強迫症 (OCD)

執筆者:Katharine Anne Phillips, MD, Weill Cornell Medical College;
Dan J. Stein, MD, PhD, University of Cape Town
レビュー/改訂 2021年 1月
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強迫症(OCD)は,反復的かつ持続的で,患者自身の意思に反し,かつ侵入的に生じる思考,衝動,もしくはイメージ(これらを強迫観念と称する),および/または強迫観念が引き起こす不安を軽減ないし避けるために患者が行わざるを得ないと感じる反復的な行動もしくは精神的行為(これらを強迫行為と称する)を特徴とする。診断は病歴に基づく。治療は精神療法(具体的には曝露反応妨害法と多くの症例では認知療法の併用),薬物療法(具体的には選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]またはクロミプラミン),またはその併用(特に重症例)から成る。

OCDは男性より女性でわずかに頻度が高く,人口の約1~2%が罹患する(1)。OCDの平均発症年齢は19~20歳であるが,約25%の症例では14歳までに発症する(小児および青年における強迫症(OCD)および関連症群を参照)。OCD患者の最大30%にチック症の既往または併発がみられる。

総論の参考文献

  1. 1.Stein DJ, Costa DLC, Lochner C, et al: Obsessive-compulsive disorder.Nat Rev Dis Primers 5(1):52, 2019. doi: 10.1038/s41572-019-0102-3.

OCDの症状と徴候

強迫観念は,意思に反して侵入的に生じる思考,衝動,またはイメージであり,通常はその存在が著しい苦痛や不安につながる。強迫観念の主な内容は,危害,自己や他者に対するリスク,汚染,疑念,対称,または攻撃性である。例えば,1日に2時間以上手を洗わないと汚れや微生物で汚染されてしまうといった強迫観念をもつ患者もいる。こうした強迫観念は心地よいものではない。そのため,患者は通常,その思考,衝動,またはイメージに無視や抑圧で対処しようとする。あるいは,強迫行為を行うことでそれを和らげようと試みる。

強迫行為(しばしば儀式と呼ばれる)は,自らの強迫観念により生じる不安を回避するか軽減するために,または強迫観念を和らげるために行わなければならないと患者が感じる,過剰で反復的な目的のある行動である。具体例を以下に示す:

  • 洗浄(例,手洗い,シャワー)

  • 確認(例,ストーブが消えていること,ドアの鍵をかけたこと)

  • 数を数える(例,ある行動を一定回数繰り返す)

  • 整頓(例,食器類または職場の物を特定のパターンに配置する)

手洗いまたは施錠の確認など大半の儀式は,他者が観察可能であるが,黙って繰り返し数を数える,小声でつぶやくなど,心の中で行う儀式には観察不能なものもある。典型的には,強迫的な儀式は厳格な規則に従って正確に行われる必要がある。儀式は恐れている出来事と実際に関連していることもあれば,そうでないこともある。実際に関連している場合(例,汚れることを避けるためにシャワーを浴びる,火災を防止するためにストーブを確かめる)も,その強迫行為は明らかに過剰であり,例えば,毎日数時間シャワーを浴びたり,または家を出る前にいつもストーブを30回確認したりする。全例において,強迫観念および/または強迫行為により時間を浪費(例,1日1時間,これよりはるかに長い場合も多い)しているか,患者に著しい苦痛または機能障害を引き起こしており,極端な場合には,強迫観念と強迫行為のために社会生活が送れなくなることもある。

病識の程度は様々である。強迫症(OCD)患者の大半は,自らの強迫観念の背後にある信念が現実的ではないこと(例,灰皿に触れても実際にはがんにならない)を少なくともある程度は認識している。しかしながら,ときに病識が完全に欠如している(すなわち,自らの強迫観念の背後にある信念は真実であり,強迫行為は妥当であると確信している)場合もある。

本障害の患者は,恥や汚名を恐れることがあるため,しばしば自身の強迫観念と儀式を秘密にする。人間関係が破綻することがあり,学校の成績や職場での業績が低下することもある。二次的な特徴として抑うつがよくみられる。

OCD患者の多くは,以下のような併存精神障害を有する:

OCD患者の4分の1以上から約3分の2では,いずれかの時点で自殺念慮がみられ,10~13%の患者が自殺企図に至る(自殺行動を参照)。患者がうつ病を併発している場合,自殺企図のリスクが高まる。

OCDの診断

  • 臨床基準

強迫症の診断は,強迫観念,強迫行為,またはその両方の存在に基づいて臨床的に行う。強迫観念または強迫行為が時間を浪費しているか(例,1日1時間以上),臨床的に意味のある苦痛または機能障害を引き起こしている必要がある。

OCDの治療

  • 曝露反応(儀式)妨害法;しばしば認知療法が追加される

  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)またはクロミプラミンと,必要な場合は増強療法

強迫症患者では曝露反応妨害法がしばしば効果的であり,この治療法の基本的要素は,患者に儀式を行わないよう求めると同時に,不安を生じさせる強迫観念や儀式行為を引き起こす状況または人間に患者を徐々に曝露することである。例えば,汚染に関する強迫観念と洗浄に関する強迫行為がある患者に,便座に触って手を洗わないよう求めることがある。このアプローチでは,馴化【訳注:すなわち慣れの現象】によって,曝露により誘発される不安が軽減される。改善はしばしば何年間も持続し,特に,このアプローチを習得し,治療終了後にも自ら同じ方略を使うことができる患者では,改善効果が長く持続する。しかしながら,不完全な反応を示す患者もいる(一部の患者では薬物療法でも同様)。

強迫症の一部の症状には,認知療法の手法(例,認知再構成法)も有用となる場合がある。

SSRIおよびクロミプラミン(強力なセロトニン作動性の作用を有する三環系抗うつ薬)がしばしば非常に効果的である。患者は,うつ病および大半の不安症群に対して一般的に必要とされるより高用量を必要とすることが多い。これらの薬剤を十分に試しても実質的な改善がみられない一部の患者では,非定型抗精神病薬(例,アリピプラゾール)やグルタミン酸調節薬(例,メマンチン,N-アセチルシステイン)などの増強療法の追加が有益となる場合がある。SSRIに対する増強療法としての非定型抗精神病薬の使用については,裏付けとなるデータが他の薬剤より多く得られている。

多くの専門医は,曝露反応妨害法と薬物療法の併用が(特に重症例には)最良の治療法であると考えている。

OCDの要点

  • 強迫観念とは,通常は著しい苦痛や不安につながる,意思に反して侵入的に生じる思考,衝動,またはイメージである。

  • 強迫行為とは,自らの強迫観念により生じる不安を軽減するために,または強迫観念を和らげるために行わなければならないと患者が感じる,過剰で反復的な儀式である。

  • 強迫観念および/または強迫行為は,時間を浪費しているか(例,1日1時間以上,これよりはるかに長い場合も多い),患者に著しい苦痛または機能障害を引き起こすものでなければならない。

  • 治療は,患者に儀式を行わないよう求めると同時に,不安を生じさせる強迫観念および儀式行為を引き起こす状況に患者を徐々に曝露することにより行う。曝露反応妨害法に認知的アプローチを追加することが助けになることがある。

  • SSRIまたはクロミプラミンの投与(しばしば比較的高用量)がしばしば効果的である。

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