びまん性肺胞出血

執筆者:Joyce Lee, MD, MAS, University of Colorado School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 4月
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びまん性肺胞出血は持続性または再発性の肺出血である。数多くの原因があるが,自己免疫疾患が最も一般的である。患者の多くは呼吸困難,咳嗽,喀血,および胸部画像検査において新しい肺胞浸潤影を呈する。疑いのある原因に対して診断検査を行う。治療は,自己免疫性の原因をもつ患者に対しては免疫抑制薬によって行い,また必要があれば呼吸補助を行う。

びまん性肺胞出血は,ある特定の疾患ではないが,特異的な鑑別診断および特定の一連の検査を要する症候群である。びまん性肺胞出血を引き起こす疾患の中には,糸球体腎炎を伴うものがある;そのような疾患は肺腎症候群と定義される。

びまん性肺胞出血の病態生理

びまん性肺胞出血は,肺の小血管の広範な損傷に起因するものであり,その結果,肺胞内に血液が貯留する。多くの肺胞が傷害されれば,ガス交換が破綻する。具体的な病態生理および症候は原因によって異なる。例えば,孤立性のpauci-immune(血管壁に免疫複合体の沈着を認めない)型肺毛細血管炎は,肺に限局する小血管の血管炎である;唯一の症候は肺胞出血であり,18歳から35歳までの人に発症する。

びまん性肺胞出血の病因

多くの疾患が肺胞出血を引き起こしうる;以下のような例がある:

びまん性肺胞出血の症状と徴候

軽度のびまん性肺胞出血の症状および徴候は,呼吸困難,咳嗽,および発熱である;しかしながら,多くの患者は急性呼吸不全を呈し,ときに死に至る。喀血は一般的であるが,患者の最大3分の1では認められないこともある。患者のほとんどには貧血および持続性出血がみられ,ヘマトクリットの減少につながる。

パール&ピットフォール

  • びまん性肺胞出血患者の最大3分の1では喀血が認められないことがある。

特異的な身体所見はない。

その他の症候は基礎疾患によって異なる(例,僧帽弁狭窄のある患者における拡張期雑音)。

びまん性肺胞出血の診断

  • 胸部X線

  • 気管支肺胞洗浄

  • 原因診断のための血清学的検査およびその他の検査

診断は,呼吸困難,咳嗽,および喀血に,びまん性両側性肺胞浸潤影の胸部X線所見を伴うこと,ならびにびまん性肺胞出血の疑いにより示唆される。診断確定のために気管支肺胞洗浄(BAL)を伴う気管支鏡検査が強く推奨され,特に症候が非典型的な場合または気道からの出血が除外されていない場合に推奨される。検体は多数の赤血球およびヘモジデリン貪食細胞を含む血液像を示す;洗浄液は典型的に,連続採取の後も血性を維持するか,または血性が増す。

原因の評価

原因探索のためさらなる検査を行うべきである。尿検査は糸球体腎炎および肺腎症候群を除外する目的で適応となる;血清BUN(血中尿素窒素)およびクレアチニンも測定すべきである。

ルーチンで行われるその他の検査には以下のものがある:

  • 血算

  • 凝固検査

  • 血小板数

  • 血清学的検査(抗核抗体,抗二本鎖DNA[抗dsDNA]抗体,抗糸球体基底膜[抗GBM]抗体,抗好中球細胞質抗体[ANCA],抗リン脂質抗体)

血清学的検査は,基礎疾患の検索を目的とする。孤立性pauci-immune(微量免疫)型肺毛細血管炎(isolated pauci-immune pulmonary capillaritis)の一部の症例では,perinuclear-ANCA(p-ANCA)の抗体価が上昇する。

その他の検査は臨床状況による。患者の容態が安定していれば,肺機能を記録するために肺機能検査を行うこともある。肺胞内のヘモグロビンによる一酸化炭素の取込みが増大するため,検査では肺拡散能(DLCO)の上昇を認める場合があるが,この所見は出血と一致するものの,診断確定の参考にはならない。

心エコー検査は僧帽弁狭窄症を除外するために適応となる場合がある。原因が不明な場合または疾患の進行があまりに急速で血清学的検査の結果を待てない場合に,しばしば肺生検,または尿検査の結果が異常であれば腎生検が必要となる。

びまん性肺胞出血の予後

出血に関連する呼吸不全のため,患者は機械的人工換気を必要とすることがあり,さらには死亡することがある。繰り返す肺胞出血は肺ヘモジデローシスおよび肺線維症を引き起こすが,いずれもフェリチンが肺胞内に凝集して毒性作用を及ぼす場合に発生する。顕微鏡的多発血管炎に続発する,繰り返すびまん性肺胞出血の患者の一部にCOPD(慢性閉塞性肺疾患)が発生する。

びまん性肺胞出血の治療

  • コルチコステロイド

  • ときにシクロホスファミド,リツキシマブ,または血漿交換

  • 支持療法

治療としては原因を是正する。

コルチコステロイドおよびときにシクロホスファミドは,血管炎,結合組織疾患,グッドパスチャー症候群の治療に用いられる。リツキシマブはANCA関連血管炎において研究されており,導入治療ではシクロホスファミドに劣らず(1),寛解治療ではアザチオプリンより優れている(2)ことが示されている。

血漿交換がグッドパスチャー症候群の治療に用いられることがある。

治療に反応しない重症の肺胞出血の治療において,遺伝子組換え活性型ヒト第VII因子製剤の使用が奏効したと報告する研究が数例あるが,血栓性合併症が起こりうるため,この治療法については議論がある。

その他に可能性のある管理方法には,酸素投与,気管支拡張薬,あらゆる凝固障害の改善,挿管と急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などに対する保護措置および機械的人工換気などがある。

治療に関する参考文献

  1. 1.Specks U, Merkel PA, Seo P, et al: Efficacy of remission-induction regimens for ANCA-associated vasculitis.N Engl J Med 369:417–427, 2013. doi: 10.1056/NEJMoa1213277

  2. 2.Guillevin L, Pagnoux C, Karras A, et al: Rituximab versus azathioprine for maintenance in ANCA-associated vasculitis.New Engl J Med 371:1771–1780.2014.doi: 10.1056/NEJMoa1404231

びまん性肺胞出血の要点

  • びまん性肺胞出血には多くの原因(例,感染症,毒素,薬剤,血液疾患または心疾患)がありうるが,自己免疫疾患が最も一般的な原因である。

  • 症状,徴候,および胸部X線所見は非特異的である。

  • 気管支肺胞洗浄により連続採取した洗浄液検体で出血の持続を証明し,びまん性肺胞出血の診断を確定する。

  • ルーチンの臨床検査,自己抗体検査,およびときにその他の検査を行い,原因を調べる。

  • 原因を治療する(例,自己免疫性の原因に対し,コルチコステロイド,シクロホスファミド,リツキシマブ,血漿交換,および/または免疫抑制薬)。

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