(自律神経系の概要 自律神経系の概要 自律神経系は種々の生理学的プロセスを調節している。その調節は意識的な制御なしで,すなわち自律的に起こる。次の2つに大別される: 交感神経系 副交感神経系 自律神経系の疾患は,自律神経機能不全を引き起こし,全身のあらゆる器官系に影響を及ぼす可能性がある。 自律神経系は,体内および外部環境からの刺激を処理して統合している中枢神経系の各部から入... さらに読む も参照のこと。)
ホルネル症候群の病因
ホルネル症候群は,視床下部から眼球へと走行する頸部交感神経の経路が遮断された場合に発生する。原因病変は原発性(先天性を含む)の場合もあれば,他の疾患に続発したものの場合もある。
通常,病変は以下のように分類される:
中枢性(例,脳幹虚血, 脊髄空洞症 脊髄または脳幹空洞症 空洞症は,脊髄内(脊髄空洞症)または脳幹内(延髄空洞症)に液体で満たされた空洞が生じた状態である。素因としては,頭蓋頸椎移行部異常,脊髄外傷の既往,脊髄腫瘍などがある。症状としては,手および腕の弛緩性筋力低下や背部および頸部にケープ様に分布する温痛覚障害などがあり,軽い触覚と位置覚および振動覚は侵されない。診断はMRIによる。治療法としては,原因の是正と外科的手技による空洞のドレナージ,または髄液還流の開放などがある。... さらに読む , 脳腫瘍 頭蓋内腫瘍の概要 頭蓋内腫瘍は,脳やその他の組織(例,脳神経,髄膜)を侵す可能性がある。この種の腫瘍は,通常は成人期の初期または中期に発生するが,どの年齢層でも発生する可能性があり,現在は高齢者での頻度が増加している。脳腫瘍はルーチンの剖検の約2%で発見される。 腫瘍は良性の場合もあるが,頭蓋内には腫瘍が増大する余地がないため,たとえ良性の腫瘍でも重篤な神... さらに読む )
末梢性(例, パンコースト腫瘍 局所浸潤 ,頸部リンパ節腫脹,頸部および頭蓋損傷, 大動脈または頸動脈解離 大動脈解離 大動脈解離は,大動脈内膜の裂口を介して壁内に血液が急激に流入することで,内膜と中膜が分離して偽腔(チャネル)が生じる病態である。内膜裂口は原発性に生じることもあれば,中膜内の出血に続発することもある。大動脈解離は大動脈のあらゆる部位から始まる可能性があり,さらに中枢または末梢に進展して他の動脈に及ぶこともある。高血圧が重要な寄与因子の1つである。症状と徴候には,胸部または背部に突然生じる引き裂かれるような痛みがあるほか,解離により大動脈... さらに読む , 胸部大動脈瘤 胸部大動脈瘤 胸部大動脈の径が正常より50%以上大きい場合,動脈瘤とみなされる(径の正常値は部位により異なる)。ほとんどの胸部大動脈瘤は無症状であるが,胸痛または背部痛がみられる場合もあるほか,その他の症候は通常,合併症(例,解離,隣接構造の圧迫,血栓塞栓症,破裂)の結果として生じたものである。破裂のリスクは動脈瘤の大きさに比例する。診断はCT血管造影または経食道心エコー検査(TEE)により行う。治療は血管内ステントグラフト内挿術または外科手術である... さらに読む )
末梢病変は節前神経節に由来することもあれば,節後神経節に由来することもある。
ホルネル症候群の症状と徴候
ホルネル症候群の症状としては,患側の眼瞼下垂,縮瞳,無汗症,充血などがある。
先天性の場合,虹彩に着色が生じず,青灰色のままである。
ホルネル症候群の診断
コカイン点眼試験
原因診断のためにMRIまたはCT
点眼試験がホルネル症候群の確定診断および評価に役立つ可能性がある。
まず,コカイン(4~5%)またはアプラクロニジン(0.5%)を両眼に点眼する:
コカイン:コカインはシナプスにおけるノルアドレナリンの再取り込みを阻害し,健側の瞳孔を散大させる。節後病変(末梢性ホルネル症候群)が存在する場合は,節後神経終末が変性しているため,患側の瞳孔は散大せず,その結果として瞳孔不同が増強する。病変が上頸神経節より上にあり(節前性または中枢性ホルネル症候群),節後神経が正常である場合は,患側の瞳孔も散大するため,瞳孔不同は軽減する。
アプラクロニジン:アプラクロニジンは弱いαアドレナリン作動薬であり,正常な眼の瞳孔をごくわずかに散大させる。節後病変(末梢性ホルネル症候群)が存在する場合は,患側の瞳孔散大筋が交感神経による支配を失っており,アドレナリンへの感受性が亢進するため,患側の瞳孔は健側の瞳孔よりはるかに散大する。その結果として瞳孔不同は減弱する。(ただし,原因病変が急性期にある場合は,誤って正常と判定される可能性がある。)病変が節前性(中枢性ホルネル症候群)である場合は,瞳孔散大筋のアドレナリン感受性は亢進していないため,患側の瞳孔は散大せず,その結果として瞳孔不同は増強する。
検査結果からホルネル症候群が示唆される場合は,48時間後にヒドロキシアンフェタミン(1%)を両眼に点眼し,病変部位を同定する。ヒドロキシアンフェタミンは,シナプス前終末からのノルアドレナリンの放出を促すことで作用する。節後病変がある場合は,その病変により節後神経終末が変性するため,ヒドロキシアンフェタミンの作用が現れない。そのため,ヒドロキシアンフェタミンを点眼すると以下のようになる:
節後病変:患側の瞳孔は散大しないが,健側の瞳孔は散大するため,瞳孔不同が増強する。
中枢または節前病変:患側の瞳孔は正常時と同等またはそれ以上に散大し,健側の瞳孔は正常に散大するため,瞳孔不同は減弱するか変化しない。(ただし,節後病変でもときに同じ結果となる。)
ヒドロキシアンフェタミンは入手が難しいこともあり,この薬剤による検査はアプラクロニジンによる検査ほど頻繁には行われていない。ヒドロキシアンフェタミンによる検査で妥当な結果を得るには,アプラクロニジンの点眼後24時間以上が経過してから検査を行う必要がある。
ホルネル症候群の患者には,異常のある部位を特定するために(臨床的な疑いに応じて)脳,脊髄,胸部,または頸部のMRIまたはCTを施行する必要がある。
ホルネル症候群の治療
原因の治療
原因が同定されれば,それに対する治療を行う;原発性のホルネル症候群に対する治療法はない。
ホルネル症候群の要点
ホルネル症候群は,眼瞼下垂,縮瞳,および顔面無汗症を引き起こす。
視床下部から眼に至る頸部交感神経の経路を遮断する中枢性または末梢性(節前性または節後性)の病変によって生じる。
コカイン,アプラクロニジン,および/またはヒドロキシアンフェタミンを両眼に点眼して,ホルネル症候群の診断を確定するとともに,病変の局在(節前性か節後性か)の特定に役立てる。
臨床的な疑いに応じて脳,脊髄,胸部,または頸部のMRIまたはCTを施行する。
原因が同定されれば,それに対する治療を行う;原発性のホルネル症候群に対する治療法はない。