床,皮膚が黄緑色に染まることなどがある。中咽頭内ならびに喉頭および気管内(挿管時)に,胎便による染色が認められることがある。エアトラッピングのある新生児は樽状胸を呈することがあり,また,気胸間質性肺気腫,および縦隔気腫の症候を呈することもある。

診断

  • 胎便排泄

  • 呼吸窮迫

  • 特徴的なX線所見

羊水に胎便が含まれる状況で新生児に呼吸窮迫がみられる場合に,胎便吸引症候群を疑う。

様々な領域の無気肺や横隔膜平坦化を伴い過膨張を示す胸部X線により,診断が確定される。初期のX線所見は,新生児一過性多呼吸(TTN)の所見と混同される可能性があるが,胎便吸引症候群の乳児をTTNの乳児からしばしば鑑別できる所見として,PPHを併発した著明な低酸素血症がある。葉間裂内または胸腔内に液体貯留を認めることがあり,また,軟部組織内または縦隔内に空気がみられることがある。

胎便は細菌増殖を促進し胎便吸引症候群は細菌性肺炎との鑑別が困難であることから,血液の培養も行うべきである。

予後

根底の生理的ストレス因子に左右されるものの,予後は総じて良好である;全死亡率は高い。胎便吸引症候群の乳児は,後年の喘息発症リスクが増大する。

治療

  • 気管挿管および必要に応じて機械的人工換気

  • PPHの症例では,肺血管系を弛緩させるためPaO2を高値に維持するのに必要な酸素投与

  • サーファクタント

  • 抗菌薬の静脈内投与

  • PPHの重症例では一酸化窒素吸入

  • 上記の治療に反応しない場合は,体外式膜型人工肺(ECMO)

分娩時に胎便による羊水混濁を認めた新生児へのルーチンの深部からの吸引(挿管による声帯より下からの吸引)が転帰を改善させるとは示されていない。しかし,新生児の呼吸が妨げられているようであれば,胎便吸引器に接続した気管内チューブで吸引を行う。呼吸窮迫には挿管または経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)が適応となり,その後は,必要に応じて機械的人工換気および新生児集中治療室での管理を行う。陽圧換気は肺エアリーク症候群のリスクを高めるため,この合併症を発見するために定期的な評価(身体診察および胸部X線など)が重要であり,挿管された新生児の血圧,灌流,または酸素飽和度が突然悪化する場合には,肺エアリークの有無を直ちに調べるべきである。肺エアリーク症候群の治療については See page 肺エアリーク症候群を参照のこと。

人工呼吸器下に高流量の酸素を必要とする新生児には,サーファクタントを検討すべきである;ただし,これによりECMOの必要性は低下するものの(1, 2),死亡率が低下するわけではない。

ときに抗菌薬(通常,アンピシリンおよびアミノグリコシド系―新生児の重篤な細菌性感染症の標準的治療に使用されるものなど)が投与される。ただし,胎便吸引症候群の乳児に抗菌薬を投与しても,死亡率,敗血症の発生率,入院期間,または呼吸補助が必要な期間は有意に減少しないことが研究からわかっている(2)。

20ppmまでの一酸化窒素吸入および高頻度換気(機械的人工換気を参照)は,難治性の低酸素血症が発生した場合に使用される治療法であり,ECMOの必要性を低下させる可能性もある。

治療に関する参考文献

  1. 1.El Shahed AI, Dargaville PA, Ohlsson A, Soll R: Surfactant for meconium aspiration syndrome in term and late preterm infants.Cochrane Database Syst Rev 12(CD002054):1–36, 2014.doi: 10.1002/14651858.CD002054.pub3.

  2. 2.Natarajan CK, Sankar MJ, Jain K, et al: Surfactant therapy and antibiotics in neonates with meconium aspiration syndrome: A systematic review and meta-analysis.J Perinatol 36(Suppl 1):S49–S54, 2016.doi: 10.1038/jp.2016.32.

要点

  • 胎便を排泄した新生児の約5%がその胎便を吸引し,肺損傷および呼吸窮迫を来すか,出生前および出生後の生理状態として遷延性肺高血圧症(胎便吸引症候群に合併することがある)になりやすくなる。

  • 新生児には頻呼吸,鼻翼呼吸,陥没呼吸,チアノーゼまたは酸素飽和度低下,ラ音,類鼾音,および胎便による中咽頭の着色などが認められる。

  • 羊水に胎便が含まれる状況で新生児に呼吸窮迫が起こった場合に,胎便吸引症候群を疑う。

  • 胸部X線検査および血液培養を行い,肺炎と細菌性敗血症を除外する。

  • 分娩後,乳児に呼吸閉塞の徴候を認める場合は,胎便吸引器に接続した気管内チューブで吸引を行う。

  • 重症例では,機械的人工換気を要し,ときに抗菌薬,一酸化窒素吸入,または体外式膜型人工肺(ECMO)が必要となる。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS