感染の臨床像は局所性の場合(例,蜂窩織炎,膿瘍)と全身性の場合(大抵は 発熱 発熱 発熱とは,体温の上昇(例,口腔温 > 37.8℃または直腸温 > 38.2℃)ないしは個人の日常的な正常値を超えた体温上昇のことである。発熱は,身体の温度調節機構(視床下部にある)が正常より高い温度にリセットされることで発生する現象であり,その原因として最も多いのが感染に対する反応である。視床下部の体温設定値(セットポイント)のリセットによって引き起こされたものではない体温の上昇は,一般的に高体温(hyperthermia)... さらに読む がみられる)がある。症状は複数の器官系に発生する可能性がある。重度の全身性感染症では生命を脅かす症状も生じうる(例, 敗血症および敗血症性ショック 敗血症および敗血症性ショック 敗血症は,感染症への反応が制御不能に陥ることで生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群である。敗血症性ショックでは,組織灌流が危機的に減少する;肺,腎臓,肝臓をはじめとする急性多臓器不全が起こる場合もある。免疫能が正常な患者における敗血症の一般的な原因は,多様なグラム陽性または陰性菌などによる。易感染性患者では,まれな細菌または真菌が原... さらに読む )。ほとんどの症状は,基礎にある感染症を治療することで解消される。
臨床所見
ほとんどの感染症では脈拍数と体温が上昇するが,発熱の程度に見合った脈拍数の上昇がみられない感染症(例,腸チフス,野兎病,ブルセラ症,デング熱)もある(相対的徐脈)。循環血液量減少,敗血症性ショック,または 毒素性ショック 毒素性ショック症候群(TSS) 毒素性ショック症候群は,ブドウ球菌またはレンサ球菌の外毒素によって引き起こされる。臨床像としては,高熱,低血圧,びまん性の紅斑,多臓器不全などがみられ,重度かつ治療抵抗性のショックへと急速に進行することがある。診断は臨床所見と起因菌の分離による。治療法としては,抗菌薬,集中的な支持療法,免疫グロブリン静注療法などがある。 毒素性ショック症候群(TSS)は外毒素産生球菌により引き起こされる。ファージグループ1型黄色ブドウ球菌(Sta... さらに読む から低血圧が生じることもある。 過換気および呼吸性アルカローシスがよくみられる。
重症感染症では,中枢神経系感染の有無にかかわらず,意識状態の変化(脳症)が起こりうる。脳症は高齢者で最もよくみられる重篤な病態であり,不安,錯乱,せん妄,昏迷,痙攣発作,昏睡などを引き起こす。
血液学的所見
感染症が生じると,一般的に末梢血中の成熟および幼若好中球の数が増加する。その機構としては,辺縁プールからの動員,骨髄からの幼若顆粒球の放出,インターロイキン1およびインターロイキン6を介した骨髄からの好中球の放出,ならびにマクロファージ,リンパ球,その他の組織によるコロニー刺激因子の産生などがある。これらの現象が(例,外傷や炎症などのストレス下で)増強されると,過剰な数の幼若白血球が循環に放出され(類白血病反応),白血球数が25,000~30,000/mcL(25~30 × 109/L)まで上昇することがある。
逆に,一般的に白血球減少症を引き起こす感染症(例,腸チフス,ブルセラ症)もある。極めて重症の感染症では,著明な白血球減少症は多くの場合,予後不良の徴候である。
敗血症患者でみられる好中球の特徴的な形態学的変化として,デーレ小体,中毒性顆粒,空胞形成などがある。
貧血は組織の鉄貯蔵が十分であっても発生しうる。貧血が慢性の場合は正色素性正球性貧血であり,血清鉄は低値,総鉄結合能は低値,血清フェリチン値は正常値から高値を示すことが特徴である。
重篤な感染症は, 血小板減少症 血小板減少症:その他の原因 免疫性の原因(ウイルス感染,薬剤,結合組織疾患,リンパ増殖性疾患,輸血)または非免疫性の原因(敗血症,急性呼吸窮迫症候群)によって,血小板破壊が起きることがある。症状は,点状出血,紫斑,および粘膜出血である。臨床検査所見は,原因により異なる。病歴が本症を示唆する唯一の情報となる場合もある。治療は基礎疾患の是正である。 ( 血小板疾患の概要も参照のこと。) 急性呼吸窮迫症候群の患者は,おそらくは肺毛細血管床への血小板沈着に起因する非免疫性... さらに読む や 播種性血管内凝固症候群 播種性血管内凝固症候群(DIC) 播種性血管内凝固症候群(DIC)は,循環血中のトロンビンおよびフィブリンの異常な過剰生成に関係する。その過程で血小板凝集および凝固因子消費が亢進する。緩徐に(数週間または数カ月かけて)進行するDICでは,主に静脈の血栓性および塞栓性の症状がみられる;急速に(数時間または数日で)進行するDICでは,主に出血が生じる。重度で急速進行性のDICは,血小板減少症,部分トロンボプラスチン時間およびプロトロンビン時間の延長,血漿Dダイマー(または血... さらに読む (DIC)を引き起こすことがある。
その他の器官系
肺コンプライアンスが低下して, 急性呼吸窮迫症候群 急性低酸素血症性呼吸不全 (AHRF,ARDS) 急性低酸素血症性呼吸不全は,酸素投与に反応しない重症の動脈血低酸素血症である。これは,気腔への体液貯留または虚脱(例,左室不全による肺水腫,急性呼吸窮迫症候群)に起因する血液の肺内短絡,または血液を右から左へ循環させる心内短絡によって引き起こされる。所見には呼吸困難および頻呼吸などがある。診断は動脈血ガス測定および胸部X線による。通常,治療には機械的人工換気が必要となる。 (... さらに読む (ARDS)および呼吸筋不全に進行する場合がある。
腎臓に関する臨床像は,微量のタンパク尿から 急性腎不全 急性腎障害(AKI) 急性腎障害は,数日間から数週間で腎機能が急速に低下する病態であり,これにより,尿量減少の有無にかかわらず,血中に窒素化合物が蓄積する(高窒素血症)。原因は重度の外傷,疾患,または手術による腎臓の灌流低下である場合が多いが,ときに急速進行性の内因性の腎疾患に起因する場合もある。症状としては,食欲不振,悪心,嘔吐などがある。無治療の場合,痙攣... さらに読む (ショックおよび急性尿細管壊死,糸球体腎炎,または尿細管間質性疾患による)まで多様である。
胆汁うっ滞性黄疸(しばしば予後不良の徴候である)や肝細胞機能障害などの肝機能不全は多くの感染症で生じ,たとえ感染が肝臓に限局しない場合にもみられる。
消化管に関する臨床像としては,敗血症で発生しうるストレス潰瘍による上部消化管出血がある。
内分泌系の障害として以下のものが挙げられる:
甲状腺刺激ホルモン,バソプレシン,インスリン,およびグルカゴンの分泌亢進
代謝要求の増大に起因する骨格筋タンパク質の分解と筋萎縮
骨の脱灰
敗血症患者での低血糖の発生はまれであるが,低血糖と敗血症を併発した患者では副腎機能不全を考慮すべきである。糖尿病患者では高血糖が感染症の初期徴候となる場合がある。