亜鉛(Zn)は主に骨,歯,毛髪,皮膚,肝臓,筋肉,白血球,および精巣に含まれる。亜鉛は,多数のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)デヒドロゲナーゼ,RNAポリメラーゼおよびDNAポリメラーゼ,ならびにDNA転写因子のほか,アルカリホスファターゼ,スーパーオキシドジスムターゼ,および炭酸脱水酵素など,数百の酵素の成分である。
繊維およびフィチン酸塩が豊富な食事(例,全粒粉のパン)は,亜鉛の吸収を低下させる。
(ミネラル欠乏症および中毒の概要 ミネラルの概要 ヒトには6種類の多量ミネラル(マクロミネラル)がグラム単位で必要である。 4種類の 陽イオン:ナトリウム,カリウム,カルシウム,およびマグネシウム 付随する2種類の 陰イオン:塩化物イオンとリン 1日当たりの必要量は0.3~2.0gである。骨,筋肉,心臓,および脳の機能が,これらの多量ミネラルに依存している。... さらに読む も参照のこと。)
食事による欠乏症は健常者では可能性が低い。二次性亜鉛欠乏症が以下で生じることがある:
利尿薬を服用している患者
糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む , 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症( 異常ヘモグロビン症)は,ほぼ黒人だけに生じる慢性溶血性貧血である。ヘモグロビンS遺伝子がホモ接合性に遺伝することによって生じる。鎌状の赤血球は血管の閉塞を引き起こし,溶血を起こしやすいことから,重度の疼痛発作,臓器虚血,および他の全身性合併症につながる。急性増悪(クリーゼ)が頻繁に起こることがある。感染症,骨髄無形成,または肺病変(急性胸部症候群)を急性発症し,死に至ることがある。貧血がみられ,通常は末梢血塗抹標本で鎌状... さらに読む , 慢性腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病(CKD)とは,腎機能が長期にわたり進行性に悪化する病態である。症状は緩徐に現れ,進行すると食欲不振,悪心,嘔吐,口内炎,味覚異常,夜間頻尿,倦怠感,疲労,そう痒,精神的集中力の低下,筋収縮,筋痙攣,水分貯留,低栄養,末梢神経障害,痙攣発作などがみられる。診断は腎機能検査に基づき,ときに続いて腎生検を施行する。治療は主に基礎疾患... さらに読む , 肝疾患 肝疾患を有する患者の評価 病歴聴取と身体診察により,しばしば肝疾患の原因が示唆され, 肝胆道疾患の検査の範囲が絞り込まれる。 様々な症状が発生しうるが,肝疾患に特異的なものはほとんどない: よくみられる非特異的な症状として,疲労,食欲不振,悪心,また特に重度の疾患ではときに嘔吐がみられる。 脂肪性の軟便(脂肪便)は,胆汁うっ滞により十分な胆汁が腸管に到達しない場合にみられる。脂肪便がみられる患者では,脂溶性ビタミン(A,D,E,K)の欠乏症のリスクがある。よくみ... さらに読む , 慢性アルコール中毒 アルコール使用障害とリハビリテーション アルコール使用障害では,飲酒のパターンが生じ,典型的には渇望と耐性(tolerance)の症状および/または心理社会的な悪影響のある離脱症状が伴う。アルコール依存症およびアルコール乱用は一般的であるが,あまり厳密に定義されていない用語であり,アルコール関連の問題を有する人に適用される。 アルコール使用障害は非常に一般的である。米国では,12カ月間で13.9%の成人にみられると推定される。有病率は若年成人で最も高く,加齢とともに減少する。... さらに読む ,または 吸収不良 吸収不良の概要 吸収不良とは,食物中の物質が十分に同化されない状態であり,消化,吸収,または輸送の障害に起因する。 吸収不良は,多量栄養素(例,タンパク質,炭水化物,脂肪),微量栄養素(例,ビタミン,ミネラル),またはその両方に影響を及ぼすことがあり,結果として便中への過剰排泄,栄養欠乏,および消化管症状が起こる。吸収不良は,ほぼ全ての栄養素の吸収障害を... さらに読む の患者
ストレスの多い状態(例,敗血症,熱傷,頭部損傷)の患者
高齢の施設に入所している患者および自宅から出られない患者(高頻度)
母体の亜鉛欠乏症により,胎児奇形および低出生体重が生じることがある。
小児の亜鉛欠乏症は,成長障害,味覚障害(味覚低下),性的成熟の遅れ,および性腺機能低下症を引き起こす。小児または成人では,脱毛,免疫障害,食欲不振,皮膚炎,夜盲症,貧血,嗜眠,創傷治癒の障害などがみられる。
典型的な症状または徴候を伴う低栄養患者では,亜鉛欠乏症を疑うべきである。しかし,症状と徴候の多くは非特異的であるため,軽度の亜鉛欠乏症を臨床的に診断するのは困難である。臨床検査による診断もまた困難である。亜鉛欠乏症でよくみられるアルブミン低値によって,血清亜鉛濃度の解釈が困難になる;診断には通常,血清中の亜鉛の低値と亜鉛の尿中排泄量の上昇の組合せが必要である。利用できるのであれば,アイソトープ試験によって亜鉛の状態をより正確に測定できる。
亜鉛欠乏症の治療として,症状および徴候が消失するまで,成分亜鉛15~120mgを1日1回経口投与する。
腸性肢端皮膚炎
腸性肢端皮膚炎(まれで,以前は致死的であった常染色体劣性遺伝疾患)は亜鉛の吸収不良を引き起こす。乾癬様皮膚炎が,眼,鼻,口の周囲;殿部および会陰;および肢端部で生じる。さらに,脱毛,爪囲炎,免疫障害,反復性感染症,成長障害,および下痢を引き起こす。症状および徴候は通常,乳児が離乳した後に出現する。そのような場合,医師は腸性肢端皮膚炎を疑う。診断が正しければ,硫酸亜鉛30~150mg/日の経口投与により,通常は完全寛解に至る。