(血管炎の概要 血管炎の概要 血管炎は血管の炎症であり,しばしば虚血,壊死,および臓器の炎症を伴う。血管炎は,あらゆる血管,すなわち動脈,細動脈,静脈,細静脈,または毛細血管を侵すことがある。具体的な血管炎疾患の臨床像は多彩であり,侵された血管の太さおよび部位,臓器病変の範囲,ならびに血管外の炎症の程度およびパターンによって異なる。... さらに読む も参照のこと。)
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)は,百万人当たり約3人に発生する。発症の平均年齢は48歳である。
EGPAは,血管外の壊死性肉芽腫(通常,好酸球に富む),好酸球増多,および好酸球の組織浸潤を特徴とする。しかし,これらの異常は常に併存するとは限らない。この血管炎は,通常は小型および中型の血管を侵す。どの器官も侵されることがあるが,肺,皮膚,副鼻腔,心血管系,腎臓,末梢神経系,中枢神経系,関節,および消化管が最も侵されやすい。ときに,肺毛細血管炎が肺胞出血を起こすことがある。
EGPAの病因
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の原因は不明である。しかし,好酸球と好中球の分解産物によって直接傷害された組織を伴うアレルギー機序が関与している可能性がある。Tリンパ球の活性化が好酸球性炎症の持続に一役担っていると考えられる。この症候群は,成人発症 喘息 喘息 喘息は,様々な誘発刺激により引き起こされ,部分的または完全に可逆的な気管支収縮を生じさせる気道のびまん性炎症疾患である。症状および徴候には,呼吸困難,胸部圧迫感,咳嗽,および喘鳴などがある。診断は病歴,身体診察,および肺機能検査に基づく。治療には誘発因子の制御および薬物療法があり,吸入β2作動薬および吸入コルチコステロイドが最も多く用いら... さらに読む , アレルギー性鼻炎 アレルギー性鼻炎 アレルギー性鼻炎は,季節性または通年性のそう痒,くしゃみ,鼻漏,鼻閉,およびときに 結膜炎で,花粉または他のアレルゲンへの曝露によって発生する。診断は病歴およびときに皮膚テストによる。第1選択の治療は,経鼻コルチコステロイドの投与(経口または経鼻抗ヒスタミン薬の併用は問わない)または経口抗ヒスタミン薬と経口鼻閉改善薬の併用による。 ( アレルギー疾患およびアトピー性疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む , 鼻茸 鼻茸 鼻茸は,粘膜固有層に就下性の浮腫(dependent edema)が起きる部位(通常は上顎洞開口部の周囲)にできる鼻粘膜の肉質の増殖である。 アレルギー性鼻炎,急性および慢性感染症,ならびに 嚢胞性線維症はいずれも鼻茸形成の素因となる。 リノスポリジウム症では出血性鼻茸が生じる。鼻腔または副鼻腔の良性もしくは悪性腫瘍として,またはそれに関連し,ときに片側性の鼻茸が生じる。 異物への反応として発生することもある。鼻茸は以下のものと強く関連... さらに読む ,またはこれらの組合せがみられる患者に生じる。抗好中球細胞質抗体(ANCA)が,症例の約40%にみられる。
EGPAの症状と徴候
症候群には以下の3段階の病期があり,これらは重複することがある:
前駆期(prodromal):この病期は数年間持続することがある。患者には,アレルギー性鼻炎,鼻茸,喘息,またはこれらの組合せがみられる。
第2期(2nd phase):末梢血および組織の好酸球増多が典型的にみられる。臨床像はレフレル症候群に類似することがあるが,具体的には慢性好酸球性肺炎や好酸球性胃腸炎などを呈する。
第3期(3rd phase):生命を脅かす可能性がある血管炎が出現する。臓器機能不全および全身症状(例,発熱,倦怠感,体重減少,疲労)がこの病期によくみられる。
しかし,これらの病期は必ずしも互いに連続しているわけではなく,またそれらの時間間隔には大きなばらつきがある。
様々な臓器や器官が影響を受けることがある:
呼吸器:喘息は,成人期に発症することが多いが,ほとんどの患者で発生し,重度である傾向があり,コルチコステロイド依存性である。副鼻腔炎がよくみられるが,重度の壊死性炎症は伴わず,破壊的ではない。患者に息切れがみられることがある。肺胞出血により,咳嗽と喀血がみられることがある。一過性の斑状の肺浸潤が一般的である。
神経:神経症状がかなり頻繁にみられる。 多発性単神経障害(多発性単神経炎) 多発性単神経障害 多発性単神経障害は,問題のある2つ以上の末梢神経の分布域に生じる感覚障害および筋力低下を特徴とする。 ( 末梢神経系疾患の概要も参照のこと。) 多発性単神経障害は,通常以下のものに続発する: 結合組織疾患(例, 結節性多発動脈炎, 全身性エリテマトーデス[SLE],その他の 血管炎, シェーグレン症候群, 関節リウマチ[RA]) サルコイドーシス さらに読む が最多で4分の3の患者に生じる。中枢神経系障害はまれであるが,脳神経麻痺もしくは脳梗塞所見を伴うまたは伴わない,不全片麻痺,錯乱,痙攣,および昏睡などが起こることがある。
皮膚:ほぼ半数の患者で皮膚が侵される。結節および丘疹が四肢の伸側にみられる。これらは,中心に壊死を伴う柵状配列を有する血管外の肉芽腫性病変によって引き起こされる。著明な好酸球浸潤を伴うまたは伴わない白血球破砕性血管炎により,紫斑もしくは紅色丘疹が出現することがある。
筋骨格:関節痛,筋肉痛,または関節炎すらも生じることがある(通常は血管炎が起こる病期に生じる)。
心臓:心病変は死亡の主な原因であり,心筋炎および心内膜心筋線維症による心不全,冠動脈血管炎(心筋梗塞を伴うこともある),弁膜症,心膜炎などが発生する。主な病理組織学所見は,好酸球性心筋炎である。
消化管:血管炎に起因する好酸球性胃腸炎または腸間膜虚血により,最多で3分の1の患者に消化管症状(例,腹痛,下痢,出血,無石胆嚢炎)がみられる。
腎臓:腎臓が侵される頻度は,抗好中球細胞質抗体関連の他の血管炎疾患に比べ,それほど多くはない。通常は,pauci-immune(微量免疫)型(免疫複合体があったとしてもわずか)で,半月体形成性の巣状分節状壊死性糸球体腎炎がみられるが,腎臓の好酸球性または肉芽腫性の炎症はまれである。
腎臓,心臓,または神経の障害は,予後不良を示唆する。
EGPAの診断
臨床基準
ルーチンの臨床検査
心エコー検査
生検
2012年のChapel Hill Consensus Conference(1 診断に関する参考文献 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は,全身性の小型および中型の血管の壊死性血管炎であり,血管外肉芽腫の存在,好酸球増多,および好酸球の組織浸潤を特徴とする。EGPAは,成人発症喘息,アレルギー性鼻炎,鼻茸,またはこれらの組合せがみられる個人に生じる。診断は生検によるものが最も確実である。治療は主にコルチコステロイドにより行い,重度の疾患に対しては,他の免疫抑制薬を追加する。 ( 血管炎の概要も参照のこと。)... さらに読む )で,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)は,喘息および好酸球増多と関連し,小型および中型の血管を侵す壊死性血管炎を伴う,気道に病変を生じる好酸球に富んだ壊死性肉芽腫性炎症であると定義された。American College of Rheumatologyによる分類基準には以下のものがある:
喘息
末梢血の好酸球増多(10%を超える)
副鼻腔炎
肺浸潤(ときに一過性)
血管外に好酸球を認める血管炎の組織学的所見
多発性単神経障害または多発神経障害
4項目以上の基準が当てはまれば,感度は85%,特異度は99.7%である。
検査は,診断および臓器病変の範囲を確定し,EGPAを他の好酸球性疾患(例, 寄生虫感染症 寄生虫感染症へのアプローチ ヒトの寄生虫は,ヒトの体表または体内に生息して,その個体(宿主)から栄養を摂取する微生物である。寄生虫には以下の3種類がある: 単細胞生物(原虫,微胞子虫) 多細胞生物である蠕虫 ダニやシラミなどの外部寄生虫 原虫および蠕虫による寄生虫感染症は,世界的に疾患および死亡の原因としてかなりの割合を占めている。寄生虫感染症は中南米,アフリカ,お... さらに読む , 薬物反応 薬物有害反応 薬物有害反応(adverse drug reaction[ADR];または薬物有害作用[adverse drug effect])は,ある薬物が示す可能性のある,望ましくない,不快な,または危険な作用を指す広義の用語である。 薬物有害反応は毒性の一形態とみなすことができるが,毒性(toxicity)という用語は,... さらに読む , 急性好酸球性肺炎 急性好酸球性肺炎 急性好酸球性肺炎(AEP)は,肺間質の急速な好酸球浸潤を特徴とする,原因不明の疾患である。 ( 好酸球性肺疾患の概要も参照のこと。) 慢性好酸球性肺炎とは対照的に,急性好酸球性肺炎は通常再発しない急性疾患である。発生率および有病率は不明である。急性好酸球性肺炎はあらゆる年齢で発生しうるが,しばしば20~40歳の患者に生じ,男女比は2:1である。 急性好酸球性肺炎の原因は不明であるが,その他の点では健常な人における未確認の吸入抗原に対する... さらに読む ,および 慢性好酸球性肺炎 慢性好酸球性肺炎 慢性好酸球性肺炎(CEP)は,肺における好酸球の慢性的かつ異常な集積を特徴とする,原因不明の疾患である。 ( 好酸球性肺疾患の概要も参照のこと。) 慢性好酸球性肺炎は実際は慢性というわけではない;むしろ,再発性の急性または亜急性疾患である(そのため,再発性好酸球性肺炎という名称の方がふさわしい)。慢性好酸球性肺炎の有病率および発生率は不明である。病因として アレルギー体質が疑われている。ほとんどの患者は非喫煙者である。... さらに読む , アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA) アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)は,Aspergillus属(一般にA. fumigatus)に対する過敏反応であり,ほとんどは喘息患者に限定的に,またはまれに嚢胞性線維症の患者にみられる。アスペルギルス(Aspergillus)抗原に対する免疫応答が気道閉塞を引き起こし,治療しなければ気管支拡張症および肺線維症を引き起こす。本症の症状および徴候として,喘息の症状や徴候に加え,湿... さらに読む , 好酸球増多症候群 好酸球増多症候群 好酸球増多症候群は,寄生虫性,アレルギー性,またはその他の 好酸球増多の二次的原因が認められずに好酸球増多と直接関係する器官系の障害または機能不全の所見を伴う末梢血中の好酸球増多を特徴とする疾患である。機能不全の臓器に応じて,無数の症状が現れる。診断には,他の好酸球増多症の原因を除外することに加え,骨髄検査および細胞遺伝学的検査が必要である。治療は,一般にプレドニゾンの投与から開始するが,多くみられる亜型の1つではイマチニブを投与する。... さらに読む )と鑑別することを目標とする。EGPAの診断は,臨床所見およびルーチンの臨床検査結果によって示唆されるが,通常は肺または他の罹患組織の生検によって確定すべきである。
血液検査と胸部X線を行うが,結果は診断に有用ではない。血算と白血球分画を行い,一部の患者で疾患活動性の指標になることがある好酸球増多がないか確認する。IgEおよびC反応性タンパク(CRP)および赤血球沈降速度(赤沈)を定期的に測定して,炎症の活動性を評価する。腎疾患のスクリーニングおよびその重症度をモニタリングするため,尿検査およびクレアチニンの測定を行う。電解質濃度を測定する。
血清学的検査を行い,これにより最多で40%の患者に抗好中球細胞質抗体(ANCA)が検出され,ANCAが検出された場合には,酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)で特異抗体の有無を確認する。ミエロペルオキシダーゼに対する抗体を伴う核周囲ANCA(p-ANCA)が最も多くみられるが,ANCAはEGPAに対して特異的ではなく感度の高い検査でもない。
疾患活動性のマーカーとして用いられているが,好酸球増多,IgE,ANCA,赤沈,およびC反応性タンパク(CRP)の値によってこれが達成され,急性増悪(flare-up)が予測されるが,大きな制限がある。
胸部X線は一過性で斑状の肺浸潤像を示すことが多い。
全例で2次元心エコー検査をベースライン時点に行い,心不全の症状または徴候が生じた場合にも,時間の経過につれて繰り返し行うべきである。
可能であれば,最も到達しやすい罹患組織の生検を行うべきである。
診断に関する参考文献
1.Jennette JC, Falk RJ, Bacon PA, et al: 2012 Revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Vasculitides.Arthritis Rheum 65(1):1-11, 2013.doi: 10.1002/art.37715.
EGPAの治療
コルチコステロイド
コルチコステロイドの全身投与が好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の治療の主力である。しかし,予後不良因子が見当たらない場合でも,コルチコステロイド単独では寛解が維持されないことが多い。 多発血管炎性肉芽腫症 多発血管炎性肉芽腫症(GPA) 多発血管炎性肉芽腫症は,壊死性肉芽腫性炎症,小型および中型血管の血管炎,およびしばしば半月体形成を伴う巣状壊死性糸球体腎炎を特徴とする。典型的には,上気道と下気道および腎臓が侵されるが,どの臓器も侵される可能性がある。症状は,侵された臓器や器官系によって異なる。患者は上下気道症状(例,繰り返す鼻漏または鼻出血,咳嗽)とそれに続いて高血圧および浮腫,または多臓器障害を反映した症状を呈することがある。診断には通常,生検を必要とする。治療はコ... さらに読む または 顕微鏡的多発血管炎 治療 顕微鏡的多発血管炎は,主に小型血管を侵し,免疫グロブリン沈着を伴わない(pauci-immune)全身性壊死性血管炎である。急速に進行する糸球体腎炎および肺胞出血を伴う肺腎症候群として発症することがあるが,疾患のパターンは侵される臓器により異なる。診断は臨床所見に基づいて行い,ときに生検で確定する。疾患の重症度によるが,治療にはコルチコステロイドおよび免疫抑制薬の投与などがある。... さらに読む に対するものと同様の一般的な治療基準を用い,臓器病変の重症度と病型に応じて,他の免疫抑制薬(例,シクロホスファミド,リツキシマブ,メトトレキサート,アザチオプリン)を加えることがある。リツキシマブによる治療を受けたEGPA患者41例の後ろ向き研究では,49%が12カ月時点で寛解状態にあり,リツキシマブによってコルチコステロイドの必要性が減少した。この結果は,他の治療法に比べて優れている。メポリズマブは,軽度から中等度の再発または難治性EGPAの再発率を低下させることが示されている。その便益は主に上気道および下気道(活動性の喘息を含む)で認められた(1 治療に関する参考文献 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は,全身性の小型および中型の血管の壊死性血管炎であり,血管外肉芽腫の存在,好酸球増多,および好酸球の組織浸潤を特徴とする。EGPAは,成人発症喘息,アレルギー性鼻炎,鼻茸,またはこれらの組合せがみられる個人に生じる。診断は生検によるものが最も確実である。治療は主にコルチコステロイドにより行い,重度の疾患に対しては,他の免疫抑制薬を追加する。 ( 血管炎の概要も参照のこと。)... さらに読む )。心疾患などの重度の臨床像を呈する患者では,メポリズマブの効果は不明である。
治療に関する参考文献
Wechsler ME, Akuthota P, Jayne D, et al: Mepolizumab or placebo for eosinophilic granulomatosis with polyangiitis. N Engl J Med 376(20):1921-1932, 2017.doi:10.1056/NEJMoa1702079.
EGPAの要点
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は,小型および中型の血管のまれな血管炎である。
病期には,上気道症状および喘鳴,好酸球性の肺炎および胃腸炎,および生命を脅かす血管炎がある。
病期は順を追って進行することもあれば順序が乱れることもあり,また重複することもある。
腎臓,心臓,または神経が侵されることがあり,それらは予後不良を示唆する。
臨床基準,ルーチンの臨床検査,ときに生検によって診断する。
全例で2次元心エコー検査を行う。
重症度に応じてコルチコステロイドおよびときに他の免疫抑制薬で治療し,多発血管炎性肉芽腫症または顕微鏡的多発血管炎に対するものと同様の治療基準を用いる。
反応率が高くコルチコステロイドの必要性が低くなる可能性があるため,リツキシマブによる治療を考慮する。
主に上気道および/または下気道の症状を伴う再発例または難治例では,メポリズマブを考慮する。
EGPAについてのより詳細な情報
以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
American College of Rheumatology (ACR): Lists a number of ACR-approved classification criteria sets and provides information about the purpose of criteria sets, their development and validation, and the role of the ACR in adopting them.