好酸球増多症候群

(特発性好酸球増多症候群)

執筆者:Jane Liesveld, MD, James P. Wilmot Cancer Institute, University of Rochester Medical Center
レビュー/改訂 2020年 6月
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好酸球増多症候群は,寄生虫性,アレルギー性,またはその他の好酸球増多の二次的原因が認められずに好酸球増多と直接関係する器官系の障害または機能不全の所見を伴う末梢血中の好酸球増多を特徴とする疾患である。機能不全の臓器に応じて,無数の症状が現れる。診断には,他の好酸球増多症の原因を除外することに加え,骨髄検査および細胞遺伝学的検査が必要である。治療は,一般にプレドニゾンの投与から開始するが,多くみられる亜型の1つではイマチニブを投与する。

好酸球増多症候群の従来からの定義は,1500/μL(1.5 × 109/L)を超える末梢血中の好酸球増多が6カ月以上にわたり持続するものである。(好酸球の産生および機能も参照のこと。)

好酸球増多症候群は,過去に特発性の疾患と考えられていたが,現在では様々な疾患に起因していることが知られており,その一部は原因が明らかになっている。好酸球増多症候群の従来からの定義における限界の1つは,好酸球増多症候群の既知の原因である同様な異常(例,染色体欠失)をいくつか有するが,好酸球増多の程度または持続期間に関して従来の好酸球増多症候群の定義を満たさない患者が含まれていないことである。もう1つの限界として,好酸球増多症候群の特徴である好酸球増多症および臓器障害を有する一部の患者では,従来の診断基準の確認に求められる6カ月を待たずに治療開始が必要になることが挙げられる。好酸球増多は病因を問わず,同じ種類の組織損傷を引き起こす可能性がある。

好酸球増多症候群はまれであり,有病率は明らかにされていないが,20~50歳の患者が最も多い。好酸球増多症が長期化した場合でも,好酸球増多症候群の特徴である臓器機能不全に至る患者は一部のみである。あらゆる臓器に障害が発生する可能性があるが,心臓,肺,脾臓,皮膚,および神経系の障害が一般的である。心臓に障害が及ぶと,重大な合併症および死亡の原因となることがある。

亜型

好酸球増多症候群の広範な亜型として以下の2つがある(好酸球増多症候群の亜型の表を参照):

  • 骨髄増殖型

  • リンパ増殖型

骨髄増殖型は,4番染色体のCHIC2領域に微小中間部欠失を伴うことが多く,それによりFIP1L1/PDGFRA関連融合遺伝子(造血細胞を形質転換させることが可能なチロシンキナーゼ活性を有する)を生じる。この患者には,以下が多くみられる:

  • 脾腫

  • 血小板減少症

  • 貧血

  • 血清ビタミンB12の高値

  • 低顆粒または空胞化した好酸球

  • 骨髄線維症

骨髄増殖型の患者は,心内膜心筋線維症を発症することが多く,まれであるが,急性骨髄性白血病または急性リンパ芽球性白血病を発症することもある。FIP1L1/PDGFRA関連融合遺伝子を有する患者は,男性がはるかに多く,低用量イマチニブ(チロシンキナーゼ阻害薬)に反応を示す可能性がある。

好酸球増多症候群の骨髄増殖型の患者の少数は血小板由来増殖因子受容体β(PDGFRB)を含む細胞遺伝学的変化が生じ,イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬に反応することもある(1)。その他の細胞遺伝学的異常として,線維芽細胞増殖因子受容体1(FGFR1)またはヤヌスキナーゼ2(PCM1-JAK2)遺伝子の再構成などがある。

リンパ増殖型は,表現型が異常なクローン性T細胞集団と関連している。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査によりクローン性T細胞受容体再構成が明らかになる。この患者には,以下がより多くみられる:

  • 血管性浮腫,皮膚の異常,またはその両方

  • 高ガンマグロブリン血症(特にIgE高値)

  • 循環免疫複合体(ときに血清病を伴う)

リンパ増殖型の患者もコルチコステロイドに良好な反応を示すことが多いが,ときにT細胞リンパ腫を発症することがある。

好酸球増多症候群のその他の亜型としては,慢性好酸球性白血病,Gleich症候群(周期性の好酸球増多症と血管性浮腫),5q 31-33にマップされる家族性好酸球増多症候群,その他の臓器特異的症候群などがある。臓器特異的な好酸球症候群では,好酸球浸潤が単一臓器に限局している(例,好酸球性消化管疾患,慢性好酸球性肺炎)(2)。

好酸球性白血病で好酸球数が極めて多い(例,100,000/μL[100 × 109/L]を超える)患者では,白血球増多症を発症することがある。好酸球は,凝集体を形成し,微小血管を閉塞させて,組織の虚血および微小梗塞を引き起こすことがある。一般的な症状としては,脳または肺の低酸素症(例,脳症,呼吸困難,呼吸不全)などがある。

表&コラム

総論の参考文献

  1. 1.Apperley JF, Gardembas M, Melo JV, et al: Response to imatinib mesylate in patients with chronic myeloproliferative diseases with rearrangements of the platelet-derived growth factor receptor beta.N Engl J Med 347:481–487, 2002.

  2. 2.Gotlib J : World Health Organization-defined eosinophilic disorders: 2017 update on diagnosis, risk stratification, and management.Am J Hematol 92:1243–1259, 2017.

好酸球増多症候群の症状と徴候

機能不全の臓器に応じて,様々な症状が現れる(好酸球増多症候群の患者でみられる異常の表を参照)。

表&コラム

極めて重度の好酸球増多症(例,好酸球数が100,000/μL[100 × 109/L]を超える)患者では,脳または肺での低酸素による症状(例,脳症,呼吸困難,呼吸不全)など,白血球過増多症の合併症がときに発症する。その他の血栓症の臨床像(例,心臓の壁在血栓)がみられることもある。

好酸球増多症候群の診断

  • 二次性好酸球増多症の除外

  • 臓器障害を同定する検査

  • 骨髄検査とともに細胞遺伝学的検査

原因不明の1500/μL(1.5 × 109/L)を超える末梢血中好酸球増多が複数の機会に確認された患者で,特に臓器障害の所見を認める場合は,好酸球増多症候群についての評価を考慮すべきである。好酸球増多症の原因となる疾患を除外する検査を実施すべきである。

臓器障害の評価には,血液生化学検査(肝酵素,クレアチンキナーゼ,腎機能,およびトロポニンを含む),心電図検査,心エコー検査,肺機能検査,ならびに胸部,腹部,および骨盤CTを含めるべきである。骨髄穿刺および骨髄生検とともにフローサイトメトリー,細胞遺伝学的検査,および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)検査を施行して,FIP1L1/PDGFRA関連融合遺伝子およびその他の可能性のある好酸球増多症の原因を同定する。

好酸球増多症候群の予後

死亡原因は,一般に臓器機能不全によるもので,特に心不全が多い。好酸球増多症の程度または持続期間による心臓障害の予測はできない。治療に対する反応に応じて,予後は様々である。FIP1L1/PDGFRA関連融合遺伝子を始めとする治療に反応する遺伝子融合をもつ患者でイマチニブが奏効すれば,予後は良好となる。最新の治療法により予後は改善されている。

好酸球増多症候群の治療

  • 好酸球増多症に対して,また多くの場合,臓器障害の継続的治療に対してコルチコステロイド

  • FIP1L1/PDGFRA関連融合遺伝子またはその他の同様な遺伝子融合を有する患者に対してイマチニブ

  • ときに好酸球数をコントロールする薬剤(例,ヒドロキシカルバミド,インターフェロンα,エトポシド,クラドリビン)

  • 支持療法

治療には,緊急療法,根治療法(疾患自体に向けた治療法),および支持療法がある(1)。

緊急療法

極めて重度の好酸球増多症,白血球過増多症の合併症,またはその両方を有する患者(通常,好酸球性白血病の患者)に対しては,できるだけ早く高用量コルチコステロイド(例,プレドニゾン1mg/kgまたは同等の薬剤)の静注を開始すべきである。24時間後に好酸球数が大幅(例,50%以上)に減少していた場合は,コルチコステロイドを連日投与してもよいが,そうでなければ,代替療法(例,ヒドロキシカルバミド)を開始する。好酸球数が減少に転じ,うまくコントロールできるようになった時点で,別の薬剤を開始してもよい。

根治療法

FIP1L1/PDGFRA関連融合遺伝子(または同様の融合遺伝子)を有する患者では,通常はイマチニブ(2)による治療を行うとともに,特に心障害が疑われる場合にはコルチコステロイドを併用する。イマチニブが無効または忍容性不良の場合は,別のチロシンキナーゼ阻害薬(例,ダサチニブ,ニロチニブ,ソラフェニブ)が使用可能で,これ以外にも同種造血幹細胞移植が利用できる。

FIP1L1/PDGFRA関連融合遺伝子がない患者では,たとえ症状がみられない場合でも,プレドニゾン60mg(または1mg/kg)を単回経口投与して,コルチコステロイドに対する反応性(つまり好酸球数の減少)を判定することが多い。症状または臓器障害がみられる患者では,プレドニゾンを同じ用量で2週間継続し,その後に漸減する。症状および臓器障害がみられない患者では,これらの合併症について6カ月間以上のモニタリングを行う。コルチコステロイドが容易に漸減できない場合は,コルチコステロイドを節減するための薬剤(例,ヒドロキシカルバミド,インターフェロンα)が使用可能である。

支持療法

心症状(例,浸潤性の心筋症弁膜病変心不全)に対しては,支持療法として薬物療法および手術が必要な場合がある。血栓性合併症では,抗血小板薬(例,アスピリン,クロピドグレル,チクロピジン)の投与が必要になることがあり,左室壁在血栓がみられる場合,またはアスピリンを使用しているにもかかわらず一過性脳虚血発作を繰り返す場合は,抗凝固療法が適応となる。

研究段階の治療

メポリズマブとその他の抗インターロイキン5抗体は,好酸球増多症候群に対する治験段階の治療法である。メポリズマブは,インターロイキン5(好酸球産生の調節因子)に対する完全ヒトモノクローナル抗体である。メポリズマブは好酸球増多を減少させるとともに,大量ステロイド療法の必要性を低下させ(3),米国では現在,難治性の好酸球増多症候群患者に対する例外使用(compassionate use)により利用できる。

治療に関する参考文献

  1. 1.Ogbogu PU, Bochener BS, Butterfield HJ, et al: Hypereosinophilic syndromes: A multicenter, retrospective analysis of clinical characteristics and response to therapy.J Allergy Clin Immunol 124:1319–1325, 2009.

  2. 2.Cortes J, Ault P, Koller C, et al: Efficacy of imatinib mesylate in the treatment of idiopathic hypereosinophilic syndrome.Blood 101:4714–4716, 2003.

  3. 3.Rothenberg ME, Klion AD, Roufosse FE, et al: Treatment of patients with the hypereosinophilic syndrome with mepolizumab.N Engl J Med 358:1215–28, 2008.

好酸球増多症候群の要点

  • 好酸球増多症候群は,末梢血中の好酸球増多(1500/μL[1.5 × 109/L]を超える)を示すが,寄生虫性,アレルギー性,またはその他の二次性の原因により好酸球増多を生じたものではなく,6カ月以上にわたり持続し,器官系の障害または機能不全を来したものである。

  • 好酸球増多症候群は,いくつかの造血器疾患の臨床像の1つと考えられており,その一部には遺伝的原因が認められる。

  • あらゆる臓器に障害が発生する可能性があるが,心臓,肺,脾臓,皮膚,および神経系の障害が一般的であり,心臓に障害が及ぶと,重大な合併症および死亡の原因となることがある。

  • 肝酵素;クレアチンキナーゼ,クレアチニン,およびトロポニンの濃度;心電図および心エコー検査;肺機能検査;胸部,腹部,および骨盤のCTを含めた臓器障害の検査を実施する。

  • 原因を同定するために,骨髄検査とともに細胞遺伝学的検査を実施する。

  • 重度の好酸球増多症および/または臓器障害に対しては,コルチコステロイドを投与する。特徴的な染色体異常を伴う亜型では,低用量イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬が有益となる場合がある。

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