性器骨盤痛・挿入障害

執筆者:Allison Conn, MD, Baylor College of Medicine, Texas Children's Pavilion for Women;
Kelly R. Hodges, MD, Baylor College of Medicine, Texas Children's Pavilion for Women
レビュー/改訂 2021年 3月
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性器骨盤痛・挿入障害では,腟への挿入が試みられたときまたは完了したときの骨盤底筋の不随意収縮(肛門挙筋症候群,または腟痙),深部への挿入時に生じる痛み(性交痛)または腟前庭に限局する痛み(誘発性腟前庭痛),挿入の試みに対する不安,または性交困難などがみられる。

女性の性機能および性機能障害の概要も参照のこと。)

性器骨盤痛・挿入障害のある女性では,一般的に興奮障害,オルガズム障害,またはその両方がみられる。

病因

性器骨盤痛・挿入障害の原因には,身体的因子および心理的因子が関与している可能性がある。

外陰部の表在性の痛みは,誘発性腟前庭痛,閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause),皮膚疾患(例,硬化性苔癬,外陰ジストロフィー),先天奇形,性器ヘルペス,腟炎,バルトリン腺の膿瘍,放射線線維症,術後の腟入口部狭小化,または陰唇小帯に繰り返し起こる裂傷などが原因となりうる。

誘発性腟前庭痛(PVD)には,一次性のものと二次性のものがある:

  • 一次性:最初の挿入の経験(タンポンの挿入,腟鏡診,または性交のいずれかによる)から存在する

  • 二次性:以前は快適で痛みのない挿入が可能であった患者に発生する

PVDの病因は完全には解明されておらず,場合により炎症または免疫反応,神経線維数の増加により起こる知覚過敏,ホルモンの不均衡,および骨盤底機能不全などの複数の因子に起因する可能性がある。PVDは,線維筋痛症間質性膀胱炎過敏性腸症候群などの慢性疼痛症候群で発生することがある。

深部性交痛の原因には,骨盤底筋の緊張亢進または子宮や卵巣の疾患(例,筋腫,慢性骨盤内炎症性疾患子宮内膜症)がある。

外傷または性的虐待の既往も,性器骨盤痛・挿入障害の一因となることがある。

腟痙については,症状が典型的には肛門挙筋の機能不全に起因することから,肛門挙筋症候群という用語が腟痙に代わって用いられることが多くなってきている。肛門挙筋症候群には,痛みの要素と感情的要素が併存する場合がある。この疾患は,最初の性交の試みで起こる一次性の場合と,性交に痛みがない期間の後に起こる二次性の場合がある。

症状と徴候

一次性の誘発性腟前庭痛の女性は,初めて挿入を経験したときに痛みが生じたと報告する。多くの女性は,初めてタンポンの使用を試みる青年期に痛みに気づく。患者は快適な性交ができたことがないと報告することがある。しばしば痛みは,腟に何かを挿入することによって起こる,灼熱痛や突き刺すような痛みと表現される。二次性のPVDの女性も同様の症状を呈するが,一定期間の痛みを伴わない性行為の後に症状を訴える。

性器骨盤痛・挿入障害の女性が恐怖症のように挿入を回避するようになることがある。患者は腟への挿入前または挿入時に痛みに対する強い恐怖および不安を抱くことがある。女性が挿入時に痛みが再発すると予期すると,腟の筋肉が収縮することで,性交の試みによる痛みがさらに増す。しかしながら,本症を有するほとんどの女性は挿入によらない性行為は楽しむことができる。

性交ができないことは,人との関係にも悪影響を及ぼす可能性がある。女性は羞恥心,当惑,不全感,または抑うつを感じることがある。妊娠を望む女性には著しいストレスとなる。

診断

  • 診断基準(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition[DSM-5])

性器骨盤痛・挿入障害の診断は症状および内診(身体的異常を検出または除外できる)の結果に基づく。

診察は外陰皮膚全体(小陰唇間または大陰唇間の部分[例,慢性カンジダ症に典型的な裂傷がないか])のほか,陰核包皮,外尿道口,処女膜,主な前庭管腺の開口部(萎縮,炎症の徴候,および生検を必要とする異常皮膚病変がないか)などの視診に焦点を置く。

その後,湿らせた綿棒を用いて女性の痛みがある部位を詳細に確認することができる。誘発性腟前庭痛は,腟前庭を触診すると再現される痛みとして生じる。痛みは腟前庭全体(1時方向から11時方向まで)に生じることもあれば,ときに後方のみ(4時方向から8時方向まで)に生じることもある。腟前庭の後方部分だけが痛む場合は,骨盤底機能不全も存在する可能性がある。

次に指診を行い,骨盤底筋の緊張亢進を確認する(これは肛門挙筋の触診により誘発される)。尿道および膀胱も,異常な圧痛を同定するために前方から触診すべきである。子宮頸部を評価するために腟鏡診を行うことができ,子宮および卵巣を触診するための双合診は,より深部の痛みの原因を同定するのに役立つ。

患者の痛みおよび/または患者が痛みを予期することにより,ときに診察が困難になる。肛門挙筋症候群の多くの女性では,診察のうち腟鏡診と双合診を行うことができない。女性がリラックスするのを助け,診察からできるだけ多くの情報を得るために,医師は女性に診察の各段階を説明すべきである。

性器骨盤痛・挿入障害の診断は,DSM-5の特異的な基準に基づく。基準では以下の1つ以上が持続しているか,再発することが要件である:

  • 性交時または挿入を試みる際の外陰腟または骨盤の著しい疼痛

  • 腟挿入の予期,最中,またはその結果起こる外陰腟または骨盤に疼痛に対する著しい恐怖や不安

  • 腟挿入の際の骨盤底筋の著しい緊張または締めつけ

症状は6カ月以上存在し,女性に著しい苦痛を引き起こしていなければならない。また性器骨盤痛・挿入障害の診断には,性機能障害が他の疾患の存在,対人関係における重度の苦痛(例,親密な関係における暴力),またはその他の重大なストレス因子,もしくは物質や薬物の使用によってうまく説明できないことが必要である。

治療

  • 可能であれば原因の治療(例,萎縮性腟炎に対して外用エストロゲン)

  • 慢性痛およびそれがセクシュアリティに与える影響についての指導

  • 精神療法

  • 骨盤底の理学療法

  • 漸進的な脱感作療法

性器骨盤痛・挿入障害の管理はしばしば以下を含む:

  • 挿入によらない性交渉の満足する形を作り上げることをカップルに奨励し指導する。

  • 慢性痛に寄与し,また慢性痛により生じている心理的問題について話し合う。

  • 可能であれば,痛みに寄与している主として身体的な異常(例,子宮内膜症硬化性苔癬,外陰ジストロフィー,腟感染症,先天奇形,放射線線維症)を治療する。

  • 併存する骨盤底筋の緊張亢進を治療する。

  • 併存する性的関心・興奮障害を治療する。

外用エストロゲンは,閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause),萎縮性腟炎,および再発した陰唇小帯の裂傷に対して役立つ。外用エストロゲン,腟内プラステロン(DHEA製剤),またはオスペミフェン(選択的エストロゲン受容体モジュレーター[SERM])は,外陰ジストロフィー,または閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)による性交痛を有する女性で有用となる場合がある。

性器骨盤痛・挿入障害の至適な治療に関するデータは限られており,具体的な臨床症状に応じて様々なアプローチが現在用いられている。

最初のアプローチは常に,日中は綿の下着を着用する,低刺激性の石鹸で洗う,腟洗浄や市販の腟用デオドラントを避けるなど,外陰を清潔に保つ習慣に注意を向けさせることである。性交時に潤滑剤を使用する場合は,無香料かつ水性のものにすべきである。

性器骨盤痛・挿入障害の女性では,骨盤底の理学療法がしばしば有益である;それには骨盤底筋の弛緩を学ぶための骨盤底筋トレーニング(ときにバイオフィードバックと併用)が含まれる。その他の治療法としては,軟部組織モビライゼーションおよび筋筋膜リリース,トリガーポイントの圧迫,電気刺激,膀胱および腸管の再訓練,超音波療法などがある。

性器骨盤痛・挿入障害のある女性で骨盤底筋が緊張し,それが性交時の痛みの原因となっている場合,処方および非処方により自分自身で使用するダイレーターが入手できる。セラピストおよび女性のパートナーの立会いの下で自分でダイレーターを使用し,精神療法も行うことにより,肛門挙筋症候群の女性がより頻繁に性交を行えるようになることが示されている(1)。

肛門挙筋症候群(以前は腟痙と呼ばれていた)は,漸進的な脱感作療法で治療できる;女性は腟口近く,腟口部,そして腟口内を自分で触ることに徐々に慣れていく。進め方としては,女性が1つの段階を不快感なく行えるようになってから次の段階を始めるようにする。

  • 女性は指で陰唇を拡げながら,できるだけ腟口近くを自分で毎日触る。(腟口を自分で触ることへの恐れと不安が一旦消失すれば,身体診察により耐えられるようになる。)

  • 処女膜の奥まで自分の指を挿入する;挿入中にいきむことで開口部が広がり挿入がしやすくなる。

  • 自分で腟内プロテーゼ(段階的に大きなものにする)を徐々に挿入する;プロテーゼを中に10~15分間置いておくことにより,腟周囲筋肉が,反射収縮を起こすことなく徐々に増大する圧力に慣れるようになる。

  • それから,性行為中にパートナーにプロテーゼを挿入するのを手伝ってもらい,性的に興奮しているときにはプロテーゼが楽に入ることを確認する。

  • カップルは性行為時に陰茎による外陰刺激を含めるようにし,女性に外陰での陰茎の感覚に慣れさせる。

  • 最終的には,パートナーの陰茎を部分的または完全に挿入し,その状態を持続できる(挿入といえるほどに)ようになる。女性は,女性上位の体位においてさらに自信を深めうる。

PVDでは,骨盤底筋の緊張亢進がしばしばみられるため,第1選択の治療法には骨盤底の理学療法が含まれる。

外用ホルモンクリームは,数カ月使用すると有用となることが多い。例えば,エストラジオール0.01%およびテストステロン0.1%を含有する外用クリームまたはゲルを,毎晩または1日2回,腟前庭に塗布することができる。外用エストロゲンは,閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)および再発した陰唇小帯の裂傷に対して役立つ。

外用リドカインゲルは,性交中に不快感を引き起こす行為の前に塗布することもできる;このゲルは短期間のみ使用すべきである。

外用エストロゲン,腟内プラステロン(DHEA製剤),またはオスペミフェン(選択的エストロゲン受容体モジュレーター[SERM])は,閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)による性交痛を有する女性で有用となる場合がある。

神経障害性疼痛の治療に使用される薬剤(例,ガバペンチン,プレガバリン)はPVDに有用となりうる。これらの薬剤は,PVDの他の治療と併用すると疼痛が軽減する可能性がある。

三環系抗うつ薬は,慢性疼痛疾患の治療に使用されることが多く,PVDの第2選択の治療である。アミトリプチリンおよびノルトリプチリンが最も頻用される三環系抗うつ薬であり,低用量から開始して漸増すべきである。

ガバペンチンとアミトリプチリンの組合せを含有する様々な外用薬も効果的な場合があり,腟前庭に直接塗布すると全身性の有害作用は少なくなる。

A型ボツリヌス毒素の骨盤底筋への注射は,肛門挙筋症候群および誘発性腟前庭痛の治療に用いられてきたが,通常は難治例の短期治療にのみ使用される。

腟前庭部切除術(vestibulectomy)はあまり行われないが,ケースバイケースで考慮してもよい。一次性のPVDを有する女性が通常,この外科的手技の最適な対象である。

認知行動療法やマインドフルネス認知療法などの精神療法のために,資格をもつセックス・セラピストに紹介することは,女性が痛みおよび挿入に対する恐怖や不安に対処するのに役立つことが多い。

治療に関する参考文献

  1. Ter Kuile MM, Melles R, de Groot HE, et al: Therapist-aided exposure for women with lifelong vaginismus: A randomized waiting-list control trial of efficacy.J Consult Clin Psychol 81 (6):1127–1136.2013.doi: 10.1037/a0034292 Epub 2013 Sep 23.

要点

  • 性器骨盤痛・挿入障害は,骨盤底筋の不随意収縮,腟への挿入時および/または深部への挿入時に生じる痛み,挿入に関する不安,および性交の困難を特徴とする。

  • 外陰部を注意深く診察し,内診を行って女性の痛みのある部位を特定し,基礎疾患がないかを明らかにする。

  • 可能であれば原因を治療し,様々な薬物および/または精神療法を用いて女性が自身の恐怖および不安に対処するのを助ける。

  • 性器骨盤痛に関わる性機能障害を有するほぼ全ての女性に有用であるため,骨盤底の理学療法を推奨する。

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