熱帯性痙性対麻痺/HTLV-1関連脊髄症(TSP/HAM)

執筆者:Michael Rubin, MDCM, New York Presbyterian Hospital-Cornell Medical Center
レビュー/改訂 2020年 1月
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熱帯性痙性対麻痺/HTLV-1関連脊髄症(TSP/HAM)は,ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV-1)に起因する緩徐進行性の脊髄のウイルス性免疫性疾患である。両下肢に痙性の筋力低下を引き起こす。診断は,血清および髄液検体の免疫血清学的検査およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査とMRIによる。治療法としては,支持療法や場合により免疫抑制療法などがある。

脊髄疾患の概要も参照のこと。)

レトロウイルスであるHTLV-1は,性的接触,静注薬物使用,または感染血への曝露もしくは授乳による母子感染を通じて伝播される。娼婦,静注薬物使用者,血液透析患者,ならびに赤道地域,日本南部,南米の一部など流行地域の人々に最も多くみられる。

TSP/HAMはHTLV-1キャリアの2%未満で発症する。女性により多く,この知見は女性におけるHTLV-1感染症の有病率が男性より高いことと合致する。HTLV-2も類似の疾患を引き起こすことがある。

ウイルスは血液および髄液中のT細胞に感染する。CD4陽性のメモリーT細胞,CD8陽性の細胞傷害性T細胞,およびマクロファージが血管周囲領域と脊髄実質に浸潤し,星細胞増加症が生じる。神経症状の発症後数年かけて,脊髄の灰白質および白質の炎症が進行し,側索および後索を中心に変性が生じる。脊髄前索のミエリンおよび軸索も脱失する。

TSP/HAMの症状と徴候

両下肢に徐々に痙性の筋力低下が起こり,両足の伸展性足底反応ならびに両側性対称性の位置覚および振動覚消失を伴う。アキレス腱反射はしばしば消失する。尿失禁および尿意切迫がよくみられる。

症状は通常,数年をかけて進行する。

TSP/HAMの診断

  • 血清および髄液検体の免疫血清学的検査およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査

  • MRI

他の疾患で説明できない典型的な神経脱落症状があれば,熱帯性痙性対麻痺/HTLV-1関連脊髄症が示唆される(特に危険因子がある患者の場合)。

血清および髄液検体の免疫血清学的検査,PCR検査,ならびに脊髄MRIが適応となる。HTLV-1抗体の髄液/血清比が1を超えるか,PCR検査において髄液にHTLV-1抗原が検出された場合は,本症の可能性が非常に高くなる。髄液のタンパク質およびIg値も上昇することがあり,しばしばオリゴクローナルバンドを伴う;リンパ球性細胞増加が最大50%の患者にみられる。脊髄病変はしばしばMRIのT2強調像で高信号を呈する。

TSP/HAMの治療

  • 免疫調節療法または免疫抑制療法

熱帯性痙性対麻痺/HTLV-1関連脊髄症に対して有効性が証明された治療法はまだないが,インターフェロンα,免疫グロブリン静注療法,および経口メチルプレドニゾロンが有益となる場合がある。

痙縮に対する治療は対症療法である(例,バクロフェンまたはチザニジン)。

TSP/HAMの要点

  • 熱帯性痙性対麻痺/HTLV-1関連脊髄症(TSP/HAM)は,HTLV-1キャリアの2%未満に発生し,女性でより多くみられる。

  • 症状として,両下肢に徐々に発生する痙性の筋力低下,両足の伸展性足底反応,両足に対称性に起こる位置覚および振動覚消失,ならびにアキレス腱反射消失などがみられる。

  • 血清および髄液検体の免疫血清学的検査,PCR検査,ならびにMRIにより診断する。

  • インターフェロンα,静注用免疫グロブリン製剤,および経口メチルプレドニゾロンがいくらか有益となる場合があり,痙縮はバクロフェンまたはチザニジンにより治療する。

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