(末梢神経系疾患の概要 末梢神経系疾患の概要 末梢神経系とは,神経系のうち脳と脊髄を除いた部分を指す。脳神経および脊髄神経の起始から末端までを含む。前角細胞は,厳密には中枢神経系の一部であるが,運動単位の構成要素であることから,ときに末梢神経系とともに議論される。 運動ニューロンに機能障害が起きると,筋力低下または麻痺が生じる。感覚ニューロンに機能障害が起きると,感覚異常または感覚消... さらに読む も参照のこと。)
慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)の症状は ギラン-バレー症候群 ギラン-バレー症候群 (GBS) ギラン-バレー症候群は,急性で,通常は急速に進行するが自然治癒する炎症性多発神経障害であり,筋力低下および軽度の遠位部感覚消失を特徴とする。原因は自己免疫性であると考えられている。診断は臨床的に行う。治療法としては,免疫グロブリン静注療法,血漿交換などがあり,重症例では機械的人工換気も行う。 ( 末梢神経系疾患の概要も参照のこと。) ギラン-バレー症候群は,最も頻度の高い後天性の炎症性ニューロパチーである。いくつかの亜型が存在する。... さらに読む のものに似ている。しかしながら,2カ月を超える病勢の進行はCIDPとギラン-バレー症候群との鑑別点であり,後者は単相性で自然治癒する。当初ギラン-バレー症候群と診断された患者の2~5%でCIDPが発生する。
原因は 脱髄 脱髄疾患の概要 中枢および末梢神経系の多くの神経線維を覆っている髄鞘は,軸索による神経インパルスの伝達を加速する。ミエリンを障害する疾患では神経伝達が阻害され,その症状は,神経系のいずれかの部分の障害を反映することがある。 中枢神経系の乏突起膠細胞により形成されるミエリンは,末梢でシュワン細胞より形成されるものと化学的,免疫学的に異なっている。したがって... さらに読む につながる自己免疫と考えられている。
CIDPの症状と徴候
CIDPの典型的な症例は,潜行性に始まり,徐々に悪化するか再発と回復を繰り返す;再発と再発の間の回復の程度は部分的なこともあれば完全なこともある。ほとんどの患者では弛緩性の筋力低下(通常は四肢にみられる)が優勢である;典型的には,弛緩性筋力低下が感覚異常(例,手足の錯感覚)よりも著明である。深部腱反射は消失する。
多くの場合,自律神経機能の障害はギラン-バレー症候群より軽度である。また,筋力低下は左右非対称性でギラン-バレー症候群より進行が緩徐である。
CIDPの診断
髄液検査および電気診断検査
検査には髄液検査や電気診断検査などがある。検査結果はギラン-バレー症候群の場合と類似しており,タンパク細胞解離(タンパク質が増加するにもかかわらず白血球数は正常値)および電気診断検査で認められる脱髄などがある。
神経生検でも脱髄を検出できるが,必要になることはまれである。
CIDPの治療
免疫グロブリン静注療法(IVIG)
コルチコステロイド
血漿交換
IVIGは費用が高いものの,以下の理由から,慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーの患者にしばしば最初に勧められる:
コルチコステロイドの長期使用でみられる多くの有害作用がない。
血漿交換より投与が容易である。
ただし,最近のエビデンスからは,IVIGよりもステロイドパルス療法の方が寛解期間が長く,重篤な有害作用の発生率が低いことが示唆されている。ステロイドパルス療法は以下のように行う:
デキサメタゾンを40mg,経口,1日1回,連続4日間を月1回,6サイクル
デキサメタゾンを経口,週1回,3カ月間,用量は患者の臨床状態に基づき毎月調節
静注用メチルプレドニゾロンを500mg,1日1回,連続4日間を月1回,6カ月間
一部の患者では,IVIGとコルチコステロイドの併用が有益となる。
血漿交換でもコルチコステロイドの長期有害作用はないが,しばしばポートの留置が必要になり,また体液量の変化が激しいため,低血圧を引き起こすことがある。IVIGに反応しない患者や重症患者には血漿交換を勧めてもよいが,血漿交換は侵襲的でリスクがあるため,長期の維持療法としてではなく,重度の増悪を緩和する手段として用いるのが最善である。
皮下注用免疫グロブリン製剤(SCIG)はIVIGと同等の効果がある。
免疫抑制薬(例,アザチオプリン)が役立ち,コルチコステロイドへの依存を軽減しうる。
長期間の治療が必要になることがある。
CIDPの要点
慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーの症状はギラン-バレー症候群の症状に似ているが,両者は症状が進行する期間(CIDPでは2カ月以上)に基づいて鑑別できる。
症状は潜行性に始まり,徐々に悪化するか再発と回復を繰り返す。
中枢神経系の検査と電気診断検査の結果はギラン-バレー症候群のそれに似ている。
IVIGおよびコルチコステロイドで治療するが,重症例では血漿交換を考慮する;免疫抑制薬が有用な場合があり,コルチコステロイドへの依存を軽減しうる。