止血の概要

執筆者:Joel L. Moake, MD, Baylor College of Medicine
レビュー/改訂 2020年 3月
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止血,つまり損傷した血管からの出血を止めるには,以下の総合的な働きが必要である:

  • 血管因子

  • 血小板

  • 血漿中の凝固因子

この血栓を形成する傾向に対して,調節機序が平衡を保つ働きをしている。止血に異常が生じると,過度の出血または血栓症が発生するようになる。

止血の血管因子

血管因子は,局所的な血管収縮(傷害に対する即時反応)および周辺組織への血液溢出による損傷血管の圧迫を介して外傷による失血を減らす。血管壁が損傷すると,血小板の付着および活性化に加え,フィブリノーゲンからのフィブリンポリマー生成が誘発される;血小板とフィブリンが結合して血栓が形成される。

血小板

内皮細胞の一酸化窒素およびプロスタサイクリンをはじめとする様々な機序により血小板凝集が抑えられ,無傷の血管が拡張することで,血液の流動性が高められている。これらのメディエーターは,血管内皮が破綻すると,もはや生成されなくなる。このような状況になると,血小板が損傷した血管内膜に付着し,凝集塊を形成する。血小板はまず,刺激を受けた内皮細胞からすでに分泌され,内皮細胞に固着しているフォン・ヴィレブランド因子(VWF)の長鎖に粘着する。VWFは血小板膜表面上の受容体(糖タンパク質Ib/IX)に結合する。血管壁に固着した血小板は活性化する。血小板は,活性化の過程で貯蔵顆粒からアデノシン二リン酸(ADP)などの凝固メディエーターを放出する。

活性化により生じる他の生化学的変化として以下のものがある:

  • 細胞膜リン脂質の加水分解

  • アデニル酸シクラーゼの阻害

  • 細胞内カルシウムの動員

  • 細胞内タンパク質のリン酸化

アラキドン酸がトロンボキサンA2に変換されるが,この反応にはシクロオキシゲナーゼが必要であり,アスピリンによって不可逆的に,また多くのNSAID(非ステロイド系抗炎症薬)によって可逆的に阻害される。

ADP,トロンボキサンA2,その他のメディエーターは,損傷した内皮上でさらなる血小板の活性化および凝集を生じさせる。血小板のADPに対する受容体としてP2Y12受容体があるが,これはアデニル酸シクラーゼを抑制し,サイクリックアデノシン一リン酸(cAMP)濃度を下げるとともに,糖タンパク質IIb/IIIa受容体(活性化された血小板の表面膜上で糖タンパク質IIbおよびIIIaから作られる)の活性化を促進する信号を送る。隣接した血小板の糖タンパク質IIb/IIIa複合体にフィブリノーゲンが結合し,血小板同士が結合して凝集する。

血小板の表面は,凝固複合体の形成および活性化に加え,トロンビン生成のための足場となる。トロンビンによってフィブリノーゲンがフィブリンモノマーに変換され,フィブリンモノマーが重合してフィブリンポリマーとなり,凝集した血小板を束ねることで血小板-フィブリン止血栓を形成する。

血漿中の凝固因子

凝固因子が血小板および内皮細胞表面で相互作用を起こすことでトロンビンが形成され,それによりフィブリノーゲンがフィブリンに変化する。フィブリンは,止血栓から放射状に広がるとともに,止血栓を固定することによって,血栓を強固にする。

内因系経路では,第XII因子,高分子キニノーゲン,プレカリクレイン,および活性化された第XI因子(第XIa因子)の相互作用により,第IX因子が第IXa因子になる。次に,第IXa因子が第VIIIa因子および凝血促進性リン脂質(活性化血小板,内皮細胞,および組織細胞の表面に存在)と結合して複合体を形成し,第X因子を活性化する。

外因系経路では,第VIIa因子および組織因子(TF)が直接第X因子を活性化する(さらに,場合により第IX因子も活性化する―血液凝固経路の図および血液凝固反応の構成因子の表を参照)。

多くの(またはほとんどの)凝固タンパク質は,肝類洞内皮細胞などの血管内皮細胞で産生される。一部の凝固タンパク質は他の種類の細胞でも産生される場合がある(例,線維芽細胞による組織因子)。

血液凝固経路

表&コラム

内因系または外因系経路の活性化が共通系経路を活性化し,その結果フィブリン塊が形成される。この共通経路の活性化には,3つのステップが関与する:

  1. 活性化血小板,内皮細胞,および組織細胞の表面でプロトロンビナーゼが産生される。プロトロンビナーゼは,凝固促進性リン脂質表面にある酵素の第Xa因子と補因子の第Va因子の複合体である。

  2. プロトロンビナーゼは,プロトロンビンを切断してトロンビンにする。

  3. トロンビンはフィブリノーゲンからのフィブリンモノマーおよびフィブリンポリマー生成を誘導し,可溶性の第VIII因子および第XI因子を活性化する。トロンビンは,隣接するフィブリンモノマー間のより強力な共有結合形成を触媒する酵素である第XIII因子も活性化する。

カルシウムイオンは,トロンビン生成反応のほとんどで必要となるため,カルシウムイオンキレート剤(例,クエン酸塩,エチレンジアミン四酢酸)がin vitroで抗凝固薬として使用されている。ビタミンK依存性の凝固因子(第II,第VII,第IX,および第X因子)は,正常であればカルシウム架橋を介してリン脂質表面に結合し,血液凝固において機能する。ビタミンKがないと,適切に凝固反応を起こすことができない。ビタミンK依存性の凝固調節タンパク質としては,プロテインC,プロテインS,プロテインZなどがある。

凝固経路の知識は凝固障害の機序と臨床検査の評価を理解する上で役立つが,in vivoの凝固系に第XII因子,プレカリクレイン,高分子キニノーゲンは含まれていない。これらの因子が遺伝的に欠損している人々では,出血の異常が認められない。遺伝的に第XI因子が欠損している人々では,軽度から中等度の出血性疾患がみられることがある。In vitroでは,可溶性第XI因子はトロンビンにより活性化される。しかしながら,第XI因子の血漿中濃度と出血の可能性または程度との間に一貫した関係は認められない。可溶性第IX因子は,in vitroで第XIa因子と第VIIa因子/組織因子複合体のいずれによっても活性化される。

In vivoにおいては,血管が損傷して血管壁の内部および周辺細胞の細胞膜上にある組織因子に血液が触れることで,外因系経路が開始される。組織因子との接触から,第VIIa因子/組織因子複合体が生じ,この複合体が第X因子(および場合により第IX因子)を活性化する。第IXa因子は,その補因子である第VIIIa因子とリン脂質膜表面で結合して第Xa因子も生成する。正常な止血には,第IXa因子/第VIIIa因子複合体による第X因子の活性化が必要である。血友病A(第VIII因子の欠損)または血友病B(第IX因子の欠損)で出血が起こる理由は,この第VIIIおよび第IX因子の必要性から説明される。外因系凝固経路における第VIIa因子/組織因子複合体による第X因子の活性化は,血友病Aまたは血友病Bの重症患者で出血を予防するのに十分なトロンビン(およびフィブリン)を産生しない。

凝固の調節

いくつかの阻害機序により,活性化された凝固反応が抑制されており,制御不能なほどに凝固反応が拡大し,広範な局所的血栓症または播種性血管内凝固症候群が発生しないように調節されている。それらの機序としては以下のものがある:

  • 凝固因子の不活化

  • 線溶

  • 活性化された凝固因子の肝クリアランス

凝固因子の不活化

血漿プロテアーゼインヒビター(アンチトロンビン,組織因子経路インヒビター,α2マクログロブリン,ヘパリンコファクターII)は,凝固酵素を不活化する。アンチトロンビンは,トロンビン,第Xa因子,第XIa因子,および第IXa因子を阻害する。

2つのビタミンK依存性タンパク質であるプロテインCおよび遊離型プロテインSは複合体を形成し,タンパク質分解により第VIIIaおよびVa因子を不活化する。トロンビンは,内皮細胞上の受容体(トロンボモジュリン[CD141])に結合すると,プロテインCを活性化する。活性化されたプロテインCは,遊離型プロテインSおよび内皮細胞プロテインC受容体と結合し,第VIIIaおよびVa因子をタンパク質分解し,不活化する。

正常であれば存在する不活化因子に加え,凝固因子の不活化を増強するいくつかの抗凝固薬がある(抗凝固薬およびその作用部位の図を参照)。

ヘパリンは,アンチトロンビンの活性を高める。ワルファリンはビタミンK拮抗薬である。ワルファリンは活性型ビタミンKの再生を阻害し,ゆえに,ビタミンK依存性の機能型凝固因子である第II,第VII,第IX,および第X因子(さらにプロテインCおよびS)の産生を阻害する。未分画ヘパリン(UFH)および低分子ヘパリン(LMWH)は,アンチトロンビンの作用を促進することで第IIa(トロンビン)および第Xa因子を不活化する。LMWHには,エノキサパリン,ダルテパリン,およびチンザパリンなどがある。フォンダパリヌクスは,非常に重要なヘパリン構造の5糖構造(ペンタサッカライド)を含む低分子の合成化合物で,第Xa因子を不活化するが,第IIa因子(トロンビン)は不活化しないアンチトロンビンの作用を促進する。静脈内投与の直接トロンビン阻害薬には,アルガトロバンやレピルジン(lepirudin)などがある。比較的新しい直接作用型経口抗凝固薬としては,トロンビン阻害薬(ダビガトラン)や第Xa因子阻害薬(アピキサバン,リバーロキサバン,エドキサバン)などがある。これらの薬剤を用いる上でのリスクや便益および中和剤などについては,本マニュアルの心房細動深部静脈血栓症(DVT),および肺塞栓症(PE)で考察されている。

抗凝固薬とその作用部位

LMWH=低分子ヘパリン;TF=組織因子;UFH=未分画ヘパリン

線溶

正常であれば,損傷した血管壁の修復過程で,止血栓を一時的に維持し,その後に除去できるように,フィブリンの沈着と溶解のバランスが保たれている。線溶系では,タンパク質分解酵素のプラスミンによってフィブリンを溶解する。線溶は血管内皮細胞から分泌されるプラスミノーゲンアクチベーターによって促進される。プラスミノーゲンアクチベーターおよびプラスミノーゲン(血漿由来)がフィブリンに結合し,プラスミノーゲンアクチベーターによってプラスミノーゲンが切断されてプラスミンになる(線溶経路の図を参照)。次に,プラスミンがフィブリンをタンパク質分解し,生成された可溶性のフィブリン分解産物が循環血中に放出され,肝臓で代謝される。

線溶経路

損傷した血管壁の修復時にはフィブリンの沈着と溶解のバランスが保たれなくてはならない。損傷した血管の内皮細胞は,プラスミノーゲンアクチベーター(組織プラスミノーゲンアクチベーター,ウロキナーゼ)を放出し,線溶を活性化する。プラスミノーゲンアクチベーターは,プラスミノーゲンを切断してプラスミンを生成し,これにより血栓を溶解する。線溶はプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI;例,PAI-1)およびプラスミンインヒビター(例,α2-アンチプラスミン)によって制御されている。

以下のようなプラスミノーゲンアクチベーターがいくつか存在する:

  • 組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)は,内皮細胞から分泌され,溶液中に遊離しているときは弱いアクチベーターであるが,プラスミノーゲンの近接でフィブリンに結合すると,有効なアクチベーターになる。

  • ウロキナーゼは,一本鎖および二本鎖の形で存在し,それぞれ異なる機能を有する。一本鎖ウロキナーゼは,遊離プラスミノーゲンを活性化できないが,tPAと同様に,フィブリンに結合したプラスミノーゲンは容易に活性化できる。プラスミンは,非常に低い濃度で一本鎖ウロキナーゼを切断して二本鎖に変え,これによりフィブリンに結合したプラスミノーゲンに加えて,溶液中のプラスミノーゲンも活性化する。排泄管(例,尿細管,乳管)の内側を覆う上皮細胞はウロキナーゼを放出し,これらの導管における線溶の生理的アクチベーターとなる。

  • ストレプトキナーゼは,正常であれば体内に存在しない細菌の産生物で,別の強力なプラスミノーゲンアクチベーターである。

ストレプトキナーゼ,ウロキナーゼ,および遺伝子組換え型tPA(アルテプラーゼ)は,いずれも急性の血栓症患者で線溶を誘導する治療に使用されている。

線溶の制御

線溶はプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI)とプラスミンインヒビターによって制御され,これらのインヒビターは線溶を緩徐にする。PAI-1は,最も重要なPAIであり,tPAおよびウロキナーゼを不活化し,血管内皮細胞および活性化血小板から分泌される。主要なプラスミンインヒビターは,α2アンチプラスミンで,血栓から離れた遊離プラスミンがあれば,迅速に不活化する。一部のα2アンチプラスミンは,凝固時に第XIIIa因子の作用によりフィブリンポリマーにも架橋結合する。この架橋結合により,血栓内の過剰なプラスミン活性が抑制される場合がある。

tPAおよびウロキナーゼは肝臓で迅速に除去され,これが過剰な線溶を抑制する別の機序となっている。

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