腟前壁脱および腟後壁脱

(膀胱瘤,尿道瘤,小腸瘤,および直腸瘤)

執筆者:Kilpatrick, MD, MEd, Baylor College of Medicine
レビュー/改訂 2021年 1月
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腟前壁脱および腟後壁脱では,臓器が腟管へ突出する。腟前壁脱は一般的に,膀胱瘤または尿道瘤(膀胱または尿道が突出する場合)と呼ばれる。腟後壁脱は一般的に,小腸瘤(小腸と腹膜が突出する場合)および直腸瘤(直腸が突出する場合)と呼ばれる。症状は骨盤内または腟の充満感や圧迫感などである。診断は臨床的に行う。治療法としては,経過観察による保存的管理,ペッサリー,骨盤底筋体操,およびときに手術などがある。

膀胱瘤,尿道瘤,小腸瘤,および直腸瘤は,特に同時に起こる可能性が高い。尿道瘤は実質的に常に膀胱瘤を伴う(膀胱尿道瘤)。

膀胱瘤および膀胱尿道瘤は,一般的に恥骨頸部の膀胱筋膜が脆弱化した場合に発生する。小腸瘤は通常子宮摘出術後に発生する。恥骨頸部筋膜および直腸腟筋膜が脆弱化することで,腹膜と小腸を含む腟断端が下垂する。直腸瘤は肛門挙筋の損傷により生じる。

腟壁脱の危険因子としては以下のものがある:

  • 年齢

  • 肥満

  • 経腟分娩

腟壁脱の重症度は,脱出の程度に基づいたBaden-Walker法により以下のように分類できる:

  • Grade 0:脱出なし

  • Grade 1:処女膜までの長さの中程まで脱出

  • Grade 2:処女膜まで脱出

  • Grade 3:処女膜を超えて中程まで脱出

  • Grade 4:最大限の脱出

Baden-Walker法がときに用いられているが,再現性のない古い分類法であるため,専門家団体はPelvic Organ Prolapse-Quantification(POP-Q)法を推奨している。POP-Q法はより信頼性と再現性が高い分類法であり,あらかじめ定義された解剖学的ランドマークに基づいている:

  • Stage 0:脱出なし

  • Stage I:最も遠位の脱出部位が処女膜から1cmを超える上方にある

  • Stage II:最も遠位の脱出部位が処女膜から1cm上方と1cm下方の間にある

  • Stage III:最も遠位の脱出部位が処女膜から1cmを超える下方にあるが,全腟長より2cm短い

  • Stage IV:完全な外反

症状と徴候

骨盤内または腟内の充満感,圧迫感,および臓器が落ちる感覚が一般的にみられる。臓器が腟内または腟口まで突出することがあり,特にいきんだり咳をしたりするときに起こりやすい。性交痛が起こりうる。

軽症例では,高齢になるまで症状が現れないこともある。

骨盤臓器脱には腹圧性尿失禁を伴うことがある。

小腸瘤は腰痛を引き起こすことがある。直腸瘤では便秘や残便が起こることがあり,排便するのに腟後壁を用手的に圧迫しなければならないこともある。

診断

  • 患者がいきんだ状態で腟前壁または腟後壁を診察する。

腟壁脱の診断は診察により確定される。

膀胱瘤または膀胱尿道瘤は,患者に砕石位をとらせ,腟後壁に対し単一弁の腟鏡を当てることにより検出される。患者をいきませることで,腟前壁内へ突出する軟らかい還納可能な腫瘤として,膀胱瘤や膀胱尿道瘤を視診または触診できるようになる。

小腸瘤および直腸瘤は,患者に砕石位をとらせ,腟前壁を圧排することにより検出される。腟直腸診時に患者をいきませることで,小腸瘤および直腸瘤を視診および触診できるようになる。患者が片膝を上げた状態(例,丸椅子の上)で立ち,いきんだ状態でも診察する;ときにこの姿勢での腟直腸診の間にのみ異常が検出できることがある。

尿失禁(もしあれば)についても評価する。

治療

  • 経過観察およびときにペッサリー,骨盤底筋体操(例,ケーゲル体操)

  • 必要であれば,支持組織の外科的修復

腟壁脱の治療は患者の症状に基づいて個別に調整し,生活の質の向上を目的とする。管理は経過観察から開始する。対症療法は,ペッサリー,骨盤底筋体操,および重症例に対する外科的修復から成る。

ペッサリー

ペッサリーは,脱出した臓器の整復を維持するために腟に挿入する装具である。ペッサリーには様々な形や大きさのものがあり,可膨張式のものもある。サイズが適切でない場合や,定期的に(最低でも月1回,可能であればより頻繁に)洗浄しない場合,腟潰瘍の原因となることがある。ペッサリーのサイズは医療従事者が選択することもできるが,国によっては,店頭でペッサリーを購入できる場合もある。

骨盤底筋体操

骨盤底筋体操(ケーゲル体操を含む)が推奨されることがある。ケーゲル体操には恥骨尾骨筋の等容性収縮を伴う。この筋肉を1~2秒ほど強く収縮させた後,約10秒間弛緩させる。徐々に収縮させる時間を長くしていき,1回10秒ほどにする。この運動を連続で10回ほど繰り返す。この体操を1日に数回行うことが推奨されている。

以下の方法により体操が容易になる可能性がある:

  • 重さのある腟内コーンの使用(患者が正しい筋肉を収縮させることに集中するのを助ける)

  • バイオフィードバック器具

  • 電気刺激(筋肉を収縮させる)

骨盤底筋体操は脱出(および腹圧性尿失禁)の不快な症状を緩和しうるが,脱出の重症度を下げることはないようである。

外科的修復

外科的修復は症状が重度の場合や非手術的治療で改善しない場合に有効となりうる。用いられる外科的アプローチは,脱出の種類,臨床状況,ならびに患者の年齢および併存症により異なる。手術では以下の手技のうち1つ(または組合せ)が行われる:

  • 腟前壁または腟後壁縫合(腟の修復)

  • 腟断端の牽引または修復

  • 腟閉鎖術(子宮摘出後または子宮がある状態で腟を閉鎖する[Le Fort法])

会陰形成術(会陰を外科的に縫縮する)は従来より行われているが,骨盤臓器脱の改善には役立たない。

腟の外科的修復は,その後の経腟分娩で修復部が破綻することがあるため,可能であれば,通常は挙児希望がなくなるまで延期する。手術後,患者は少なくとも6週間は重い物を持ち上げることを避けるべきである。

膀胱瘤また膀胱尿道瘤の修復手術後,最長24時間まで尿道カテーテルを使用することがある。

要点

  • 尿道瘤は実質的に常に膀胱瘤を伴い,膀胱瘤,尿道瘤,小腸瘤,直腸瘤は併発する可能性が高い。

  • 臓器腟脱の危険因子は,年齢,肥満,および経腟分娩である。

  • 膀胱瘤または膀胱尿道瘤の検出には,患者を砕石位とし,いきむように伝えて,単一弁の腟鏡を後腟壁に対して当てる。

  • 小腸瘤および直腸瘤の検出には,患者を砕石位として腟前壁を圧排し,腟直腸診中はいきむように伝える。

  • ペッサリーおよび/または骨盤底筋体操を薦めるが,それらが無効であれば外科的修復を考慮する。

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