深部静脈血栓症(DVT)

執筆者:James D. Douketis, MD, McMaster University
Reviewed ByJonathan G. Howlett, MD, Cumming School of Medicine, University of Calgary
レビュー/改訂 2023年 12月 | 修正済み 2024年 1月
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深部静脈血栓症(DVT)とは,四肢(通常は腓腹部または大腿部)または骨盤の深部静脈で血液が凝固する病態である。DVTは肺塞栓症の第1の原因である。DVTは,静脈還流を阻害する病態,内皮の損傷または機能不全を来す病態,または凝固亢進状態を引き起こす病態によって発生する。DVTは無症状の場合もあるが,四肢に疼痛および腫脹が生じる場合もあり,肺塞栓症が直接の合併症の1つである。診断は病歴聴取と身体診察で行われ,客観的検査法(典型的にはduplex法による超音波検査)により確定される。DVTが疑われる場合,ときにDダイマー検査が用いられる;陰性判定はDVTを除外する上で有用であるが,陽性判定は非特異的であり,DVTの確定診断を得るにはさらなる検査が必要となる。治療は抗凝固薬による。十分な治療を迅速に行った場合の予後は一般に良好である。よくみられる長期合併症として静脈不全症があり,さらに血栓後症候群を伴う場合もある。

DVTは下肢または骨盤に好発する(の図を参照)。上肢の深部静脈ではDVTは比較的まれである(DVT症例の5%未満)(1)。

下肢の深部静脈

下肢のDVTは肺塞栓症(PE)を引き起こす可能性がはるかに高く,これは血栓量が多いことに起因すると考えられる。近位部のDVTの約90%は大腿または膝窩静脈に生じ,10%はより近位に進展して腸骨-大腿静脈を侵す(2)。遠位または腓腹部の静脈に生じたDVTは通常,後脛骨または腓骨静脈を侵す。遠位または腓腹部の静脈に生じたDVTが大きな塞栓の発生源となる可能性は比較的低いが,近位に大腿部の静脈まで進展して,そこからPEを引き起こす可能性もある。DVT患者の約50%は潜在性のPEを有し,PE患者の30%以上は証明可能なDVTを有する(3)。

パール&ピットフォール

  • DVT患者の約50%は不顕性の肺塞栓症を有する。

総論の参考文献

  1. 1.Yamashita Y, Morimoto T, Amano H, et al.Deep vein thrombosis in upper extremities: Clinical characteristics, management strategies and long-term outcomes from the COMMAND VTE Registry. Thromb Res 2019;177:1-9.doi:10.1016/j.thromres.2019.02.029

  2. 2.Douketis JD, Kearon C, Bates S, Duku EK, Ginsberg JS.Risk of fatal pulmonary embolism in patients with treated venous thromboembolism. JAMA 1998;279(6):458-462.doi:10.1001/jama.279.6.458

  3. 3.Stevens SM, Woller SC, Kreuziger LB, et al.Antithrombotic Therapy for VTE Disease: Second Update of the CHEST Guideline and Expert Panel Report [published correction appears in Chest. 2022 Jul;162(1):269]. Chest 2021;160(6):e545-e608.doi:10.1016/j.chest.2021.07.055

深部静脈血栓症の病因

多くの因子がDVTの発生に寄与する可能性がある(の表を参照)。がんはDVTの危険因子であり,特に高齢の患者と血栓症を繰り返している患者で重要である。この関連は肺癌,卵巣がん,胃癌,脳腫瘍,および膵癌で最も強く,これらのがんでは10~15%の患者がVTEを発症する可能性がある(1)。特発性DVTと思われる患者は潜在がんを有している可能性があるが,がんの主要な危険因子があるか,潜在がんを示唆する症状がみられる場合を除いて,腫瘍に対する広範な精査は推奨されない。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Farge D, Frere C, Connors JM, et al.2022 international clinical practice guidelines for the treatment and prophylaxis of venous thromboembolism in patients with cancer, including patients with COVID-19. Lancet Oncol 2022;23(7):e334-e347.doi:10.1016/S1470-2045(22)00160-7

深部静脈血栓症の病態生理

下肢のDVTで最も頻度の高い原因は以下のものである:

  • 静脈還流の障害(例,不動状態の患者)

  • 内皮の損傷または機能不全(例,下肢の骨折後)

  • 凝固亢進状態

上肢のDVTで最も頻度の高い原因は以下のものである:

  • 中心静脈カテーテル,ペースメーカー,または注射薬物の使用による内皮損傷

上肢のDVTは,ときに上大静脈症候群(腫瘍による上大静脈の圧迫または浸潤に起因し,顔面腫脹,頸部の静脈怒張,および顔面紅潮などの症状を引き起こす)の一部として,または凝固亢進状態もしくは胸郭出口での鎖骨下静脈圧迫の結果として発生する(1)。圧迫は正常な第1肋骨,頸肋,または線維帯に起因するか(胸郭出口症候群),激しい腕の運動時に発生する(労作性血栓症やPaget-Schroetter症候群と呼ばれる,まれな病態)。

深部静脈血栓症は通常,静脈の弁尖から始まる。血栓はトロンビン,フィブリン,および赤血球と比較的少数の血小板から構成され(赤色血栓),無治療の場合,血栓が近位側に進展したり,血流に乗って肺に移動したりすることがある。

合併症

DVTの一般的な合併症としては以下のものがある:

はるかにまれにであるが,大きな急性DVTから有痛性白股腫や有痛性青股腫を来すこともあり,どちらも速やかに診断して治療しなければ,うっ血性壊疽につながる可能性がある。

有痛性白股腫は,妊娠中にみられるDVTのまれな合併症であり,下肢が乳白色を呈する。病態生理は明らかでないが,浮腫により軟部組織の圧力が毛細血管の灌流圧を超えて上昇する結果,それにより組織虚血とうっ血性壊疽を来す可能性がある。有痛性白股腫は有痛性青股腫に進行することがある。

有痛性青股腫では,広範な腸骨-大腿静脈血栓症によってほぼ完全な静脈閉塞が引き起こされ,下肢に虚血,極度の疼痛,およびチアノーゼが生じる。静脈還流の遮断または巨大な浮腫による動脈血流の遮断が生じるため,病態生理には下肢の静脈および動脈血流の完全なうっ滞が関与している可能性がある。結果としてうっ血性壊疽が生じることがある。

まれではあるが静脈血栓に感染が生じることがある。内頸静脈とその周囲軟部組織の細菌(通常は嫌気性菌)感染症である頸静脈化膿性血栓性静脈炎(Lemierre症候群)が扁桃咽頭炎に続いて発生することがあり,しばしば菌血症や敗血症を合併する。敗血症性骨盤静脈血栓症(septic pelvic thrombophlebitis)では,分娩後に骨盤内で血栓症が発生して,そこに感染が生じ,間欠熱が引き起こされる。末梢の表在静脈への細菌感染により生じる化膿性(敗血症性)血栓性静脈炎は,感染と凝固で構成され,通常は静脈カテーテル留置が原因である。

病態生理に関する参考文献

  1. 1.Bosch FTM, Nisio MD, Büller HR, van Es N.Diagnostic and Therapeutic Management of Upper Extremity Deep Vein Thrombosis. J Clin Med 2020;9(7):2069.doi:10.3390/jcm9072069

深部静脈血栓症の症状と徴候

DVTは外来患者に発生することもあれば,手術または重大な内科的疾患の合併症として発生することもある。高リスクの入院患者では,大半の深部静脈血栓は腓腹部の細い静脈で発生し,無症状で発見されないことがある。

DVTの症状や徴候(例,漠然とした疼く痛み,静脈の分布に沿った圧痛,浮腫,紅斑)がみられる場合にも,それらは非特異的であり,頻度および重症度は様々で,腕と下肢で類似する。拡張した表在部の側副静脈を視認ないし触知できることがある。下肢遠位部のDVTでは,膝関節を伸展した状態で足関節を背屈することで誘発される腓腹部の不快感(ホーマンズ徴候)がときにみられるが,感度および特異度ともに高くない。圧痛,下肢全体の腫脹,3cmを超える腓腹部周径の左右差,圧痕性浮腫,および表在部の側副静脈が最も特異的な所見と考えられ,これらが3つ以上併存し,かつほかに可能性の高い診断がない場合には,DVTの可能性が高くなる(の表を参照)。

微熱がみられることがある;DVTは明らかな感染源を欠いた発熱の原因であることがあり,特に術後患者ではその可能性が高くなる。発症した場合の肺塞栓症の症状としては,息切れや胸膜性胸痛などがある。

表&コラム
表&コラム

DVTに類似する非対称性の下肢の腫脹の一般的な原因には以下のものがある:

  • 軟部組織の外傷

  • 蜂窩織炎

  • 骨盤内の静脈の圧迫

  • 骨盤内のリンパ管閉塞

  • 静脈還流を妨げる膝窩嚢胞(ベイカー嚢胞

比較的まれな原因としては,静脈またはリンパ管還流を妨げる腹部または骨盤内の腫瘍がある。

両下肢に対称性の腫脹がみられる場合,その原因は一般に就下性の浮腫を引き起こす薬剤(例,ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬,エストロゲン,高用量オピオイド)の使用,静脈高血圧症(通常は右心不全による),および低アルブミン血症であるが,静脈不全症が併存して片側の下肢が対側より重症の場合には,腫脹は非対称性となることもある。

急性DVTに類似する腓腹部の疼痛の一般的な原因としては以下のものがある:

  • 静脈不全症および血栓後症候群

  • 腓腹部に有痛性の紅斑を引き起こす蜂窩織炎

  • 腓腹部に腫脹および疼痛,ときに内果領域に皮下出血を引き起こす,膝窩(ベイカー)嚢胞の破裂(偽性DVT)

  • 腓腹部の筋または腱の部分または完全断裂

深部静脈血栓症の診断

  • 超音波検査

  • ときにDダイマー検査

病歴聴取と身体診察がDVTの検査前確率を判定する上で役立つ(の表を参照)。診断は典型的にはドプラ血流測定による超音波検査(duplex法による超音波検査)による。追加検査(例,Dダイマー検査)の必要性とその選択および順序は,検査前確率およびときに超音波検査の結果に依存する。最善とされる単一の検査プロトコルは存在しない;1つのアプローチをの図に記載した。

深部静脈血栓症が疑われる場合の検査アプローチの一例

医学計算ツール(学習用)

超音波検査

超音波検査では,静脈の内層を直接描出することに加え,静脈の異常な圧縮率を証明するか,ドプラ法で静脈血流の障害を証明することによって,血栓を同定する。この検査は大腿および膝窩静脈の血栓症については感度が90%を超え,特異度は95%を超えるが,腸骨静脈または腓腹部の静脈の血栓症では,やや精度が低くなる(1)。

Dダイマー

Dダイマーは線溶の副産物であり,その血中濃度が高いことは,比較的近い過去に血栓が生じて溶解したことを示唆する。Dダイマー測定の感度および特異度は様々であるが,大半は感度が高いが,特異度は低い。検査結果は他の病態によっても上昇する可能性があるため(例,肝疾患,外傷,妊娠,リウマトイド因子陽性,炎症,最近の手術,がん),陽性判定は非特異的であり,さらなる検査が必要である。最も正確な検査法のみを用いるべきである。例えば,高感度な検査法の1つに酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)があり,感度は約95%である(2)。Dダイマー値は加齢によっても上昇するため,高齢患者では特異度がさらに低下する(3)。

Pulmonary Embolism Graduated D-dimer(PEGeD)戦略は,肺塞栓症に対する診断アプローチであり,患者の臨床的な検査前確率に応じてDダイマー値を補正する(4):

  • DVTの検査前確率が低い場合は,感度の高い検査法でDダイマー値が1000ng/mL(5476nmol/L)未満となる患者では,総じてDVTを除外することができる。

  • DVTの検査前確率が中程度の場合は,感度の高い検査法でDダイマー値が正常(すなわち500ng/mL未満)と判定された患者では,DVTを除外することができる。検査で陽性となった患者では,DVTを除外するための追加検査が必要である。

  • DVTの検査前確率が高い場合は,duplex法による超音波検査と同時にDダイマー検査を施行することが可能である。超音波検査で陽性となれば,Dダイマーの測定値にかかわらず,診断確定となる。超音波検査でDVTの所見を認めない場合には,Dダイマー値が正常という所見がDVTを除外する上で有用となる。Dダイマー値が上昇している患者は,臨床的な疑いに応じて超音波検査を数日内に再度施行するか,静脈造影など,さらなる画像検査を行うべきである。

追加検査

症状と徴候からPEが示唆される場合は,追加の画像検査(例,CT肺血管造影,頻度は低いが肺換気血流[V/Q]シンチグラフィー)が必要である。

代替の画像検査

上記のほかにも,まれにCT静脈造影または磁気共鳴静脈造影もDVTの診断に用いられる。これらは一般に,超音波検査で陰性または判定不能となるも,DVTの臨床的疑いが強く残る状況に限定して用いられる。これらの画像検査は,DVTに対する妥当性検証が十分になされておらず,費用が高いほか,他の合併症(例,放射線被曝や造影剤曝露に関連するもの)との関連も疑われる。

静脈造影は,かつてはDVTの診断において決定的な役割を果たしていたが,現在では,非侵襲的でより容易に施行でき,DVTの検出においてほぼ同等の診断精度を備える超音波検査に,ほぼ取って代わられている。

原因の特定

DVTの確定診断が得られ,原因(例,不動状態,手術,下肢外傷)も判明している患者には,それ以上の検査は必要ない。凝固亢進を検出するための検査については議論があるが,特発性(もしくは原発性)DVTまたは再発性のDVTを有する選択された患者,その他の血栓症の既往または家族歴を有する患者,および明らかな素因がない若年患者では,ときに行われる。一部のエビデンスからは,凝固亢進状態を検出する検査では,臨床的な危険因子の有無にかかわらず,DVTの再発は予測できないことが示唆されている(5, 6, 7)。

DVT患者に対するがんスクリーニングは,あまり成果がない。徹底的な病歴聴取と身体診察に基づき選択した検査とがんの検出を目標とした基本的な「ルーチン」検査(血算,胸部X線,尿検査,肝酵素,血清電解質,血中尿素窒素[BUN],クレアチニン)でおそらく十分である。さらに,適切ながんスクリーニング(例,マンモグラフィー,大腸内視鏡検査)を実施すべきである。

診断に関する参考文献

  1. 1.Lensing AW, Prandoni P, Brandjes D, et al.Detection of deep-vein thrombosis by real-time B-mode ultrasonography. N Engl J Med 1989;320(6):342-345.doi:10.1056/NEJM198902093200602

  2. 2.Di Nisio M, Squizzato A, Rutjes AW, Büller HR, Zwinderman AH, Bossuyt PM.Diagnostic accuracy of D-dimer test for exclusion of venous thromboembolism: a systematic review [published correction appears in J Thromb Haemost 2013 Oct;11(10):1942]. J Thromb Haemost 2007;5(2):296-304.doi:10.1111/j.1538-7836.2007.02328.x

  3. 3.Righini M, Van Es J, Den Exter PL, et al.Age-adjusted D-dimer cutoff levels to rule out pulmonary embolism: the ADJUST-PE study [published correction appears in JAMA. 2014 Apr 23-30;311(16):1694]. JAMA 2014;311(11):1117-1124.doi:10.1001/jama.2014.2135

  4. 4.Kearon C, de Wit K, Parpia S, et al.Diagnosis of Pulmonary Embolism with d-Dimer Adjusted to Clinical Probability. N Engl J Med 2019;381(22):2125-2134.doi:10.1056/NEJMoa1909159

  5. 5.Coppens M, Reijnders JH, Middeldorp S, Doggen CJ, Rosendaal FR.Testing for inherited thrombophilia does not reduce the recurrence of venous thrombosis. J Thromb Haemost 2008;6(9):1474-1477.doi:10.1111/j.1538-7836.2008.03055.x

  6. 6.Lijfering WM, Middeldorp S, Veeger NJ, et al.Risk of recurrent venous thrombosis in homozygous carriers and double heterozygous carriers of factor V Leiden and prothrombin G20210A. Circulation 2010;121(15):1706-1712.doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.109.906347

  7. 7.Segal JB, Brotman DJ, Necochea AJ, et al.Predictive value of factor V Leiden and prothrombin G20210A in adults with venous thromboembolism and in family members of those with a mutation: a systematic review. JAMA 2009;301(23):2472-2485.doi:10.1001/jama.2009.853

深部静脈血栓症の治療

  • 抗凝固療法

  • ときに下大静脈フィルター,血栓溶解療法,または手術

治療では肺塞栓症の予防を第一の目的とし,症状の軽減とDVTの再発,慢性静脈不全症,および血栓後症候群の予防を第二の目的とする。下肢と上肢のDVTの治療は概ね同じである。

一般的な支持療法として鎮痛薬による疼痛コントロールがあり,これには非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の短期コース(3~5日間)が含まれる場合がある。NSAIDおよびアスピリンによる長期治療は,これらの薬剤の抗血小板作用により出血性合併症のリスクが増大する可能性があるため,避けるべきである。また,非活動期には下肢の挙上(静脈圧迫を回避するため,枕など表面が柔らかい物で支える)が推奨される。身体活動は患者が耐えられる範囲で許可してよいが,早期の活動再開については,血栓の移動やPEのリスクを高めるとするエビデンスも,血栓後症候群のリスクの軽減につながるとするエビデンスも存在しない。

抗凝固薬

(薬剤およびその合併症の詳細については,深部静脈血栓症に対する薬剤を参照のこと。)

DVTはほぼ全例で抗凝固薬により治療する(1, 2)。初期治療には様々な抗凝固薬が適しており,薬剤の選択には患者の併存症(例,腎機能障害,がん),希望,費用,および都合が影響を与える。

一部の患者には初期治療として(典型的には低分子)ヘパリンの注射剤を5~7日間投与し,続いて経口薬による長期治療を開始する。ワルファリンを使用する場合は,ヘパリン注射剤の開始から24時間以内に開始する。ヘパリンは速やかに作用し,迅速な抗凝固作用をもたらすが,ワルファリンは治療効果が得られるまでに約5日かかる;したがってヘパリンは5~7日間必要である。エドキサバン(第Xa因子阻害薬)またはダビガトラン(経口直接トロンビン阻害薬)の内服を開始することになっている患者には,5日間にわたるヘパリン注射剤の投与終了後に内服を開始させる。

あるいは,注射剤のヘパリンを先に投与することなく,選択された直接作用型経口抗凝固薬(リバーロキサバンまたはアピキサバン)による抗凝固療法を直ちに開始してもよい。ヘパリンを併用せずにリバーロキサバンまたはアピキサバンを開始することは,臨床試験の結果から妥当である。注射剤の第Xa因子阻害薬であるフォンダパリヌクスは,ときに低分子ヘパリンの代替として用いられ,急性DVTの治療にも使用することができる。

特定の条件を満たす患者(例,広範な腸骨-大腿静脈のDVTまたは癌を有する患者)では,経口薬に切り替えるよりも,低分子ヘパリンによる治療を継続する方が望ましい場合がある。

最初の24~48時間の抗凝固療法が不十分であると,再発またはPEのリスクが増大する可能性がある。急性DVTは外来での治療が可能であるが,重度の症状のために鎮痛薬の注射剤が必要な場合,他の疾患のために退院後の安全を確保できない場合,および他の因子(例,機能面,社会経済面)により処方された治療の遵守が困難となる可能性がある場合は例外である。

下大静脈(IVC)フィルター

抗凝固薬の禁忌がある下肢DVTの患者と十分な抗凝固療法にもかかわらず再発性DVT(または塞栓)がみられた患者では,PEの予防にIVCフィルターが有用となりうる。IVCフィルターは下大静脈の腎静脈直下に,カテーテルを用いて経内頸静脈的または経大腿静脈的に留置される。一部のIVCフィルターは抜去することができ,一時的な使用(例,抗凝固療法の禁忌が軽快または消失するまで)が可能である。

IVCフィルターは血栓による急性合併症のリスクを低減するが,より長期の合併症が起こる可能性がある(例,静脈側副血行路が発達して塞栓がIVCフィルターを迂回する経路が形成される)。DVTの再発リスクも高い。また,IVCフィルターは逸脱する可能性や血栓により閉塞する可能性もある。したがって,DVTの再発患者とDVTの是正不可能な危険因子を有する患者には,IVCフィルターが留置された状態でも抗凝固薬が必要である。

血栓が形成されたフィルターは,両側性の下肢静脈うっ滞(急性の有痛性青股腫を含む),下半身虚血,および急性腎障害を引き起こす可能性がある。フィルターの逸脱に対する治療法は,血管造影による処置,あるいはもし必要なら,外科的方法による抜去である。IVCフィルターは広く使用されているにもかかわらず,PEの予防における効果は十分に研究されておらず,証明されていない(3)。IVCフィルターは可能であれば必ず抜去すべきである。

血栓溶解療法

血栓溶解薬(アルテプラーゼ,テネクテプラーゼ[tenecteplase],ストレプトキナーゼなど)は,血栓を溶解する作用を有し,特定の条件を満たす患者で抗凝固薬単独より効果的となる可能性があるが,出血リスクがヘパリンよりも高い。したがって,血栓溶解薬を考慮するのは高度に選択したDVT患者にのみにすべきである。血栓溶解薬が有益となりうる患者は,腸骨-大腿静脈領域の広範なDVTを有し,下肢の虚血が存在するか発生しつつあり(例,有痛性青股腫),かつ出血の危険因子がない60歳未満の患者などである(4)。

DVTが対象の場合は,カテーテル血栓溶解療法が全身投与に大きく取って代わっている。

手術

手術が必要になることはまれである。しかしながら,血栓溶解薬に反応しない有痛性白股腫または青股腫には,肢切断に至る恐れがある壊疽の予防を試みるため,血栓除去術,筋膜切開術,またはその両方が必須である。

治療に関する参考文献

  1. 1.Ortel TL, Neumann I, Ageno W, et al: American Society of Hematology 2020 guidelines for management of venous thromboembolism: treatment of deep vein thrombosis and pulmonary embolism.Blood Adv 4(19):4693-4738, 2020.doi: 10.1182/bloodadvances.2020001830

  2. 2.Stevens SM, Woller SC, Kreuziger LB, et al: Antithrombotic Therapy for VTE Disease: Second Update of the CHEST Guideline and Expert Panel Report [published correction appears in Chest 2022 Jul;162(1):269]. Chest 160(6):e545-e608, 2021.doi:10.1016/j.chest.2021.07.055

  3. 3.Turner TE, Saeed MJ, Novak E, Brown DL: Association of Inferior Vena Cava Filter Placement for Venous Thromboembolic Disease and a Contraindication to Anticoagulation With 30-Day Mortality. JAMA Netw Open 1(3):e180452, 2018.Published 2018 Jul 6.doi:10.1001/jamanetworkopen.2018.0452

  4. 4.Kearon C, Akl EA, Comerota AJ, et al.Antithrombotic therapy for VTE disease: Antithrombotic Therapy and Prevention of Thrombosis, 9th ed: American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines [published correction appears in Chest 2012 Dec;142(6):1698-1704]. Chest 2012;141(2 Suppl):e419S-e496S.doi:10.1378/chest.11-2301

深部静脈血栓症の予後

十分な治療を行わない場合,下肢のDVTが致死的なPEをもたらすリスクは3%であり(1, 2),上肢のDVTによる死亡は非常にまれである。DVTの再発リスクは,一過性の危険因子(例,手術,外傷,一時的な不動状態)を有する患者で最も低く,持続的な危険因子(例,がん)を有する患者,特発性のDVT患者,過去のDVTの回復が不完全な(残存血栓)患者で最も高い。抗凝固薬を3~4週間中止した後に測定したDダイマー値が正常であることが,DVTまたはPEの再発リスクが比較的低いことの予測に役立つ可能性がある。静脈不全症のリスクは予測が難しい。血栓後症候群の危険因子としては,近位部の血栓症,同側でのDVTの再発,BMI(body mass index)22kg/m2以上などがある。

予後に関する参考文献

  1. 1.Yamashita Y, Murata K, Morimoto T, et al.Clinical outcomes of patients with pulmonary embolism versus deep vein thrombosis: From the COMMAND VTE Registry. Thromb Res 2019;184:50-57.doi:10.1016/j.thromres.2019.10.029

  2. 2.Douketis JD, Kearon C, Bates S, Duku EK, Ginsberg JS.Risk of fatal pulmonary embolism in patients with treated venous thromboembolism. JAMA 1998;279(6):458-462.doi:10.1001/jama.279.6.458

深部静脈血栓症の予防

DVTは治療より予防する方が望ましく,その方が安全でもあり,高リスクの患者で特にその傾向が強い。以下の治療法が用いられる(より詳細な考察についてはDVTの予防を参照):

  • 不動状態の予防

  • 予防的抗凝固療法(例,低分子ヘパリン,フォンダパリヌクス,用量調節ワルファリン,直接作用型経口抗凝固薬)

  • 間欠的空気圧迫法

抗凝固薬を投与すべきでない患者には,間欠的空気圧迫装置,弾性ストッキング,またはその併用が有益となる可能性がある。

下大静脈(IVC)フィルターはDVTを予防することはできないが,ときにPEを予防する目的で留置されることがある。抗凝固薬の禁忌がある下肢DVTの患者と十分な抗凝固療法にもかかわらず再発性DVT(または塞栓)がみられた患者では,PEの予防にIVCフィルターが有用となりうる。特定の手術後のPEの一次予防や多発性の重度外傷の患者にも,ときにIVCフィルターが使用されるが,効力のエビデンスが十分でないことから,これらの適応についてもルーチンの使用は推奨されない(1)。

予防に関する参考文献

  1. 1.Ho KM, Rao S, Honeybul S, et al.A Multicenter Trial of Vena Cava Filters in Severely Injured Patients. N Engl J Med 2019;381(4):328-337.doi:10.1056/NEJMoa1806515

要点

  • 症状と徴候は非特異的であるため,警戒が必要であり,特に高リスク患者では細心の注意を払う必要がある。

  • 低リスク患者ではDダイマー検査を行い,その結果が正常であれば基本的に深部静脈血栓症(DVT)は除外できる;それ以外の患者には超音波検査を施行すべきである。

  • 初期治療では,ヘパリン(未分画ヘパリンまたは低分子ヘパリン[LMWH])の注射剤を投与した後,経口抗凝固薬(ワルファリン,ダビガトラン,または第Xa因子阻害薬)またはLMWHを投与するか,あるいは,経口第Xa因子阻害薬であるリバーロキサバンおよびアピキサバンを初期治療と継続治療に使用してもよい。

  • 治療期間は危険因子の有無とその性質に依存するが,典型的には3カ月または6カ月間であり,一部の患者では生涯にわたる治療が必要となる。

  • 重大な疾患で寝たきりの患者と特定の手術を受ける患者には,予防的治療が必要である。

  • 推奨される予防策は早期の歩行再開,下肢の挙上,および抗凝固薬であり,抗凝固薬を投与すべきでない患者には,間欠的空気圧迫装置,弾性ストッキング,またはその併用が有益となる可能性がある。

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