膝関節の関節穿刺

執筆者:Alexandra Villa-Forte, MD, MPH, Cleveland Clinic
レビュー/改訂 2020年 11月
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膝関節の関節穿刺は,膝(膝蓋大腿脛骨)関節を針で穿刺し関節液を吸引する処置である。

関節症状を有する患者の評価および膝関節の評価も参照のこと。)

適応

  • 関節液貯留の原因の診断(例,感染症結晶誘発性関節炎

  • 治療の一環および疼痛緩和を目的とした,関節液の除去および/または薬剤の注入

禁忌

絶対的禁忌

  • 針の挿入が予想される部位の皮膚または深部組織の感染症

可能であれば,感染のない別の部位を用いるべきである。しかしながら,急性炎症を起こした関節は一般に熱感,圧痛,および発赤を呈するため,関節外の感染と見分けがつかなくなり,異常のない穿刺部位を見つけるのが困難になることがある。超音波検査を施行することができ,関節液貯留を可視化することで,周囲に発赤がある状況でも関節穿刺を行うかどうかの判断を補強することができる。注:感染性関節炎が強く疑われる場合は,関節の感染を見逃してはならないため,発赤があっても,超音波検査の結果が陰性であっても,関節穿刺を行うべきである。

相対的禁忌

  • 重度の出血性素因(関節穿刺の前に是正が必要な場合がある);ルーチンの抗凝固療法は禁忌ではない(特に感染症が疑われる場合)

  • 人工関節(医原性感染を起こしやすい);人工関節の関節穿刺は整形外科医が行うべきである

合併症

合併症はまれであるが,以下のものがある:

  • 感染症

  • 腱,神経,または血管の損傷(traumatic tap)

器具

  • 消毒液(例,クロルヘキシジン,ポビドンヨード,イソプロピルアルコール),滅菌ガーゼ,滅菌包帯,滅菌手袋

  • 処置用シーツ(非滅菌)

  • 局所麻酔薬(例,1%リドカイン,25~30G針,3~5mLシリンジ)

  • 関節穿刺吸引用に,51mm(2インチ)の18Gないし20G針および20~60mLシリンジ

  • 大量の貯留液に対して,複数のシリンジに加えて,止血鉗子または三方活栓のいずれかが必要になることがある

  • 臨床検査(例,細胞数,結晶,培養)の検体液採取用の適切な容器

  • ときに,治療目的の関節内注射では,コルチコステロイド(例,トリアムシノロンアセトニド40~80mgまたは酢酸メチルプレドニゾロン40~80mg)および/または長時間作用型麻酔薬(例,0.25%ブピバカイン)を入れたシリンジ,およびシリンジ交換を補助するための止血鉗子

その他の留意事項

  • 関節腔と吸引した関節液の両方の微生物汚染を防ぐために,無菌操作が必要である。

関連する解剖

  • 前内側アプローチを用いる場合は,膝蓋骨の上半分または上方3分の1から1~2cm内側の点に針を刺入する。膝関節外側からも同様のアプローチが行える。

膝関節の関節穿刺

患者を仰臥位にし,膝関節を伸展させた状態で,膝関節およびそれに続く膝蓋上嚢を穿刺できる。膝蓋骨の頭側半分または頭側3分の1の下に前内側から18~20G針を刺入できる。あるいは,膝蓋骨の頭側端のすぐ下に外側から針を刺入できる。

体位

  • 患者をストレッチャー上で仰臥位にし,膝を完全に伸展させるか,15度ないし20度屈曲させて膝の下に巻いたタオルを置く。足は床に対して垂直にする。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

  • 膝関節を触診して,膝蓋骨を同定する。皮膚マーカーで刺入部に印を付けてもよい。

  • 膝の下に処置用シーツを敷く。処置部位と周辺部にクロルヘキシジンまたはポビドンヨードなどの消毒剤を塗布した後,アルコールワイプで薬剤を拭き取る。

  • 25G針を使用して,刺入部皮下に局所麻酔薬を注入して膨疹を作る。続いて,予想される穿刺針の進路に沿って,より深部の組織にさらに麻酔薬を注入していくが,関節腔に進入してはならない。

  • 20~60mLシリンジと接続した18Gないし20G針で関節の穿刺吸引を行う。三方活栓を使用する場合は,三方活栓を針とシリンジの間に接続する。

  • 皮膚に垂直に刺入し,針の方向を膝蓋骨の後方,顆間切痕に向ける。針が関節軟骨に触れるのを避けるため,針の進路を水平に保つよう努める;また,膝蓋骨を把持して愛護的に上方へ牽引してもよい。

  • プランジャーを愛護的に引きながら針を進めていく。関節包内に進入すると,関節液がシリンジに入ってくる。針が骨に当たった場合は,ほぼ皮膚表面まで引き抜いてから,別の角度に方向を変える。吸引がうまくいかない場合は,膝を軽い屈曲位から完全な伸展位まで動かすことを試みるか,膝の反対側から処置を試みることができる。

  • できるだけ多くの関節液を吸引する。さらに関節液を吸引するために,膝蓋上部に愛護的に圧力をかける。

  • 大量の貯留液がある場合は,2本目のシリンジが必要になることがある。シリンジ交換時は,止血鉗子で針をしっかりと保持するか,三方活栓を使用することにより,針の位置を固定できる。

  • 関節内に薬剤(例,麻酔薬,コルチコステロイド)を注入する場合は,針基を動かないように保持しながら(可能であれば止血鉗子を用いる),関節液の入ったシリンジを取り外し,薬剤の入ったシリンジに交換する。針が関節腔内から動いていなければ,薬剤を注入しても抵抗はない。

  • コルチコステロイドの注入後は,関節を全可動域にわたって動かし,薬剤を関節全体に行き渡らせる。

  • 関節液の分析のために,関節液を試験管およびその他の輸送用培地に移す。関節液を調べ,血液および脂肪がないか確認する。

  • 吸引後,針を抜去し,処置部位を絆創膏または滅菌ドレッシング材で覆う。

アフターケア

  • 氷冷,挙上,および経口非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が痛みの緩和に役立つことがある。

  • 大量の貯留液があった場合は,腫脹および痛みを抑えるために,処置後に弾性包帯を巻く。

  • 関節内麻酔を投与した場合は,4~8時間の関節の活動制限を処方すべきである。膝関節や足関節などの荷重関節は,麻酔後に特に損傷を受けやすい可能性がある。

  • コルチコステロイドの関節内注射を行った場合は,約24~48時間の固定が必要になることがある。

  • 処置後12時間以上経過してから発赤,痛み,および/または腫脹が増強した場合は,関節を診察して感染の可能性がないか確認すべきである。

注意点とよくあるエラー

  • 関節穿刺の前に,慎重に最適な体位を確保する。

  • 局所麻酔の効果が現れるのに十分な時間をとってから処置を進める。

  • 滑膜および関節軟骨の損傷を避けるため,抵抗に逆らって針を前進させたり,関節液の吸引が始まった後に針を動かしたりしてはならない。

  • 針先の位置を変えなければならない場合は,まず針をほぼ皮膚表面まで引き抜いてから,方向を変える;針が組織内に深く入っている状態で刺入角度を変えようとしてはならない。

  • 膝関節の液貯留を膝蓋前滑液包の液貯留または腫脹と鑑別する。

アドバイスとこつ

明らかな大量の液貯留がなければ,超音波検査の施行を考慮する。

吸引しながら,膝蓋上嚢部を圧迫し,続いて膝窩部を圧迫することで,さらに多くの関節液を吸引できることがある。

急性に炎症を起こした関節の上に熱感,圧痛,および発赤が生じて関節外感染症に類似する場合があることにも注意する。

感染性関節炎と,その上にある構造の感染症(関節穿刺の禁忌)の鑑別を試みる際に,以下の特徴がみられれば感染性関節炎の可能性がより高くなる:

  • 関節液貯留

  • 関節の全周にわたる関節痛

  • 自動関節運動よりも他動関節運動の方が痛みが強い

関節液を調べる際には,以下の点を考慮する:

  • Traumatic tapによる関節血腫は,不均一な血性を示し凝固する傾向がある。

  • 関節血腫内の脂肪(脂肪血関節症)は不顕性骨折が原因である。

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