マンソネラ症

執筆者:Richard D. Pearson, MD, University of Virginia School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 9月
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    マンソネラ症とは,常在糸状虫(Mansonella perstans),M. ozzardi,およびM. streptocercaによって引き起こされる疾患のことを指す。ヌカカまたはブユの刺咬を介して伝播する。この感染症はしばしば無症状となるが,症状が現れることもある。M. perstansおよびM. ozzardi感染症の診断は,血液塗抹標本でミクロフィラリアを同定することによって確定され,どちらの種でも明確な周期性がみられないため,採血はいつ行ってもよい。M. streptocerca感染症の診断は,皮膚小片または生検検体でのミクロフィラリアの同定に基づく。治療法は感染しているマンソネラ(Mansonella)の種類によって異なる。

    寄生虫感染症へのアプローチおよびフィラリア感染症の概要も参照のこと。)

    常在糸状虫

    常在糸状虫(Mansonella perstans)は,サハラ以南アフリカと中南米のパナマからアルゼンチンにかけた地域においてヌカカ(Culicoides)に刺されることで伝播される。世界で1億人以上が感染していると推定される。成虫は胸腔内,心嚢内,腹腔内や後腹膜および腸間膜に寄生する。無鞘のミクロフィラリアが血流中にみられる。ヌカカは感染したヒトから吸血する際に寄生虫を獲得する。

    ほとんどの感染は無症状であるか軽度の症状のみとなる。移行する成虫により,Loa loaの場合と同様に,一時的な皮下腫脹(calabar swelling),心膜または胸膜の炎症,結膜結節,網膜損傷,眼周囲の炎症などが引き起こされることがある。非特異的な症状として,そう痒,蕁麻疹,関節痛,倦怠感などがみられる。まれに,常在糸状虫(M. perstans)によって精神神経症状,髄膜脳炎,肝炎が発生することがある。

    常在糸状虫(M. perstans)感染症の診断は,血液塗抹標本で無鞘のミクロフィラリアを同定することによる。ミクロフィラリアは昼夜を問わず血中に確認できる。好酸球増多 がしばしばみられる。

    常在糸状虫(M. perstans)は,他のフィラリア感染症の治療に使用されるジエチルカルバマジンなどの薬剤に比較的耐性がある。常在糸状虫(M. perstans)の成虫の体内に内部共生菌であるボルバキア(Wolbachia)がみられる地域もあるが,全ての地域でみられるわけではない。ボルバキア(Wolbachia)がいる場合,ドキシサイクリンによる治療で治癒する可能性がある。

    Mansonella ozzardi

    Mansonella ozzardiは,中南米のほか,いくつかのカリブ諸島でみられる風土病である。ヒトが主な病原体保有生物である。M. ozzardiはヌカカまたはブユ(Simulium amazonicum)に刺されることで伝播される。生活環は,成虫がリンパ管と胸腔および腹腔に存在することを除き,M. perstansの生活環と同様である。ミクロフィラリアは血中にも皮膚にもみられる。 

    M. ozzardiの感染者は大半が無症状であるが,皮疹,リンパ節腫脹,関節痛,発熱,頭痛,または肺症状を呈する場合もある。M. ozzardiのミクロフィラリアによる角膜炎が,ブラジルのアマゾン地域で報告されている。

    M. ozzardi感染症の診断は,血液または皮膚検体中でミクロフィラリアを同定することにより確定される。血液の採取時刻は問わない。好酸球増多がよくみられる。感染を同定する上で血清学的検査が有用になる場合もあるが,その特異度は低い。

    治療はイベルメクチン(経口,200μg/kg)による。ロア糸状虫(Loa loa)の多数寄生のある患者にイベルメクチンを投与すると,重度の反応が起こる可能性があるため,回旋糸状虫に加えてロア糸状虫(別の糸状虫の種類)の流行地でもある中央アフリカに行ったことのある患者では,イベルメクチンを投与する前にこの寄生虫の同時感染がないか評価すべきである。M. ozzardiには内部共生菌としてボルバキア(Wolbachia)がみられるが,ドキシサイクリンの治療効果は評価されていない。

    Mansonella streptocerca

    M. streptocercaは,西および中央アフリカならびにウガンダの熱帯雨林で伝播している。M. streptocercaの保有率は不明である。ヒト以外の霊長類はときに感染するが,主な病原体保有生物ではない。M. streptocercaの生活環は,成虫が体幹上部および肩領域の真皮に存在することを除き,常在糸状虫(M. perstans)のそれと同様である。ミクロフィラリアは皮膚にみられる。M. streptocercaの感染者は大半が無症状である。真皮の肥厚,色素脱失斑,および両側腋窩または鼠径部のリンパ節腫脹がみられることがある。回旋糸状虫と異なり,M. streptocercaの成虫は皮下結節を形成しない。

    M. streptocerca感染症の診断は,皮膚小片または生検検体でのミクロフィラリアの同定による。好酸球増多がよくみられる。このフィラリア感染症を同定する上で血清学的検査が有用となる場合もあるが,特異度は低い。

    M. streptocerca感染症の治療には,ジエチルカルバマジン(DEC)が2mg/kg,経口,1日3回,12日間で使用される。DECはミクロフィラリアと成虫の両方を殺傷する。ただし,死滅するミクロフィラリアから抗原が放出されることで,皮膚および全身症状を悪化させる可能性がある。重度の有害作用が生じる可能性があるため,回旋糸状虫(O. volvulus)の同時感染またはロア糸状虫(Loa loa)の多数寄生がある患者にはDECを投与してはならない。

    イベルメクチン(150μg/kg,単回投与)は,M. streptocercaのミクロフィラリアの量を減少させるが,感染経過に与える影響は不明である。ロア糸状虫(Loa loa)の多数寄生のある患者にイベルメクチンを投与すると,重度の反応が起こる可能性があるため,回旋糸状虫に加えてロア糸状虫(別の糸状虫の種類)の流行地でもある中央アフリカに行ったことのある患者では,イベルメクチンを投与する前にこの寄生虫の同時感染がないか評価すべきである。M. streptocercaにボルバキア(Wolbachia)が感染しているかどうか,またドキシサイクリンが治療に役立つかどうかは不明である。

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