肉芽腫性アメーバ性脳炎

執筆者:Richard D. Pearson, MD, University of Virginia School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 11月
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肉芽腫性アメーバ性脳炎は,Balamuthia mandrillarisまたは(易感染性宿主もしくは衰弱した宿主では)Acanthamoeba属原虫によって引き起こされ,一般に死に至る非常にまれな亜急性中枢神経系感染症である。

Acanthamoeba属原虫とBalamuthia mandrillarisは世界中の水中,土壌中,塵埃中に存在する。ヒトへの曝露はよくみられるが,感染はまれである。Acanthamoebaの中枢神経系感染はほとんどの場合,易感染性患者かそうでなければ衰弱した患者でしかみられないが,B. mandrillarisは正常宿主にも感染することがある。Sappinia pedataは,テキサス州におけるアメーバ性脳炎の1症例で関与が確認された。

Acanthamoeba属原虫の生活環は,シストと栄養型(感染型)の2つの段階のみで構成される。栄養型は,除菌に対する抵抗性を付与する二重壁をもったシストを形成する。侵入門戸は皮膚または下気道と考えられ,その後中枢神経系への血行性播種が起こる。感染した患者では,組織内にシストと栄養型が発見されることがある。

肉芽腫性アメーバ性脳炎の症状

肉芽腫性アメーバ性脳炎の患者では,発症が潜行性であり,しばしば局所的な神経症候を呈する。精神状態の変化,痙攣発作,および頭痛がよくみられる。

Acanthamoeba属原虫およびB. mandrillarisは皮膚病変を引き起こすこともある;まず潰瘍性の皮膚病変が出現し,続いて神経系の症候がみられることがある。少数のAIDS患者では,播種性アカントアメーバ感染症(disseminated Acanthamoeba infection)により皮膚だけが侵される。

中枢神経系病変があるか播種を起こした患者の生存はまれであり,通常は発症後7~120日で死に至る。

肉芽腫性アメーバ性脳炎の診断

  • 頭部造影CTおよび/またはMRI

  • 髄液検査

  • 皮膚病変の生検

肉芽腫性アメーバ性脳炎の診断はしばしば死後に下される。

アカントアメーバ(Acanthamoeba)感染症の診断

アカントアメーバ(Acanthamoeba)による脳感染症の患者では,造影CTおよびMRIにて,側頭葉および頭頂葉に好発し,リング状に造影される単一または複数の占拠性病変を認めることがある。髄液中では,白血球数(主にリンパ球)は増加するものの,栄養型を観察できることはまれである。これらの検査は,他の原因を除外するのに役立つが,通常は診断を確定することはできない。

目に見える皮膚病変にはアメーバが存在する場合が多いため,生検を行うべきであり,アメーバが検出されれば,培養して薬剤感受性試験を行うことがある。脳生検がしばしば陽性となるため,肉芽腫性アメーバ性脳炎が疑われる場合には脳生検を考慮すべきである。

基準となる特別な検査施設でポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査が実施できる。

B. mandrillaris感染症の診断

B. mandrillarisによる脳感染症の患者では,CTおよびMRI(いずれも造影)にて,典型的にはリング状に造影される結節性病変が複数認められる。病変内の出血は,画像上重要な手がかりである。髄液中では白血球数が増加し(主にリンパ球),糖は正常または低値で,タンパク質は多くの場合,著しい高値を示す。髄液中にB. mandrillaris が同定されることはまれである。鏡検とPCR法および免疫組織化学法により,脳または皮膚病変の生検検体中でB. mandrillarisを同定することができる。

肉芽腫性アメーバ性脳炎の治療

  • ミルテホシン(miltefosine)を含む複数の薬剤の併用

  • 米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)への相談

アカントアメーバ(Acanthamoeba)脳炎に対する至適な治療法は不明である。全例で直ちに米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)に相談することが推奨される(CDC Emergency Operations Center[770-488-7100]に電話する)。典型的には複数の薬剤(6つ以上のことが多い)が併用される。ミルテホシン(miltefosine)を含むレジメンにより治療された患者は少ないが,ミルテホシン(miltefosine)により生存期間が延長するようであり,推奨される。

アカントアメーバ(Acanthamoeba)脳炎の治療でミルテホシン(miltefosine)と併用される他の薬剤としては,ペンタミジン,スルファジアジンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾール,フルシトシン,アゾール系薬剤(フルコナゾール,イトラコナゾール,またはボリコナゾール),リファンピシン,アムホテリシンBなどがある。

B. mandrillaris脳炎には,ミルテホシン(miltefosine)と他の薬剤の併用(フルシトシン,ペンタミジン,フルコナゾール,スルファジアジンなど)+ アジスロマイシンまたはクラリスロマイシンの一方 + 外科的切除が行われてきた。

Sappinia pedata脳炎の1例では,アジスロマイシン,ペンタミジン,イトラコナゾール,およびフルシトシンと中枢神経系病変の外科的切除の併用で治療が成功した。将来の症例ではこのレジメンへのミルテホシン(miltefosine)の追加を考慮すべきであろう。

Acanthamoeba属原虫または B. mandrillarisにより引き起こされる皮膚感染症および播種性感染症は,通常は同じ薬剤と皮膚病変の外科的デブリドマンの併用により治療する。

肉芽腫性アメーバ性脳炎の要点

  • 肉芽腫性アメーバ性脳炎は,非常にまれであるが通常は致死的な中枢神経系感染症である。

  • アカントアメーバ(Acanthamoeba)脳炎はほとんどの場合,易感染性患者かそうでなければ衰弱した患者でしかみられないが,B. mandrillarisは正常宿主に感染することがある。

  • 頭部CTまたはMRI(ともに造影)を施行する;髄液検査を行って他の原因を除外する;皮膚病変(あれば)またはときに脳の生検を行って,アメーバの有無を確認する。

  • 診断検査と至適な治療法についてCDCに相談する。

  • ミルテホシン(miltefosine)+ その他の薬剤(例,ペンタミジン,スルファジアジン,フルシトシン,アゾール系薬剤)により治療する。

より詳細な情報

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