(血栓性疾患の概要 血栓性疾患の概要 健常者では,凝固を促進する力と凝固を阻止する力および線維素を溶解する力との間で 恒常性が保たれている。多くの遺伝的因子,後天的因子,および環境因子により,凝固の方向にバランスが傾き,病的な血栓が静脈(例, 深部静脈血栓症[DVT]),動脈(例, 心筋梗塞, 虚血性脳卒中),または心腔内に形成されることがある。血栓は,形成された部位で血流閉... さらに読む も参照のこと。)
抗リン脂質抗体症候群(APS)は,1つまたは複数のリン脂質結合タンパク質(例,β2糖タンパク質1,プロトロンビン,アネキシンA5)に対する種々の抗体によって引き起こされる 自己免疫疾患 自己免疫疾患 自己免疫疾患では,免疫系が内因性抗原(自己抗原)に対する抗体を産生する。以下の過敏反応が関与することがある: II型:抗体で覆われた細胞が抗体で覆われた異物粒子と同様に 補体系を活性化して,組織損傷を引き起こす。 III型:損傷の機序に抗原抗体複合体の沈着が関与する。 IV型:損傷がT細胞介在性である。 ( アレルギー疾患およびアトピー性疾患の概要も参照のこと。) さらに読む であり,血栓症と(妊娠中の)胎児死亡がみられる。
アネキシンA5はリン脂質の膜成分に結合し,凝固系活性化への細胞膜の関与を阻止している。自己抗体がアネキシンA5に取って代わると,凝血促進作用のある内皮細胞表面が露出し, 動脈または静脈血栓症 血栓性疾患の概要 健常者では,凝固を促進する力と凝固を阻止する力および線維素を溶解する力との間で 恒常性が保たれている。多くの遺伝的因子,後天的因子,および環境因子により,凝固の方向にバランスが傾き,病的な血栓が静脈(例, 深部静脈血栓症[DVT]),動脈(例, 心筋梗塞, 虚血性脳卒中),または心腔内に形成されることがある。血栓は,形成された部位で血流閉... さらに読む が誘発される可能性がある。
リン脂質に結合したβ2糖タンパク質1に対する自己抗体がみられる患者における血栓形成の正確な機序は不明である。
In vitroの凝固検査の結果では,検査開始時にリン脂質成分を血漿に加えると,リン脂質結合タンパク質に対する自己抗体が凝固因子の集合および活性化を妨げるため,逆に凝固が遅延する場合がある。ループスアンチコアグラントは,リン脂質結合タンパク質複合体に結合する自己抗体である。 全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデスは,自己免疫を原因とする慢性,多臓器性,炎症性の疾患であり,主に若年女性に起こる。一般的な症状としては,関節痛および関節炎,レイノー症候群,頬部などの発疹,胸膜炎または心膜炎,腎障害,中枢神経系障害,血球減少などがある。診断には,臨床的および血清学的な基準が必要である。重症で進行中の活動性疾患の治療には,コルチコステロイドおよび免疫抑制薬を必要とする。 全症例のうち,70~90%が女性(通常妊娠可能年齢)に起こる。... さらに読む (SLE)の患者で初めて認められたが,現在,この自己抗体をもつ人の中でSLE患者の占める割合は小さい。
静脈または動脈血栓症の別の症状がみられることもある。リン脂質に結合したプロトロンビンに対する自己抗体がみられる患者では,循環血中のプロトロンビン値が出血リスクを増大させるレベルにまで低下している場合がある。 血小板減少症 血小板疾患の概要 血小板は,凝固系で機能する細胞片である。トロンボポエチンは,その細胞質から血小板を産生・分離する巨核球を産生するよう骨髄を刺激することによって,循環血小板の数をコントロールすることに役立っている。トロンボポエチンは,肝臓において一定のペースで産生され,その循環血中濃度は,循環血小板が除去される程度のほか,おそらく骨髄の巨核球によって規定さ... さらに読む がみられる患者もいる。
劇症型抗リン脂質抗体症候群
ごく少数のAPS患者では,複数の臓器に血液を供給する細い血管に広範な血栓症が生じる(しばしば脳を含み,神経脱落症状が引き起こされる)。この症候群は劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS)と呼ばれ, 播種性血管内凝固症候群 播種性血管内凝固症候群(DIC) 播種性血管内凝固症候群(DIC)は,循環血中のトロンビンおよびフィブリンの異常な過剰生成に関係する。その過程で血小板凝集および凝固因子消費が亢進する。緩徐に(数週間または数カ月かけて)進行するDICでは,主に静脈の血栓性および塞栓性の症状がみられる;急速に(数時間または数日で)進行するDICでは,主に出血が生じる。重度で急速進行性のDICは,血小板減少症,部分トロンボプラスチン時間およびプロトロンビン時間の延長,血漿Dダイマー(または血... さらに読む (DIC), ヘパリン起因性血小板減少症 ヘパリン起因性血小板減少症 免疫性の原因(ウイルス感染,薬剤,結合組織疾患,リンパ増殖性疾患,輸血)または非免疫性の原因(敗血症,急性呼吸窮迫症候群)によって,血小板破壊が起きることがある。症状は,点状出血,紫斑,および粘膜出血である。臨床検査所見は,原因により異なる。病歴が本症を示唆する唯一の情報となる場合もある。治療は基礎疾患の是正である。 ( 血小板疾患の概要も参照のこと。) 急性呼吸窮迫症候群の患者は,おそらくは肺毛細血管床への血小板沈着に起因する非免疫性... さらに読む (HIT),および血栓性微小血管症(TMA)と混同されることがある。治療法としては,高用量のコルチコステロイド,抗凝固療法,プラズマフェレーシスなどがあるほか,ときにリツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)またはエクリズマブ(抗補体成分C5モノクローナル抗体)も使用される。
抗リン脂質抗体症候群の診断
臨床検査,部分トロンボプラスチン時間(PTT)から開始
侵襲的手技の施行が予測される患者または原因不明の出血もしくは凝固を認める患者では,PTT検査を実施する。PTTの延長がみられ,正常な血漿と1:1で混合しても直ちに是正されないが,過量のリン脂質を加えると正常に戻る場合は,ループスアンチコアグラントを疑う。
次に,リン脂質/β2糖タンパク質1複合体に結合するIgGおよびIgM抗体の免疫測定法により患者血漿中の抗リン脂質抗体を直接測定する。
抗リン脂質抗体症候群の治療
抗凝固療法
ヘパリン,ワルファリン(妊婦を除く),およびアスピリンが予防および治療に使用されている。
トロンビン(ダビガトラン)または第Xa因子(例,リバーロキサバン,アピキサバン)を阻害する 直接作用型経口抗凝固薬(DOAC) 治療 健常者では,凝固を促進する力と凝固を阻止する力および線維素を溶解する力との間で 恒常性が保たれている。多くの遺伝的因子,後天的因子,および環境因子により,凝固の方向にバランスが傾き,病的な血栓が静脈(例, 深部静脈血栓症[DVT]),動脈(例, 心筋梗塞, 虚血性脳卒中),または心腔内に形成されることがある。血栓は,形成された部位で血流閉... さらに読む が本疾患に対してヘパリンまたはワルファリンの代わりに使用できる可能性があるが,依然として確実ではない。