良性発作性頭位めまい症(BPPV)は,再発性耳性めまいの最も一般的な原因である。加齢とともに発症する人が増え,高齢者では平衡機能に重度の影響が生じ,負傷しかねない転倒を招くこともある。
良性発作性頭位めまい症の病因
BPPVは,耳石(炭酸カルシウムの結晶で,正常では球形嚢および卵形嚢の中にある)の変位によって引き起こされると考えられている。この物質の変位により,多くは後半規管内(およびまれに上半規管内)にある有毛細胞が刺激され,動きの錯覚が生じる。病因には以下のものがある。
卵形嚢の耳石膜の自然変性
内耳震盪
耳の手術
頭部外傷
長期の麻酔または床上安静
前前庭動脈の閉塞
良性発作性頭位めまい症の症状と徴候
回転性めまいは,患者の頭が動いたとき(例,ベッドで寝返りを打ったときや,何かを拾おうとして腰をかがめたとき)に引き起こされる。急性の回転性めまいの発作は数秒から数分しか続かない;発作は朝にピークとなり,その日を通して和らぐ傾向がある。悪心や嘔吐が起こることもあるが,難聴や耳鳴は起こらない。
良性発作性頭位めまい症の診断
臨床的評価
所見が中枢神経系病変を示唆する場合,ガドリニウム造影MRI
BPPVの診断は,特徴的症状,Dix-Hallpike法(頭位眼振を誘発する検査)により誘発される 眼振 眼振 眼振は眼球の律動的な動きであり,様々な原因で起こりうる。 前庭疾患では,前庭系と動眼神経核が相互に連絡しているため,眼振を来すことがある。前庭性眼振の存在は前庭疾患の同定に有用であり,ときに中枢性めまいと末梢性めまいを鑑別できる。前庭性眼振には,前庭入力によって引き起こされる緩徐相と,元に戻る急速相(逆方向への動きを引き起こす)がある。眼振の方向は急速相の方向で定義されるが,これは急速相の方が視認しやすいためである。眼振には回旋性,垂直... さらに読む ,神経学的診察でその他の異常がないことに基づく。このような患者に対しては,さらなる検査は不要である。
中枢神経系病変による頭位眼振は,BPPVによる頭位眼振とは異なり以下の特徴を有する:
潜時,疲労現象,および重度の自覚症状を欠く
その頭位が維持されている限り,持続することがある
垂直性または方向交代性である
回旋性の場合には予期せぬ方向であることが多い
中枢神経系病変を示唆する眼振を示唆する患者に対しては,ガドリニウム造影MRIを行う。
良性発作性頭位めまい症の治療
症状を減衰させるための誘発操作
浮遊耳石置換法
通常,薬物療法は推奨されない
通常,BPPVは数週間から数カ月で自然に治まるが,数カ月から数年間続くこともある。この状態は長期にわたる可能性があるため,薬物療法(メニエール病 治療 メニエール病は,回転性めまい,変動性の感音難聴,および耳鳴を引き起こす内耳の疾患である。信頼できる診断検査はない。回転性めまいおよび悪心は,急性発作時に抗コリン薬またはベンゾジアゼピン系薬剤を用いて,対症的に治療する。第1選択の治療である利尿薬および減塩食によって,しばしば発作の頻度および重症度が低下する。重症例または難治例の場合,ゲンタマイシンの局所投与または手術により,前庭系を破壊することがある。... さらに読む において用いるような)は推奨されない。しばしば薬物の有害作用により平衡障害が悪化する。
BPPVは疲労性があるため,1つの治療法として,患者に対して日中早いうちに安全な環境で誘発操作を行う方法がある。そうすると,その日1日,症状は最小となる。
浮遊耳石置換法(最も一般的には Epley法 エプリー法:回転性めまいの一般的な原因に対する単純な治療法 ,またはその代わりにSemont法もしくはBrandt-Daroff法)では,一連の特定の位置をとるように頭を動かし,位置がずれた耳石を卵形嚢に戻す。Epley法またはSemont法を実施した後は,患者は1~2日間,頸部の屈曲または伸展を避けるよう努めるべきである。これらの手技は,必要に応じて繰り返すことができる。対照的に,Brandt-Daroff法は患者が5回連続,1日3回,約2週間自宅で行うか,またはこの運動法を行っても回転性めまいが出なくなるまで自宅で行う。
Epley法:回転性めまいの一般的な原因に対する単純な治療法
この手技は,以下に赤矢印で示されている時計回りの順序に従って行う。 |
Semont法では,患者をストレッチャーの中央に上体を直立にして座らせる。患者の頭を健側耳の方へ回転させる;操作中回転させた状態を維持する。次に,患耳の方の体側を下にして鼻が上を向いて横たわるように,患者の胴体を横向きにストレッチャーの上に倒す。この姿勢を3分間保った後,頭の位置は戻さずに患者の上体を素早く起こし,今度は反対側に横向きに倒す(このとき,鼻は下を向く)。この姿勢を3分間保った後,患者の上体をゆっくりと直立に戻し,頭を回転させて正常な位置へ戻す。
Brandt-Daroff法は,患者に教えることができる。患者は,座位をとった状態から側方に横たわり,鼻を45度上方に向ける。約30秒間または回転性めまいが消失するまでこの体位を維持した後,座位に戻る。反対側でも同じ動きを行う。このサイクルを5回連続繰り返し,1日3回,約2週間またはこの運動を行っても回転性めまいが出なくなるまで続ける。
良性発作性頭位めまい症の要点
回転性めまいは耳石が半規管内に変位することで生じ,頭部の運動によって症状が誘発される。
通常,悪心および嘔吐がみられるが,耳鳴または難聴はみられない。
診断は臨床的に行うが,その他の疾患を除外するために,MRIを必要とする患者もいる。
治療は浮遊耳石置換法による。
薬剤はまれにしか有用でなく,また症状を悪化させる場合もある。