耳疾患の評価

執筆者:David M. Kaylie, MS, MD, Duke University Medical Center
レビュー/改訂 2021年 3月
意見 同じトピックページ はこちら

耳痛難聴耳漏耳鳴,および回転性めまいは,耳疾患の主要症状である。

耳,鼻,上咽頭,副鼻腔に加えて,歯,舌,扁桃,下咽頭,喉頭,唾液腺,および顎関節も診察するが,これは,これらの部位から疼痛や不快感が耳に放散している可能性があるためである。脳神経機能を検査するとともに(脳神経の表を参照),聴力検査および平衡機能の検査を行うことが重要である。また,眼振(眼球の律動的な動き)の検査も行う。

眼振

眼振は眼球の律動的な動きであり,様々な原因で起こりうる。前庭疾患では,前庭系と動眼神経核が相互に連絡しているため,眼振を来すことがある。前庭性眼振の存在は前庭疾患の同定に有用であり,ときに中枢性めまいと末梢性めまいを鑑別できる。前庭性眼振には,前庭入力によって引き起こされる緩徐相と,元に戻る急速相(逆方向への動きを引き起こす)がある。眼振の方向は急速相の方向で定義されるが,これは急速相の方が視認しやすいためである。眼振には回旋性,垂直性,水平性があり,また,自発的に起こるもの,注視により起こるもの,頭部の動きにより起こるものがある。

眼振に対する最初の視診は,患者を仰臥位にし,注視の焦点を合わせずに行う(注視の固定を防止するために,+30ジオプトリーのレンズまたはフレンツェル眼鏡を使用できる)。次に,患者の体をゆっくりと回転させて左側臥位とし,さらに回転させて右側臥位とする。眼振の方向および持続時間を観察する。眼振が検出されなければ,Dix-Hallpike法(またはBarany法)を行う。この手技では,患者をストレッチャー上に座らせ,体幹を倒して仰臥位になったときにストレッチャーの端から頭が出る位置で体幹を直立させる。患者の体幹を支えながら速やかに水平まで倒し,頭を後ろに伸ばして水平線より45度下を向くようにして,その後左側に45度回転させる。眼振の方向および持続時間と回転性めまいの発生を観察する。患者を座位に戻し,同じ操作を右方向への回転で繰り返す。眼振を引き起こす姿勢または操作があれば,それを繰り返して疲労現象が起こるかどうか確認すべきである。

末梢神経系疾患に続発する眼振には3~10秒の潜時があり,急速に疲労するが,これに対して中枢神経系疾患に続発する眼振は潜時がなく,疲労しない。誘発眼振中は,ある物体に焦点を合わせるよう患者に指示する。末梢前庭障害による眼振は固視により抑制される。フレンツェル眼鏡は固視を妨げるため,固視を評価する際には外さなければならない。

前庭系に障害がなければ,外耳道の温度刺激検査により眼振が誘発される。眼振が誘発されない場合や,両側で眼振の緩徐相速度に20~25%を超える差がある場合には,反応が弱い側の病変が示唆される。温度反応の定量は,正式な(コンピュータ式の)ビデオ眼振検査(videonystagmography),または頻度は低いが電気眼振検査により行うのが最善である。

末梢刺激に対する前庭系の反応能力はベッドサイドで評価できる。鼓膜穿孔または慢性感染症が判明している耳には注水しないように注意すべきである。患者を仰臥位にし,頭部を30°挙上して,それぞれの耳に3mLの氷水を順次注入する。代わりに240mLの温水(40~44℃)を使用してもよいが,その場合は温度が高すぎて熱傷を引き起こさないように注意する。冷水は対側への眼振を引き起こし,温水は同側への眼振を引き起こす。覚え方はCOWS(Cold to the Opposite and Warm to the Same)である。

検査

病歴または身体診察で聴覚異常が認められた患者と耳鳴または回転性めまいがある患者には,聴力検査を行う。眼振または前庭機能異常がある患者には,肉眼では検出できない自発眼振,注視眼振,および頭位眼振が生じることがあり,それらを定量化するために,コンピュータ式のビデオ式眼振検査(videonystagmography:VNG)または電気眼振検査(ENG)が有益な場合がある。ENGでは眼球運動を眼の周囲に設置した電極で記録するのに対し,VNGでは赤外線CCDカメラで記録する。どちらの場合も,データをコンピュータで解析して,言語聴覚士が解釈する。コンピュータ式のVNGまたはENGによる温度刺激検査は,各耳への冷水および温水注入に対する前庭系の反応の強さを定量化するもので,これにより片側性の反応の弱さを識別することができる。頭位および体位を変えることにより,または視覚的刺激を与えることによって,異なる前庭系の構成部位を検査できる。

重心動揺検査では,コンピュータ式検査装置を使用して患者の体位およびバランスのコントロールを定量的に評価する。力および運動の変換器を内蔵し,患者が直立しようと努力している際の身体の揺れの有無および量を検出するプラットフォームの上に患者を立たせる。本検査は,プラットフォームを固定したり動かしたり,水平にしたり傾斜させたり,患者の眼を開かせたり閉じさせたりするなど,様々な条件下で実施できるため,バランスに対する前庭系の寄与を区別するのに役立つ可能性がある。

主要な画像検査には,造影または単純側頭骨CT,ガドリニウム造影脳MRIがあり,検査の際には前庭神経鞘腫を除外するために内耳道に注意する。これらの検査は,耳,頭部,またはその両方の外傷;慢性感染症;難聴;回転性めまい;顔面神経麻痺;その他起源不明の耳痛などの場合に適応となることがある。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS