2009年H1N1パンデミックインフルエンザ(豚インフルエンザ)

執筆者:Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2021年 9月
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2009年H1N1パンデミックインフルエンザは,A型インフルエンザウイルスのH1N1株が原因であったが,これはブタ,トリ,ヒトのインフルエンザウイルスが遺伝学的に混合したものである。

インフルエンザも参照のこと。)

ほとんどの場合,ヒトに感染するものとはわずかに異なるインフルエンザウイルス株にブタが感染する。それらのウイルス株は非常にまれにしかヒトに伝播しないが,仮に伝播しても,その後にヒトからヒトへ伝播することは非常にまれである。

新しいH1N1インフルエンザウイルス,A(H1N1)pmd09は,当初H1N1豚インフルエンザウイルスと呼ばれており,ブタ,トリ,およびヒトのインフルエンザウイルスの混合型で,ヒトからヒトへ容易に伝播する。この感染は豚肉の摂取により起こるものではなく,極まれではあるが,感染したブタとの接触によって起こる。

2009年6月,世界保健機関(World Health Organization)はH1N1豚インフルエンザのパンデミックを宣言した。この感染症は70を超える国と米国の全50州に広がった。当初,死亡者の大半はメキシコで発生した。H1N1豚インフルエンザの発病率および死亡率は,季節性インフルエンザと比べて若年および中年成人で高く,高齢者では低かった。これはおそらく若年者に類似のインフルエンザウイルスへの曝露経験がないことが原因であると考えられる。このパンデミックは,2010年8月に後パンデミック期を迎えた。その後,パンデミックに名称をつけるため,またこのウイルスを季節性H1N1株および1918年のパンデミックH1N1株と区別するため,同ウイルスの名称はインフルエンザA(H1N1)pdm09型に統一された。2009年以降,インフルエンザA(H1N1)pdm09型は季節性インフルエンザとして流行している。

ブタに感染するものによく似たインフルエンザ株がヒトに感染した場合,その株は豚変異ウイルス(swine variant virus)と呼ばれ,「v」をつけて表記される(例,H3N2v)。米国のいくつかの州では,農業祭の際に小児および成人が家畜として飼われていた病気の豚と健康に見えた豚の両方に接触したことで,ヒトにおいてH3N2v感染症400例以上とH1N1vおよびH1N2v感染症数例が散発的に発生した。ヒトからヒトへ伝播した可能性がある症例も報告されている。H3N2vウイルスは,トリ,ブタ,ヒトのウイルスに由来する遺伝子とA(H1N1)pdm09型ウイルスに由来するマトリックス(M)遺伝子を有しており,大半の症例が2012年の夏季に発生した。

2009年H1N1パンデミックインフルエンザの症状と徴候

2009年H1N1パンデミックインフルエンザの症状,徴候,および合併症は,通常のインフルエンザと類似するが,悪心,嘔吐,および下痢の頻度がより高い可能性がある。症状は一般的に軽度であるが,重度になり肺炎または呼吸不全につながることもある。現在蔓延している分離株は,初期の病原性の一部を失ったものとみられる。

2009年H1N1パンデミックインフルエンザの診断

  • ときに呼吸器検体のPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査

PCR検査により,気道検体(例,鼻咽頭拭い液,鼻腔洗浄液,気管吸引液)からA(H1N1)pdm09型ウイルスを検出できる。軽症患者には疫学またはサーベイランス以外の目的で検査を行う必要はないが,地域病院の要件や公衆衛生上の要件はそれぞれで異なる場合がある。迅速抗原検出検査は感度が低いため,一般に検査結果が陽性の場合のみ診断上臨床的に有用となる。

2009年H1N1パンデミックインフルエンザの治療

  • ときに抗ウイルス薬

2009年H1N1パンデミックインフルエンザの治療では,主に症状の軽減(例,発熱および疼痛にアセトアミノフェンまたはイブプロフェン)に焦点を合わせる。

発症後1~2日以内に抗ウイルス薬を投与すると,発熱期間,症状の重症度,および正常の活動に戻るまでの時間が減少する。抗ウイルス薬による治療は,インフルエンザ様症状を発症している高リスク患者(全ての入院患者を含む)に推奨される;これは早期治療がこれらの患者の合併症を予防しうることを示唆するデータに基づいて推奨されている。

H1N1インフルエンザの治療薬は通常のインフルエンザ株に対するもの同じであり,次のようなものが使用される:

  • オセルタミビル,ザナミビル,およびペラミビル(ノイラミニダーゼ阻害薬)

  • バロキサビル(エンドヌクレアーゼ阻害薬,新薬)

ノイラミニダーゼ阻害薬は,感染細胞からのインフルエンザウイルスの放出を妨げることにより,ウイルスの拡散を阻害する。

エンドヌクレアーゼ阻害薬のバロキサビルは,ウイルスRNAの転写を阻害することにより,ウイルスの複製を妨げる。A型およびB型インフルエンザに対して活性があり,ノイラミニダーゼ阻害薬への耐性が発生した場合に重要な新しい治療選択肢となる可能性がある。

ザナミビルは吸入器を用いて,2パフ(10mg)を1日2回投与する;この薬剤は成人および7歳以上の小児に投与できる。ザナミビルはときに気管支攣縮を引き起こすため,反応性気道疾患のある患者に使用すべきではない;一部の患者は吸入器を使うことができない。

オセルタミビルは,12歳以上の患者には75mgを1日2回経口投与するが,1歳前後の小児には減量して投与してもよい。オセルタミビルは,ときに悪心および嘔吐を起こしうる。小児では,オセルタミビルが中耳炎の発生率を抑えうる;しかしながら,インフルエンザの治療により合併症を予防できることを明確に示すデータはこのほかに存在しない。

ペラミビルは,静注で単回投与する薬剤であり,経口薬や吸入薬に耐えられない2歳以上の患者に使用できる。B型インフルエンザに対するこの薬剤の使用を検討した研究は少ない。

バロキサビルは,12歳以上の体重40~80kgの患者には40mgを経口で単回投与し,体重80kg以上の患者には80mgを経口で単回投与する。発症から48時間以内,他の点では健康で高リスクでない12歳以上の合併症のないインフルエンザ患者に使用できる。入院患者,易感染性患者,妊婦,または重症肺炎の患者を対象とした研究は行われていない。

アダマンタン系薬剤(アマンタジンおよびrimantadine)は,かつて使用されていたが,現在および近年流行しているインフルエンザウイルスの99%以上がアダマンタン系薬剤に対する耐性を獲得しているため,現在では治療目的の使用は推奨されていない。

ほとんどの患者は,これらの薬剤を服用しなくても完全に回復する。

2009年H1N1パンデミックインフルエンザの予防

現在の季節性インフルエンザワクチンは,A(H1N1)pdm09型ウイルスに効果的である。

感染拡大を阻止するために,常識的な対策(例,インフルエンザ様症状がみられた場合は外出を控える,石鹸と水またはアルコール系の手指消毒剤で徹底的かつ頻回に手洗いをする)が推奨される。

要点

  • H1N1豚インフルエンザウイルスは,ブタ,トリ,およびヒトのインフルエンザウイルスの混合型であり,ヒトからヒトへ容易に伝播する。

  • 感染症が軽度であれば,その地域の病院や公衆衛生関連規制の要求がない限り検査は不要である。PCR検査では気道検体中のA(H1N1)pdm09ウイルスを検出できる。

  • 対症療法を行うが,インフルエンザの合併症のリスクが高い患者や重篤患者には抗ウイルス薬(例,オセルタミビル,ザナミビル,バロキサビル)を使用する。

  • 現在の季節性インフルエンザワクチンは,A(H1N1)pdm09型ウイルスに効果的である。

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