サイクロスポーラ症は,原虫Cyclospora cayetanensisによる感染症である。症状としては,消化管症状と全身症状を伴う水様性下痢などがある。診断は便または腸生検標本中の特徴的なオーシストの検出による。治療は,トリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP/SMX)による。
(腸管内寄生原虫および微胞子虫による感染症の概要も参照のこと。)
サイクロスポーラ症は,偏性細胞内寄生原虫による感染症である。通常は汚染された食品または水を介して,糞口感染により伝播する。この感染症は気候が温暖で衛生環境が不良な地域で最もよくみられる。流行地域の居住者およびそのような地域への旅行者はリスクが高い。
米国,カナダ,および欧州では,Cyclospora cayetanensisのアウトブレイクの報告が増加している。米国では,毎年約1000~2000例のサイクロスポーラ症が米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)に報告されており(CDC: Outbreak Investigations and Updatesを参照),これより多い数の症例が報告されていない可能性もある。サイクロスポーラ症のアウトブレイクは,通常は夏季に発生し,ラズベリーやブラックベリー,イチゴ,ブルーベリー,バジル,シラントロ(コリアンダー,パクチー,シャンツァイ),サヤエンドウ,スナップエンドウ,加工された生野菜,様々な種類のレタスといった生鮮食品の摂取との関連が認められる(1)。2019年,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)と米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は,アウトブレイクの増加と米国内で栽培された農産物におけるC. cayetanensisの検出増加に対処するべく,Cyclospora Task Forceを設立した(FDA: Cyclospora Prevention, Response and Research Action Planを参照)。
Image from the Centers for Disease Control and Prevention, Global Health, Division of Parasitic Diseases and Malaria.
C. cayetanensisの生活環はクリプトスポリジウムのそれに類似しているが,便中に排泄されるオーシストが胞子形成をしていないという点で異なる。そのため,排泄されたばかりの便中のオーシストは感染力をもたず,直接的な糞口感染は起こりえない。オーシストは,環境中で数日から数週間かけて胞子形成するため,ヒトからヒトへの直接的な伝播の可能性は低い。胞子形成したオーシストは,汚染された食品または水を介して摂取され,消化管内で脱嚢し,スポロゾイトを放出する。スポロゾイトは小腸の上皮細胞内に侵入し,増殖してオーシストへと成熟し,これが便中に排泄される。
総論の参考文献
1.Mathison BA, Pritt BS.Cyclosporiasis-Updates on Clinical Presentation, Pathology, Clinical Diagnosis, and Treatment. Microorganisms.2021;9(9):1863.Published 2021 Sep 2.doi:10.3390/microorganisms9091863
サイクロスポーラ症の症状と徴候
サイクロスポーラ症の主な症状は,突然生じる非血性の水様性下痢で,発熱,腹部痙攣,悪心,食欲不振,倦怠感,および体重減少を伴う。免疫能が正常な患者では,通常は自然に消退するが,数週間続くこともある。症状が改善した後,再発することがある。
末期のヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症患者のように細胞性免疫が抑制された宿主では,サイクロスポーラ症によりクリプトスポリジウム症と類似する重度かつ難治性で多量の下痢が生じうる。末期HIV感染症患者の腸管外疾患としては,胆嚢炎や播種性感染症などが生じうる。
サイクロスポーラ症の診断
便中のオーシストの鏡検
便中の寄生虫DNAの検出
サイクロスポーラ症の診断は,便検体を用いて分子生物学的検査で寄生虫DNAを検出するか,または鏡検でオーシストを検出することによる。Ziehl-Neelsen染色変法またはKinyoun抗酸菌染色法は,サイクロスポーラ(Cyclospora)のオーシストの同定に役立つ。サイクロスポーラ(Cyclospora)のオーシストは自家発光する。サイクロスポーラ(Cyclospora)のオーシストは球形で,形態的にクリプトスポリジウム(Cryptosporidium)のオーシストに似るが,より大きい。
オーシストの分泌は間欠的となる場合があるため,複数(3回以上)の便検体が必要になることがある。
C. cayetanensisの分子生物学的診断は主に,消化管内の様々な病原体に対する複合アッセイによる。
ときに,腸管組織の生検で細胞内寄生期の寄生虫が検出される場合に限り診断が下される。
サイクロスポーラ症の治療
トリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP/SMX)
あるいは,シプロフロキサシンまたはニタゾキサニド(nitazoxanide)
大半の健常者は無治療で回復する。無治療での罹病期間は数日のこともあれば,1カ月以上に及ぶこともあり,再発の可能性もある。
サイクロスポーラ症に対する第1選択の治療は,TMP/SMXの2倍量の錠剤を7~10日間投与する。
末期のHIV感染症患者では,高用量かつ長期の投与が必要になることがあり,急性感染症の治療では通常,再発予防のため,続けて長期の再発抑制療法(TMP/SMXの2倍量[160mg/800mg]錠剤1錠を週3回)を行う。抗レトロウイルス療法の開始と最適化が重要である。
シプロフロキサシンがTMP/SMXの代替薬である。
スルホンアミド系薬剤に耐えられず,かつシプロフロキサシンに対して耐性がみられる患者では,ニタゾキサニド(nitazoxanide)がTMP/SMXの代替薬である。サイクロスポーラ症に対するニタゾキサニド(nitazoxanide)の効力は71~87%と報告されている。
サイクロスポーラ症の予防
便で汚染された可能性がある食品や水を摂取しないようにすることが,サイクロスポーラ症を予防する最善の方法である。
サイクロスポーラ症が流行している地域(熱帯および亜熱帯地域など)への旅行者は,薬品による日常的な消毒や殺菌法で水や食品を処理してもサイクロスポーラが死滅する可能性は低いことを認識しておくべきである。(Centers for Disease Control and Prevention [CDC]: Parasites - Cyclosporiasis: Prevention & ControlおよびCDC Yellow Book: Cyclosporiasisを参照のこと。)国際旅行者向けの詳細な推奨事項は,CDC Yellow Book: Food & Water Precautionsから入手できる。
流行地域では,飲料水は煮沸し,皮を剥いていない果物は避け,野菜は十分に加熱調理するべきである。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。



