肺高血圧症

執筆者:Mark T. Gladwin, MD, University of Maryland School of Medicine;
Andrea R. Levine, MD, University of Maryland School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 9月
意見 同じトピックページ はこちら

肺高血圧症は,肺循環における血圧の上昇である。肺高血圧症には二次性の原因が数多く存在し,中には特発性の症例もある。肺高血圧症では,肺の血管が収縮かつ/または閉塞する。重症の肺高血圧症は,右室への過負荷および右室不全を引き起こす。症状は,疲労,労作時呼吸困難であり,ときに胸部不快感および失神がみられる。肺動脈圧の上昇を証明することで診断がつく(心エコー検査で予測し右心カテーテル検査によって確定する)。治療は肺血管拡張薬および利尿薬による。一部の進行例では肺移植が選択肢の1つとなる。治療可能な二次性の原因が見つからなければ,予後は全般に不良である。

肺高血圧症には明確に異なる3つの血行動態プロファイルがある(肺高血圧症の血行動態プロファイルの表も参照):

  • 前毛細血管性肺高血圧症

  • 後毛細血管性肺高血圧症

  • 前後毛細血管複合型肺高血圧症(combined pre- and post-capillary pulmonary hypertension)

表&コラム

肺高血圧症の病因

多くの病態および薬物が肺高血圧症を引き起こす。全体として,肺高血圧症の最も一般的な原因は以下のものである:

いくつかの病態,生理学的因子,および臨床因子に基づき,肺高血圧症は現在5群(肺高血圧症の分類の表を参照)に分類されている。第1群(肺動脈性肺高血圧症[PAH])は,原発性の疾患として肺の細動脈を侵すものである。

いかなる同定可能な疾患とも無関係に,散発的に肺動脈性肺高血圧症(PAH)が発生する例も少数存在し,これらの症例は特発性肺動脈性肺高血圧症と呼ばれる。

PAHの遺伝形式(不完全浸透の常染色体優性遺伝)が同定されており,以下の遺伝子の変異が知られている:

  • ALK-1(activin-like kinase type 1 receptor)

  • BMPR2(bone morphogenetic protein receptor type 2)

  • CAV1(caveolin 1)

  • ENG(endoglin)

  • GDF2(growth differentiation factor 2)

  • KCNK3(potassium channel subfamily K member 3)

  • SMAD9(mothers against decapentaplegic homologue 9)

  • TBX4(T-box transcription factor 4)

BMPR2の変異が全症例の原因の75%を占めている。その他の変異は,はるかに頻度が低く,いずれも全症例の約1%を占めるに過ぎない。

遺伝性肺動脈性肺高血圧症の症例の20%では,原因となる変異が同定されていない。

EIF2AK4(eukaryotic translation initiation factor 2 alpha kinase 4)の変異は,PAHの第1'群の亜型である肺静脈閉塞症と関連付けられている(1, 2)。

特定の薬物および毒素は,PAHの危険因子である。PAHと確実に関連があるのは,食欲抑制薬(フェンフルラミン[fenfluramine],デクスフェンフルラミン[Dexfenfluramine],アミノレックス[aminorex]),有毒な菜種油,ベンフルオレックス(benfluorex),メタンフェタミン,およびダサチニブである。妊婦が選択的セロトニン再取り込み阻害薬を服用すると,新生児遷延性肺高血圧症の発生リスクが高まる。PAHと関連している可能性が高いか関連してる可能性がある薬物は,アンフェタミン,コカイン,フェニルプロパノールアミン,セントジョーンズワート,インターフェロンα,インターフェロンβ,アルキル化薬,ボスチニブ,C型肝炎ウイルスに対する直接作用型抗ウイルス薬,レフルノミド,インジルビン,およびL-トリプトファンである(3)。

鎌状赤血球症のような,溶血性貧血の遺伝的原因を有する患者は,肺高血圧症を発症するリスクが高い(右心カテーテル検査による診断基準では症例の10%)。その機序は血管内での溶血および遊離ヘモグロビンの血漿中への放出に関連しており,遊離Hbが一酸化窒素を吸着し,活性酸素種を生成し,止血機構を活性化することによる。鎌状赤血球症におけるその他の肺高血圧症の危険因子には,鉄過剰,肝機能障害,血栓性疾患,および慢性腎臓病などがある。

表&コラム

病因論に関する参考文献

  1. 1.Eyries M, Montani D, Girerd B, et al: EIF2AK4 mutations cause pulmonary veno-occlusive disease, a recessive form of pulmonary hypertension.Nat Genet 46(1):65-9, 2014.doi: 10.1038/ng.2844

  2. 2.Girerd B, Weatherald J, Montani D, Humbert M: Heritable pulmonary hypertension: from bench to bedside.Eur Respir Rev 26(145):170037, 2017. doi: 10.1183/16000617.0037-2017

  3. 3.Simonneau G, Montani D, Celermajer DS, et al: Haemodynamic definitions and updated clinical classification of pulmonary hypertension.Eur Respir J 53(1):1801913, 2019. doi: 10.1183/13993003.01913-2018

肺高血圧症の病態生理

肺高血圧症を引き起こす病態生理学的機序としては以下のものがある:

  • 肺血管抵抗の上昇

  • 肺静脈圧の上昇

肺血管抵抗の上昇は肺血管床の閉塞かつ/または病的血管収縮によって引き起こされる。肺高血圧症は,様々な原因による血管収縮(ときに病的なものを含む),ならびに血管内皮および平滑筋の増殖,肥大化,慢性炎症,そしてその結果起こる血管壁のリモデリングを特徴とする。血管収縮は,トロンボキサンおよびエンドセリン-1(ともに血管収縮物質)の活性上昇,ならびにプロスタサイクリンおよび一酸化窒素(ともに血管拡張物質)の活性低下が一因であると考えられている。血管閉塞による肺血管圧の上昇が,血管内皮をさらに傷害する要因となる。血管内膜表面の傷害により凝固が活性化され,それがさらに高血圧を悪化させうる。血小板機能障害,プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1およびフィブリノペプチドAの活性上昇,ならびに組織プラスミノーゲンアクチベーターの活性低下による血栓性凝固障害もまた肺高血圧の一因となりうる。血小板は刺激されると,血小板由来増殖因子(PDGF),血管内皮増殖因子(VEGF),および形質転換増殖因子β(TGF-β)などの線維芽細胞および平滑筋細胞の増殖を亢進する物質を分泌するが,これにより血小板もまた重要な役割を担っている可能性がある。血管内皮表面の局所的な凝固を,慢性の血栓塞栓性肺高血圧症(器質化した塞栓による肺高血圧症)と混同してはならない。

肺静脈圧の上昇は典型的には,左心を侵し左心圧を上昇させる疾患によって引き起こされる(これらの病態では最終的に肺静脈の圧上昇につながる)。肺静脈圧の上昇は,肺胞-毛細血管壁に急性の損傷をもたらし,引き続いて浮腫を引き起こす可能性がある。持続的な高血圧は,最終的に肺胞-毛細血管膜の不可逆的な肥厚をもたらし,肺の拡散能の低下を引き起こす可能性がある。肺静脈高血圧が最もよくみられる状況は,駆出率が保持された左心不全(HFpEF)においてであり,典型的には高血圧およびメタボリックシンドロームを有する比較的高齢の女性にみられる。

HFpEFに続発する肺高血圧症では,特定の血行動態パラメータから死亡リスクの上昇が予測される。このようなパラメータには以下のものがある:

  • 経肺圧較差(TPG;平均肺動脈圧-平均肺動脈楔入圧と定義)> 12mmHg

  • 肺血管抵抗(PVR;TPGを心拍出量で割った値と定義)≥ 3 Wood単位

  • 拡張期圧較差(DPG;肺動脈拡張期圧と肺動脈楔入圧の差と定義)≥ 7mmHg

ほとんどの患者において,肺高血圧症は最終的に右室肥大を経て右室拡大そして右室不全に至る。右室不全になると,労作時の心拍出量が制限される。

肺高血圧症の症状と徴候

進行性の労作時呼吸困難と易疲労性がほぼ全ての患者に起こる。呼吸困難に伴い,非典型的な胸部不快感や労作時のふらつきまたは失神前状態がみられることがあり,こういった臨床像は疾患がより重症であることを示唆する。これらの症状は,右心不全により十分な心拍出量を得られないことに主に起因する。レイノー症候群は特発性肺動脈性肺高血圧症患者の約10%に起こり,その大部分は女性である。喀血はまれであるが致死的となりうる。拡張した肺動脈により反回神経が圧迫されて生じる嗄声(すなわち,Ortner症候群)もまれにみられる。

進行例では右心不全の徴候として,傍胸骨拍動,II音の著しい分裂,II音肺動脈成分(P2)の亢進,肺動脈駆出音,右室III音,三尖弁逆流による雑音,および頸静脈怒張(v波を伴うことがある)などがみられることがある。うっ血肝および末梢浮腫はよくみられる後期の臨床像である。肺の聴診は通常正常である。原因疾患または関連疾患の症候がみられることもある。

肺高血圧症の診断

  • 労作時呼吸困難

  • 初期検査:胸部X線,スパイロメトリー,心電図,心エコー検査,および血算

  • 基礎疾患の同定:換気血流シンチグラフィーまたはCT血管造影,胸部の高分解能CT(HRCT),肺機能検査,睡眠ポリグラフ検査,HIV検査,肝機能検査,および自己抗体検査

  • 診断の確定と重症度の評価:肺動脈(右心)カテーテル

  • 重症度判定のための追加検査:6分間歩行試験およびN-末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)またはBNPの血漿中濃度の測定

著明な労作時呼吸困難を有する患者で,それ以外の点では比較的健康であり,かつ肺症状を引き起こすことが知られている他の疾患の病歴または徴候を有さない場合には,肺高血圧症が疑われる。

呼吸困難のより一般的な原因を同定するため,最初に胸部X線スパイロメトリー,および心電図を行い,次に右室機能および肺動脈収縮期圧の評価ならびに肺高血圧症を引き起こしうる左心の構造的疾患の検出を目的とした経胸壁ドプラ心エコー検査を行う。血算を行い,赤血球増多,貧血,および血小板減少の有無を確認する。

肺高血圧症で最もよくみられるX線所見は,拡張した肺門部血管が末梢に向かって急激に細くなる像,および側面像で右室が前方の気腔を埋めつくしている像である。スパイロメトリーおよび肺気量は正常または軽度の拘束性を示すことがあるが,肺拡散能(DLCO)は通常減少する。その他の心電図所見としては,右軸偏位,V1におけるR > S,S1Q3T3パターン(右室肥大を示唆する),II誘導における先鋭P波(右房拡大を示唆する)などがある。

臨床的に明らかとなっていない二次性の原因の診断のため,必要に応じて追加検査を実施する。追加検査には以下ものが含まれる:

  • 換気血流シンチグラフィーまたはCT血管造影(血栓塞栓性疾患の検出)

  • CT血管造影を受けていない患者では,肺実質の疾患について詳細な情報を得るために高分解能CT

  • 肺機能検査(閉塞性または拘束性肺疾患の同定)

  • 血清自己抗体検査(例,抗核抗体[ANA],リウマトイド因子[RF],Scl-70[トポイソメラーゼI],抗Ro(抗SSA),抗リボ核タンパク質[抗RNP],および抗セントロメア抗体:関連する自己免疫疾患を裏付けるまたは否定する所見を得る)

慢性血栓塞栓性肺高血圧症はCTまたは換気血流(VQ)シンチグラフィーの所見により示唆され,動脈造影により診断を確定する。CT血管造影は近位部の血栓および血管内腔の線維化を評価するのに有用である。HIV検査,肝機能検査,睡眠ポリグラフなどの他の検査を,それぞれ適切な臨床状況下で実施する。

初期評価で肺高血圧症が示唆される場合,以下の測定のため,肺動脈カテーテル検査を行う必要がある:

  • 右房圧

  • 右室圧

  • 肺動脈圧

  • 肺動脈楔入圧

  • 心拍出量

  • 左室拡張期圧

心房中隔欠損を介した左右短絡を除外するために,右心系の酸素飽和度も測定すべきである。基礎疾患がなく,平均肺動脈圧 > 20mmHgかつ肺動脈楔入圧 ≤ 15mmHgという所見があれば肺高血圧症と同定できるが,肺動脈性肺高血圧症を来した患者の大半は,これよりかなり高い肺動脈圧(例,平均圧60mmHg)を呈する。

吸入一酸化窒素やエポプロステノール静注,アデノシン静注などの肺血管を速やかに拡張する薬剤がしばしばカテーテル挿入時に投与される。これらの薬剤に反応し右心系の圧が低下すれば,治療薬選択の際の参考になる可能性がある。肺生検は,かつては広く行われていたが,必要ではなく,検査関連の合併症発生率および死亡率が高いため推奨もされていない。

心エコー検査による右心収縮機能障害の所見(例,三尖弁輪収縮期移動距離)および右心カテーテル検査でみられる特定の結果(例,心拍出量低下,平均肺動脈圧高値,および右房圧高値)は肺高血圧症が重症であることを示唆する。

肺高血圧症における重症度の他の指標は,予後の評価および治療への反応のモニタリング補助に使用される。具体的には,6分間歩行距離の低値やN末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-pro-BNP)または脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の血漿中濃度の高値などがある。

肺高血圧症が診断された段階で,遺伝の可能性を検出するために患者の家族歴を聴取すべきである(例,他の点では健康であった親族の若年死など)。家族性肺動脈性肺高血圧症では遺伝カウンセリングが必要であり,その中で発症リスク(約20%)を遺伝子変異キャリアに伝え,心エコーによるスクリーニング検査を繰り返し受けることを勧める。特発性肺動脈性肺高血圧症におけるBMPR2遺伝子変異の検査は,リスクがある家系員の同定に役立つ可能性がある。患者がBMPR2陰性であれば,リスクのある血縁者を同定する上でSMAD9,KCN3,およびCAV1の遺伝子検査がさらに役立つ可能性がある。

肺高血圧症の予後

治療を受けた患者の5年生存率は約50%である。しかしながら,一部の症例登録からは,より低い死亡率が示唆されており(例,フランスの症例登録では3~5年で20~30%,REVEALレジストリーでは1~3年で10~30%),これはおそらく現在利用できる治療法が以前より優れているためと考えられる。予後不良の指標には以下のものがある:

  • 血管拡張薬への反応がみられない

  • 低酸素血症

  • 全般的な身体機能の低下

  • 6分間歩行の距離が短い

  • 血漿中NT-pro-BNPまたはBNP高値

  • 心エコー検査で認められる右心収縮機能障害の指標(例,三尖弁輪収縮期移動距離が1.6cm未満,右室拡大,中隔の奇異性運動を伴う心室中隔の平坦化,および心嚢液貯留)

  • 右心カテーテル検査で,心拍出量低値,平均肺動脈圧高値,かつ/または右房圧高値

全身性強皮症,鎌状赤血球症,またはHIV感染症の患者が肺動脈性肺高血圧症を伴う場合,そうでない場合と比べて予後が悪い。例えば,鎌状赤血球症の患者が肺高血圧を呈する場合,死亡率は4年で40%である。

肺高血圧症の治療

  • 状態を悪化させる行為(例,喫煙,高地,妊娠,交感神経刺激薬の使用)の回避

  • 特発性および家族性肺動脈性肺高血圧症:エポプロステノールの静脈内投与;プロスタサイクリン誘導体の吸入,経口,皮下,または静脈内投与;エンドセリン受容体拮抗薬の経口投与;ホスホジエステラーゼ5阻害薬の経口投与,可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬の経口投与;プロスタサイクリン(IP2)受容体作動薬の経口投与

  • 二次性肺動脈性肺高血圧症:基礎疾患の治療

  • 肺移植

  • 補助療法:酸素投与,利尿薬,かつ/または抗凝固薬

肺動脈性肺高血圧症,第1群

肺動脈性肺高血圧症の治療は急速に進歩している。

プロスタサイクリン誘導体であるエポプロステノールの静脈内投与により,カテーテル挿入時に血管拡張薬に反応しない患者であっても機能改善がみられ生存期間が延長する。エポプロステノールの投与は,肺動脈性肺高血圧症に対する効果的な治療法である(1)。欠点は中心静脈カテーテルによる注入を持続的に行う必要があること,また紅潮,下痢,留置カテーテルに伴う菌血症など,重大な有害作用がしばしばみられることである。プロスタサイクリン誘導体は,吸入,経口,または皮下もしくは静脈内投与(イロプロストおよびトレプロスチニル)が可能である。セレキシパグは,経口で高い生物学的利用能が得られる低分子薬であり,プロスタグランジンI2受容体を活性化し,死亡率と罹病率を減少させる(2)。

経口エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)としては,ボセンタン,アンブリセンタン,およびマシテンタンの3種類が使用可能である。経口ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5i)であるシルデナフィル,タダラフィル,およびバルデナフィルも使用できる。リオシグアトは可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬である。2015年に実施された研究では,経口アンブリセンタン10mgおよび経口タダラフィル40mgによるそれぞれの単剤療法と,これら2剤を1日1回服用する場合の効力が比較された(3)。単剤療法と比べて,併用療法の方が有害な臨床転帰(死亡,入院,疾患の進行,または長期的な転帰不良)が少なかった。また併用療法では,NT-proBNPの値が有意に減少し,6分間歩行の距離が伸び,満足できる臨床反応の割合が上昇した。この研究では,肺動脈性肺高血圧症の治療を併用療法で開始し,複数の経路を標的にすることが支持されている。しかしながら,ホスホジエステラーゼ5阻害薬をリオシグアトと組み合わせることはできない;どちらのクラスもサイクリックグアノシン一リン酸(cGMP)濃度を高める作用があり,両者の併用は危険なレベルの低血圧につながる可能性があるためである。重度の右心不全があり,突然死のリスクが高い患者では,プロスタサイクリン誘導体の静脈内投与または皮下投与による治療の早期開始が有益でありうる。

逐次併用療法の方が最初からの同時併用療法よりも推奨される。マシテンタンは単独で使用した場合でも肺動脈性肺高血圧症の他の治療薬と併用した場合でも,罹病率と死亡率を下げることが研究により確認されている。セレキシパグは単独で使用した場合でも,ホスホジエステラーゼ5阻害薬,エンドセリン受容体拮抗薬,またはその両方と併用した場合でも,プラセボと比べて罹病率と死亡率が低かった(4, 5)。最後に,リオシグアトは単独で使用した場合でも,エンドセリン受容体拮抗薬またはプロスタノイドの投与を受けている患者に連続併用療法として使用した場合でも,6分間歩行の距離を延長し,肺血管抵抗を低下させ,機能分類のクラスを改善した(6)。

現在推奨されているアルゴリズムでは,カテーテル検査室で血管反応性試験を行うことになっている。血管反応性がみられる場合は,カルシウム拮抗薬で治療すべきである。血管反応性がない患者は,New York Heart Association(NYHA)のクラス分類で層別化すべきである。クラスII~IIIの患者には,ERAとPDE5iの併用を開始し,セレキシパグの追加を考慮すべきである。治療開始時にNYHAクラスIVであった患者には,静注エポプロステノールとERA/PDE5iの併用を開始すべきであり,移植センターへの紹介を早期に考慮する(7)。

プロスタサイクリン誘導体,エンドセリン受容体拮抗薬,およびグアニル酸シクラーゼ刺激薬は主に特発性PAHにおいて研究されてきた;しかしながら,これらの薬剤は慎重に使用すれば(薬物代謝および薬物間相互作用に注意しながら),結合組織疾患,HIV,または門脈肺高血圧症によるPAHの患者に対しても投与できる。肺静脈閉塞症によるPAHの患者に血管拡張薬を使用すると,壊滅的な肺水腫が発生するリスクがあるため,血管拡張薬の使用は避ける必要がある(8)。

肺移植は治癒が期待できる唯一の治療であるが,拒絶反応(閉塞性細気管支炎症候群)と感染のため合併症発生率が高い。5年生存率は50%である。肺移植が適応となるのは,New York Heart Association(NYHA)分類のクラスIV(最小限の活動で呼吸困難が生じることで,生活が座位または臥位に限定されている場合と定義される)の患者,または先天性心疾患を合併しており他の全ての治療が失敗した患者で,移植対象となるためのその他の基準を満たした場合である。

多くの患者は心不全治療のための補助療法(利尿薬など)を必要とし,またほとんどの場合,禁忌がなければワルファリンを服用すべきである。

肺高血圧症,第2群~第5群

主な治療として基礎疾患の管理を行う。左心疾患の患者では弁膜症に対する手術が必要になることがある。左心疾患に続発したPHに対してPAHに特異的な治療法を用いることの有益性を示した多施設共同試験はない。このため,第2群のPH患者にこれらの薬剤を使用することは推奨されない。肺疾患および低酸素症のある患者では,原疾患の治療に加え,酸素投与もまた有益である。COPDにおける肺血管拡張薬の使用を支持する決定的なエビデンスはない。リオシグアトおよびアンブリセンタンの使用は,間質性肺疾患に続発したPHでは禁忌である。PAHに対するその他の治療法については議論があり,間質性肺疾患にはまだ推奨されていない。同様に,サルコイドーシスやその他の慢性肺疾患に対するPAHを標的とする治療法の適用も,これらの疾患の患者を対象としたランダム化比較試験がないことから,現在のところ推奨されていない。

慢性血栓塞栓症に続発する重度の肺高血圧症の患者に対する第1選択の治療には,外科的介入である肺動脈血栓内膜摘除術などがある。これは人工心肺を用いて,血管内皮に器質化した血栓を肺血管に沿って剥離する方法であるが,これは急性期の外科的塞栓除去術よりも複雑な処置である。この処置により,相当な割合で肺高血圧症が治癒し,患者の心肺機能が回復する;経験の多い施設で行われた場合,手術による死亡率は10%未満である。バルーン肺動脈形成術も別の選択肢である。この手技は,肺動脈内膜摘除術の適応がない有症状の患者に対して専門施設でのみ行われるべきである。リオシグアトは,手術適応のない患者や便益に対してリスクが高すぎる患者の運動耐容量と肺血管抵抗を改善した(6)。マシテンタンも,手術不能の慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者において肺血管抵抗,6分間歩行試験,およびNTproBNPの値を改善することが示されている(9)。マシテンタンは,リオシグアトなど他のPAH治療薬と併用する場合に安全であることも示されている(10)。

肺高血圧症を伴う鎌状赤血球症の患者には,適応に応じてヒドロキシカルバミド,鉄キレート療法,および酸素投与による積極的な治療を行う。右心カテーテル検査で肺動脈性肺高血圧症および肺血管抵抗の上昇が確認された患者では,肺血管拡張薬の選択的投与(エポプロステノールまたはエンドセリン受容体拮抗薬)が考慮されうる。シルデナフィルは鎌状赤血球症患者では疼痛発作の回数を増加させるため,その使用は,血管閉塞クリーゼが高度ではなく,かつ患者がヒドロキシカルバミドまたは輸血による治療を受けている場合に限定すべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Barst RJ, Rubin LJ, Long WA, et al: A comparison of continuous intravenous epoprostenol (prostacyclin) with conventional therapy for primary pulmonary hypertension.N Engl J Med 334(5):296–301, 1996. doi: 10.1056/NEJM199602013340504

  2. 2.Sitbon O, Channick R, Chin KM, et al: Selexipag for the treatment of pulmonary arterial hypertension.N Engl J Med 373: 2522-33, 2015.doi: 10.1056/NEJMoa1503184

  3. 3.Galie N, Barbera JA, Frost AE, et al: Initial use of ambrisentan plus tadalafil in pulmonary arterial hypertension.N Engl J Med 373: 834-44, 2015.doi: 10.1056/NEJMoa1413687

  4. 4.Tamura Y, Channick RN: New paradigm for pulmonary arterial hypertension treatment.Curr Opin Pulm Med 22(5): 429-33, 2016.doi: 10.1097/MCP.0000000000000308

  5. 5.McLaughlin VV, Channick R, Chin K, et al: Effect of selexipag on morbidity/mortality in pulmonary arterial hypertension: Results of the GRIPHON study.J Am Coll Cardiol 65 (suppl): A1538 , 2015.

  6. 6.Ghofrani HA, Galiè N, Grimminger F, et al: Riociguat for the treatment of pulmonary arterial hypertension.N Engl J Med 369(4): 330-40, 2013.doi: 10.1056/NEJMoa1209655

  7. 7.Condon DF, Nickel NP, Anderson R, et al: The 6th World Symposium on Pulmonary Hypertension: what's old is new.F1000Research 8:F1000 Faculty Rev-888, 2019. doi: 10.12688/f1000research.18811.1

  8. 8.Galiè N, Humbert M, Vachiery JL, et al: 2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension: The Joint Task Force for the Diagnosis and Treatment of Pulmonary Hypertension of the European Society of Cardiology (ESC) and the European Respiratory Society (ERS): Endorsed by: Association for European Paediatric and Congenital Cardiology (AEPC), International Society for Heart and Lung Transplantation (ISHLT).Eur Heart J 37(1): 67-119, 2016.doi: 10.1093/eurheartj/ehv317

  9. 9.Ghofrani HA, Simonneau G, D'Armini AM, et al: Macitentan for the treatment of inoperable chronic thromboembolic pulmonary hypertension (MERIT-1): results from the multicentre, phase 2, randomised, double-blind, placebo-controlled study. Lancet Respir Med 5(10):785–794, 2017.doi:10.1016/S2213-2600(17)30305-3

  10. 10.Channick R, McLaughlin V, Chin K, et al: Treatment of chronic thromboembolic pulmonary hypertension (CTEPH): Real-world experience with macitentan.J Heart Lung Trans 38(4) [suppl]: S483, 2019.doi: https://www.jhltonline.org/article/S1053-2498(19)31231-8/fulltext

肺高血圧症の要点

  • 肺高血圧症は5群に分類される。

  • 臨床的に明らかな他の心疾患または肺疾患で説明できない呼吸困難を認める患者では,肺高血圧症を疑う。

  • 診断は胸部X線,スパイロメトリー,心電図,および経胸壁ドプラ心エコー検査により開始する。

  • 右心カテーテル検査により診断を確定する。

  • 第1群,は血管拡張薬の併用で治療し,効果がなければ肺移植を考慮する。

  • 第4群は,患者に手術適応がない場合を除き,肺動脈血栓内膜摘除術により治療する。

  • 第2群,第3群,および第5群は,基礎疾患の管理と対症療法のほか,ときにその他の対策により治療する。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS