RSウイルス(RSV)感染症およびヒトメタニューモウイルス感染症

執筆者:Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2019年 8月
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RSウイルス感染症とヒトメタニューモウイルス感染症は,特に乳児および幼児において,季節性の下気道疾患を引き起こす。無症候性ないし軽症で済むこともあれば,細気管支炎や肺炎を伴った重症となることもある。診断は臨床的に行うのが通常であるが,臨床検査による診断も可能である。治療は支持療法による。

ヒトに感染するウイルスの大半は成人と小児の両方に感染するが,それらについては本マニュアルの別の箇所で考察されている。新生児に特異的な影響を及ぼすウイルスについては,新生児における感染症で考察されている。本章は,一般的に小児期に発症するウイルス感染症(多くは成人にも発生しうる)を対象としている。

RSウイルス(RSV)は,ニューモウイルス属に分類されるRNAウイルスである。サブグループAおよびBが同定されている。RSVは普遍的に存在し,ほぼ全ての小児が4歳までに感染する。温帯地方では毎年,冬季または早春にアウトブレイクが発生している。RSVに対する免疫応答は再感染の予防につながらないため,曝露した全ての人々の40%が発症する。それでも,RSVに対する抗体は疾患の重症度を低下させる。RSVは乳児期早期に生じる下気道疾患で最も頻度の高い原因であり,米国では5歳未満の小児において毎年50,000件以上の入院の原因となっている。

ヒトメタニューモウイルス(hMPV)は類似しているが異なるウイルスである。hMPVの季節的な疫学的性質はRSVのそれと同様のようであるが,感染および疾患の発生率はかなり低いとみられている。

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症状と徴候

RSVとhMPVは類似した症状を引き起こす。最も認識しやすい臨床症候群は細気管支炎肺炎である。これらの疾患は典型的には上気道症状と発熱で始まった後,数日かけて呼吸困難,咳嗽,喘鳴,胸部聴診上の断続性ラ音へと進行する。生後6カ月未満の乳児では無呼吸がRSVの初期症状となりうる。健康な成人および児童では,通常は軽症に経過し,不顕性のこともあれば,発熱を欠く感冒症状のみを呈することもある。しかしながら,以下の患者では重度の疾患が発生することがある:

  • 生後6カ月未満,高齢,または易感染性患者

  • 基礎疾患として心肺疾患を有する患者

診断

  • 臨床的評価

  • ときに,迅速抗原検査,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法,またはウイルス培養(いずれも鼻腔洗浄液または鼻腔拭い液)

RSVの流行季節に細気管支炎または肺炎を起こした乳児および幼児では,RSV(およびおそらくhMPV)感染が疑われる。抗ウイルス治療は典型例では推奨されないため,患者管理を目的とした特異的な臨床検査診断は不要である。しかしながら,臨床検査による診断を行えば,同じウイルスに感染した小児を隔離することが可能になるため,院内感染の制御が用意に可能性がある。小児ではRSVおよび他の呼吸器系ウイルスを高感度に検出する迅速抗原検査が利用でき,検体には鼻腔洗浄液または拭い液が使用される。これらの検査は成人では感度が低くなる。RT-PCRなどの分子生物学的な診断法は,感度が高く,一般に単一または複数ウイルスを対象とした測定法が利用できる。

治療

  • 支持療法

RSVおよびhMPV感染症の治療は支持療法であり,必要に応じて酸素および水分補給を行う(細気管支炎の治療を参照)。

コルチコステロイドおよび気管支拡張薬は一般にあまり助けにならず,現在では推奨されていない。

抗菌薬については,発熱があり,胸部X線上で肺炎所見が認められ,かつ臨床的に細菌の同時感染が疑われる患者のみに使用される。

パリビズマブ(抗RSVモノクローナル抗体)は治療には効果的でない。

吸入薬のリバビリンは,抗RSV活性を有する抗ウイルス薬であるが,その効力は不十分であり,医療従事者に毒性を示す可能性があるため,重度の易感染性患者での感染例を除いて,もはや推奨されていない。成人および乳児患者を対象に,ウイルスの融合,侵入,複製を標的とする多数の薬剤が現在開発中であり,臨床試験が実施されている(1)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Heylen E, Neyts J, Jochmans D: Drug candidates and model systems in respiratory syncytial virus antiviral drug discovery.Biochem Pharmacol 127:1–12, 2017.doi: 10.1016/j.bcp.2016.09.014.

予防

接触感染予防策(例,手洗い,手袋,隔離)が重要である(特に病院内)。

パリビズマブによる受動免疫は,高リスク乳児におけるRSV感染症による入院頻度を低下させる。その費用対効果は,以下を含む入院リスクの高い乳児でのみ高くなる:

  • 血行動態に有意な影響を及ぼす先天性心疾患を有する1歳未満の乳児

  • 未熟性による慢性肺疾患(在胎32週0日未満相当の時点で出生後28日間以上にわたり酸素療法を必要としている場合)を有する1歳未満の乳児

  • 在胎29週未満で出生し,RSV流行期の開始時点で1歳未満の乳児

  • 1歳で未熟性による慢性肺疾患を有し,かつRSV流行期の6カ月間に治療(コルチコステロイドもしくは利尿薬の長期投与または酸素療法の継続的な必要性)を受けたことがある乳児

以下の場合には予防を考慮してもよい:

  • 上気道からの効果的な排出能を障害する肺の解剖学的異常を有する生後1年までの乳児

  • 神経筋疾患を有する乳児

  • 著明な易感染状態にある生後24カ月未満の小児

パリビズマブの用量は15mg/kg,筋注である。初回の投与はRSVの一般的な流行季節の直前(北米では11月初旬)に行う。その後はRSVの流行季節の間,1カ月間隔で投与する(通常は合計5回となる)。(RSVによる入院リスクが高い乳幼児におけるパリビズマブの予防投与については,米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)の最新のポリシーステートメントも参照のこと。)

母親,小児,および成人を対象とするいくつかのRSVワクチンが臨床開発の段階にある(1)。(PATHのVaccine Resource Libraryも参照のこと。)

予防に関する参考文献

  1. 1.Rezaee F, Linfield DT, Harford TJ, Piedimonte G: Ongoing developments in RSV prophylaxis: A clinician's analysis.Curr Opin Virol 24:70–78, 2017.doi: 10.1016/j.coviro.2017.03.015.

要点

  • RSウイルス(RSV)とヒトメタニューモウイルスは,通常は細気管支炎の症候群を引き起こすが,肺炎が起きる場合もある。

  • 診断は臨床的に行うのが通常であるが,迅速抗原検査や分子生物学的測定法(例,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法)などの検査が利用できる。

  • 支持療法を行う;コルチコステロイド,気管支拡張薬,およびパリビズマブは推奨されない。

  • リバビリンの吸入剤は,RSVに有用となる可能性があるが,それは重度の易感染性患者のみである。

  • RSV流行期直前および流行期中のパリビズマブによる受動免疫は,特定の高リスク乳児における入院頻度を減少させる。

より詳細な情報

  1. RSVによる入院リスクが高い乳幼児へのパリビズマブの予防投与に関する米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)による最新のポリシーステートメント

  2. PATHのVaccine Resource Library

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