手の感染した咬傷

執筆者:David R. Steinberg, MD, Perelman School of Medicine at the University of Pennsylvania
レビュー/改訂 2020年 5月
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小さな刺創(特にヒトまたはネコによる咬傷)は,腱,関節包,または関節軟骨に重大な損傷を伴う可能性がある。ヒトによる咬傷で最も頻度の高い原因は,口を殴った結果,歯による中手指節関節への損傷(手拳損傷[clenched fist injury])である。ヒトの口腔細菌叢には,Eikenella corrodens,ブドウ球菌,レンサ球菌,および嫌気性菌が含まれる。手拳損傷の患者は,創傷が生じてから受診するまでに何時間または何日も待つ傾向があり,それにより感染症の重症度が増す。動物による咬傷には通常,Pasteurella multocida(特にネコによる咬傷で),ブドウ球菌,レンサ球菌,および嫌気性菌など,可能性のある病原体が複数含まれる。重篤な合併症としては,感染性関節炎骨髄炎などがある。

手疾患の概要および評価も参照のこと。)

感染した咬傷の診断

  • 臨床的評価

  • 通常はX線

  • 通常は創傷培養

咬傷に限局する紅斑および痛みは感染症を示唆する。腱の走行に沿った圧痛は腱鞘への拡がりを示唆する。動かすと著明に悪化する痛みは,関節または腱鞘の感染症を示唆する。

手の感染した咬傷の診断は臨床的に行うが,皮膚が破綻している場合はX線写真を撮り,継続する感染巣となる可能性がある骨折または歯もしくはその他の異物を検出すべきである。

感染した咬傷の治療

  • デブリドマン

  • 抗菌薬

手の感染した咬傷の治療には,外科的デブリドマン(創傷は開放したままにする)および抗菌薬などがある。

外来治療における経験的な抗菌薬療法は通常,アモキシシリン/クラブラン酸500mgの1日3回経口投与による単独療法や,ペニシリン500mgの1日4回経口投与(E. corrodensP. multocida,レンサ球菌,および嫌気性菌が対象)にブドウ球菌に対するセファロスポリン系薬剤(例,セファレキシン500mgの1日4回経口投与)または半合成ペニシリン(例,ジクロキサシリン500mgの1日4回経口投与)のどちらかを追加する併用療法などである。MRSAが蔓延している地域では,セファロスポリン系薬剤の代わりに,トリメトプリム/スルファメトキサゾール,クリンダマイシン,ドキシサイクリン,またはリネゾリドを使用すべきである。ペニシリンに対してアレルギーがある場合は,クリンダマイシン300mgを6時間毎に経口投与することができる。

手は機能的肢位で副子固定し,挙上すべきである。

機能的肢位での副子固定(手関節を20度伸展,中手指節関節を60度屈曲,指節間関節をわずかに屈曲)

感染していない咬傷には外科的デブリドマン,および感染した咬傷の治療に用いる抗菌薬を50%の用量で予防的に投与する必要があることがある。

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