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妊娠悪阻

執筆者:

Antonette T. Dulay

, MD, Main Line Health System

レビュー/改訂 2020年 10月
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妊娠悪阻は,妊娠中における制御不能の嘔吐であり,脱水,体重減少,およびケトーシスを招く。診断は尿中ケトン体,血清電解質,および腎機能の測定により臨床的に行われる。治療は一時的な経口摂取の中止および輸液,必要であれば制吐薬,およびビタミンと電解質の補充による。

妊娠は頻繁に悪心および嘔吐を引き起こす;原因は,エストロゲンまたはヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット(β-hCG)値の急激な上昇であると考えられる。嘔吐は通常妊娠5週頃に発生し,9週頃にピークを迎え,16~18週に消失する。通常は朝に起こるが(早朝嘔吐[つわり]と呼ばれるように),1日のうちいつでも起こりうる。つわりを有する女性では体重は増え続け,脱水状態となることはない。

妊娠悪阻はおそらく妊娠中の正常な悪心および嘔吐の極端な型である。妊娠悪阻は以下をもたらすため鑑別できる:

  • 体重減少(体重の > 5%)

  • 脱水

  • ケトーシス

  • 電解質異常(多くの女性において)

脱水が進行するにつれて,頻脈および低血圧を引き起こすことがある。

診断

  • 臨床的評価(ときに連続的な体重測定を含む)

  • 尿中ケトン体

  • 血清電解質および腎機能検査

  • 他の原因の除外(例,急性腹症)

医師は,症状(例,嘔吐の発症,期間,および頻度;増悪因子と緩和因子;吐物の性状と量)に基づいて妊娠悪阻を疑う。連続的な体重測定が診断の裏付けとなりうる。

妊娠悪阻が疑われる場合,尿中ケトン体,甲状腺刺激ホルモン,血清電解質,血中尿素窒素(BUN),クレアチニン,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),マグネシウム,リン,およびときに体重を測定する。産科的超音波検査を行い, 胞状奇胎 妊娠性絨毛性疾患 妊娠性絨毛性疾患は,妊婦または最近まで妊娠していた女性におけるトロホブラストの増殖である。症状として,特に妊娠早期に,過度の子宮腫大,嘔吐,性器出血,および妊娠高血圧腎症が現れうる。診断には,ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニットの測定,骨盤内超音波検査を含み,生検による確定を行う。腫瘍は吸引掻爬により除去する。疾患が除去後も継続する場合には,化学療法の適応となる。 妊娠性絨毛性疾患は,胚盤胞を取り囲み絨毛膜および羊膜へと発達する細胞で... さらに読む 妊娠性絨毛性疾患 および 多胎妊娠 多胎妊娠 多胎妊娠では子宮内に胎児が複数存在する。 多胎児(多胎)妊娠は,最大で分娩30件当たり1件発生する。 多胎妊娠の危険因子としては以下のものがある: 排卵誘発(通常クロミフェンまたはゴナドトロピンによる) 生殖補助医療(例,体外受精) さらに読む の可能性を除外すべきである。

鑑別診断

嘔吐の原因となる他の疾患を除外する必要があり,具体的には 胃腸炎 胃腸炎 胃腸炎は,胃,小腸,および大腸の粘膜組織に炎症が生じる病態である。大半の症例が感染性胃腸炎であるが,薬剤や化学的毒性物質(例,金属,植物性物質)の摂取後に発生する場合もある。感染は食品,水,またはヒトからヒトの経路を介して成立する。米国では,毎年6人に1人が食中毒にかかると推定されている。症状としては食欲不振,悪心,嘔吐,下痢,腹部不快感... さらに読む 肝炎 急性ウイルス性肝炎の概要 急性ウイルス性肝炎は,多様な伝播様式と疫学的性質を有する一群の肝親和性ウイルスによって引き起こされる,肝臓のびまん性炎症である。ウイルス感染による非特異的な前駆症状に続いて,食欲不振,悪心,しばしば発熱または右上腹部痛がみられる。黄疸がしばしばがみられ,典型的には他の症状が消失し始める頃に発生する。ほとんどの症例で自然消失するが,慢性肝炎に進行する場合もある。ときに,急性ウイルス性肝炎から急性肝不全に進行する(劇症肝炎を示唆する)。診断... さらに読む 虫垂炎 虫垂炎 虫垂炎は虫垂の急性炎症で,典型的には腹痛,食欲不振,および腹部圧痛を引き起こす。診断は臨床的に行い,しばしばCTまたは超音波検査で補完する。治療は虫垂の外科的切除である。 ( 急性腹痛も参照のこと。) 米国では,急性虫垂炎は外科手術を要する急性腹痛の最も頻度の高い原因である。一般集団の5%以上がいずれかの時点で虫垂炎を発症する。10~20歳代に最も多く発症するが,あらゆる年齢層で起こりうる。... さらに読む 虫垂炎 胆嚢炎 急性胆嚢炎 急性胆嚢炎は,数時間で発生する胆嚢の炎症であり,通常は胆石が胆嚢管を閉塞することで生じる。症状としては右上腹部の疼痛および圧痛などがあり,ときに発熱,悪寒,悪心,および嘔吐を伴う。腹部超音波検査により胆石のほか,それに付随する炎症がときに検出される。治療は通常,抗菌薬と胆嚢摘出術である。 ( 胆道機能の概要も参照のこと。) 急性胆嚢炎は 胆石症の最も頻度の高い合併症である。実際,急性胆嚢炎患者の95%以上に胆石症がみられる。胆嚢管に結石... さらに読む ,他の胆道疾患, 消化性潰瘍 消化性潰瘍 消化性潰瘍は,消化管粘膜の一部,典型的には胃(胃潰瘍)または十二指腸の最初の数cmの部分(十二指腸潰瘍)に生じるびらんで,粘膜筋板を貫通する。ほぼ全ての潰瘍が Helicobacter pylori感染症または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用に起因する。典型的な症状として心窩部の灼熱痛があり,しばしば食事により軽減する。診断は内視鏡検査とHelicobacter... さらに読む 消化性潰瘍 腸閉塞 腸閉塞 腸閉塞は,腸の閉塞を引き起こす病態によって,腸内容の腸管内通過の有意な機械的障害または完全停止が引き起こされた状態である。症状としては痙攣痛,嘔吐,重度で持続性の便秘,放屁の消失などがある。診断は臨床的に行い,腹部X線検査により確定する。治療は,輸液蘇生および経鼻胃管吸引により行い,完全閉塞のほとんどの症例で手術を施行する。 ( 急性腹痛も参照のこと。) 機械的閉塞は,小腸閉塞(十二指腸を含む)と大腸閉塞に分類される。閉塞は,部分または... さらに読む 腸閉塞 ,妊娠悪阻によるものでない 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は,代謝亢進および血清遊離甲状腺ホルモンの上昇を特徴とする。症状は多数あり,頻脈,疲労,体重減少,神経過敏,振戦などを呈する。診断は臨床的に行い,甲状腺機能検査を用いる。治療は原因により異なる。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能亢進症は,甲状腺放射性ヨード摂取率および血中の甲状腺刺激物質の有無に基づいて分類できる( 様々な病態における甲状腺機能検査の結果の表を参照)。... さらに読む 甲状腺機能亢進症 (例,バセドウ病によるもの), 妊娠性絨毛性疾患 妊娠性絨毛性疾患 妊娠性絨毛性疾患は,妊婦または最近まで妊娠していた女性におけるトロホブラストの増殖である。症状として,特に妊娠早期に,過度の子宮腫大,嘔吐,性器出血,および妊娠高血圧腎症が現れうる。診断には,ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニットの測定,骨盤内超音波検査を含み,生検による確定を行う。腫瘍は吸引掻爬により除去する。疾患が除去後も継続する場合には,化学療法の適応となる。 妊娠性絨毛性疾患は,胚盤胞を取り囲み絨毛膜および羊膜へと発達する細胞で... さらに読む 妊娠性絨毛性疾患 ,腎結石症, 腎盂腎炎 急性腎盂腎炎 細菌性尿路感染症(UTI)は,尿道,前立腺,膀胱,または腎臓で発生する。症状は認められない場合もあれば,頻尿,尿意切迫,排尿困難,下腹部痛,および側腹部痛がみられる場合もある。腎臓の感染では,全身症状や敗血症が発生する場合もある。診断は尿の分析および培養に基づく。治療は抗菌薬投与と尿路カテーテルの抜去および閉塞の解除による。 ( 尿路感染症に関する序論; グラム陰性桿菌; 前立腺炎;および... さらに読む 糖尿病性ケトアシドーシス 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA) 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は糖尿病の急性代謝性合併症で,高血糖,高ケトン血症,および代謝性アシドーシスを特徴とする。高血糖は浸透圧利尿を引き起こし,体液と電解質の有意な減少をもたらす。DKAは主に1型糖尿病で生じる。悪心,嘔吐,および腹痛を引き起こし,脳浮腫,昏睡,および死亡に進展する恐れがある。DKAの診断は,高血糖の存在下で高ケトン血症およびアニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスを検出することによる。治療は循環血液量の... さらに読む または胃不全麻痺, 良性頭蓋内圧亢進症 特発性頭蓋内圧亢進症 特発性頭蓋内圧亢進症は腫瘤性病変も水頭症も伴わない頭蓋内圧亢進であり,おそらく静脈還流の閉塞による;髄液の性状は正常である。 ( 頭痛患者へのアプローチも参照のこと。) 特発性頭蓋内圧亢進症は,典型的には妊娠可能年齢の女性にみられる。発生率は正常体重の女性で1/100,000であるが,肥満女性では20/100,000である。頭蓋内圧の亢進(>250mmH2O)がみられ,その原因は不明であるが,おそらくは脳静脈流出路の閉塞(静脈洞が正常よ... さらに読む 片頭痛 片頭痛 片頭痛は発作性の一次性頭痛である。症状は典型的には4~72時間持続し,重症例もありうる。疼痛はしばしば一側性,拍動性で,労作により増悪し,悪心,光,音,または匂いに対する過敏などの症状を伴う。前兆は約25%の患者に起こり,通常頭痛の直前に生じるが,ときに頭痛の後にも同様の症状が起こる。診断は臨床的に行う。治療はトリプタン系薬剤,ジヒドロエルゴタミン,制吐薬,および鎮痛薬による。予防的措置としては,生活習慣の改善指導(例,睡眠習慣や食生活... さらに読む などが挙げられる。

悪心および嘔吐に加え著明な症状がみられる場合は,しばしば他の原因が示唆される。

他の診断に対する検査を,臨床検査所見,臨床所見,または超音波検査所見に基づき行う。

治療

  • 経口摂取の一時的な中止,その後徐々に再開

  • 必要に応じて輸液,チアミン,マルチビタミン,および電解質

  • 必要であれば制吐薬

最初は,患者には経口的に何も与えない。初期治療は急速輸液で,2Lの乳酸リンゲル液を3時間かけて尿量 > 100mL/時を保つように投与する。ブドウ糖を投与する場合,ウェルニッケ脳症を防ぐために,チアミン100mgを最初に静脈内投与すべきである。この用量のチアミンを3日間にわたり連日投与すべきである。

輸液をさらに続ける必要性は患者の反応により異なるが,3日間まで4時間毎に1L程度必要になることがある。

電解質の欠乏を治療する;カリウム,マグネシウム,およびリンを必要に応じて補充する。急速な補正により浸透圧性脱髄症候群を起こすことがあるため,低い血漿ナトリウム濃度をあまりにも急速に補正しないよう注意が必要である。

初回輸液および電解質補正後も嘔吐が持続する場合は必要に応じて制吐薬で治療する;制吐薬としては以下のものがある:

  • ビタミンB6,10~25mg,経口,8時間毎または6時間毎

  • ドキシラミン(doxylamine)12.5mg,経口,8時間毎または6時間毎(ビタミンB6に追加して投与可能)

  • プロメタジン12.5~25mg,経口,筋注,または直腸内投与,4時間~8時間毎

  • メトクロプラミド5~10mg,静注または経口,8時間毎

  • オンダンセトロン8mg,経口または筋注,12時間毎

  • プロクロルペラジン5~10mg,経口または筋注,3~4時間毎

脱水および急性嘔吐が治まった後,少量の経口補液を投与する。経静脈的補液や制吐薬を投与しても経口補液に耐えられない患者は,入院するか在宅での静注療法を受け,長期間(ときとして数日またはそれ以上)経口摂取しない必要があることがある。患者が一旦経口液を受けつけるようになれば,少量で薄味の食事の摂取も可能で,摂取できる程度に合わせて食事の幅を拡げていく。ビタミン静注療法は,初期から,ビタミンが経口摂取できるようになるまで必要である。

治療が無効に終わった場合はコルチコステロイドを試すこともでき,例えば,メチルプレドニゾロンを16mg,8時間毎,経口または静注で3日間投与した後,2週間かけて最小有効量まで減量する。コルチコステロイドは6週間未満のみ,極めて慎重に用いるべきである。胎児器官形成期(受精後20~56日の間)には使うべきではない;第1トリメスター中のこれら薬剤の使用には顔面裂との弱い関連性がみられる。悪心へのコルチコステロイドの効果の機序は不明である。極端な症例では,完全静脈栄養(TPN)が行われているが,この方法は一般に推奨されない。

治療を行っても進行性の体重減少,黄疸,または持続性の頻脈がみられる場合は,人工妊娠中絶を勧めることができる。

要点

  • 妊娠悪阻はつわりと異なり,体重減少,ケトーシス,脱水およびときに電解質異常を来しうる。

  • 症状に基づき嘔吐を起こす他の疾患を除外する。

  • 血清電解質,尿中ケトン体,BUN,クレアチニン,および体重を測定し重症度を判断する。

  • 初めに経口摂取を中止し,輸液および栄養素を静注し,徐々に経口摂取を再開させ,必要に応じて制吐薬を投与する。

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