Msd マニュアル

Please confirm that you are a health care professional

honeypot link

脂質代謝の概要

執筆者:

Michael H. Davidson

, MD, FACC, FNLA, University of Chicago Medicine, Pritzker School of Medicine

レビュー/改訂 2019年 12月
ここをクリックすると、 家庭版の同じトピックのページに移動します
本ページのリソース

脂質は食物から吸収される,または肝臓で合成される脂肪である。トリグリセリド(TG)およびコレステロールが疾患に最も寄与するが,全ての脂質が生理的に重要である。

コレステロールは,細胞膜,ステロイド,胆汁酸,およびシグナル伝達分子の構成成分であり,あらゆるところに存在する。

トリグリセリドは,主に脂肪細胞や筋細胞にエネルギーを貯蔵する働きがある。

リポタンパク質は親水性の球体構造をしていて,その表面タンパク質(アポタンパク質,またはアポリポタンパク質)は脂質を代謝する酵素の補因子およびリガンドである(脂質代謝に重要な主要アポタンパク質および酵素 脂質代謝に重要な主要アポタンパク質および酵素 脂質代謝に重要な主要アポタンパク質および酵素 の表を参照)。全ての脂質は疎水性であり,そのほとんどは血液に溶けないため,リポタンパク質に包まれて輸送される必要がある。リポタンパク質は,大きさおよび比重(脂質とタンパク質との比と定義される)によって分類され,低比重リポタンパク質(LDL)高値および高比重リポタンパク質(HDL)低値は 動脈硬化性心疾患 アテローム性動脈硬化 アテローム性動脈硬化は,中型および大型動脈の内腔に向かって成長する斑状の内膜プラーク(アテローム)を特徴とし,そのプラーク内には脂質,炎症細胞,平滑筋細胞,および結合組織が認められる。危険因子には,脂質異常症,糖尿病,喫煙,家族歴,座位時間の長い生活習慣,肥満,高血圧などがある。症状はプラークの成長または破綻により血流が減少ないし途絶した... さらに読む アテローム性動脈硬化 の主要な危険因子であることから重要とされる。

脂質代謝の生理

リポタンパク質の合成,処理,およびクリアランスの経路に欠陥が生じると,アテロームのもととなる脂質が血漿および内皮へ蓄積する可能性がある。

外因性(食事による)脂質の代謝

食事による脂質の95%以上が以下のものである:

  • トリグリセリド

食事による脂質の残り約5%は以下のものである:

  • リン脂質

  • 遊離脂肪酸(FFA)

  • コレステロール(食物中にコレステロールエステルとして存在)

  • 脂溶性ビタミン

食物中のTGは,胃および十二指腸で,胃リパーゼ,活発な胃の蠕動による乳化,および膵リパーゼによりモノグリセリド(MG)およびFFAへと消化される。食物中のコレステロールエステルは同じ機序によって脱エステル化され,遊離コレステロールとなる。

次に,モノグリセリド,FFA,および遊離コレステロールは小腸で胆汁酸ミセルによって可溶化され,(小腸内腔と小腸絨毛を往復する)胆汁酸ミセルにより小腸絨毛へ送られて吸収される。

一旦腸上皮細胞へ吸収されると,これらは再びTGとなり,最大のリポタンパク質であるカイロミクロンにコレステロールとともに組み込まれる。

カイロミクロンは,食物中のTGおよびコレステロールを腸上皮細胞内からリンパ管を通じて循環血液中へと輸送する。脂肪組織や筋組織の毛細血管では,カイロミクロン上のアポタンパク質C-II(アポC-II)が内皮のリポタンパク質リパーゼ(LPL)を活性化してカイロミクロンのトリグリセリドのうち90%を脂肪酸およびグリセロールに変換し,これらはエネルギー利用または貯蔵のため脂肪細胞や筋細胞に取り込まれる。

その後,コレステロールに富んだカイロミクロンレムナントは肝臓に戻り,そこでアポタンパク質E(アポE)の媒介する過程を通じて除去される。

内因性脂質の代謝

肝臓によって合成されたリポタンパク質が内因性のトリグリセリドおよびコレステロールを輸送する。リポタンパク質は,含有するTGが末梢組織に取り込まれるか,またはリポタンパク質自体が肝臓で除去されるまで,血中を持続的に循環する。肝臓でのリポタンパク質合成を刺激する因子は,一般に血漿コレステロール値およびTG値を上昇させる。

超低比重リポタンパク質(VLDL)はアポタンパク質B-100(アポB)を含み,肝臓で合成され,TGおよびコレステロールを末梢組織に輸送する。VLDLは,血漿中の遊離脂肪酸(FFA)およびカイロミクロンレムナントに由来する過剰なTGを肝臓から搬出するための手段である;VLDLの合成は肝臓内FFAの増加に伴って増加し,高脂肪食摂取時や,過剰な脂肪組織がFFAを循環血液中に直接放出するとき(例, 肥満 肥満 肥満とは,体重が過度に重い状態であり,BMI(body mass index)が30kg/m2以上である場合と定義されている。合併症として,心血管疾患(特に過剰な腹部脂肪のある人),糖尿病,特定のがん,胆石症,脂肪肝,肝硬変,変形性関節症,男女の生殖障害,精神障害,およびBMIが35以上の人での若年死などがある。診断... さらに読む ,コントロールされていない 糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む )などに生じる。VLDL表面のアポC-IIは内皮のLPLを活性化することでTGをFFAおよびグリセロールへと分解し,これらは細胞によって取り込まれる。

中間比重リポタンパク質(IDL)は,LPLがVLDLおよびカイロミクロンを処理する過程で生まれる産物である。IDLはコレステロールに富んだVLDLおよびカイロミクロンレムナントであり,肝臓で除去されるか肝リパーゼによってアポB-100を保持したままLDLへと代謝される。

低比重リポタンパク質(LDL)はVLDLおよびIDLの代謝物であり,全てのリポタンパク質の中で最もコレステロールに富んでいる。全LDLの約40~60%は,アポBおよび肝LDL受容体によって媒介される過程を介して肝臓で除去される。残りは肝臓のLDL受容体または肝臓以外の非LDL(スカベンジャー)受容体によって取り込まれる。肝臓のLDL受容体は,カイロミクロンによる肝臓へのコレステロールの輸送や食事中の飽和脂肪の増加によってダウンレギュレーションが起こり,食事中の脂肪およびコレステロールの減少によってアップレギュレーションが起こる。肝臓以外のスカベンジャー受容体はマクロファージ上に最も顕著に認められ,肝臓の受容体で処理されなかった循環血液中の過剰な酸化LDLを取り込む。酸化LDLに富んだ単球は内皮下領域に遊走し,マクロファージになる;こうしたマクロファージはその後さらに酸化LDLを取り込み, アテローム性プラーク 病態生理 アテローム性動脈硬化は,中型および大型動脈の内腔に向かって成長する斑状の内膜プラーク(アテローム)を特徴とし,そのプラーク内には脂質,炎症細胞,平滑筋細胞,および結合組織が認められる。危険因子には,脂質異常症,糖尿病,喫煙,家族歴,座位時間の長い生活習慣,肥満,高血圧などがある。症状はプラークの成長または破綻により血流が減少ないし途絶した... さらに読む 病態生理 内で泡沫細胞を形成する。

LDL粒子のサイズは,大型で浮揚性のものから小型(small)で高密度(dense)のものまで幅がある。small dense LDLは特にコレステロールエステルに富み,高トリグリセリド血症およびインスリン抵抗性などの代謝障害に随伴する。

高比重リポタンパク質(HDL)は,腸上皮細胞と肝臓の両方で合成され,始めはコレステロールを含まないリポタンパク質である。HDL代謝は複雑であるが,HDLの1つの役割は末梢組織および他のリポタンパク質からコレステロールを受け取り,他の細胞やリポタンパク質(コレステロールエステル転送タンパク質[CETP]を使用),肝臓(除去目的)などそれが最も必要とされている場所まで輸送することである。作用は概して抗アテローム形成性である。

細胞からの遊離コレステロールの流出はATP結合カセット輸送体A1(ABCA1)によって媒介され,ABCA1はアポタンパク質A-I(アポA-I)と結合して原始(nascent)HDLを産生する。原始(nascent)HDL中の遊離コレステロールは続いて酵素レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)によってエステル化され,成熟したHDLが産生される。血漿HDL濃度はコレステロールの逆輸送を完全には反映していない可能性があり,HDL濃度が高いことで得られる保護作用は,抗酸化特性および抗炎症特性による可能性もある。

リポタンパク質(a)[Lp(a)]はアポタンパク質(a)を含むLDLで,クリングルと呼ばれる,システインに富んだ5カ所の領域を特徴とする。これらの領域の1つはプラスミノーゲンと相同で,血栓溶解を競合的に阻害することにより,血栓形成の素因となると考えられる。また,Lp(a)は 動脈硬化 アテローム性動脈硬化 アテローム性動脈硬化は,中型および大型動脈の内腔に向かって成長する斑状の内膜プラーク(アテローム)を特徴とし,そのプラーク内には脂質,炎症細胞,平滑筋細胞,および結合組織が認められる。危険因子には,脂質異常症,糖尿病,喫煙,家族歴,座位時間の長い生活習慣,肥満,高血圧などがある。症状はプラークの成長または破綻により血流が減少ないし途絶した... さらに読む アテローム性動脈硬化 を直接促進する可能性がある。Lp(a)の産生およびクリアランスの代謝経路は十分解明されていないが, 慢性腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病(CKD)とは,腎機能が長期にわたり進行性に悪化する病態である。症状は緩徐に現れ,進行すると食欲不振,悪心,嘔吐,口内炎,味覚異常,夜間頻尿,倦怠感,疲労,そう痒,精神的集中力の低下,筋収縮,筋痙攣,水分貯留,低栄養,末梢神経障害,痙攣発作などがみられる。診断は腎機能検査に基づき,ときに続いて腎生検を施行する。治療は主に基礎疾患... さらに読む 慢性腎臓病 患者(特に透析患者)ではこの濃度が上昇する。

ここをクリックすると、 家庭版の同じトピックのページに移動します
家庭版を見る
quiz link

Test your knowledge

Take a Quiz! 
ANDROID iOS
ANDROID iOS
ANDROID iOS
TOP