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エキノコックス症

(包虫症)

執筆者:

Richard D. Pearson

, MD, University of Virginia School of Medicine

レビュー/改訂 2020年 3月
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エキノコックス症は,単包 条虫 条虫感染症の概要 条虫類は全て,虫卵,幼虫,および成虫の3段階を経る。成虫は終宿主である肉食性哺乳類の腸管に生息する。ヒトに感染するいくつかの条虫の成虫には,主な中間宿主に基づく以下の別名がある: 魚条虫(fish tapeworm)(裂頭条虫科[Diphyllobothriidae]に属する複数種の条虫)... さらに読む Echinococcus granulosus)の幼虫による感染症(単包性エキノコックス症,単包虫症)または多包条虫(E. multilocularis)の幼虫による感染症である(多包虫症)。症状は感染臓器によって異なり,例えば,肝嚢胞があれば黄疸と腹部不快感が,肺嚢胞があれば咳嗽,胸痛,および喀血がみられる。嚢胞が破裂することで,発熱,蕁麻疹,および重篤なアナフィラキシー反応を来すこともある。診断は画像検査,嚢胞液検査,または血清学的検査による。治療はアルベンダゾール,手術,もしくはその両方または嚢胞内容物吸引および殺頭節薬の注入による。

単包条虫(E. granulosus)は,地中海,中東,オーストラリア,ニュージーランド,南アフリカ,および南米の牧羊地域でよくみられる。イヌが終宿主であり,その消化管に成虫を保有し,草食動物(例,ヒツジ,ウマ,シカ)またはヒトは中間宿主で,肝臓または他の臓器に嚢胞性病変が発生する。カナダ,アラスカ,およびカリフォルニア州にも発生地域がある。

多包条虫(E. multilocularis)の成虫はキツネ,コヨーテ,およびイヌに寄生し,幼虫は小型の野生齧歯類にみられる。ときにヒトへの感染が起きるが,その主な感染源は感染したイヌである。多包条虫(E. multilocularis)は主に中欧,アラスカ,カナダ,およびシベリアで発生する。米国本土の自然感染地域は,ワイオミング州および南北ダコタ州から中西部地域の北部へ広がっている。

まれに,Echinococcus vogeliiまたはEchinococcus oliganthusがヒト(主として肝臓)において包虫症を引き起こす。本疾患は多嚢胞性(E. vogelii)の場合と単嚢胞性(E. oliganthus)の場合がある。これらの種は中南米でみられる。

エキノコックス症の病態生理

動物の糞便を介して摂取された虫卵(イヌまたは他の動物の皮毛中にみられることがある)は腸管内で孵化し,六鉤幼虫(幼虫被殻に覆われた条虫の未熟型)を放出する。六鉤幼虫は腸壁から侵入して血行性に移行し,肝臓もしくは肺,またはより頻度は低いが脳,骨,もしくは他の臓器に達する。ヒトの消化管には成虫は存在しない。

組織内では,単包条虫(E. granulosus)の六鉤幼虫はシストとなり,これが緩徐に(通常は何年もかけて)発育し,液体の充満した大きな単房性の病変(すなわち包虫嚢胞)となる。それらの嚢胞の中には,小さな感染性原頭節を多数含んだ繁殖胞が形成される。大きな嚢胞には,何百万もの原頭節に加えて,抗原性の高い包虫液が1L以上含まれることがある。ときに一次嚢胞の内外に娘嚢胞を形成する。肝内の嚢胞に漏出または破裂が起きると,感染が腹膜に拡大する可能性がある。

多包条虫(E. multilocularis)は,局所侵襲性で外科的治療が困難または不可能な海綿状の腫瘤を生じる。嚢胞は主に肝臓にみられるが,肺,または他の組織にみられることもある。嚢胞は大きくないが,周辺組織に侵入,破壊し,肝不全および死を招くことがある。

エキノコックス症の症状と徴候

多くの場合小児期に感染するが,嚢胞が重要臓器にある場合を除き,エキノコックス症の臨床徴候は何年間も現れないことがある。症状および徴候は占拠性腫瘍に類似することがある。

肝嚢胞は,最終的に腹痛または触知可能な腫瘤を引き起こすことがある。胆管が閉塞されると黄疸が生じうる。胆管,腹腔,または肺への破裂により,発熱,蕁麻疹,または重篤なアナフィラキシー反応が引き起こされることがある。

肺嚢胞は破裂することがあり,咳嗽,胸痛,および喀血を引き起こす。

エキノコックス症の診断

  • 画像検査

  • 血清学的検査

  • 嚢胞液の検査

娘嚢胞および包虫砂(原頭節および残屑)が存在すれば,腹部CT,MRI,および超音波検査で肝臓に単包性エキノコックス症に特有の所見がみられることがあるが,単純な包虫嚢胞は良性嚢胞,膿瘍,良性または悪性腫瘍との鑑別が難しい。吸引した嚢胞液中の包虫砂の存在は診断に有用である。世界保健機関(World Health Organization:WHO)の基準では,画像検査の結果を用いて嚢胞をactive(活動期),transitional(移行期),またはinactive(非活動期)に分類する(1 治療に関する参考文献 エキノコックス症は,単包 条虫(Echinococcus granulosus)の幼虫による感染症(単包性エキノコックス症,単包虫症)または多包条虫(E. multilocularis)の幼虫による感染症である(多包虫症)。症状は感染臓器によって異なり,例えば,肝嚢胞があれば黄疸と腹部不快感が,肺嚢胞があれば咳嗽,胸痛,および喀血がみられる。嚢胞が破裂することで,発熱,蕁麻疹,および重篤なアナフィラキシー反応... さらに読む 治療に関する参考文献 )。肺病変は,胸部X線上で円形または不規則な肺腫瘤として現れることがある。多包性エキノコックス症は典型的には浸潤性の腫瘤として現れる。

血清学的検査(酵素免疫測定法,間接赤血球凝集反応法)は感染の検出感度が高く,免疫拡散法(arc 5)またはイムノブロット法を用いてエキノコックス抗原を証明することによって診断を確定できる。血算で好酸球増多を認めることがある。

エキノコックス症の治療

  • 肝臓の単包虫症に対しては,active(活動期)またはtransitional(移行期)と判定された大きなまたは合併症を伴う嚢胞性病変に対して外科的切除 + アルベンダゾール

  • 小さい嚢胞,active(活動期)の嚢胞,またはtransitional(移行期)の嚢胞に対しては,経皮的吸引に続いて殺頭節薬の注入および再吸引(PAIR:percutaneous aspiration followed by instillation of a scolicidal agent and reaspiration)+ アルベンダゾール

  • active(活動期)またはtransitional(移行期)と判定された単房性の小さな単純性嚢胞に対して;および手術不能な病変に対してはアルベンダゾール単独

  • inactive(非活動期)と判定された嚢胞には経過観察のみ

  • 多包性エキノコックス症に対しては,外科的切除(可能であれば)+ アルベンダゾール

外科的切除(ときに腹腔鏡下)により,完治しうる。一部の医療機関では,小さな(< 5cm)単房性の単純性嚢胞に対して,CTガイド下の経皮的吸引を施行した後,殺頭節薬(例,高張食塩水)の注入と再吸引が行われる(PAIR[percutaneous aspiration-injection-reaspiration]と呼ばれる)。手術中に嚢胞内容物が漏出したり,不注意で内容物が取り残されたりした場合に起こりうる転移性感染を予防するため,アルベンダゾールを典型的には手術またはPAIRの1週間前から開始し,術中と術後少なくとも4週間(臨床反応および画像検査の反応に応じて最長6カ月間)は投与を続ける。アルベンダゾールの用量は400mg,経口,1日2回(小児では7.5mg/kg,1日2回,最大400mg,1日2回)である。手術を行わずに数カ月間毎日この用量でアルベンダゾールを使用した場合,小さな単房性包虫嚢胞の30%が治癒しうる。この用量のアルベンダゾールが手術不能の嚢胞に対する第1選択の治療である。メベンダゾール40~50mg/kg(体重)/日の数カ月間の投与が第2選択である。

パール&ピットフォール

  • 転移性感染が起こりうるため,吸引または手術時の嚢胞内容物漏出を回避するよう注意する。

多包条虫(E. multilocularis)による多包性エキノコックス症の患者には,アルベンダゾール(上記の単包性エキノコックス症に用いられる1日用量で)を投与すべきであり,可能であればアルベンダゾールの開始から1週間以上空けて外科的切除を行うが,手術可能か否かは病変の範囲,部位,および臨床像に依存する。幼虫を全て除去しない限り,予後は不良である。アルベンダゾールを少なくとも2年間継続的に投与し,その後10年以上にわたり再発がないかを注意深く確認する。

長期の高用量アルベンダゾール療法は,骨髄抑制,肝毒性,および一時的な脱毛を引き起こすことがある。使用中は血算および肝酵素をモニタリングすることが重要である。

少数の患者が肝移植により救命されている。

治療に関する参考文献

  • 1.Nabarro LE, Amin Z, Chiodini PL: Current management of cystic echinococcosis: a survey of specialist practice.Clin Infect Dis. 60(5):721-8, 2015.doi: 10.1093/cid/ciu931.

エキノコックス症の要点

  • エキノコックス症は,摂取された条虫の虫卵が孵化し,六鉤幼虫が放出され,これが肝もしくは肺,またより頻度は低いが脳,骨,その他の臓器に移行してシストになることで発生する;ヒトの消化管内に成虫はみられない。

  • 単包条虫の嚢胞は緩徐に(通常何年もかけて),液体で満たされた大きな(最大1L)嚢胞(包虫嚢胞)に発育し,中に多数の感染性原頭節を含む。

  • 感染したイヌ(および他のイヌ科動物)の糞便が,ヒト感染の主な由来である。

  • 肝嚢胞は疼痛のほか,ときに黄疸を引き起こす;肺嚢胞は疼痛,咳嗽,および喀血を引き起こすことがある。

  • 多包条虫は大きな嚢胞は形成しないが,周辺組織に侵入して破壊し,肝不全から死に至ることがある。

  • CT,MRI,または超音波検査,嚢胞液の分析,および血清学的検査により診断する。

  • 治療法は感染しているEchinococcus属の条虫の種類,嚢胞の位置および大きさ,嚢胞の画像上の特徴によって異なるが,手術;または嚢胞の吸引,殺頭節薬の注入,および再吸引(PAIR);ならびにアルベンダゾールによる長期治療などがある。

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