舌の外傷

執筆者:Bernard J. Hennessy, DDS, Texas A&M University, College of Dentistry
レビュー/改訂 2020年 5月
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舌の損傷は以下により生じることがある:

  • 偶発的に舌を噛んだ

  • 鋭利または破折した充填物または歯

  • 穿通性外傷

偶発的に舌を噛むことは,正常な咀嚼時,痙攣発作時,または顎に打撃を受けた際(例,転倒,喧嘩,自動車事故)に,舌が歯に挟まれて生じることがある。重度の顔面鈍的外傷による舌損傷は,隣接組織の重大な損傷を伴うのが通常である。

顔面の穿通性外傷としては,銃創や重度の刺創または穿通創などがある。舌に損傷がある場合,顔面下部にある他の組織の損傷が示唆される。顔面の重度の穿通性損傷は,大量出血を起こすほか,誤嚥や舌と口底の浮腫によって気道閉塞につながる可能性がある。

鈍的損傷は大半が比較的軽微であり,舌への血液供給が豊富であることから,感染を合併することなく速やかに治癒する可能性が高い。しかしながら,血液供給が豊富であるがゆえに,重度の損傷が起きると止血が困難になる。

舌損傷のみの診断は,典型的には視診で明らかである。重度外傷がある場合は,気道の確保および管理,出血のコントロール,ならびに重大な血管損傷の同定を済ませてから,下顎,中顔面,および歯の評価を行う。(外傷患者へのアプローチも参照のこと。)

舌の外傷の治療

  • 鋭利な歯または充填物の研磨

  • 二次治癒

  • ときに縫合

出血は通常,患者が受診するまでに止まっている。出血を伴う裂傷のみの場合は,ガーゼパッドによる圧迫で処置できることが多い。大量の出血を伴う口腔顔面外傷は,通常,手術室で麻酔・気道確保下で評価および管理すべきである。

舌損傷における主な考慮点は,修復が必要かどうかである。この点については,舌を修復するには患者が非常に協力的であるか,鎮静薬または麻酔を用いる必要があるため,同程度の大きさの皮膚裂傷の場合よりも慎重に判断する。そのため,腕の裂傷は修復しても,舌の裂傷は自然治癒を待つことも可能である。

幸いなことに,多くの舌裂傷には外科的修復は不要である。

修復が必要な舌裂傷としては,以下の条件に当てはまるものがある:

  • 剥離状または部分的切断

  • 持続性の出血

  • 構造上の問題(例,裂傷が舌を二分している,大きく開口している,U字型,大きな弁を含んでいる)

  • 2cmを超える創傷(舌尖部が分離している場合はより小さい)

非外科的治療

破折した歯または充填物による表在性の舌裂傷は,歯の充填(研磨)または充填物の修復によって治療する。単純な線状の裂傷は,マウスガードまたはマウスプロテクターの使用により治癒する。

外科的治療

舌裂傷の管理は,裂傷全般の治療と同じ原則に従い,局所麻酔,洗浄,および修復を行う。

最も協力的な患者でさえ,口を開けて舌を動かさない状態を維持できるのはまれである。助手がガーゼで舌を把持し,伸展させておいてもよい。麻酔した舌尖部に強度の高い牽引糸を置き,それを牽引および安定化に用いる医師もいる。小児の場合,典型的には処置のための鎮静やときに麻酔が必要になる。

局所麻酔には,一般的に1%リドカイン(アドレナリンを併用する場合もある)による浸潤麻酔が許容される。舌前方3分の2の裂傷は,下歯槽神経ブロックにより麻酔できる。外用消毒薬(例,ポビドンヨード)は不要である。(下歯槽神経ブロックも参照のこと。)

誤嚥を起こさないよう注意しながら,創傷部を適量(例,100mL未満)の生理食塩水で洗浄する。異物は全て除去するが,修復中に創傷部に唾液が入らないように保つ必要はない。

明らかに壊死した組織を切除する。その後,3-0または4-0の吸収性縫合材料で創傷部を閉鎖する。吸収性縫合糸は,合成非吸収性縫合糸より柔らかく(そのため口腔内の不快感が少ない),抜去する必要がない。

数日間は軟食とし,飲食後には含嗽をさせるべきである。非常に軽微な場合を除き,裂傷は全て48時間程度で確認すべきである。抗菌薬は,創傷が汚染されている場合(損傷の性質に基づく)と基礎疾患(コントロール不良の糖尿病やその他の易感染状態)がある場合を除き,通常は不要である。健康な患者における舌裂傷に対する抗菌薬使用の有益性は,ほとんどの場合,限定的である。抗菌薬が必要と判断した場合は,ペニシリン,アモキシシリン,またはクリンダマイシン(ペニシリンアレルギーがある場合)を考慮する。

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