ブラストミセス症

(Gilchrist病;北米ブラストミセス症)

執筆者:Sanjay G. Revankar, MD, Wayne State University School of Medicine
レビュー/改訂 2019年 7月
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ブラストミセス症は,二相性真菌であるBlastomyces dermatitidisの胞子を吸入することで発生する肺感染症であり,ときに真菌が血行性に拡大して肺外感染症を引き起こす。症状は肺炎によるものか,複数臓器(最も頻度が高いのは皮膚)への播種によるものである。診断は臨床所見,胸部X線,またはその両方により行い,検査室での真菌の同定により確定される。治療はイトラコナゾール,フルコナゾール,またはアムホテリシンBによる。

真菌感染症の概要も参照のこと。)

北米におけるブラストミセス症の流行地域としては,以下が挙げられる:

  • オハイオ川・ミシシッピ川流域(中部大西洋沿岸地域および南東州に及ぶ)

  • 北部中西部

  • アップステート・ニューヨーク

  • カナダ南部

まれに,中東やアフリカでも感染が発生している。

免疫能正常者もこの感染症に罹患する可能性がある。ブラストミセス症は,易感染性患者で頻度および重症度が高くなる場合があるものの,ヒストプラズマ症コクシジオイデス症よりは頻度の低い日和見感染症である。

B. dermatitidisは,動物の排泄物に富む土壌や,しばしば河川付近にある湿潤した腐敗性の酸性有機物中において,常温で糸状菌として発育する。

吸入された胞子は肺内で侵襲性の高い大型の酵母(15~20μm)に変化し,基底部の広い特徴的な芽細胞を形成する。

肺に感染した場合は,以下のように経過する:

  • 肺に限局した状態を維持する

  • 血行性に播種する

血行性播種により皮膚,前立腺,精巣上体,精巣,腎臓,椎骨,長管骨骨端,皮下組織,脳,口腔または鼻粘膜,甲状腺,リンパ節,および骨髄など,多数の臓器に病巣感染を引き起こすこともある。

ブラストミセス症の症状と徴候

肺ブラストミセス症は,無症状に経過する場合や,しばしば気づかれないまま自然に消退する急性感染症を呈する場合がある。潜行性に始まり,進行性の慢性感染症に発展する場合もある。症状は湿性または乾性の空咳(hacking cough),胸痛,呼吸困難,発熱,悪寒,および大量の発汗などである。

ときに胸水が生じる。一部の患者は急速進行性感染症を呈し,急性呼吸窮迫症候群を発生することがある。

肺外

肺外播種性ブラストミセス症では,症状は侵された臓器に応じて異なる。

播種部位としては皮膚病変が圧倒的に多く,単発性の場合と多発性の場合があり,また臨床的に明らかな肺病変を伴う場合と伴わない場合がある。通常,露出面に丘疹または丘疹性膿疱が生じ,緩徐に拡大する。進展する境界部に,針先大から直径1mmまでの痛みを伴わない膿瘍が形成される。表面には不規則な疣状乳頭を形成する。ときに水疱が発生する。病変の拡大に伴い,中央部は治癒して萎縮性瘢痕を形成する。十分に発達した個疹は,隆起した疣状斑のように見え,通常は幅2cm以上で,辺縁部は傾斜が急で赤紫色を呈し,膿瘍が散在する。細菌の重複感染がある場合,潰瘍が生じる。

肺外ブラストミセス症の画像
肺外ブラストミセス症(潰瘍性)
肺外ブラストミセス症(潰瘍性)
左の写真のように潰瘍の基部に著明な滲出液を認める場合もあれば,右の写真のように滲出液が比較的少ない場合もある。

© Springer Science+Business Media

肺外ブラストミセス症(微小膿瘍を伴う潰瘍性)
肺外ブラストミセス症(微小膿瘍を伴う潰瘍性)
この画像には,痂皮形成を伴う隆起した境界不整な潰瘍性皮膚病変と,その周囲に生じた小さな微小潰瘍が写っている。

© Springer Science+Business Media

肺外ブラストミセス症(軽度および重度の皮膚病変)
肺外ブラストミセス症(軽度および重度の皮膚病変)
左の写真には,外鼻孔の下に生じたやや目立つ丘疹が写っている。右の写真には,鼻に生じた組織破壊と感染を伴う疣状の潰瘍性病変が写っている。

© Springer Science+Business Media

肺外ブラストミセス症(水疱)
肺外ブラストミセス症(水疱)
肺外ブラストミセス症は皮膚または性器に発生する。皮膚病変は丘疹,膿疱,または水疱として発現する。この写真には,水疱性皮膚病変が写っている。

Image courtesy of the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

肺外ブラストミセス症(疣状)
肺外ブラストミセス症(疣状)
肺外ブラストミセス症は皮膚または性器に発生する。皮膚病変は疣状乳頭ないし疣状の外観を呈する。この写真には,疣状の皮膚病変が写っている。

Image courtesy of www.doctorfungus.org © 2005.

骨病変が発生した場合,骨を覆う領域に,腫脹,熱感,および圧痛を認める。

性器病変は,疼痛を伴う精巣上体の腫脹,会陰深部の不快感,または直腸診での前立腺の圧痛を引き起こす。

中枢神経系感染は,脳膿瘍,硬膜外膿瘍,または髄膜炎として発症する可能性がある。

ブラストミセス症の診断

  • 真菌培養および塗抹鏡検

  • Blastomyces尿抗原

ブラストミセス症が疑われる場合は,胸部X線撮影を行うべきである。限局性またはびまん性浸潤影を認めることがあり,ときに肺門から扇形に広がる斑状気管支肺炎を呈する。これらの所見は肺炎の他の原因(例,他の真菌症,結核,腫瘍)と鑑別する必要がある。

皮膚病変は,スポロトリクム症,結核,ヨード中毒,または基底細胞癌と誤診される可能性がある。性器病変は結核に類似することがある。

感染材料の培養を行い,陽性であれば確定診断となる。Blastomyces属真菌の培養は検査室のスタッフを重度のバイオハザードに曝す可能性があるため,疑われる診断を検査室に連絡しておくべきである。組織または喀痰の鏡検で認められる菌の特徴的外観によっても,しばしば診断可能である。

血清学的検査は高感度ではないが,陽性の場合は有用である。

尿中抗原検査は有用であるが,Histoplasma属との交差反応性が強い。

分子生物学的診断検査(例,ポリメラーゼ連鎖反応[PCR]法)が利用可能になってきている。

ブラストミセス症の治療

  • 軽症から中等症の患者には,イトラコナゾール

  • 生命を脅かす重症感染には,アムホテリシンB

抗真菌薬およびInfectious Diseases Society of AmericaのPractice Guidelines for the Management of Blastomycosisも参照のこと。)

無治療のブラストミセス症は,通常は緩徐に進行し,まれに最終的に死に至る。

ブラストミセス症の治療法は感染の重症度に依存する。

軽症から中等症の患者には,イトラコナゾール200mg,経口,1日3回で3日間に続いて200mg,経口,1日1回または1日2回で6~12カ月間投与する。フルコナゾールは有効性で劣るようであるが,イトラコナゾールに耐えられない軽症患者には,400~800mg,経口,1日1回の用量で試みてもよい。

生命を脅かす重症感染症には,通常はアムホテリシンBの静注が効果的である。Infectious Diseases Society of Americaのガイドラインでは,アムホテリシンB脂質製剤3~5mg/kg,1日1回またはアムホテリシンBデオキシコール酸製剤0.7~1.0mg/kg,1日1回の投与を1~2週間または症状が改善するまで行うことが推奨されている。

症状が改善したら,治療法を経口イトラコナゾールに変更し,用法・用量は200mg,1日3回,3日間に続いて200mg,1日2回で12カ月以上投与する。

中枢神経系ブラストミセス症の患者,妊娠中の患者,および易感染性患者には,静注のアムホテリシンB(できればリポソーム化アムホテリシンB)を,生命を脅かす感染症の場合と同じスケジュールで投与する。

ボリコナゾール,イサブコナゾール(isavuconazole),およびポサコナゾールはB. dermatitidisに活性を示すが,臨床データは限られており,これらの薬剤の役割はいまだ明確にされていない。

ブラストミセス症の要点

  • 二相性真菌であるBlastomycesの胞子を吸入することで肺感染症が生じるほか,頻度は低いが播種性感染(特に皮膚)を生じることもある。

  • 北米におけるブラストミセス症の流行地域は,五大湖周辺とオハイオ川・ミシシッピ川流域(中部大西洋沿岸地域および南東州に及ぶ)である。

  • 診断は感染材料の培養を使用し,血清学的検査は特異的であるが感度はあまりよくない。

  • 軽症から中等症の患者には,イトラコナゾールを使用する。

  • 重症の患者には,アムホテリシンBを使用する。

ブラストミセス症についてのより詳細な情報

  1. Infectious Diseases Society of America’s Practice Guidelines for the Management of Blastomycosis

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