口臭

(強い悪臭;口腔内悪臭)

執筆者:Bernard J. Hennessy, DDS, Texas A&M University, College of Dentistry
レビュー/改訂 2020年 5月
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口臭は,頻繁な,または持続性の呼気の不快臭である。

歯科患者の評価も参照のこと。)

口臭の病態生理

口臭は,ほとんどの場合,口腔内の嫌気性グラム陰性細菌による食物残渣の発酵より生じる(細菌により硫化水素およびメチルメルカプタンのような揮発性硫黄化合物が産生される)。原因菌は特に潰瘍または壊死を伴う歯周病に罹患した部位に存在する。原因菌は歯牙周囲の歯周ポケット深部に存在する。健全な歯周組織を有する患者においては,これらの原因菌は舌背後部に繁殖している。

原因菌の過剰繁殖を引き起こす因子には,唾液流量の減少(例,耳下腺疾患,シェーグレン症候群,または抗コリン薬使用による),唾液停滞,および唾液のpHの上昇などがある。

ある種の食物または香辛料は,消化後に成分の匂いが肺に放出され,その呼気中の匂いが他人に不快感を与える可能性がある。例えば,ニンニクの匂いは,口中からニンニクが消失して長い時間が経過した後の食後2,3時間後から呼気で他人に認識されるようになる。

口臭の病因

約85%の症例は口腔内の病態が原因である。それ以外の症例は,全身および口腔外の様々な病態が原因である(口臭の主な原因の表を参照)。

全体として最も頻度の高い原因としては以下のものがある:

消化管疾患については,食道が正常時に閉じていることから,口臭の原因になることはまれである。口臭が消化や腸管機能の状態を反映するというのは誤りである。

その他の口臭

全身性疾患の中には呼気に感知できる揮発性物質を産生するものがあるが,それが一般的に口臭とみなされる悪臭,刺激臭というわけではない。糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は甘いまたは果物のようなアセトン臭を産生し,肝不全ではネズミのような,またはときにかすかな硫黄のような臭いが生じ,腎不全では尿もしくはアンモニア臭を伴う呼気となる。

表&コラム

口臭の評価

病歴

現病歴の聴取では,口臭の期間と重症度(他人が気づいているかまたは不快感を示しているかを含む),口腔衛生の良否,および原因となる食物摂取と口臭の関係を確認すべきである(口臭の主な原因の表を参照)。

システムレビュー(review of systems)では,鼻汁および顔面痛または頭痛(副鼻腔炎鼻腔異物),湿性咳嗽および発熱(肺感染症),身体を曲げたり横になったりした時の未消化食物の逆流(ツェンカー憩室)などの,原因となる疾患がないか検討すべきである。口腔乾燥,ドライアイもしくはその両方(シェーグレン症候群)などの素因に注意すべきである。

既往歴の聴取では,アルコールおよびタバコの量および期間について尋ねるべきである。服薬歴の聴取では,口腔乾燥を引き起こす薬(例,抗コリン作用がある薬剤―口腔乾燥症の主な原因の表を参照)の使用について具体的に尋ねるべきである。

身体診察

バイタルサインを評価して,特に発熱がないか確認する。

鼻を診察して,鼻汁および異物がないか確認する。

口腔を診察して,歯周病歯性感染,およびがんの徴候がないか確認する。明らかな乾燥の徴候に注意する(例,粘膜が乾燥しているか,粘性か,または湿潤状態であるか,および唾液は泡が多いか,糸を引くか,または見かけ上正常であるか)。

咽頭を診察して,感染およびがんの徴候がないか確認する。

Sniff test

呼気のsniff testを行う。一般的には,口臭の口腔内の原因は腐敗した刺激臭をもたらすが,全身疾患ではそれよりも微妙で異常な臭気を生じる。理想的には,検査前の48時間は患者はニンニクまたは玉葱を食べないようし,2時間は飲食,咀嚼,含漱,洗口,または喫煙を控える。試験では,患者は検者の鼻の10cmの距離から息を吐き,1回目は口より,2回目は口を閉じて行う。口腔からの悪臭が強いとわかる場合は口腔内の病因を示唆する;鼻からの悪臭が強いとわかる場合は鼻または副鼻腔の病因を示唆する。鼻と口腔から類似した悪臭が認められる場合は,原因が全身性または肺であることが示唆される。

もし発生源が不明ならば,舌根部をプラスチックスプーンで擦り取る。5秒後,スプーンを検者の鼻から5cmの距離で嗅ぐ;悪臭があれば,その悪臭は舌上の細菌によるものであることが示唆される。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 発熱

  • 膿性の鼻汁または痰

  • 肉眼で見えるまたは触知できる口腔内の病変

所見の解釈

口腔に原因がある頻度が圧倒的に高いため,口腔外の症状も徴候もない患者では,肉眼で見える口腔病変があれば口臭の原因であると推測でき,それについて歯科医師へのコンサルテーションを行うべきである。その他の疾患が関与している場合,臨床所見が診断につながることが多い(口臭の主な原因の表を参照)。

ある種の食物または飲料の摂取に関連すると考えられる症状があり,その他の所見がみられない患者については,試験的に摂取を避けることにより(その後にsniff testを行う)診断が明らかになる場合がある。

検査

病歴および身体診察が基礎疾患を示唆しない限り,広範な診断評価を行うべきではない(口臭の主な原因の表を参照)。ポータブルな硫黄モニター,ガスクロマトグラフィー,および舌の擦過物の化学検査が可能であるが,研究のプロトコルとして,または口臭の評価と処置を専門とする歯科医院にて実施するのが最善である。

口臭の処置/治療

  • 定期的な口腔衛生および口腔ケア

  • 原因の処置

基礎疾患を処置する。

原因が口腔内にある場合は,患者は歯科を受診し,専門家による口腔清掃と歯肉疾患および齲蝕の処置を受けるべきである。家庭内での処置は,デンタルフロス使用の徹底,歯磨きの徹底,および歯ブラシやスクレーパーを用いた舌の清掃の徹底などの,口腔衛生の強化である。洗口液の効果は限られているが,酸化剤(一般的には二酸化塩素を含む)を含有するものの一部では比較的優れた短期効果が示されている。アルコール中毒の既往がある場合,アルコール無添加の洗口液を使用するべきである。心因性口臭は精神科へのコンサルテーションが必要になることがある。

老年医学的重要事項

高齢患者は口腔乾燥を引き起こす薬物を服用している可能性が高く,口腔衛生保持の困難(手先の器用さに制限がある場合や関節リウマチおよびパーキンソン病などの疾患がある場合も同様)およびそれによる口臭へとつながるが,その他の点では口臭が生じる可能性が高いというわけではない。また,口腔癌は加齢とともに増加し,若年患者に比べて高齢患者でより懸念される問題である。

口臭の要点

  • 口臭は,ほとんどの場合,歯の周囲および舌背に存在する嫌気性グラム陰性細菌による食物残渣の発酵により生じる。

  • 口腔外の疾患も口臭の原因となりうるが,多くの場合それを示唆する所見を伴う。

  • 口臭が消化や腸管機能の状態を反映するというのは誤りである。

  • 洗口液は短期的な効果しかもたらさない。

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