海綿静脈洞血栓症

執筆者:James Garrity, MD, Mayo Clinic College of Medicine and Science
レビュー/改訂 2020年 6月
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海綿静脈洞血栓症は非常にまれな典型的に海綿静脈洞の敗血症性血栓症であり,通常は鼻せつまたは細菌性副鼻腔炎により起こる。症状と徴候には,疼痛,眼球突出,眼筋麻痺,視力障害,乳頭浮腫,および発熱などがある。診断はCTまたはMRIで確定する。治療は抗菌薬の静注による。合併症がよくみられ,予後は不良である。

海綿静脈洞血栓症の病因

海綿静脈洞は頭蓋骨底に位置する海綿状の静脈洞で,顔面の静脈からの静脈血が流入する。海綿静脈洞血栓症は一般的な顔面感染症(最も顕著なものは鼻せつ[50%],蝶骨洞炎または篩骨洞炎[30%],および歯性感染症[10%])の極めてまれな合併症である。最も頻度が高い病原体は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(70%),次いでレンサ球菌(Streptococcus)属である;歯科または副鼻腔の感染症が基礎疾患である場合は嫌気性菌がより一般的である。

横静脈洞血栓症(乳様突起炎に関連する)および上矢状静脈洞血栓症(細菌性髄膜炎に関連する)も起こるが,海綿静脈洞血栓症に比べまれである。

海綿静脈洞血栓症の病態生理

第3,4,6脳神経ならびに第5脳神経の分枝である眼神経および上顎神経は海綿静脈洞に隣接しており,海綿静脈洞血栓症では侵されることが多い。海綿静脈洞血栓症の合併症には,髄膜脳炎,脳膿瘍脳卒中失明,および下垂体機能不全などがある。

海綿静脈洞血栓症の症状と徴候

海綿静脈洞血栓症の初期症状は,進行性かつ重度の頭痛または顔面痛で,通常は片眼性で眼窩後部と前頭部に限局する。高熱がよくみられる。後に,眼筋麻痺(初期には典型的には第6脳神経),眼球突出,および眼瞼浮腫が現れ,しばしば両眼性となる。顔面の知覚が低下または消失することがある。意識レベルの低下,錯乱,痙攣発作,および局所神経脱落症状は,中枢神経系への波及の徴候である。また,海綿静脈洞血栓症の患者では瞳孔不同または散瞳(第3脳神経の障害),乳頭浮腫,および視力障害も認めることがある。

海綿静脈洞血栓症の診断

  • MRIまたはCT

海綿静脈洞血栓症はまれであるためしばしば誤診される。眼窩蜂窩織炎に合致する徴候がある患者では考慮すべきである。海綿静脈洞血栓症を眼窩蜂窩織炎と鑑別する特徴には,脳神経障害,両眼性,精神状態の変化などがある。

診断は神経画像検査に基づいて行う。MRIがより望ましいが,CTも役立つ。有用な補助検査には血液培養および腰椎穿刺などがある。

海綿静脈洞血栓症の予後

死亡率は全ての海綿静脈洞血栓症患者の30%であり,基礎に蝶形骨洞炎がある患者では50%である。さらに30%の患者では重篤な続発症(例,眼筋麻痺,失明,脳卒中による障害,下垂体機能低下)を伴い,これらが永久に残る可能性がある。

海綿静脈洞血栓症の治療

  • 高用量抗菌薬の静注

  • ときにコルチコステロイド

海綿静脈洞血栓症患者の初期の抗菌薬には,ナフシリン(nafcillin)またはオキサシリン1~2gの4~6時間毎投与に第3世代セファロスポリン系薬剤(例,セフトリアキソン1g,12時間毎)を併用することなどがある。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus)が多い地域では,ナフシリン(nafcillin)またはオキサシリンに代わってバンコマイシン1gを12時間毎に静注すべきである。基礎に副鼻腔炎または歯性感染症がある場合には,嫌気性菌に対する薬物(例,メトロニダゾール500mg,8時間毎)を追加すべきである。

基礎に蝶形骨洞炎がある例で,特に24時間以内に抗菌薬に対して臨床反応がない場合には,外科的な副鼻腔ドレナージが適応となる。

海綿静脈洞血栓症の二次治療には,脳神経障害に対するコルチコステロイド(例,デキサメタゾン10mg,静注または経口,6時間毎)などがある;ほとんどの患者が抗菌薬に反応するため抗凝固薬の投与については議論があり,有害作用が有益性を上回る可能性がある。

海綿静脈洞血栓症についてのより詳細な情報

  1. Plewa MC, Tadi P, Gupta M: Cavernous sinus thrombosis.StatPearls Publishing, Treasure Island, 2020.

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