クロストリジウム軟部組織感染症

(ガス壊疽;クロストリジウム筋壊死)

執筆者:Larry M. Bush, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University;
Maria T. Vazquez-Pertejo, MD, FACP, Wellington Regional Medical Center
レビュー/改訂 2019年 9月
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クロストリジウム軟部組織感染症には,蜂窩織炎,筋炎,クロストリジウム筋壊死などがある。通常,これらは外傷後に発生する。症状としては浮腫,疼痛,捻髪音を伴うガス,悪臭を伴う滲出液,感染部位の強い変色などがあり,ショックおよび腎不全に進行し,ときに死に至る。診断は視診,臭い,およびグラム染色により行い,培養で確定する。治療はペニシリンと外科的デブリドマンによる。高気圧酸素治療がときに有益である。

嫌気性細菌の概要およびクロストリジウム感染症の概要も参照のこと。)

軟部組織のクロストリジウム感染症は,外傷後に発生することもあれば,自発に発生することもある。感染の結果,典型例では軟部組織内でガスが発生する。

ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)は,この疾患に関与する菌種で最も頻度の高いものである。

クロストリジウムによる軟部組織感染症は,通常は四肢の受傷後数時間から数日で発症するが,これは重度の挫滅または穿通外傷によって組織が壊死し,嫌気的条件が成立することに起因する。異物(たとえ無菌物でも)の存在により,クロストリジウム感染症のリスクは著明に増大する。手術創に感染が起こることもあり,特に基礎疾患として閉塞性血管疾患を有する患者でその可能性が高い。

まれに自然発生例もみられるが,その原因は通常,結腸癌,憩室炎,または腸管虚血患者における未検出の結腸穿孔に起因するC. septicum菌血症である。 C. septicumは耐気性であるため,感染は正常な皮膚や軟部組織まで広く及ぶことがある。原因にかかわらず,好中球減少が併存する場合には,C. septicum菌血症が起こりやすくなることで予後不良となり,血管内溶血が起こると予後はさらに悪くなる。

壊死組織に生じる至適条件(酸化還元電位が低く,pHも低い)では,感染は急速に進行し,短い場合は1日以内に,最初の損傷からショック,中毒性せん妄を来し,最終的に死に至る。

クロストリジウム軟部組織感染症の症状と徴候

クロストリジウム蜂窩織炎は,体表の創傷に生じる限局性感染症として,通常は受傷後3日以上経過してから発生する。感染は筋膜面に沿って広範に拡大し,しばしば明らかな捻髪音と大量のガス産生を伴うが,毒性は広範な筋壊死ほど重度ではなく,疼痛はほとんどない。水疱がしばしばみられ,悪臭を帯びた褐色の漿液性滲出物を伴う。四肢の変色と肉眼的浮腫はまれである。四肢の原発性血管閉塞に合併したクロストリジウム皮膚感染症は,まれに重度の中毒性筋壊死に進行したり,分画線を越えて進行したりする。

クロストリジウム筋炎(壊死を伴わない筋肉の化膿性感染症)は,静注薬物使用者で最もよくみられる。ブドウ球菌性化膿性筋炎に類似するが,クロストリジウム筋壊死の全身症状はみられない。浮腫と疼痛のほか,しばしば組織内に気腫が生じる。感染は急速に拡大し,筋壊死に進行することがある。

クロストリジウム筋壊死(ガス壊疽)では,初期に重度の疼痛が生じることが多く,ときに他の所見の出現前からもみられる。創傷部は初期には蒼白のこともあるが,赤色または青銅色となり,しばしば小水疱ないし水疱を伴い,最終的には黒ずんだ緑色に変色する。この部位は緊張性浮腫を呈し,触診すると圧痛がある。捻髪音は初期にはクロストリジウム蜂窩織炎のそれより明白ではないが,最終的には約80%の患者で明白となる。創傷と排膿は特に強い悪臭を放つ。

病状が進行につれて,頻脈,蒼白,および低血圧を伴って重症感(toxic appearance)を呈するようになる。ショックと腎不全が生じるが,意識は終末期まで清明のままである。外傷性ガス壊疽では,約15%の患者で菌血症(ときに明らかな溶血を伴う)が発生する。

重度の溶血が発生する場合は常に,急性腎不全および敗血症のため,死亡率は70~100%に上ると予想される。

クロストリジウム軟部組織感染症の診断

  • 臨床的評価

  • グラム染色および培養

早期に疑いをもって介入を開始することが最も重要である;クロストリジウム蜂窩織炎は治療に対して良好に反応するが,筋壊死の死亡率は治療を行った場合でも40%以上で,無治療では100%である。

クロストリジウム軟部組織感染症は,臨床的評価,特に創傷および周辺領域の視診(臭いを含む)に基づいて疑われる。

限局性の蜂窩織炎,筋炎,および拡大した筋壊死は臨床的に鑑別できる場合もあるが,鑑別に外科的検索を要する場合も多い。筋壊死では,筋組織は明らかな壊死を示し,感染した筋肉は光沢のないピンク色から深紅となり,最終的には灰緑色ないしまだら状の紫色を呈し,刺激に対して収縮しなくなる。X線撮影では局在的なガス産生を認めることがあり,CTおよびMRIでは気腫および壊死の範囲が描出される。

創傷滲出液の嫌気性菌および好気性菌培養を行うべきである。Clostridium属細菌は7分毎に数が倍増するため,嫌気培養ではわずか6時間程で陽性となりうる。しかしながら,腸内細菌科細菌やBacteroides属,レンサ球菌属(Streptococcus),ブドウ球菌属(Staphylococcus属)など他の嫌気性および好気性細菌もまた,単体または混合でクロストリジウム感染症様の重度の蜂窩織炎,広範な筋膜炎,または筋壊死( see page 壊死性軟部組織感染症)を引き起こす可能性がある。また多くの創傷(特に開放創)は,病原性か非病原性かを問わず,感染症の原因菌ではないClostridium属細菌によって汚染されている。

Clostridium属細菌の存在は以下の場合に意味をもつ:

  • グラム染色により菌数が多いことが示された。

  • 滲出液中に好中球がほとんど認められない。

  • ズダン染色で遊離脂肪球がみられる。

しかしながら,好中球が豊富にみられ,塗抹標本で連鎖状の多数の球菌を認める場合には,嫌気性のレンサ球菌またはブドウ球菌感染症を疑うべきである。豊富なグラム陰性桿菌は,腸内細菌科またはBacteroides属の細菌による感染を示唆している可能性がある( see page 嫌気性菌混合感染症)。

創傷または血液中のクロストリジウム毒素の検出は,創傷性ボツリヌス症のまれな症例でのみ有用である。

クロストリジウム軟部組織感染症の治療

  • 排膿およびデブリドマン

  • ペニシリンとクリンダマイシンの併用

クロストリジウム感染症の臨床徴候(例,ガス,筋壊死)を認めた場合は,迅速かつ積極的な介入が不可欠である。徹底的な排膿とデブリドマンが抗菌薬投与と同様に重要であり,どちらの治療も迅速に開始するべきである。

重度の蜂窩織炎および筋壊死に対しては,直ちにベンジルペニシリン300~400万単位(静注,4~6時間毎)およびクリンダマイシン600~900mg(静注,6~8時間毎;毒素の産生を阻害する)を投与すべきである。クリンダマイシン単独では不十分である。グラム陰性菌が認められるか疑われる場合は,クリンダマイシンとともに広域抗菌薬(例,チカルシリン + クラブラン酸,アンピシリン + スルバクタム,ピペラシリン + タゾバクタム,カルバペネム系)を使用すべきである。ペニシリンアレルギーのある患者が生命を脅かすクロストリジウム感染症を発症した場合には,クリンダマイシンをメトロニダゾール500mg,静注,6時間毎とともに使用してよいが,他の菌の同時感染もある場合は,フルオロキノロン系などの非β-ラクタム系広域抗菌薬を黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対するバンコマイシンとともに追加すべきである。

高気圧酸素治療は,広範囲の筋壊死(特に四肢)において抗菌薬および外科的処置の補助として役立つ可能性がある。高気圧酸素治療は,早期に開始すれば組織を救済でき,死亡率および合併症発生率を低減できる可能性があるが,そのために外科的デブリドマンを遅らせてはならない。

クロストリジウム軟部組織感染症の要点

  • 急速に進行する感染症が受傷後数時間から数日で発症し,特に挫滅または穿通外傷後の壊死組織で嫌気条件が成立した際に発生する。

  • クロストリジウム蜂窩織炎では,しばしば疼痛がごく軽微となるが,筋炎および筋壊死の典型例では疼痛が強くなり,組織中のガスのため,いずれの病型でも捻髪音がよくみられる。

  • 創傷の排膿およびデブリドマンを迅速かつ徹底的に行う。

  • ペニシリンとクリンダマイシンを投与する。

  • 広範囲の筋壊死には,高気圧酸素治療を考慮するが,そのために外科的治療を遅らせてはならない。

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