リポグリコペプチド系

執筆者:Brian J. Werth, PharmD, University of Washington School of Pharmacy
レビュー/改訂 2020年 5月
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テラバンシン(telavancin),ダルババンシン(dalbavancin),およびオリタバンシン(oritavancin)はリポグリコペプチド系薬剤であり,グリコペプチド系薬剤(例,バンコマイシン)に関連する半合成の抗菌薬である。リポグリコペプチド系薬剤は,専らグラム陽性細菌にのみ殺菌作用を示す。リポグリコペプチド系薬剤は,細菌の細胞壁合成阻害と細胞膜の構造不全を引き起こす。

薬物動態

リポグリコペプチド系薬剤は経口吸収されず,静注製剤としてのみ利用できる。リポグリコペプチド系薬剤は肺胞上皮被覆液と皮膚の水疱によく移行する。

テラバンシン(telavancin)の半減期は7~9時間であり,PAE(postantibiotic effect)の持続時間は約4時間である。ダルババンシン(dalbavancin)の半減期は204時間,オリタバンシン(oritavancin)の半減期は245時間と長く,そのためこれらの薬剤では単回投与のレジメンが可能である。

テラバンシン(telavancin)は腎臓から排泄されるため,腎機能不全のある患者では用量調節が必要となる。

リポグリコペプチド系薬剤の適応

リポグリコペプチド系薬剤は以下のようなグラム陽性細菌に広く活性を示す:

オリタバンシン(oritavancin)はvanA遺伝子を有するバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)株に対して活性を示すが,ダルババンシン(dalbavancin)およびテラバンシン(telavancin)は活性を示さない。ダルババンシン(dalbavancin),オリタバンシン(oritavancin),およびテラバンシン(telavancin)はvanB VREに対して活性を有する。

テラバンシン(telavancin)は,黄色ブドウ球菌(S. aureus)の感受性株による複雑性の皮膚・皮膚組織感染症,ならびに院内感染および人工呼吸器関連の細菌性肺炎に対して使用される。

長時間作用型のリポグリコペプチド系薬剤であるダルババンシン(dalbavancin)およびオリタバンシン(oritavancin)は,複雑性皮膚・皮膚組織感染症の治療に使用されるが,より侵襲性の高い感染症の治療として現在も研究が続けられている。

リポグリコペプチド系薬剤の禁忌

リポグリコペプチド系薬剤は,同薬剤に対するアレルギーがある患者では禁忌である。交差反応を起こす可能性があるため,バンコマイシンまたはその他のグリコペプチド系薬剤に対するアレルギーがある患者には注意して使用すべきである。

妊娠中および授乳中の使用

リポグリコペプチド系薬剤は,動物試験で胎児の発育にいくらかの悪影響を与えたことが示されているが,妊婦における安全性データは限られている。リポグリコペプチド系薬剤を妊婦に使用するのは,ベネフィットが胎児に対する潜在的リスクを上回る場合に限定すべきである。

ヒト母乳中への排泄に関するデータはないが,リポグリコペプチド系薬剤はラットの母乳中に排泄されることが知られている。

リポグリコペプチド系薬剤の有害作用

リポグリコペプチド系薬剤の頻度の高い有害作用としては以下のものがある:

  • 悪心および嘔吐

  • 味覚異常

  • 泡状の尿

テラバンシン(telavancin)およびオリタバンシン(oritavancin)を使用している患者では,一定の期間にわたり凝固検査の測定値(プロトロンビン時間/部分トロンボプラスチン時間[PT/PTT])が偽高値を示すことがある。したがって,これらの抗菌薬を投与する前に採血を行い,これらの検査を実施しておくべきである。テラバンシン(telavancin)は尿タンパク検査に干渉する。

重大な有害作用としては以下のものがある:

  • 中等度/重度の腎障害(クレアチニンクリアランス ≤ 50mL/min)がすでにあり,細菌性の院内肺炎/人工呼吸器関連肺炎に対してテラバンシン(telavancin)による治療を受けた患者では,バンコマイシンによる治療を受けた患者と比べて死亡率が高い

  • ヒスタミンを介したそう痒と顔面,頸部,および肩の紅潮(これらはバンコマイシンでみられるレッドマン症候群と類似する)

  • 腎毒性(バンコマイシンよりもテラバンシン(telavancin)の方が発生頻度が高い),ただしダルババンシン(dalbavancin)またはオリタバンシン(oritavancin)では関連が認められていない

  • テラバンシン(telavancin)では,QTc延長

既知の腎機能障害もしくは腎機能障害の素因となる疾患(例,糖尿病,高血圧,心不全)がある患者,または腎毒性の可能性のある薬剤を使用している患者では,テラバンシン(telavancin)による腎毒性が起こる可能性がより高い。腎機能を投与開始前に評価し,少なくとも48~72時間毎にモニタリングすべきである。

リポグリコペプチド系薬剤の急速静注に伴うそう痒および紅潮は,以下のように長時間の点滴にすることで予防できる:

  • テラバンシン(telavancin):60分以上

  • オリタバンシン(oritavancin):3時間以上

  • ダルババンシン(dalbavancin):30分以上

いずれの場合も,点滴に伴って紅潮およびそう痒の徴候がみられた場合には,投与時間を延長できる。

テラバンシン(telavancin)の臨床試験において健常被験者にQTc延長が発生したことから,テラバンシンは注意して使用すべきであり,QT間隔を延長させる薬剤を使用している患者に投与してはならない。テラバンシン(telavancin)は,先天性QT延長症候群,既知のQTc延長,非代償性心不全,または重度の左室肥大のある患者に使用してはならない(これらの疾患を有する患者は臨床試験から除外された)。

リポグリコペプチド系薬剤の投与に関する留意事項

ダルババンシン(dalbavancin)の用量は,クレアチニンクリアランスが30mL/min未満の患者では減量すべきである;医師は1125mgを単回投与するか,750mgの単回投与から1週間後に375mgを投与すべきである。

オリタバンシン(oritavancin)では腎機能に応じた用量の調整は不要と考えられるが,腎不全の患者への推奨を支持する十分な研究はなされていない。

テラバンシン(telavancin)の用量はクレアチニンクリアランスに基づいて決定する:

  • クレアチニンクリアランス > 50mL/min:10mg/kg,静注,24時間毎

  • クレアチニンクリアランス30~50mL/min:7.5mg/kg,24時間毎

  • クレアチニンクリアランス10~30mL/min:10mg/kg,48時間毎

  • クレアチニンクリアランス < 10mL/min:データが限られており,利用できる推奨値はない

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