(甲状腺機能の概要 甲状腺機能の概要 甲状腺は前頸部の輪状軟骨直下に位置し,峡部で連結された2つの葉から成る。甲状腺濾胞細胞は,主に以下の2種類の甲状腺ホルモンを産生する: テトラヨードサイロニン(サイロキシン,T4) トリヨードサイロニン(T3) これらのホルモンは,核内受容体に結合し幅広い遺伝子産物の発現を変化させることによって実質的に全身のあらゆる組織の細胞に作用する。... さらに読む も参照のこと。)
「無痛性(silent)」という用語は, 亜急性甲状腺炎 亜急性甲状腺炎 亜急性甲状腺炎は甲状腺の急性炎症性疾患であり,おそらくウイルスによって引き起こされる。症状は発熱および甲状腺の圧痛である。初期には甲状腺機能亢進症がよくみられ,ときに,それに続いて甲状腺機能低下症が一過性にみられる期間がある。診断は臨床的に行い,甲状腺機能検査を用いる。治療は高用量の非ステロイド系抗炎症薬またはコルチコステロイドによる。本疾患は通常数カ月以内に自然に消失する。... さらに読む とは対照的に甲状腺の圧痛が欠如していることを指し,亜急性甲状腺炎では通常甲状腺の圧痛がみられる。
無痛性リンパ球性甲状腺炎は分娩後に生じる大半の甲状腺機能障害例の原因である。これは分娩後女性の約5~10%に発生する。
甲状腺生検では橋本甲状腺炎でみられるようなリンパ球浸潤が明らかになるが,リンパ濾胞および瘢痕は伴わない。これらの患者では,抗甲状腺ペルオキシダーゼ自己抗体や,比較的まれであるが抗サイログロブリン抗体が,妊娠中および分娩後にほぼ常に陽性である。したがって,この疾患は 橋本甲状腺炎 橋本甲状腺炎 橋本甲状腺炎は甲状腺の慢性自己免疫性炎症で,リンパ球の浸潤を伴う。所見には,無痛性の甲状腺腫大および甲状腺機能低下症状がある。診断には抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体の抗体価高値を証明することが含まれる。生涯にわたるL-チロキシン補充が一般的には必要となる。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 橋本甲状腺炎は北米の原発性甲状腺機能低下症の最も一般的な原因であると考えられている。女性に数倍多く発生する。発生率は年齢とともに上昇し,... さらに読む の亜型と考えられる。
無痛性リンパ球性甲状腺炎の症状と徴候
この疾患は分娩後の期間,通常は12~16週以内に発生する。無痛性リンパ球性甲状腺炎は,数週間の甲状腺機能亢進期を伴う様々な程度の無痛性甲状腺腫大を特徴とし,しばしば貯蔵甲状腺ホルモンの枯渇による一過性の甲状腺機能低下症がそれに続くが,(有痛性の亜急性甲状腺炎の項で記しているように)通常はやがて甲状腺機能正常状態に回復する。甲状腺機能亢進期は自然に消失するが,短期間であったり見逃されたりすることもある。本疾患に罹患した多くの女性は甲状腺機能低下時に診断され,この状態はときに恒久的である。
無痛性リンパ球性甲状腺炎の診断
臨床的評価
血清サイロキシン(T4),トリヨードサイロニン(T3),および甲状腺刺激ホルモン(TSH)の各値
無痛性リンパ球性甲状腺炎はしばしば診断されない。本症への疑いは,一般に臨床所見,典型的には一度甲状腺機能低下症が生じていることに依存する。眼徴候および脛骨前粘液水腫は生じない。
甲状腺機能検査 甲状腺機能の臨床検査 甲状腺は前頸部の輪状軟骨直下に位置し,峡部で連結された2つの葉から成る。甲状腺濾胞細胞は,主に以下の2種類の甲状腺ホルモンを産生する: テトラヨードサイロニン(サイロキシン,T4) トリヨードサイロニン(T3) これらのホルモンは,核内受容体に結合し幅広い遺伝子産物の発現を変化させることによって実質的に全身のあらゆる組織の細胞に作用する。... さらに読む の結果は疾患の段階によって多様である。初期には血清T4およびT3が上昇し,TSHは抑制される。甲状腺機能低下期には,これらの所見は逆転する。白血球数および赤血球沈降速度は正常である。針生検は確定診断をもたらすが,通常は不要である。
無痛性リンパ球性甲状腺炎の治療
通常,β遮断薬
ときに,甲状腺ホルモンの補充
無痛性リンパ球性甲状腺炎は数カ月しか持続しないため治療は保存的であり,通常は 甲状腺機能亢進期 β遮断薬 甲状腺機能亢進症は,代謝亢進および血清遊離甲状腺ホルモンの上昇を特徴とする。症状は多数あり,頻脈,疲労,体重減少,神経過敏,振戦などを呈する。診断は臨床的に行い,甲状腺機能検査を用いる。治療は原因により異なる。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能亢進症は,甲状腺放射性ヨード摂取率および血中の甲状腺刺激物質の有無に基づいて分類できる( 様々な病態における甲状腺機能検査の結果の表を参照)。... さらに読む にβ遮断薬(例,プロプラノロール)のみを要する。抗甲状腺薬,外科手術,および放射性ヨード療法は禁忌である。
甲状腺機能低下期に甲状腺ホルモン補充が必要となることもある。ほとんどの患者は正常な甲状腺機能を回復するが,一部は終生甲状腺機能が低下したままである。したがって,甲状腺機能をサイロキシン療法の9~12カ月後に再評価すべきである;補充を5週間中止し,TSHを再測定する。この疾患は通常,次の妊娠の後にも再発する。
無痛性リンパ球性甲状腺炎の要点
無痛性リンパ球性甲状腺炎は主に分娩後の女性に生じる。
ほとんどの患者は一過性の甲状腺機能亢進期を経て,より長期の甲状腺機能低下期に至る;大半は自然に回復するが,そうではない場合もある。
この疾患はしばしば診断されない。
甲状腺機能亢進期にはしばしばβ遮断薬が必要であり,甲状腺機能低下期には通常,甲状腺ホルモンの補充が必要である。