(嫌気性細菌の概要 嫌気性細菌の概要 細菌は酸素に対する要求性と耐性によって以下のように分類することができる: 通性嫌気性:酸素の存在下と非存在下のどちらでも増殖する 微好気性:低濃度(典型的には2~10%)の酸素を必要とし,多くは高濃度(例,10%)の二酸化炭素を必要とするもので,嫌気的条件下での増殖は極めて不良... さらに読む および クロストリジウム感染症の概要 クロストリジウム感染症の概要 クロストリジウムは,嫌気性グラム陽性芽胞形成桿菌であり,塵埃,土壌,植物や常在菌叢として哺乳類の消化管内など,自然界に広く分布している。病原性菌種は,疾患発生に寄与する組織破壊性および神経性の外毒素を産生する。 ( 嫌気性細菌の概要も参照のこと。) Clostridium属全体で100種近くの菌種が同定されているが,ヒトまたは動物に一般的に疾患を引き起こすものは,そのうち25~30種のみである。... さらに読む も参照のこと。)
クロストリジウム壊死性腸炎は,中等度から重度のクロストリジウム感染症であり,迅速な治療を行わなければ致死的となる。
C型ウェルシュ菌(C. perfringens)は,ときに小腸(主に空腸)において重度の壊死を引き起こす。この疾患はウェルシュ菌のβ毒素によるもので,この毒素はタンパク質分解酵素に対して感受性が高く,通常の調理で不活化される。壊死は分節性で,様々な程度の出血および壁内ガスを伴った大小の斑が形成され,壊死の程度は粘膜のみの損傷から全層壊死や穿孔まで様々である。
クロストリジウム壊死性腸炎は主として,以下のような複数の危険因子をもつ集団で発生する:
タンパク質の欠乏(酵素であるプロテアーゼの合成が不十分になる)
不良な食品衛生管理
過多な食肉摂取
トリプシン阻害物質を含有する主食(例,サツマイモ)
これらの因子が多く存在する地域は,典型的にはニューギニア奥地とアフリカ,中南米,およびアジアの一部のみである。ニューギニアでは,この疾患はpigbelとして知られ,通常は汚染された豚肉,その他の食肉,およびおそらくピーナッツを介して拡大する。
重症度は軽度の下痢から劇症の経過(重度の腹痛,嘔吐,血便,敗血症性ショック,ときに24時間以内の死亡)まで様々である。
クロストリジウム壊死性腸炎の診断は,臨床像に加えてC型ウェルシュ菌(C. perfringens)の毒素を便中から検出することに基づく。
クロストリジウム壊死性腸炎の治療は,注射剤の抗菌薬(ベンジルペニシリン,メトロニダゾール)による。重篤例のおそらく50%では,穿孔,遷延性の腸閉塞,または抗菌薬治療の失敗により,手術が必要となる。流行地域では実験段階のトキソイドワクチンが有効に使用されているが,まだ市販はされていない。
好中球減少性腸炎(typhlitis)
前記の疾患と類似したこの生命を脅かす症候群は,好中球減少のある患者(例,白血病患者,がん化学療法を受けている患者)の盲腸で発生する。C. septicumによる敗血症に合併することがある。
好中球減少性腸炎の症状は発熱,腹痛,消化管出血,および下痢である。
好中球減少性腸炎の診断は以下に基づく:
症状
重度の好中球減少
腹部CT,血液および便培養,ならびに毒素検査の結果
好中球減少性腸炎は,Clostridioides(かつてのClostridium)difficile関連下痢症,移植片対宿主病,およびサイトメガロウイルスによる大腸炎と鑑別しなければならない。
好中球減少性腸炎の治療は抗菌薬によるが,手術が必要になることもある。
新生児壊死性腸炎
新生児集中治療室で発生する 新生児壊死性腸炎 壊死性腸炎 壊死性腸炎は主に早期産児および病気の新生児に起こる後天性疾患で,粘膜またはさらに深部の腸管壊死を特徴とする。新生児で最も多い消化管の緊急事態である。症候として哺乳不耐(feeding intolerance),嗜眠,体温不安定,イレウス,腹部膨隆,胆汁性嘔吐,血便,便中の還元性物質,無呼吸などがみられ,ときに敗血症の徴候もみられる。診断は臨床的に行い,画像検査によって確定する。治療は主に支持療法であり,経鼻胃管吸引,静脈輸液,完全静脈栄... さらに読む は,ウェルシュ菌(C. perfringens),C. butyricum,またはC. difficileによって引き起こされると考えられるが,これらの菌の役割については,さらなる研究が必要である。ほとんどの症例が体重1500g未満の未熟な新生児に発生する。